2006年10月23日

「スポーツ・ビジネス知的武装講座」第8回

質問者:福井盛太(『SMR』編集長)
【Q】村上ファンドが阪神電鉄の筆頭株主に躍り出た際、同電鉄の経営陣に対してタイガースの株式上場を提案し、話題になりました。
プロスポーツチームが株式上場するメリットとデメリットは何なのでしょうか?
そしてズバリ、皆様はプロスポーツチームの株式上場に賛成ですか? 反対ですか?

回答者:石渡進介
(弁護士/Field-R法律事務所)
現在の世界のプロスポーツビジネスの根幹、一大収益源は、まさにスタジアム経営にあります。高収益型スタジアムを持つことが、クラブの発展には不可欠な要素となっているのです。客単価の高いシートを増設したり、プレミアムボックスを作ったりしてスタジアムの収益性を高め、看板一つとっても、効果的な露出を踏まえ、LED看板を導入したりする必要もあるわけです。

直近でも、プレミアリーグのビッククラブであるアーセナルも、ライバルのマンチェスターUから遅れること数年、長く使用した歴史あるハイバリーからエミレーツスタジアムを新設し移転しました。
このような流れからすれば、自前スタジアムをもっている阪神タイガースが、今後プロスポーツクラブとして発展する上では、新スタジアム建設か甲子園球場の改修を上手に行う必要があります。また、地上派放映権モデルというビジネスモデルの大転換を迫られている読売ジャイアンツも同様に、高度なスタジアム経営にのっとった高収益モデルを導入する必要に迫られているように思われます。ジャイアンツも、新球場の建設を考える時期に来ているというべきかもしれません。

しかし、新球場の新設や、大規模改修には大きな資金が必要となります。「株式上場」を使えばこの資金は軽く調達することができるように思えます。

プロスポーツチームは株式上場をするべきなのでしょうか?

ベンチャー企業などでは株式上場こそが目的であり、なんとしてでも株式上場を目指すというような目標を掲げる例も見受けられますが、そもそも株式上場とはあくまでも資金調達という目的のための手段に過ぎません。株式上場の一番のメリットは資金調達の便宜にこそあり、株式市場で取引可能な株式となることで、新株発行などによって事業資金を得やすくなるわけです。
ですので、プロスポーツチームが株式上場を考えるべきかという問いに答えるとすれば、プロスポーツチームにそのような資金需要があるかどうかに尽きるように思われます。
しかし、資金需要といっても、選手補強のために増資をし、その資金力で有力選手を獲得する。つまり選手獲得費用をまかなうために上場するというようなことは考えるべきではありません(限定した場合であれば、選手獲得費用に充てることもあり得るかもしれませんが)。

増資を選手獲得のために行うという例は、いくつかのJクラブなどにみられなくもありませんが、これは資本を食いつぶしているだけにすぎない一過性のものですので、健全な姿ではありません。今後のビジネス上、収益性を上げる大きな投資を行うために増資は行うべきなのです。しかも、株式上場は、大きな額の資金調達を可能にするための方法です。ですので、収益性を上げるための投資を行う大きな資金調達の必要がある場合には、株式上場が検討されよいかと思います。スタジアム新設だったり、システム投資だったり、新しいスポーツ分野への進出だったりということが理由となるでしょう。

つまり、スタジアムを中心とした収益性インフラの整備を急務とするクラブであれば、株式上場のニーズは高いといえます。
ただし、株式上場をした場合には、当然IRを考え、株価を高く保つ必要が出てきます。
そう考えると、スタジアム建設等のニーズはあったとしても株式上場が可能かを考えた場合、株価を高く保つことが可能となりうる、収益の安定性ということが求められることになるでしょう。
毎年赤字続きで収益力の向上が考えにくいようなクラブの場合、株価がつかないというような状況も生じかねないからです。特に、人気や勝ち負けに株価が左右されることも考えられやすいプロスポーツクラブの場合、この収益の安定性という問題は非常に重要な必要条件であると考えられます。

