2007年02月13日

「スポーツ・ビジネス知的武装講座」第11回

質問者:福井盛太(『SMR』編集長)
【Q】ニューヨーク・メッツに続き、ニューヨーク・ヤンキースも新スタジアムの建築を決定しました。
 他にもNFLのサンフランシスコ49ersやニューヨーク・ジェッツなど複数のプロスポーツチームが新スタジアム建設構想を明確化しています。一般的に米国は、プロスポーツチーム(特に4大スポーツの場合)に対する自治体の協力姿勢が強いと言われていますが、なぜ莫大な費用が必要とされる新スタジアムの建設が、これほどの短期間に、しかも複数個、可能となっているのでしょう。 また各チームが、本拠地移転をしてでも新スタジアムの建設に拘る理由は何なのでしょう。

回答者:相原正道
(筑波大学大学院スポーツプロモーション研究会代表)

 現在、全米では新球場の建設ラッシュが続いています。そのさきがけとなったのが、1982年のオリオールズのカムデンヤーズ球場の建設です。この仕掛け人が、当時オリオールズのラリー・ルッキーノ社長(現在、松坂大輔が所属するレッドソックスの社長)です。レトロ調のカムデンヤーズ球場はダウンタウンの再開発にもつながり莫大な経済効果を球団と地域行政にもたらしました。
 オリオールズのカムデンヤーズ球場ができる1982年までの球場(1960年代以降に建設された球場)は、アメリカンフットボールとの共用型で「多目的スタジアム」と呼ばれるものが主流でした。建設費が節約できるメリットがありました。しかし、アメリカンフットボールには最適でしたが野球には不向きな球場でした。
 街とチームの歴史や伝統を意識した「レトロ回帰」なコンセプトを兼ね備えたカムデンヤーズ球場は野球ファンの支持を受け、オリオールズの観客動員数は前年比で100万人増を記録しました。
 その後、レトロ回帰をコンセプトにした新古典主義ともいわれるレトロ調の球場は、クリーブランドやデンバーにも建設され、インディアンズやロッキーズの観客動員数も大幅に増加しました。以後、「球場を建てれば客が来る」と言わんばかりの新球場の建設ラッシュが続いている状態です。ヤンキースやメッツもこの流れに追随しているのです。
 新古典主義球場といわれるカムデンヤーズ球場の特徴は、主に4つあります。まず、レンガと鉄骨を組み合わせた外観は、古き良き伝統と現代の芸術が見事に調和しており、街に溶け込むようなデザインが好評を得ています。次に、左右非対称のグランドです。そもそも野球場のグランドは、街の中心部の限りある空き地に野球場が建てられていたので左右非対称だったのです。昔の名残を復活させた球場となっています。 3つ目は、天然芝です。管理・維持にコストがかかりますが、見た目の美しさにおいて人工芝のデメリットを十分に補って余りあります。 4つ目は、野球専用球場のため、ファウルグラウンドが狭くなり、観客がグラウンドとの隔絶感を感じなくなり、臨場感が増しています。
 ヤンキースとメッツの新球場の建設にも、共通することはフィールドと観客席の臨場感を高める一体感ある演出です。座席数をヤンキースは約1割、メッツは約2割それぞれ減らすが、ともに下層階の座席数の割合を増やしてより多くの観客が近くで観戦できます。ヤンキースタジアムとメッツのシェイスタジアムは、いずれも現球場の隣接地に建設し、2009年春に開幕するシーズンから使う予定です。 
 新しいヤンキースタジアムは現球場の北側に建てられ、収容人員は約5万人、外観は1923年開場当時の雰囲気を再現した「レトロ調の球場」になります。建設予定費の8億ドル(約870億円)は基本的には球団が負担し、ニューヨーク市や州政府も巻き込んだ総額10億ドルのプロジェクトとなる予定です。建物内部には球団の歴史を展示したコーナーを設置し、建物の設備も観客や選手、報道関係者が利用しやすいよう最新設備にします。また、球場内のショップやレストランは年間通じて開放し、野球観戦だけでなく観光地として年間を通じた集客を見込んでいます。 
 現在のヤンキースタジアムは一部施設が残され、市営公園に生まれ変わるほか、周辺に野球場やテニスコートなど運動施設を数多く設けられます。それ以外にも、地下鉄駅のホーム延長や、郊外に伸びる路線の駅が建設されるなど、球場にとどまらない包括的な再開発が計画されています。ニューヨーク市は建設関連の雇用創出など、経済効果にも期待を寄せているのです。
 今後の新球場建設で私が最も注目しているのは、「マネーボール」で有名なビリー・ビーンGMのいるアスレチックスの新球場です。20011年完成予定の新球場は、本拠地のオークランドを離れ、約40キロ南のフレモントに移転する予定です。
 フレモントはハイテク産業の集積地として有名なシリコンバレー地区で、近くにはヤフーやアップルコンピュータなどのIT産業が数多く本社を置いている地区です。今回の新球場も通信業界最大手のシスコ社と組んで、最新IT技術を駆使した球場となるそうです。例えば、試合中はさまざまな情報を発信し、パソコンを持ち込めば、随時リプレーを見ることができたり、携帯電話に個人情報を登録すると、観客が売店近くを歩くと、デジタル広告ボードにはその人の好みに合った食べ物などの宣伝が流れるそうです。起業家が集まるフレモントの1人当たりの年収は全米トップなので、富裕層をターゲットとした市場拡大が可能です。
「マネーボール」で有名なビリービーンGMがチーム・マネジメントだけでなく、ビジネス・マネジメントでも成功できるのかに、今最も注目しています。

【回答者プロフィール】
相原正道(あいはら・まさみち)
1971年生まれ。筑波大学大学院スポーツプロモーション研究会代表。96年に大学卒業後、出版社編集部、電通パブリックリレーションズ勤務を経て、2006年3月に筑波大学大学院体育研究科修士課程スポーツ健康システム・マネジメント専攻を終了し、日本初のスポーツブランドコンサルタントして独立。現在、プロ野球球団のプロジェクトメンバーとして活躍中。筑波ユナイテッドバレーボールプロ化推進委員会委員、筑波大学セカンドキャリア勉強会メンバーなどを歴任。著書に「ロハスマーケティングのスゝメ」(ソトコト新書刊)等がある。


