2006年08月29日

「スポーツ・ビジネス知的武装講座」第3回

質問者:福井盛太(『SMR』編集長)
【Q】「昨年、東北楽天イーグルスは年間敗戦新記録を打ち立てましたが、
球団経営に目を転じると、1年目から経営黒字を達成しました。
なぜ、チームが弱くても黒字化できたのでしょうか?」

回答者:石渡進介
(弁護士/Field-R法律事務所)
楽天球団の初年度黒字化の最大の理由は、一言で言えば、世界的に当たり前のように行われている「スポーツクラブ・ビジネス」の基本を当然のようにやったことにある、と言えるでしょう。

そもそもスポーツクラブの売上は、
1.入場料収入 
2.マーチャンダイジング収入 
3.スポンサーシップ収入
4.放映権収入
が、主たるものですが、従来のセ・リーグ型プロ野球ビジネスは、4について大きな収入源としてきました(もちろんこれだけではありませんが、経営を続けていく上で大きな柱としてきたのです)。
しかし、パ・リーグ型プロ野球ビジネスは、4を柱にできる状況ではないため、1~3までを大きな柱としなければなりません。しかし、この4を大きな柱とできないというのは、世界中のクラブが直面している問題ですから、ある意味当然であり、むしろ、1~4を中心としていくことでも、十分にクラブ経営を成立させる(黒字化する)ことができることを意味しているわけです。
楽天球団は、この3点の充実に対して、忠実な取り組みをしたわけです。

【スタジアムの合理的活用】
一番大きな問題はすでに論じられていることとは思いますが、スタジアムの問題です。1~3を最大化するにしても、すべてにおいてスタジアムを活用することが重要になってきます。
1.入場料収入を最大化するためには、どのようなチケット販売戦略をとれるか、スタジアム利用の自由度(シーズンチケットの区分け、付加価値のつけ方などなど)が重要になります。
この点、楽天球団においては、「砂かぶりシート」や「フィールドシート」を設けチケット単価をあげることに貢献しています。

また、2.マーチャンダイジング収入をみてもスタジアムを自ら活用できると、直営のメガショップをスタジアムに設置できますし、飲食も、直営、テナントいずれにしても売上・利益に大きく貢献します。
楽天球団においては、メガショップでの売上げが1日で1,000万円近くになる日もあるそうですし、スタジアムでの飲食関係の売上・利益も充実させています。

さらに、スタジアムを活用できることで一番大きな違いが出るのが、看板などを利用する可能性が生じる3.スポンサーシップ収入です。楽天球団は22億円ものスポンサー収入を上げていますが、スタジアムの看板収入をすべて球団の売上げとできる点が他球団との一番大きな違いです。ちなみに楽天グループで支出しているスポンサー費は4億円程度(推定)であり、そこまで大きな底上げを行っているわけではありません。
ただし、スタジアムを活用できるといっても、実は自前スタジアムではないというところも楽天の成功のさらなるポイントなのです。それは、自前スタジアムを持つ場合のコスト負担が大きいことに起因します。
楽天球団はスタジアム活用のコストとして、年間5,000万円の使用料を払うことのみで済んでいます。
ソフトバンクホークスが48億円の使用料(これ自体本来もっと引き下げなければならない異常な金額ですが)であるのと比べると圧倒的に有利です。ヤフードームの使用料がここまで高額なひとつの理由に、年間7億円にも及ぶ固定資産税の負担があります。フルキャストスタジアムの場合、公営球場を借りているに過ぎないのでこの負担がないわけです。

民間会社である球団が自前球場を建設する場合、多額の建設コストを負担しながらランニングでもこのように高額なコストがかかるのです(なお、楽天も高額のスタジアム改修費用を負担していますが、これらの減価償却期間も自前球場の建設の場合と比べて1/4に短縮できています)。
本来であれば建設費を負担して民間でスタジアムを建設したほうがはるかに地域に貢献しているにもかかわらず、今の日本の税制では色々と公営球場を借りて改修する楽天型のほうが圧倒的に有利でなのです。そのような意味で今後「施設管理者制度」の活用がスポーツクラブビジネスには重要なポイントとなることでしょう。

【ビジネスとしての当たり前】
このように、楽天野球団は低コストで利用できるスタジアムを最大限活用し、スポーツクラブビジネスの基本に忠実な経営を行っているということが黒字化の一番の要因であるといえます。
しかし、1つひとつのビジネスの作りこみ方もビジネス面から合理的に忠実に行っています。
1.入場料収入という面では、顧客データベースに基づいた、特にメールマーケティングでの成功を収めています。シーズン終盤には当日のエース対決を予告して当日券を1万枚近く販売することに成功したりもしています。
このメールマーケティングを可能にしたのは、球団誕生という話題性をフルに生かしたファンクラブへの登録とその後のメールアドレス登録への努力です。ここで積み上げられたメールアドレスデータベースがその後のチケット販売や告知などで大きな力を発揮するのです。

2.マーチャンダイジング収入という面で、従来の球団が行っていたロイヤリティ収入というモデルから、製造販売を直営するということにも取り組んでいます。この結果10億円のグッズ売上げからも大きな利益を生むことができています。

3.スポンサーシップ収入についても、従来の球団のように球場が単に看板を販売するという形態から、さまざまなスポンサーシップ形態を作り出しています。またその工夫の結果、自らスポンサー獲得に力を入れ、大手代理店の予想の3倍近いスポンサーシップ売上げを生んだのも注目すべきところでしょう。

【課題】
ただし、このように黒字化し順調に見える楽天球団の球団経営ですがもいくつかの課題も存在します。
まず、そもそも「黒字化」といっても初年度という特殊性に支えられた部分が大きいということです。
・新球団の初年度であり、選手費用が極めて低く抑えられた
・契約金の償却は5年で行われることが通常だが、これが1年分しかない
・初年度という注目からの集客増があった
・初年度という注目からのスポンサーシップ増があった
・グッズが一切存在しないところへ販売したため初年度特有の売上増があった
などです。
そういう意味では、今回の「黒字達成」はあくまで数字上の象徴的なものに過ぎないと思われます。
また、2年目からは第2次スタジアム改修による減価償却の負担も乗ってきますので、今後10年間はスタジアム有効活用のためのコストが10億円を超えることになるでしょう。そのような意味で、今後は10億円以上の赤字が続いていくことになるのです。

これを乗り越え真の意味での「黒字達成」を実現するためには、やはりスポーツクラブ・ビジネスのもうひとつの基本である、ビジネス偏重型からコンテンツ力向上への均等投資ということを行う必要があります。
そう考えると、選手獲得方法を大幅に制限している日本のプロ野球のシステムではなかなか難しい問題といえるかもしれません。

【回答者プロフィール】
石渡進介(いしわたり・しんすけ)
慶応大学法学部卒業。1995年に司法試験に合格。2001年にField-R法律事務所を共同で設立。スポーツと映画・音楽などのエンタテインメント分野の法律を専門とする。プロスポーツの法律に関しては、日本でいち早く着手した弁護士のひとり。プロ野球選手会、日本プロサーフィン連盟、その他さまざまなスポーツ関連組織の顧問弁護士を務める。
Field-R法律事務所のHPはこちら。
http://www.field-r.com/

次回の更新は9月4日を予定しております。
お楽しみに。

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posted by 『SMR』編集部 |14:58 | トラックバック(0)
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