2010年06月25日

気持ちを揺さぶられた夜

現地レポート/飯塚健司

 引分けでも決勝トーナメント進出が決まる一戦だった。だからといって、日本代表が引分け狙いの戦いをすることはなかった。

「0-0は考えない方がいい。われわれは点を取らなければいけない。いつもどおり、勝つためにスタートする」(岡田監督) 
     
 試合前日に指揮官が語っていたとおり、日本代表は守備に細心の注意を払いつつ、一方では素早い攻撃から積極的にゴールを目指した。守備的MFに阿部、遠藤の2人を起用し、攻撃的な4-2-3-1の布陣でスタートしたのは「守りに入るな」という岡田監督からのメッセージだった。

 ところが、デンマークのトップ下を務めるトマソンの動きは巧妙で、2人の守備的MFではうまく対応できなかった。2分、6分と立て続けに危ない場面を迎えるなど、立ち上がりは劣勢を強いられた。すると、ベンチがすぐに動いた。10分を過ぎたころ、カメルーン戦、オランダ戦と同じく、阿部をアンカーとする4-3-3の布陣に戻したのである。

 本田の無回転シュートが決まったのは、その直後の17分である。この先制点は大きかった。なにしろ、今大会の日本代表はカメルーン戦、オランダ戦を経て守備に自信を得ている。デンマーク戦後に「(守備面は)今大会に入って手ごたえを感じている」と語ったのは長谷部で、ちょうど中盤の布陣を手ごたえを感じているという4-3-3に変更した直後に1点をリードしたのだ。この先制点は、本当に大きかった。

 日本代表の布陣変更、そして先制点によって、試合の流れは一気に変わった。ゴールが必要なデンマークに対して、自陣にしっかりと守備のブロックを作って容易にはチャンスを作らせない。逆に前線の本田を基点に、松井、大久保がからんで効果的なカウンターを仕掛け、30分には大久保が倒されて得たFKを遠藤が決め、決勝トーナメント進出にグッと近づく追加点を奪った。

 前半途中に2-0である。
 正直、誰がこの展開を予想しただろうか。
 目の前で繰り広げられているのは、夢でも幻でも親善試合でもなく、まぎれもなく現実の戦い、ワールドカップのグループリーグ3戦目で、引分けでも決勝トーナメントに進めるデンマーク戦で、しかも日本代表が2点をリードしている。
 正直、誰がこの展開を予想しただろうか。

「まだ危ない」
「2点差は一番恐い。1点返されたら、どうなるかわからない」
 日本サッカー界は、これまでに何度も悔しい思いをしている。その目撃者は多く、ハーフタイムになると記者席では過去の経験を踏まえた会話がいくつかかわされた。

 後半に関しては、誰がどんな気持ちで観戦し、どんな感想を持ったとしても、それは自由だ。イケルと思っていた人がいてもいいし、油断するなと気持ちを引き締めていた人がいてもいい。中澤やトゥーリオが空中戦を演じるたびに絶叫し、川島がトマソンのPKをセーブした瞬間、思わず腰を浮かした人がいてもいい。もう、なんでもアリである。

 ひとついえるのは、現地観戦はもちろん、テレビ観戦していた人も、平常心ではいられなかったはずだということ。久々に気持ちを揺さぶられる試合に出会った。多くの人が、同様なのではないだろうか。ひとりでガッツポーズをした人がいれば、家族や友人と喜びを分かち合った人もいたはず。もちろん、「これで決勝トーナメントにいけるほど甘くない」と考えた人もいたはずだ。それでいいのだ。たとえ同じ試合でも、受け止め方は千差万別、十人十色。だからこそ、サッカーは世界の人々を魅了しているのだ。

 ただ、選手たちはあくまでも冷静だった。デンマークが繰り出してきたパワープレーに圧されることなく、各選手が身体を張って跳ね返した。いったん攻撃に移れば前線で本田がキープし、大久保、遠藤、松井、交代出場の岡崎が積極的にゴールを狙った。拙攻によって何度かゴールチャンスを逃していたが、試合終盤を迎えてもなお、驚くほどに各選手の足がよく動いていた。

 勝敗を完全に決定づける3点目を奪えたのは、日本代表の選手たちが実直にプレーを続けていたからこそ。2010年に入っての不調を考えると、この結果を予想するのは難しかった。日本代表を信じきるのは難しかった。とくに、大会前のデキは悪かった。しかし、心配は杞憂に終わった。

 無論、日本代表の強化に関して、いろいろと正すべき改善点はある。勝ったいまだからこそ、指摘すべきこともある。しかし、いまそれを行なうのはヤボだとも思える。束の間、純粋に日本サッカー史に残る歴史的な一試合を目の当たりにしたのだと、感慨にふけっていたい。とはいえ、次のパラグアイ戦のことを考えると、そんなゆっくりした時間はないが・・・。


岡田監督
選手たちは臆することなく、冷静かつ激しく戦ってくれた。われわれのチームには、他チームにない強さがある。予備登録の選手、チームスタッフも含めて、全員がひとつの目標に向かって戦っている。サッカーがチームスポーツであることを証明しようという意識でやっている。ただ、ここが終着点ではない。明日からパラグアイ戦に向けてスタートしたい。

本田圭佑
まだ上には上がいる。だから、予想以上に喜べなかった。まだ、上にいくつもりがある。ひとつひとつ上のステップに挑戦していきたい。それができるチームになりつつある。

長谷部誠
うまくいかないときもあったけど、自分たちを信じてやってきた。チームとしてまとまっているし、試合に出ない人もサポートしてくれている。チームワークが本当に強み。

posted by soccer-kozo |12:21 | プロサッカー(国内) | コメント(0) | トラックバック(0)
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