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2007年01月12日

「スポーツ・ビジネス知的武装講座」第10回

質問者:福井盛太(『SMR』編集長)
【Q】ニューヨーク・メッツに続き、ニューヨーク・ヤンキースも新スタジアムの建築を決定しました。
 他にもNFLのサンフランシスコ49ersやニューヨーク・ジェッツなど複数のプロスポーツチームが新スタジアム建設構想を明確化しています。一般的に米国は、プロスポーツチーム(特に4大スポーツの場合)に対する自治体の協力姿勢が強いと言われていますが、なぜ莫大な費用が必要とされる新スタジアムの建設が、これほどの短期間に、しかも複数個、可能となっているのでしょう。
 また各チームが、本拠地移転をしてでも新スタジアムの建設に拘る理由は何なのでしょう。

回答者:藤本淳也
(助教授・大阪体育大学)

 北米でのスタジアム建設ラッシュは、1990年代に始まりました。日本から見ると簡単に新しいスタジアムが建設されているように見えます。これは北米のプロスポーツチームがお金を持っているからでしょうか? それとも土地が安いからでしょうか? もちろん北米プロスポーツチームの資金力と、土地の広さは承知の事実ですが、もっと重要なポイントがあります。

チームはなぜ新スタジアムやアリーナをほしがるのでしょうか?

 答えは、「収益性の向上」です。新しいスタジアムやアリーナが収益を押し上げる主な構造は、1.観戦室やシートの販売収入の増加と、2.スタジアム関連のスポンサー収入の増加です。
 まず、観戦室やシートの販売に関しては、新しいスタジアムにすると人が増える、という単純な話ではありません。古いスタジアムと新しいスタジアムを比較すると、チームの増収へ向けての戦略がわかります。
 例えば、フィラデルフィア・イーグルス(NFL)のホームスタジアムで2002年に誕生した「Lincoln Financial Field」の例で見ると、それまで使用していた「Veterans Stadium(1971年建築)」の一般座席数は65,352。一方、Lincoln Financial Fieldの一般座席数は68,532で3000席弱しか増えていません。ところが、特別観戦室(Luxury suites)が89室から172室に、特別観戦席(Luxury suite seats)が1,210席から3,040席に、そして専用ラウンジなどが利用できるクラブシート(club seats)を10,828席新設しています。
シカゴ・ベアーズ(NFL)とシカゴ・ファイヤー(MLS)が利用する「Soldier Field」の場合も、2003年の改装終了後に一般座席を66,944から61,500に減らし、その一方で特別観戦室を17室増やして、クラブシートを8,657席新設しています。つまり、グレードの高い観戦室やシートを増設・新設することによって、ビジネスや関係者のホスピタリティのために利用したいという企業や、パーティを兼ねて観戦したいというグループ、より快適に試合を観戦したいという個人などのニーズを持つマーケットを獲得しているのです。
 さらに、近年注目を集めているのがPSL(Personal Seat License)です。特定のシートをオールシーズン占有できる座席指定のシーズンシートのようなものですが、基本的に本人が手放す意思表示をしない限り、永久に持ち続けることができます。特に、NFLのように試合数の少なく、当日券の購入が難しい場合は多くのウェイティングが出るほど売れているようですから、少ない機会を逃さずに確実に観戦したいというニーズも満たしているわけです。
 これらの特別観戦室、特別観戦席、クラブシート、PSLの値段はグレードや利用条件によって様々ですが、一般に特別観戦室の場合は年間で数百万円から数千万円、クラブシートは年間で数万円から数十万円です。例えば、Solder Fieldの場合は特別観戦室が$70,000から$300,000、クラブシートが$195から$315、PSLが$765から$8,500ですので、これに増えた観戦室やシートの数から年間の収益増が見込めます。また、新しいスタジアムでは、グッズや飲食物を販売する売店の数も増え、利用の快適性も高まっていますので、スタジアム全体での収入は大幅にアップするのです。

 次に、増加が見込めるのがスタジアムやアリーナ関連のスポンサー収入です。
 ネーミングライツ(命名権)については後述しますので、ここではスタジアムやアリーナ内外の看板スポンサーについてお話しします。1990年代後半に入ると、スタジアムやアリーナの看板は「Bigger and Simpler is Better」と言われてきました。ここでのBetterには、広告効果とスポンサー料の二つの意味があります。つまり、大きくてシンプルな看板の方が広告効果が高く、スポンサー料も高くなるのです。また、同時に観客の注目度の高い大型スクリーンや電子広告の導入もスポンサー料収入を増やす手法として発展してきました。このような広告効果の高いツールを導入することでスポンサー収入の増加が見込めたことも、チームが新しいスタジアムやアリーナをほしがったひとつの理由といえるでしょう。

建設や改築のお金はどこから確保しているのでしょうか?

 Lincoln Financial Fieldの場合、スタジアム建設にかかった費用は総額$512millionです。内訳は、チームがPSLの売上金と併せて$207millon、NFL’s Stadium Loanから$125millon、ペンシルバニア州が$85millon、フィラデルフィア市が$95millonとなっています。つまり、チームや自治体が中心となって費用を負担しているのです。
 チームは、金融機関からのローンも組んでいるようですが、その大きな資金源となっているのがネーミングライツ(命名権)です。
 ご存じの通り、ネーミングライツとはスタジアムやアリーナの名前に企業名を入れる権利のことです。その金額は様々で、Lincoln Financial Fieldは$139.6millon(20年契約)です。契約金は高額になると、ワシントン・レッドスキンズ(NFL)のホームスタジアムの「FedEx Field」が$205million(27年契約)、ダラス・マーベリックス(NBA)やダラス・スターズ(NHL)がプレーする「American Airlines Center」が$195million(30年契約)、アトランタ・ホークス(NBA)とアトランタ・スラッシャーズ(NHL)がプレーする「Philips Arena」が$185million(20年契約)など、年間平均金額が$6millionを超える契約も少なくありません。マイナーリーグでもネーミングライツの獲得は盛んで、2003年の時点でマイナーリーグの約80のスタジアムやアリーナがネーミングライツ契約を結んでいたので、今では100は超えていることでしょう。
 チームが新しいスタジアムやアリーナを建設するためにはそれなりの資金が必要ですが、前述のようにスタジアム関連の収入の増加が見込めることと共に、ネーミングライツの販売や地元企業と自治体からの投資によって建設や改装資金が確保できているのです。

自治体が新しいスタジアムやアリーナの建設費用を負担するのはなぜでしょうか?

