2008年05月01日
涙と悲願と、そして青の躍動と ~チェルシー×リバプール~ 【プレミアF】
■Chelsea 3-2 Liverpool (4-3)ロンドンでは珍しいどしゃ降りの雨に打たれながらジョン・テリーは、ディディエ・ドログバは、そしてフランク・ランパードは、どんなことを考えていたのだろう。リバプールに勝った喜びか、母に対する愛か、それとも彼を懸命にサポートした多くのファンたちへの感謝か。 それぞれの想いを胸に、それぞれの喜びを爆発させ、そんな“それぞれ”が折り重なったロンドンの青いチームは、ファイナルへの切符を史上初めて、自らの手中に納めた。
■Chelsea Cech, Essien, Carvalho, Terry, Ashley Cole, Joe Cole (Anelka 91), Ballack, Makelele, Lampard (Shevchenko 119), Kalou (Malouda 70), Drogba. ベストメンバーが揃った。母の死という悲しみを乗り越えてスタメンに名を連ねたフランク・ランパードを筆頭に、ベストといえる布陣を揃えることができた。週末、ユナイテッドを下し、気持ち的にも最高潮に達しているといっても過言ではないチェルシーだけに、絶対に落とせない試合である。このメンバーで、この状況で負けては言い訳など出来るはずもない。勝利、あるのみである。 ■Liverpool Reina, Arbeloa, Carragher, Skrtel (Hyypia 22), Riise, Kuyt, Alonso, Mascherano, Benayoun (Pennant 78), Gerrard, Torres (Babel 99). 天王山を演じたチェルシーに対して、週末のバーミンガム戦では主力の何人かを休ませ、この試合に備えたリバプール。リーグでは見せ場のないシーズンを過ごしたとはいえ、CLでの勝負強さは誰もが認めるところであろう。F・アウレリオの負傷により、ファーストレグでOGを謙譲してしまったリーセがスタメンに名を連ね、3トップの左にベナユン、右にカイト、中央にフェルナンド・トーレスという布陣で、返り討ちを狙う ■揺れるスタンフォードブリッジ週末のユナイテッド戦にも増して、スタジアムが揺れるのを感じた。過去2度、リバプールに敗れて夢のファイナルへの道が閉ざされたのだからサポーターとしては3度目の正直での勝利へ、気持ちが高ぶっていたのだろう。ゴール裏はもちろん、普段は席に座って声援を送るサイドスタンドに陣取ったファンすらこの日は立ちっぱなし、歌いっぱなし。これほど熱狂するスタンフォードブリッジを見たのは、正直初めてだった。 これで選手たちが下手なパフォーマンスをするはずがない。“典型的チェルシー対リバプール戦”になるのではないか、との予想もあったが試合開始直後から攻撃的な姿勢を両チームが見せ、特にチェルシーのパフォーマンスは力強かった。一度、トーレスにラインを破られ、ピンチに陥ったがツェフが落ち着いたセーブで難を逃れると徐々にチェルシーがゲームの主導権を握り始める。前線で体を張るドログバが軸となり、ランパードとバラックが攻撃を組み立て、カルーとJ・コールが仕掛け、エッシェンが積極的にオーバーラップし、守備への対処は職人マケレレが目を光らせるなどチームとして高いパフォーマンスを披露していた。 そして33分、ランパードの絶妙なスルーパスにカルーが抜け出す。シュートはレイナにセーブされたものの、全速力で詰めていったドログバの強烈なシュートがニアサイドを突き破り、チェルシーが先制に成功した。 なんという身体能力か。あれだけ全速力でこぼれたボールを追いかけ、なおかつ鋭くコントロールされたシュートを放つことなど尋常ではない。一時期、コンディションとモチベーションを落としていたこのコートジボワールの怪人だったがやはり持っているものが違うようだ。 