2007年02月13日
「スポーツ・ビジネス知的武装講座」第11回
質問者:福井盛太(『SMR』編集長) 【Q】ニューヨーク・メッツに続き、ニューヨーク・ヤンキースも新スタジアムの建築を決定しました。 他にもNFLのサンフランシスコ49ersやニューヨーク・ジェッツなど複数のプロスポーツチームが新スタジアム建設構想を明確化しています。一般的に米国は、プロスポーツチーム(特に4大スポーツの場合)に対する自治体の協力姿勢が強いと言われていますが、なぜ莫大な費用が必要とされる新スタジアムの建設が、これほどの短期間に、しかも複数個、可能となっているのでしょう。 また各チームが、本拠地移転をしてでも新スタジアムの建設に拘る理由は何なのでしょう。 回答者:相原正道 (筑波大学大学院スポーツプロモーション研究会代表) 現在、全米では新球場の建設ラッシュが続いています。そのさきがけとなったのが、1982年のオリオールズのカムデンヤーズ球場の建設です。この仕掛け人が、当時オリオールズのラリー・ルッキーノ社長(現在、松坂大輔が所属するレッドソックスの社長)です。レトロ調のカムデンヤーズ球場はダウンタウンの再開発にもつながり莫大な経済効果を球団と地域行政にもたらしました。 オリオールズのカムデンヤーズ球場ができる1982年までの球場(1960年代以降に建設された球場)は、アメリカンフットボールとの共用型で「多目的スタジアム」と呼ばれるものが主流でした。建設費が節約できるメリットがありました。しかし、アメリカンフットボールには最適でしたが野球には不向きな球場でした。 街とチームの歴史や伝統を意識した「レトロ回帰」なコンセプトを兼ね備えたカムデンヤーズ球場は野球ファンの支持を受け、オリオールズの観客動員数は前年比で100万人増を記録しました。 その後、レトロ回帰をコンセプトにした新古典主義ともいわれるレトロ調の球場は、クリーブランドやデンバーにも建設され、インディアンズやロッキーズの観客動員数も大幅に増加しました。以後、「球場を建てれば客が来る」と言わんばかりの新球場の建設ラッシュが続いている状態です。ヤンキースやメッツもこの流れに追随しているのです。 新古典主義球場といわれるカムデンヤーズ球場の特徴は、主に4つあります。まず、レンガと鉄骨を組み合わせた外観は、古き良き伝統と現代の芸術が見事に調和しており、街に溶け込むようなデザインが好評を得ています。次に、左右非対称のグランドです。そもそも野球場のグランドは、街の中心部の限りある空き地に野球場が建てられていたので左右非対称だったのです。昔の名残を復活させた球場となっています。 3つ目は、天然芝です。管理・維持にコストがかかりますが、見た目の美しさにおいて人工芝のデメリットを十分に補って余りあります。 4つ目は、野球専用球場のため、ファウルグラウンドが狭くなり、観客がグラウンドとの隔絶感を感じなくなり、臨場感が増しています。 ヤンキースとメッツの新球場の建設にも、共通することはフィールドと観客席の臨場感を高める一体感ある演出です。座席数をヤンキースは約1割、メッツは約2割それぞれ減らすが、ともに下層階の座席数の割合を増やしてより多くの観客が近くで観戦できます。ヤンキースタジアムとメッツのシェイスタジアムは、いずれも現球場の隣接地に建設し、2009年春に開幕するシーズンから使う予定です。 新しいヤンキースタジアムは現球場の北側に建てられ、収容人員は約5万人、外観は1923年開場当時の雰囲気を再現した「レトロ調の球場」になります。建設予定費の8億ドル(約870億円)は基本的には球団が負担し、ニューヨーク市や州政府も巻き込んだ総額10億ドルのプロジェクトとなる予定です。建物内部には球団の歴史を展示したコーナーを設置し、建物の設備も観客や選手、報道関係者が利用しやすいよう最新設備にします。また、球場内のショップやレストランは年間通じて開放し、野球観戦だけでなく観光地として年間を通じた集客を見込んでいます。 現在のヤンキースタジアムは一部施設が残され、市営公園に生まれ変わるほか、周辺に野球場やテニスコートなど運動施設を数多く設けられます。それ以外にも、地下鉄駅のホーム延長や、郊外に伸びる路線の駅が建設されるなど、球場にとどまらない包括的な再開発が計画されています。ニューヨーク市は建設関連の雇用創出など、経済効果にも期待を寄せているのです。 今後の新球場建設で私が最も注目しているのは、「マネーボール」で有名なビリー・ビーンGMのいるアスレチックスの新球場です。20011年完成予定の新球場は、本拠地のオークランドを離れ、約40キロ南のフレモントに移転する予定です。 フレモントはハイテク産業の集積地として有名なシリコンバレー地区で、近くにはヤフーやアップルコンピュータなどのIT産業が数多く本社を置いている地区です。今回の新球場も通信業界最大手のシスコ社と組んで、最新IT技術を駆使した球場となるそうです。例えば、試合中はさまざまな情報を発信し、パソコンを持ち込めば、随時リプレーを見ることができたり、携帯電話に個人情報を登録すると、観客が売店近くを歩くと、デジタル広告ボードにはその人の好みに合った食べ物などの宣伝が流れるそうです。起業家が集まるフレモントの1人当たりの年収は全米トップなので、富裕層をターゲットとした市場拡大が可能です。 「マネーボール」で有名なビリービーンGMがチーム・マネジメントだけでなく、ビジネス・マネジメントでも成功できるのかに、今最も注目しています。 【回答者プロフィール】 相原正道(あいはら・まさみち) 1971年生まれ。筑波大学大学院スポーツプロモーション研究会代表。96年に大学卒業後、出版社編集部、電通パブリックリレーションズ勤務を経て、2006年3月に筑波大学大学院体育研究科修士課程スポーツ健康システム・マネジメント専攻を終了し、日本初のスポーツブランドコンサルタントして独立。現在、プロ野球球団のプロジェクトメンバーとして活躍中。筑波ユナイテッドバレーボールプロ化推進委員会委員、筑波大学セカンドキャリア勉強会メンバーなどを歴任。著書に「ロハスマーケティングのスゝメ」(ソトコト新書刊)等がある。
posted by 「SMR」編集部 |13:26 |
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