 自治体は、地元チームの活躍によって多くの人が動き、地元企業がチームに投資することで地域経済が活性化すること狙っています。そのために、自治体が負担をしてでも新しい施設の建設をサポートするのです。
一方で、自治体の資金調達先を見ると、そのしたたかな戦略がみえてきます。Lincoln Financial Field建設にフィラデルフィア市が支払った$95millonは、2%のレンタカー税から徴収され、Soldier Fieldの場合は2%のダウンタウンのホテル税から徴収されています。つまり、住民に負担を強いるのではなく、市外から訪れた人たちが落としていくお金でまかなっているのです。これは、新しい施設建築に対する住民の反対をさけるためだけではありません。自治体によるスポーツ産業と観光産業のコラボレーション戦略です。地元チームをサポートすることによって都市イメージが改善し、観光やビジネスによる訪問者が増加すれば、投資資金の早期回収も見込めます。
 また、都市イメージが改善されることは、住民の地域へのアイデンティティの向上や犯罪率の低下も期待できるといわれています。面白い例は、テネシー州メンフィスにある「FedEx Forum」です。2001年にメンフィスに移転してきたNBAグリズリーズの本拠地で、ダウンタウンのほぼ真ん中に建っています。コンコースには多くの有名人の写真が飾ってあるのですが、全てがミュージシャンでグリズリーズの選手はいません。壁に描かれている絵や売店の看板はギター、クラブシートのラウンジ名はブルーノート、男女トイレの区別を示す人物の絵はマイクを持って踊りながら歌っています。エルビス・プレスリーの故郷で音楽の町として知られる都市イメージとのコラボレーションです。
 FedEx Forumの隣には、セントルイス・カーディナルスの傘下にあるレッドバーズのスタジアムもあります。かつては、全米で非常に高い犯罪率であったダウンタウンの再生活動の一環としてアリーナとスタジアムを作り、都市イメージの改善、住民のアイデンティティの向上、犯罪率の低下、そして地域活性化に取り組んだ例といえるでしょう。

 新しいスタジアムやアリーナの建設は、スタジアム関連収入増加を狙うチームと地域活性化を狙う自治体、そして、有効なビジネスチャンスとしてチームや施設に投資する企業の存在によって実現しているのです。もちろん、快適に楽しく観戦できる環境が整備されることは、チームのファンにとっても喜ばしいことなのです。

【回答者プロフィール】
藤本淳也
1965年宮崎県生まれ。鹿屋体育大学卒業、同大学大学院体育学研究科修了。現在、大阪体育大学体育学部、健康・スポーツマネジメント学科助教授。専門はスポーツマーケティング。 現在、IAAF世界陸上2007大阪大会ボランティア推進委員会委員、Jリーグオフィシャル観戦者調査西日本担当、堺市スポーツ振興審議会委員、大阪市パークマネジメント構想検討委員会委員、大阪府広域スポーツセンターアドバイザー、NPO法人障害者スポーツ支援センター(ASSC)監事などを努める。著書に「スポーツマーケティング」(共著)大修館書店、「スポーツ産業論入門第3版」(共著)杏林書院、「スポーツの社会科学3:スポーツ経営学」(共著)杏林書院、「生涯スポーツの社会経済学」(共著)杏林書院、「生涯スポーツ実践論」(共著)大修館書店など。

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2006年11月27日

「スポーツ・ビジネス知的武装講座」第9回

文:福井盛太(『SMR』編集長』)

みなさま、質問へのご回答、ありがとうございました。

正直言うと私は、クラブチームの株式上場は賛成です。ただしそれは「上場プレミアムを獲得し、投資ファンドなど機関投資家を潤わせるため」のものではなく、獲得した資金をどのように配分するか、つまり、経営戦略が明確な場合においてのみ、です。
基本的なこととしてクラブ経営にとって重要なのは、株主、ファン、地方自治体、そしてプレイヤーにスポンサーというステイクホルダーがWIN-WINの関係を築くことですから、その目的を達するためにも、「手段」は数多く用意されていた方が良いと思います。だから株式上場という「手段」もラインナップされていた方が、クラブ経営の環境上は健全かと思うのです。
そのように考えると、単なる感情論でもって「上場はけしからん。賭博の対象になり、八百長の温床になる」などという某氏の発言そのものは、古色蒼然として見えてしまいます。

◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
では、今回の質問です。

【Q】ニューヨーク・メッツに続き、ニューヨーク・ヤンキースも新スタジアムの建築を決定しました。他にもNFLのサンフランシスコ49ersやニューヨーク・ジェッツなど複数のプロスポーツチームが新スタジアム建設構想を明確化しています。一般的に米国は、プロスポーツチーム(特に4大スポーツの場合)に対する自治体の協力姿勢が強いと言われていますが、なぜ莫大な費用が必要とされる新スタジアムの建設が、これほどの短期間に、しかも複数個、可能となっているのでしょう。
また各チームが、本拠地移転をしてでも新スタジアムの建設に拘る理由は何なのでしょう。
                                
『SMR』編集長・福井盛太

次回の更新は12月4日(月)を予定しております。
どうぞお楽しみに。

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2006年10月23日

「スポーツ・ビジネス知的武装講座」第8回

質問者:福井盛太(『SMR』編集長)
【Q】村上ファンドが阪神電鉄の筆頭株主に躍り出た際、同電鉄の経営陣に対してタイガースの株式上場を提案し、話題になりました。
プロスポーツチームが株式上場するメリットとデメリットは何なのでしょうか?
そしてズバリ、皆様はプロスポーツチームの株式上場に賛成ですか? 反対ですか?