ドログバに圧倒され、スタンフォードブリッジのムードに飲み込まれ、そして試合は怒涛の後半戦へと突入する。 ■F・トーレスのプライド 激しさを増す雨の中、良い流れで前半を終えたチェルシーだったが、ユナイテッド同様、リバプールもそう簡単に引き下がる相手ではなかった。後の無いレッズは後半開始から積極的に、前半にも増して攻撃的な姿勢で臨むと、CKからカイトが決定的なシュートを放つ(ツェフ、スーパーセーブ)など、攻勢にである。リードして守備意識が強くなったチェルシーに対して、リバプールは絶対に得点を奪わなければなくなったのだから、これは当然の変化といえる。 ただ、ボールは保持し、得点機を伺うがチェルシーの敷いた守備網は簡単に敗れるほど脆いものではなかった。しかもベニテス監督就任後、このスタンフォードブリッジでは1点も取ったことがなかったのだから、この牙城を崩すことは並大抵のことではなかった。ペースを握っている割に、チャンスを作れない時間が続く。 だが、その守備網を切り崩してみせたのだからレベルの高さに脱帽してしまう。64分、ベナユンが右サイドから中央へと切れ込み、針の穴を通すかの如く繊細なパスをトーレスへと通す。トーレスは体勢を崩しながらも上手く1トラップし、そのままシュート。ツェフが完全に逆をつかれ、リバプールはトータルスコア2-2の同点に追いついた。 試合前、「2点を決める」と意気込んでいたトーレスだったが、さすがの動きだった。ボールを受けてからシュートまでの速さと体使いの巧みさは本当に素晴らしい。もはや完全にリバプールのエースとなっている男の活躍により、ゲームは振り出しに。 そしてその後もお互いが牽制しあった白熱のゲームは遂に延長戦へと突入する。 ■母へ… 全ては延長戦で決着をつけようというのがチェルシー陣営の思惑だったのだろう。チェルシーはアネルカを延長の頭から投入し、勝負に出る。いつものドログバとアネルカを使った力ずくの戦法である。いや、アーセナルやユナイテッドをも破った自慢の戦術か。 立ち上がりにリバプールがチャンスを作ったものの、最後の詰めが甘く、勝ち越すには至らない。逆にチェルシーはセットプレーからのセカンドボールをエッシェンが拾い、強烈なミドルシュートでゴールネットを揺さぶった。……と思われたがこれはその前にオフサイドがあったとの判定。(私も含めて)感情を爆発させていたチェルシーファンたちは肩透かしにあってしまった。 だが、再び喜びの限界まで達するほどの激烈な感情が脳内を巡るのに、時間はかからなかった。97分、ユナイテッド戦の立役者、マイケル・バラックがヒーピアに倒され、PKを獲得したのである。スタンドは再び大きく揺れた。しかし反応は様々だった。ガッツポーズをする者、頭を抱える者、ピッチから目を背ける者etc…。どれもチェルシーファンの心情が刻銘に描写されていたシーンだ。 しかもこの大事な大事な、本当に大事なPKを蹴るのは他の誰でもない、フランク・ランパード。やはり主役には、最高の舞台が用意されるものなのである。 PKストッパーとの異名を持つペペ・レイナとの対戦に、スタジアム中が緊張に包まれ、異様な雰囲気を醸し出していたが、フランク・ランパードの蹴ったボールの行き先が、限りなくモスクワに近かったことを悟った瞬間、スタジアムには地鳴りが響き、歓喜の声で世界が包まれた。“スーパー・フランク”がチェルシーをファイナルへと導く大きな1点を決めたのである。 果たして、天を指差すフランク・ランパードの見つめる先には、何があったのだろうか。私には知る由もないが、非常に印象に残っている最大のハイライトのひとつである。 その後、リバプールは懸命に得点を奪おうと戦う姿勢を見せたが、逆にアネルカに守備網を破られ、最後はドログバにこの日2点目となるゴールを謙譲して万事休す。延長後半、バベルがツェフの牙城を破るスーパーミドルを決めたものの、後一歩、及ばなかった。延長に入っての2点のアドバンテージはいくらリバプールといえど、奪い返す力は残っていなかったのである。 