ここまで見てくると、

1.株式上場はスタジアム建設のニーズがあるようなクラブにおいて必要であり
2.収益の安定性が確保された、ある程度優良な経営を行っているクラブにおいて可能である

ということがわかると思われます。
日本のプロ野球クラブなどの場合、特に2の点で問題の多いクラブが多く、株式上場を念頭におけるクラブは非常に少ないといえるように思えます。現状からいえばタイガースとジャイアンツは条件をみたしているように思われますが、その他のクラブはなかなか難しい状況にあるように思われます(もちろんタイミングや戦略によってはフィットするクラブもあるかもしれませんが)。
ただし、条件をみたしているいないにかかわらず、プロスポーツクラブの親会社が上場していれば、親会社の株式発行によって資金調達を行うことという選択肢も存在します。
そういう意味で言えば、株式上場に賛成ですか、反対ですかといわれれば、ケースによる! というのがわたしの答えです。
賛成のケースも存在するのですから、株式上場を一律禁ずるというような方策は取るべきではないと考えます。
また、少なくとも株式上場により格段にコンプライアンスなどが高まるでしょうから、ビジネスとしては遅れているといわざるを得ない日本のプロスポーツ界にとっては別の意味でのプラスも存在するように思えます。
さらにいえば、日本では一企業の私物のように扱われやすいプロスポーツクラブに、真の意味でファン=株主が参入する形が生じることになります。ファンの熱狂度という意味では同レベルにあると思われるタイガースがバルセロナのようなファン=ソシオが支えるクラブへと変貌を遂げるきっかけを作ることになるかもしれません。
そのような意味で、プロスポーツクラブの株式上場については、どのような目的で、どのようなクラブが、何を意識して行うのかを慎重に議論して決める必要があると思われます。

なお、プロ野球については、実際の野球協約上、株式上場は可能かについて触れておきます。

現行の野球協約では、参加球団資格は、「発行済み資本総額1億円以上の株式会社」(27条)とするだけですから、それほど問題はないはずです。
「株主構成の届け出」という規定があり、毎年2月1日時点での株主をすべてNPBに届け出なければならない上、株主に変更が会った場合は、その都度届け出るとされているだけですから(28条)、株主名簿の変更その他で対応すれば可能なようにも思えます。

ただし、いくつか問題はあります。

まず、外資規制はありますから(28条)、株主の49%を超えて外国株主が買った場合には問題が顕在化します。もっとも、親会社の外資比率が50%を超えていた際のオ
リックスは問題にされませんでしたから、どう扱われるかはわかりません。市場で流通する株式が49%以下の子会社上場ならこの点は問題ないでしょう。
また、株主が49%を超えて株式を所有する場合や筆頭株主の変更には、実行委員会やオーナー会議の承認が必要になります(31条(2)(3))。これについても、同様に、市場で流通する株式が49%以下の子会社上場ならこの点は問題ないでしょう。マンチェスターUのように、上場することによって、意図しない人に買収される可能性はありますし、そのリスクは考えておかなければなりません(それ自体すべての上場会社のリスクです。そのような意味で、多くの優良な会社はIRをしっかりやり、株価を上げ、買収されにくい企業を目指すわけです)。しかし、日本の野球界では、球団自体の筆頭株主の変更は、オーナー会議や実行委員会の承認事項になっていますので、そのリスクはある程度手当がされているという見方もできるかな、とも思います。

【回答者プロフィール】
石渡進介(いしわたり・しんすけ)
慶応大学法学部卒業。1995年に司法試験に合格。2001年にField-R法律事務所を共同で設立。スポーツと映画・音楽などのエンタテインメント分野の法律を専門とする。プロスポーツの法律に関しては、日本でいち早く着手した弁護士のひとり。プロ野球選手会、日本プロサーフィン連盟、その他さまざまなスポーツ関連組織の顧問弁護士を務める。
Field-R法律事務所のHPはこちら。
http://www.field-r.com/

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posted by 『SMR』編集部 |15:41 | トラックバック(0)
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