回答者:石渡進介
(弁護士/Field-R法律事務所)
現在の世界のプロスポーツビジネスの根幹、一大収益源は、まさにスタジアム経営にあります。高収益型スタジアムを持つことが、クラブの発展には不可欠な要素となっているのです。客単価の高いシートを増設したり、プレミアムボックスを作ったりしてスタジアムの収益性を高め、看板一つとっても、効果的な露出を踏まえ、LED看板を導入したりする必要もあるわけです。

直近でも、プレミアリーグのビッククラブであるアーセナルも、ライバルのマンチェスターUから遅れること数年、長く使用した歴史あるハイバリーからエミレーツスタジアムを新設し移転しました。
このような流れからすれば、自前スタジアムをもっている阪神タイガースが、今後プロスポーツクラブとして発展する上では、新スタジアム建設か甲子園球場の改修を上手に行う必要があります。また、地上派放映権モデルというビジネスモデルの大転換を迫られている読売ジャイアンツも同様に、高度なスタジアム経営にのっとった高収益モデルを導入する必要に迫られているように思われます。ジャイアンツも、新球場の建設を考える時期に来ているというべきかもしれません。

しかし、新球場の新設や、大規模改修には大きな資金が必要となります。「株式上場」を使えばこの資金は軽く調達することができるように思えます。

プロスポーツチームは株式上場をするべきなのでしょうか?

ベンチャー企業などでは株式上場こそが目的であり、なんとしてでも株式上場を目指すというような目標を掲げる例も見受けられますが、そもそも株式上場とはあくまでも資金調達という目的のための手段に過ぎません。株式上場の一番のメリットは資金調達の便宜にこそあり、株式市場で取引可能な株式となることで、新株発行などによって事業資金を得やすくなるわけです。
ですので、プロスポーツチームが株式上場を考えるべきかという問いに答えるとすれば、プロスポーツチームにそのような資金需要があるかどうかに尽きるように思われます。
しかし、資金需要といっても、選手補強のために増資をし、その資金力で有力選手を獲得する。つまり選手獲得費用をまかなうために上場するというようなことは考えるべきではありません(限定した場合であれば、選手獲得費用に充てることもあり得るかもしれませんが)。

増資を選手獲得のために行うという例は、いくつかのJクラブなどにみられなくもありませんが、これは資本を食いつぶしているだけにすぎない一過性のものですので、健全な姿ではありません。今後のビジネス上、収益性を上げる大きな投資を行うために増資は行うべきなのです。しかも、株式上場は、大きな額の資金調達を可能にするための方法です。ですので、収益性を上げるための投資を行う大きな資金調達の必要がある場合には、株式上場が検討されよいかと思います。スタジアム新設だったり、システム投資だったり、新しいスポーツ分野への進出だったりということが理由となるでしょう。

つまり、スタジアムを中心とした収益性インフラの整備を急務とするクラブであれば、株式上場のニーズは高いといえます。
ただし、株式上場をした場合には、当然IRを考え、株価を高く保つ必要が出てきます。
そう考えると、スタジアム建設等のニーズはあったとしても株式上場が可能かを考えた場合、株価を高く保つことが可能となりうる、収益の安定性ということが求められることになるでしょう。
毎年赤字続きで収益力の向上が考えにくいようなクラブの場合、株価がつかないというような状況も生じかねないからです。特に、人気や勝ち負けに株価が左右されることも考えられやすいプロスポーツクラブの場合、この収益の安定性という問題は非常に重要な必要条件であると考えられます。

ここまで見てくると、

1.株式上場はスタジアム建設のニーズがあるようなクラブにおいて必要であり
2.収益の安定性が確保された、ある程度優良な経営を行っているクラブにおいて可能である

ということがわかると思われます。
日本のプロ野球クラブなどの場合、特に2の点で問題の多いクラブが多く、株式上場を念頭におけるクラブは非常に少ないといえるように思えます。現状からいえばタイガースとジャイアンツは条件をみたしているように思われますが、その他のクラブはなかなか難しい状況にあるように思われます(もちろんタイミングや戦略によってはフィットするクラブもあるかもしれませんが)。
ただし、条件をみたしているいないにかかわらず、プロスポーツクラブの親会社が上場していれば、親会社の株式発行によって資金調達を行うことという選択肢も存在します。
そういう意味で言えば、株式上場に賛成ですか、反対ですかといわれれば、ケースによる! というのがわたしの答えです。
賛成のケースも存在するのですから、株式上場を一律禁ずるというような方策は取るべきではないと考えます。
また、少なくとも株式上場により格段にコンプライアンスなどが高まるでしょうから、ビジネスとしては遅れているといわざるを得ない日本のプロスポーツ界にとっては別の意味でのプラスも存在するように思えます。
さらにいえば、日本では一企業の私物のように扱われやすいプロスポーツクラブに、真の意味でファン=株主が参入する形が生じることになります。ファンの熱狂度という意味では同レベルにあると思われるタイガースがバルセロナのようなファン=ソシオが支えるクラブへと変貌を遂げるきっかけを作ることになるかもしれません。
そのような意味で、プロスポーツクラブの株式上場については、どのような目的で、どのようなクラブが、何を意識して行うのかを慎重に議論して決める必要があると思われます。

なお、プロ野球については、実際の野球協約上、株式上場は可能かについて触れておきます。

現行の野球協約では、参加球団資格は、「発行済み資本総額1億円以上の株式会社」(27条)とするだけですから、それほど問題はないはずです。
「株主構成の届け出」という規定があり、毎年2月1日時点での株主をすべてNPBに届け出なければならない上、株主に変更が会った場合は、その都度届け出るとされているだけですから(28条)、株主名簿の変更その他で対応すれば可能なようにも思えます。