長かった試合の終了を告げるホイッスルが鳴り響くとチェルシーファンたちは喜びと安堵に包まれ、選手たちを称えると共に自らが支えてきたチームの躍動を心から誇ったことだろう。 間違いなく、この瞬間、世界で一番熱かったスタンフォードブリッジでの試合は“典型的チェルシー対リバプール”などには微塵も当てはまらない素晴らしく、白熱した好ゲームだった。3度目の正直でやっとリバプールを下したロンドンの青は、本当に、本当に待ちに待った夜を今宵、迎えることが出来たのである。 Chelsea 3 - 2 Liverpool 【C…Lampard 98(pen) Drogba 33,105】 【L…Torres 64 Babel 117】 ■足に魂を、心には母を長かった。長い道のりだった。今回で実に3度目となるチェルシー対リバプールの激闘を、初めて青の戦士たちが制し、悲願だったファイナルへの切符をクラブ史上初めて手にした。 正直、もう細かい批評をすることが無意味に思えてしまうほど、本当に情熱的で白熱した素晴らしい試合だった。CLセミファイナルとなるとやはり世界が違う。改めて選手たちの偉大さと、ファンがフットボールに欠かすことの出来ない存在であるということを実感できた試合だった。今はこの試合を現地で見た喜びにただただ浸っているのみである。それにしてもフランク・ランパードの、なんと心の強いことか。パットさんは本当に良いお子さんをお持ちになったようだ。 チェルシーが勝ちあがったとはいえ、拮抗した勝負だったことに疑いの余地はない。勝者と敗者の間では、何が違ったのか。この拮抗した試合における差はなんだったのか。 それを考えると、答えはひとつしか浮かばない。ありきたりな言葉で大変恐縮だが、チェルシーの方が強い気持ちを持てる要素をいくつも抱えていたのだろう。2度の苦汁をなめたリバプールを打ち負かしたい。これまで後一歩で逃してきたファイナルへの切符をなんとしても勝ち取りたい。そして何より、チームの大黒柱であるフランク・ランパードの亡き母のためにも、絶対に勝たなければならない。 こういった高次元の戦いにおいて、発生する差というのは、やはり最後は気持ちなのだろうと改めて実感させられた。 チェルシーの強い気持ちの前に、リバプールが屈した。 総括としては、この一文が適切かと私は心から思う。 ■いざ、ユナイテッド戦へ… さて、プレミアシップの、しかも1位2位がCLでも顔を合わせることとなった07-08シーズン。モスクワにて、勝利の女神はどちらに微笑むのか。拮抗した戦いになることは間違いない。どちらもお互いを知り尽くしており、ここ数年強いライバル意識を持ってきたクラブ同士なのだから。 ただ、私は守備的で退屈な試合にはならないのではないかと考えている。ユナイテッドは元々攻撃が売りのチームだし、チェルシーはユナイテッドを実力で打ち負かした自信を持っている。殻にこもり、シュートの少ない眠くなるような試合にはならないはずだ。いや、そう期待している。 イタリア勢同士の対決になったオールドトラフォードでの決勝は、退屈な試合になるのではないかという予想に反することなく、守備的な試合となり、結局スコアレスドローに終わった。 そうであるなら、今回のイングランド対決となった決勝では、イングランド色の濃い決勝になることだろう。常にチャントの響くスタジアムで行われる、クリーンで気持ちのいいファイティングスピリット剥き出しの、情熱的で、滑稽で、しかしどこか憎めない選手たちの感動的な戦いを、私は心から期待している。 時は2008年5月21日、舞台はロシアの首都モスクワ。 9シーズンぶりの欧州制覇を狙うユナイテッドと、初の頂点を目指すチェルシーのイングランド対決が実現する。長く厳しい戦いを勝ち抜いてきた両チームの終着地点。 最高の舞台は、今、整った。
posted by so-ma |08:14 |
■07-08 欧州カップ戦 |
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