2006年10月13日

「スポーツ・ビジネス知的武装講座」第7回

質問者:福井盛太(『SMR』編集長)
【Q】村上ファンドが阪神電鉄の筆頭株主に躍り出た際、同電鉄の経営陣に対してタイガースの株式上場を提案し、話題になりました。
プロスポーツチームが株式上場するメリットとデメリットは何なのでしょうか?
そしてズバリ、皆様はプロスポーツチームの株式上場に賛成ですか? 反対ですか?

回答者:相原正道
(筑波大学大学院スポーツプロモーション研究会代表)

 私は基本的に株式上場には反対です。
 株式上場でない資金調達方法をビジネス・マネジメント部門に模索してほしいと考えているからです。日本および、世界のプロ・スポーツチームのほとんどは、株主が決定権をもつ株式会社組織です。そのため、どのスポーツチームも株式上場する可能性と買収される可能性を併せ持っています。

 最近、最も大きな買収劇といえば,アメリカの大富豪マルコム・ブレイザーによるマンチェスター・ユナイテッドの買収劇です.2005年5月24日、マルコム・ブレイザーがマンチェスター・ユナイテッドの株式保有比率を76%に引き上げました。この時点で彼は、クラブの実権を握ったと同時に、ユナイテッドが、優良企業として株式を上場していた14年間の歴史にピリオドを打つことを意味しました。買収における推定金額は、7億9000万ポンド(日本円で約1,566億円)。
 マンチェスター・ユナイテッドは、マルコム・ブレイザーの個人企業となったのです。その後。彼が上場を廃止し、株式を公開しないのは同様の買収劇を招かないための防衛手段でしょう。
 買収決定後、地元サポーターはオールド・トラフォードのことを皮肉を込めて「Sold Trafford」(ソールド・トラフォード)と呼んでいましたが、冷静に考えてみると、14年前に株式上場した時点で、マンチェスター・ユナイテッドはある意味、いつ買収されても不思議ではない状態にあったのです。これが冒頭で申し上げた、どのスポーツチームも株式上場する可能性と買収される可能性を併せ持っている典型的な例といえます。
 マンチェスター・ユナイテッドの場合、筆頭株主ですら全株式の3割程度しか所有していませんでしたので、「マンチェスター・ユナイテッドPLC」のロイ・ガ―トナー会長にさまざまな権限が与えられていたに過ぎませんでした。マンチェスター・ユナイテッドの商品価値に魅力を感じたからこそグレイザーは株式を買い漁ろうと決意し実行したわけです。

 思えば、ロマン・アブラモビッチが2004年にチェルシーを買収したときも、「ブルーズ(チェルシ―の愛称)は、しがないロシア人に魂を売った」と、グレイザー同様、アブラモビッチも各方面から痛烈な批判を浴びました。ところがいまではどうでしょう? 50年ぶりのリーグタイトルを獲得してから、「アブラモビッチのおかげだ」と彼を支持する人が増えてきています。
 しかし、タイトル獲得だけがファンからのイメージ回復となるのでしょうか? 一喜一憂しながら試合観戦している姿がよく映し出されるアブラモビッチとは違って、グレイザーはマンチェスター・ユナイテッドを金儲けの道具にしか見ていないと思われています。FAカップ決勝にグレイザーが試合観戦に来るかどうかが英国で賭けの対象になってしまっていることからも明らかでしょう。
 グレイザー、アブラモビッチ同様、シルビオ・ベルルスコーニ(ACミランのオーナーにしてイタリア国家首相)、マッシモ・モラッティ(インテル・ミラノのオーナー)といった大富豪のオーナーがすべての権限を握るクラブであれば、何千万ユーロという大金をその一存でチーム強化に投資することが可能です。仮に赤字がでても自分のポケットマネーで埋め合わせをすればいいだけの話です。ただし、グレイザーがチーム強化に投資したとしても、それはクラブへの愛着ではなく、利益の追求のためと思われることでしょう。

 私は村上ファンドの行動もグレイザーの買収劇同様、利益追求の行動として見ていました。
 村上ファンドの行動に対する星野仙一氏の言動は、スペインのレアル・マドリーのフロレンティーノ・ぺレス会長のアブラモビッチに対する言動に重ねて見ていました。ペレス会長は「レアル・マドリーはソシオのものだ。私が会長でいる限り、アブラモビッチのような金満家に勝手なマネはさせないし、もちろんクラブを乗っ取られるようなことなど絶対ないと約束する。そもそもレアルを支えているのは、年間予算や総収入といった金銭的なファクターではない。ソシオや一般サポーター、そしてわれわれスタッフの愛情や情熱こそがすべてなのだ。世界中のだれも、このクラブ愛を支配することはできない。レアル・マドリーを金で買えると思ったら大間違いだ」。
 今やサッカーの世界を超越する存在となったレアル・マドリー、FCバルセロナなどは、営利追求を最大の目的とする「株式会社」ではなく、ソシオ(クラブ会員)が運営する「スポーツクラブ」です。これが意味することは思いのほか大きいと考えています。株式会社の形態を取っていないにも関わらず、世界中の人々から「健全経営のモデル企業」として捉えられているからです。ペレス会長の言葉は、レアルというスポーツクラブの理念や方向性を明確に示しているといえます。

 投資家および日本のスポーツチームは、利益追求の行動に走るのではなく、明確な理念とマネジメントをもって大胆に推進していってほしいと切に願っております。

【回答者プロフィール】
相原正道(あいはら・まさみち)
1971年生まれ。筑波大学大学院スポーツプロモーション研究会代表。96年に大学卒業後、出版社編集部、電通パブリックリレーションズ勤務を経て、2006年3月に筑波大学大学院体育研究科修士課程スポーツ健康システム・マネジメント専攻を終了し、日本初のスポーツブランドコンサルタントして独立。現在、プロ野球球団のプロジェクトメンバーとして活躍中。筑波ユナイテッドバレーボールプロ化推進委員会委員、筑波大学セカンドキャリア勉強会メンバーなどを歴任。著書に「ロハスマーケティングのスゝメ」(ソトコト新書刊)等がある。

次回の更新は10月20日を予定しております。
お楽しみに。

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posted by 『SMR』編集部 |14:09 | トラックバック(0)
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