ただし、いくつか問題はあります。

まず、外資規制はありますから(28条)、株主の49%を超えて外国株主が買った場合には問題が顕在化します。もっとも、親会社の外資比率が50%を超えていた際のオ
リックスは問題にされませんでしたから、どう扱われるかはわかりません。市場で流通する株式が49%以下の子会社上場ならこの点は問題ないでしょう。
また、株主が49%を超えて株式を所有する場合や筆頭株主の変更には、実行委員会やオーナー会議の承認が必要になります(31条(2)(3))。これについても、同様に、市場で流通する株式が49%以下の子会社上場ならこの点は問題ないでしょう。マンチェスターUのように、上場することによって、意図しない人に買収される可能性はありますし、そのリスクは考えておかなければなりません(それ自体すべての上場会社のリスクです。そのような意味で、多くの優良な会社はIRをしっかりやり、株価を上げ、買収されにくい企業を目指すわけです)。しかし、日本の野球界では、球団自体の筆頭株主の変更は、オーナー会議や実行委員会の承認事項になっていますので、そのリスクはある程度手当がされているという見方もできるかな、とも思います。

【回答者プロフィール】
石渡進介(いしわたり・しんすけ)
慶応大学法学部卒業。1995年に司法試験に合格。2001年にField-R法律事務所を共同で設立。スポーツと映画・音楽などのエンタテインメント分野の法律を専門とする。プロスポーツの法律に関しては、日本でいち早く着手した弁護士のひとり。プロ野球選手会、日本プロサーフィン連盟、その他さまざまなスポーツ関連組織の顧問弁護士を務める。
Field-R法律事務所のHPはこちら。
http://www.field-r.com/

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2006年10月13日

「スポーツ・ビジネス知的武装講座」第7回

質問者:福井盛太(『SMR』編集長)
【Q】村上ファンドが阪神電鉄の筆頭株主に躍り出た際、同電鉄の経営陣に対してタイガースの株式上場を提案し、話題になりました。
プロスポーツチームが株式上場するメリットとデメリットは何なのでしょうか?
そしてズバリ、皆様はプロスポーツチームの株式上場に賛成ですか? 反対ですか?

回答者:相原正道
(筑波大学大学院スポーツプロモーション研究会代表)

 私は基本的に株式上場には反対です。
 株式上場でない資金調達方法をビジネス・マネジメント部門に模索してほしいと考えているからです。日本および、世界のプロ・スポーツチームのほとんどは、株主が決定権をもつ株式会社組織です。そのため、どのスポーツチームも株式上場する可能性と買収される可能性を併せ持っています。

 最近、最も大きな買収劇といえば,アメリカの大富豪マルコム・ブレイザーによるマンチェスター・ユナイテッドの買収劇です.2005年5月24日、マルコム・ブレイザーがマンチェスター・ユナイテッドの株式保有比率を76%に引き上げました。この時点で彼は、クラブの実権を握ったと同時に、ユナイテッドが、優良企業として株式を上場していた14年間の歴史にピリオドを打つことを意味しました。買収における推定金額は、7億9000万ポンド(日本円で約1,566億円)。
 マンチェスター・ユナイテッドは、マルコム・ブレイザーの個人企業となったのです。その後。彼が上場を廃止し、株式を公開しないのは同様の買収劇を招かないための防衛手段でしょう。
 買収決定後、地元サポーターはオールド・トラフォードのことを皮肉を込めて「Sold Trafford」(ソールド・トラフォード)と呼んでいましたが、冷静に考えてみると、14年前に株式上場した時点で、マンチェスター・ユナイテッドはある意味、いつ買収されても不思議ではない状態にあったのです。これが冒頭で申し上げた、どのスポーツチームも株式上場する可能性と買収される可能性を併せ持っている典型的な例といえます。
 マンチェスター・ユナイテッドの場合、筆頭株主ですら全株式の3割程度しか所有していませんでしたので、「マンチェスター・ユナイテッドPLC」のロイ・ガ―トナー会長にさまざまな権限が与えられていたに過ぎませんでした。マンチェスター・ユナイテッドの商品価値に魅力を感じたからこそグレイザーは株式を買い漁ろうと決意し実行したわけです。

 思えば、ロマン・アブラモビッチが2004年にチェルシーを買収したときも、「ブルーズ(チェルシ―の愛称)は、しがないロシア人に魂を売った」と、グレイザー同様、アブラモビッチも各方面から痛烈な批判を浴びました。ところがいまではどうでしょう? 50年ぶりのリーグタイトルを獲得してから、「アブラモビッチのおかげだ」と彼を支持する人が増えてきています。
 しかし、タイトル獲得だけがファンからのイメージ回復となるのでしょうか? 一喜一憂しながら試合観戦している姿がよく映し出されるアブラモビッチとは違って、グレイザーはマンチェスター・ユナイテッドを金儲けの道具にしか見ていないと思われています。FAカップ決勝にグレイザーが試合観戦に来るかどうかが英国で賭けの対象になってしまっていることからも明らかでしょう。
 グレイザー、アブラモビッチ同様、シルビオ・ベルルスコーニ(ACミランのオーナーにしてイタリア国家首相)、マッシモ・モラッティ(インテル・ミラノのオーナー)といった大富豪のオーナーがすべての権限を握るクラブであれば、何千万ユーロという大金をその一存でチーム強化に投資することが可能です。仮に赤字がでても自分のポケットマネーで埋め合わせをすればいいだけの話です。ただし、グレイザーがチーム強化に投資したとしても、それはクラブへの愛着ではなく、利益の追求のためと思われることでしょう。

 私は村上ファンドの行動もグレイザーの買収劇同様、利益追求の行動として見ていました。
 村上ファンドの行動に対する星野仙一氏の言動は、スペインのレアル・マドリーのフロレンティーノ・ぺレス会長のアブラモビッチに対する言動に重ねて見ていました。ペレス会長は「レアル・マドリーはソシオのものだ。私が会長でいる限り、アブラモビッチのような金満家に勝手なマネはさせないし、もちろんクラブを乗っ取られるようなことなど絶対ないと約束する。そもそもレアルを支えているのは、年間予算や総収入といった金銭的なファクターではない。ソシオや一般サポーター、そしてわれわれスタッフの愛情や情熱こそがすべてなのだ。世界中のだれも、このクラブ愛を支配することはできない。レアル・マドリーを金で買えると思ったら大間違いだ」。
 今やサッカーの世界を超越する存在となったレアル・マドリー、FCバルセロナなどは、営利追求を最大の目的とする「株式会社」ではなく、ソシオ(クラブ会員)が運営する「スポーツクラブ」です。これが意味することは思いのほか大きいと考えています。株式会社の形態を取っていないにも関わらず、世界中の人々から「健全経営のモデル企業」として捉えられているからです。ペレス会長の言葉は、レアルというスポーツクラブの理念や方向性を明確に示しているといえます。

 投資家および日本のスポーツチームは、利益追求の行動に走るのではなく、明確な理念とマネジメントをもって大胆に推進していってほしいと切に願っております。

【回答者プロフィール】
相原正道(あいはら・まさみち)
1971年生まれ。筑波大学大学院スポーツプロモーション研究会代表。96年に大学卒業後、出版社編集部、電通パブリックリレーションズ勤務を経て、2006年3月に筑波大学大学院体育研究科修士課程スポーツ健康システム・マネジメント専攻を終了し、日本初のスポーツブランドコンサルタントして独立。現在、プロ野球球団のプロジェクトメンバーとして活躍中。筑波ユナイテッドバレーボールプロ化推進委員会委員、筑波大学セカンドキャリア勉強会メンバーなどを歴任。著書に「ロハスマーケティングのスゝメ」(ソトコト新書刊)等がある。

次回の更新は10月20日を予定しております。
お楽しみに。

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2006年09月26日

「スポーツ・ビジネス知的武装講座」第6回

質問者:福井盛太(『SMR』編集長)
【Q】村上ファンドが阪神電鉄の筆頭株主に躍り出た際、同電鉄の経営陣に対してタイガースの株式上場を提案し、話題になりました。
プロスポーツチームが株式上場するメリットとデメリットは何なのでしょうか?
そしてズバリ、皆様はプロスポーツチームの株式上場に賛成ですか? 反対ですか?

回答者:床波 浩
(データスタジアム株式会社)
【A】 先行指標たる海外を見てみると、プロスポーツチームの上場は珍しくありません。マンチェスターユナイテッドは1991 年に既にその株式を公開させていますし、又、逆に、アメリカのように一度上場したチームが非公開する流れもあります。

選手獲得資金の調達やスタジアム設備の拡充などクラブ経営安定化の為の資金需要を満たす手段として株式の公開は一般論として否定するものではありません。しかも、近代クラブ経営にとってこれまでの資金需要に加えて、IT情報化投資の重要性も益々その重みを増しているのではなおさらです。

しかしながら、上場できるクラブというのはそもそも、経営内容の透明性が確保できており、説明責任を果たせる体質であることや、利益を出し続けることを指向する経営でなければならないことは言うまでもありません。

上場する事を前提に外部資本を注入する。調達した資金で一定の選手獲得やファンの増加
による収益のアップを図りつつ、黒字体質を確保し上場準備をする。一方では調達できるであろう公開益を原資としての投資計画もきちんと策定する。そして上場後は、計画通りにさらなる発展に向けての投資を実行すると共にIRにも力を入れる。

こういった事を実行出来うる経営環境にあるプロスポーツチームが果たして存在するのかと言うと、現時点では首を傾げざるを得ないというのが実情であり、又、同時にそれはプロスポーツを取り巻く状況でもあるのかもしれません。

上場するメリットもデメリットも両方存在はするものの、そもそも企業体として上場を云々する段階にはないというのが実際のところではないでしょうか?

他方、海外では上場だけではなく、プロスポーツチームの資産の金融商品化による資金調達を実行している例もすでに実例として出てきております。

アーセナルは入場料収入を担保に社債を発行することで、2億6000万ポンド(約550億円)を投資家から集める。投資家から集めた資金は、総工費3億5700万ポンド(約718億円)をかけて建設された新本拠地のエミレーツスタジアムの銀行ローンを一括返済し、ローン金利分を浮かせることが出来る。投資家へは入場料収入の枠内でのみ返済する。

もちろんこの例は、アーセナルの動員力が安定しており、かつビッグクラブとしての評価があってこそではあるものの、極めて示唆に富むスキームではあります。

つまるところ、プロスポーツチームの上場に賛成かあるいは反対かと言えば、賛成であるということになります。少なくとも上場を目指すことで近代的、合理的、科学的で、又、透明性のある経営を目指すことになるからです。

【回答者プロフィール】
床波 浩(とこなみ・ひろし)
1980年から10年間に渡り、コンサルタントとして日本IT関連企業の欧米におけるマーケティング、商品企画、技術動向に関して従事。その後、新日鉄でPC関連の事業開発を手がける。97年、株式会社ビットウェイブを設立し、インターネットチケッティング事業に先鞭をつけた。2004年7月よりコミュニティネットワーク株式会社(CNプレイガイド)取締役に就任し、スポーツ事業体経営のためのCRMシステムを開発。06年8月よりデータスタジアム株式会社にてCRMを中心としたスポーツマネジメントエンジン構想を推進。
データスタジアム株式会社のHPはこちら。
http://datastadium.co.jp/	
次回の更新は10月2日を予定しております。
お楽しみに。

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2006年09月11日

「スポーツ・ビジネス知的武装講座」第5回

文:福井盛太(『SMR』編集長』)

みなさま、質問へのご回答、ありがとうございました。

多少乱暴に言えば、至極まっとうなコスト管理と、プロ野球球団の経営資源を現状の制度化で考え得る限りにおいて最も効果的に活用した結果の黒字だったのだろうと思います。創設1年目という“ご祝儀”があったにせよ、親会社にぶら下がるタニマチ型経営からの脱却を図り、球団経営の自立を目指す球団にとっては、良きモデルになったのではないでしょうか。
ただし、楽天が参入一年目からあのような“ビジネス優先主義”で突っ走れたのは、プロ野球界が独占利益に預かる団体(リーグ)であったことも大きかったのだと思います。つまり、Jリーグのように参入が容易であり、かつ、各チームが自由競争下にあるリーグとは異なり、プロ野球は下部リーグへの転落がない。もしも楽天イーグルスがサッカーチームなら、昨年の成績では下部リーグに転落していたことでしょう。そうすると放映権収入や入場料収入、広告スポンサー料収入など、あらゆる収入源に響いてくるわけですから、今年度のマネジメントは相当苦しくなっていただろうと思われます。

◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
では、今回の質問です。

【Q】村上ファンドが阪神電鉄の筆頭株主に躍り出た際、同電鉄の経営陣に対してタイガースの株式上場を提案し、話題になりました。
プロスポーツチームが株式上場するメリットとデメリットは何なのでしょうか?
そしてズバリ、皆様はプロスポーツチームの株式上場に賛成ですか? 反対ですか?
                                
『SMR』編集長・福井盛太

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2006年09月06日

「スポーツ・ビジネス知的武装講座」第4回

質問者:福井盛太(『SMR』編集長)
【Q】「昨年、東北楽天イーグルスは年間敗戦新記録を打ち立てましたが、
球団経営に目を転じると、1年目から経営黒字を達成しました。
なぜ、チームが弱くても黒字化できたのでしょうか?」

回答者:相原正道
(筑波大学大学院スポーツプロモーション研究会代表)

スポーツクラブのマネジメントには、「ビジネスマネジメント」と「チームマネジメント」が存在します。

東北楽天イーグルスは、初年度からビジネスマネジメントを実施したことにより、初年度から黒字化を達成したと思います。スポーツクラブのビジネスマネジメントは収入を増加させ、支出を抑制するという至極当然なことが必須となります。
 
特に、東北楽天イーグルスが収入面で際立って優れていたことは、集客とマーチャンダイジングです。集客においては、「砂かぶりシート」や「フィールドシート」という従来にない価値観をファンに提供しました。また、メールマーケティングを効果的に実施し、集客に寄与させました。
メールマーケティングは今年のメジャーリーグの観客動員数増加に大きく寄与した効果的なツールです。東北楽天イーグルスでは、50年ぶりの新球団誕生という話題生をフルに生かし、ファンクラブの会員を中心にメールアドレスを登録してもらい、メールアドレスへの配信を有効に活用し、メールマーケティングを実施しました。当日のエース対決の予告などにおいて、販売実績を残しています。
マーチャンダイジングにおいては、製造販売を直営することで、製造から在庫保管までを一括して管理し、効果的なコスト管理を実施しています。
直営のメガショップという最大の販路をスタジアム内に持つことで、販売力を強化させたことが成功の要因です。親会社である楽天の“小売りの強み”を効果的に、しかも徹底的に活かしています。

支出面においては、東北楽天イーグルスはスター選手が少ないので、プロ野球球団にとって最大の支出となる選手人件費が抑えられています。しかしその分、スター選手も少なく、スカウト等の編成スタッフは脆弱にならざるを得ません。

今後、東北楽天イーグルスが選手育成をどう捉え、チームマネジメントしていくかが急務だと考えます。チームマネジメントでは、選手の発掘がないと育成ができませんので、選手発掘ルートの獲得が最大の補強です。まず、高校野球部などの選手発掘ルートが大切です。
選手発掘ルートの獲得のためには、高校・大学・社会人との人脈を構築しなければなりません。そのためにも、まずは地元・東北で人脈構築することが大切です。
昨年、東北楽天イーグルスは東北出身の選手を数名獲得しました。今年以降のドラフトにおいても、東北楽天イーグルスが東北出身の選手をどんどん獲得すべきだと考えます。
そして、より地元に愛されるチーム作りを目指すべきです。

【回答者プロフィール】
相原正道(あいはら・まさみち)
1971年生まれ。筑波大学大学院スポーツプロモーション研究会代表。96年に大学卒業後、出版社編集部、電通パブリックリレーションズ勤務を経て、2006年3月に筑波大学大学院体育研究科修士課程スポーツ健康システム・マネジメント選考を終了し、日本初のスポーツブランドコンサルタントして独立。現在、プロ野球球団のプロジェクトメンバーとして活躍中。筑波ユナイテッドバレーボールプロ化推進委員会委員、筑波大学セカンドキャリア勉強会メンバーなどを歴任。著書に「ロハスマーケティングのスゝメ」(ソトコト新書刊)等がある。

次回の更新は9月19日を予定しております。
お楽しみに。


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2006年08月29日

「スポーツ・ビジネス知的武装講座」第3回

質問者:福井盛太(『SMR』編集長)
【Q】「昨年、東北楽天イーグルスは年間敗戦新記録を打ち立てましたが、
球団経営に目を転じると、1年目から経営黒字を達成しました。
なぜ、チームが弱くても黒字化できたのでしょうか?」

回答者:石渡進介
(弁護士/Field-R法律事務所)
楽天球団の初年度黒字化の最大の理由は、一言で言えば、世界的に当たり前のように行われている「スポーツクラブ・ビジネス」の基本を当然のようにやったことにある、と言えるでしょう。

そもそもスポーツクラブの売上は、
1.入場料収入 
2.マーチャンダイジング収入 
3.スポンサーシップ収入
4.放映権収入
が、主たるものですが、従来のセ・リーグ型プロ野球ビジネスは、4について大きな収入源としてきました(もちろんこれだけではありませんが、経営を続けていく上で大きな柱としてきたのです)。
しかし、パ・リーグ型プロ野球ビジネスは、4を柱にできる状況ではないため、1~3までを大きな柱としなければなりません。しかし、この4を大きな柱とできないというのは、世界中のクラブが直面している問題ですから、ある意味当然であり、むしろ、1~4を中心としていくことでも、十分にクラブ経営を成立させる(黒字化する)ことができることを意味しているわけです。
楽天球団は、この3点の充実に対して、忠実な取り組みをしたわけです。

【スタジアムの合理的活用】
一番大きな問題はすでに論じられていることとは思いますが、スタジアムの問題です。1~3を最大化するにしても、すべてにおいてスタジアムを活用することが重要になってきます。
1.入場料収入を最大化するためには、どのようなチケット販売戦略をとれるか、スタジアム利用の自由度(シーズンチケットの区分け、付加価値のつけ方などなど)が重要になります。
この点、楽天球団においては、「砂かぶりシート」や「フィールドシート」を設けチケット単価をあげることに貢献しています。

また、2.マーチャンダイジング収入をみてもスタジアムを自ら活用できると、直営のメガショップをスタジアムに設置できますし、飲食も、直営、テナントいずれにしても売上・利益に大きく貢献します。
楽天球団においては、メガショップでの売上げが1日で1,000万円近くになる日もあるそうですし、スタジアムでの飲食関係の売上・利益も充実させています。

さらに、スタジアムを活用できることで一番大きな違いが出るのが、看板などを利用する可能性が生じる3.スポンサーシップ収入です。楽天球団は22億円ものスポンサー収入を上げていますが、スタジアムの看板収入をすべて球団の売上げとできる点が他球団との一番大きな違いです。ちなみに楽天グループで支出しているスポンサー費は4億円程度(推定)であり、そこまで大きな底上げを行っているわけではありません。
ただし、スタジアムを活用できるといっても、実は自前スタジアムではないというところも楽天の成功のさらなるポイントなのです。それは、自前スタジアムを持つ場合のコスト負担が大きいことに起因します。
楽天球団はスタジアム活用のコストとして、年間5,000万円の使用料を払うことのみで済んでいます。
ソフトバンクホークスが48億円の使用料(これ自体本来もっと引き下げなければならない異常な金額ですが)であるのと比べると圧倒的に有利です。ヤフードームの使用料がここまで高額なひとつの理由に、年間7億円にも及ぶ固定資産税の負担があります。フルキャストスタジアムの場合、公営球場を借りているに過ぎないのでこの負担がないわけです。

民間会社である球団が自前球場を建設する場合、多額の建設コストを負担しながらランニングでもこのように高額なコストがかかるのです(なお、楽天も高額のスタジアム改修費用を負担していますが、これらの減価償却期間も自前球場の建設の場合と比べて1/4に短縮できています)。
本来であれば建設費を負担して民間でスタジアムを建設したほうがはるかに地域に貢献しているにもかかわらず、今の日本の税制では色々と公営球場を借りて改修する楽天型のほうが圧倒的に有利でなのです。そのような意味で今後「施設管理者制度」の活用がスポーツクラブビジネスには重要なポイントとなることでしょう。

【ビジネスとしての当たり前】
このように、楽天野球団は低コストで利用できるスタジアムを最大限活用し、スポーツクラブビジネスの基本に忠実な経営を行っているということが黒字化の一番の要因であるといえます。
しかし、1つひとつのビジネスの作りこみ方もビジネス面から合理的に忠実に行っています。
1.入場料収入という面では、顧客データベースに基づいた、特にメールマーケティングでの成功を収めています。シーズン終盤には当日のエース対決を予告して当日券を1万枚近く販売することに成功したりもしています。
このメールマーケティングを可能にしたのは、球団誕生という話題性をフルに生かしたファンクラブへの登録とその後のメールアドレス登録への努力です。ここで積み上げられたメールアドレスデータベースがその後のチケット販売や告知などで大きな力を発揮するのです。

2.マーチャンダイジング収入という面で、従来の球団が行っていたロイヤリティ収入というモデルから、製造販売を直営するということにも取り組んでいます。この結果10億円のグッズ売上げからも大きな利益を生むことができています。

3.スポンサーシップ収入についても、従来の球団のように球場が単に看板を販売するという形態から、さまざまなスポンサーシップ形態を作り出しています。またその工夫の結果、自らスポンサー獲得に力を入れ、大手代理店の予想の3倍近いスポンサーシップ売上げを生んだのも注目すべきところでしょう。

【課題】
ただし、このように黒字化し順調に見える楽天球団の球団経営ですがもいくつかの課題も存在します。
まず、そもそも「黒字化」といっても初年度という特殊性に支えられた部分が大きいということです。
・新球団の初年度であり、選手費用が極めて低く抑えられた
・契約金の償却は5年で行われることが通常だが、これが1年分しかない
・初年度という注目からの集客増があった
・初年度という注目からのスポンサーシップ増があった
・グッズが一切存在しないところへ販売したため初年度特有の売上増があった
などです。
そういう意味では、今回の「黒字達成」はあくまで数字上の象徴的なものに過ぎないと思われます。
また、2年目からは第2次スタジアム改修による減価償却の負担も乗ってきますので、今後10年間はスタジアム有効活用のためのコストが10億円を超えることになるでしょう。そのような意味で、今後は10億円以上の赤字が続いていくことになるのです。

これを乗り越え真の意味での「黒字達成」を実現するためには、やはりスポーツクラブ・ビジネスのもうひとつの基本である、ビジネス偏重型からコンテンツ力向上への均等投資ということを行う必要があります。
そう考えると、選手獲得方法を大幅に制限している日本のプロ野球のシステムではなかなか難しい問題といえるかもしれません。

【回答者プロフィール】
石渡進介(いしわたり・しんすけ)
慶応大学法学部卒業。1995年に司法試験に合格。2001年にField-R法律事務所を共同で設立。スポーツと映画・音楽などのエンタテインメント分野の法律を専門とする。プロスポーツの法律に関しては、日本でいち早く着手した弁護士のひとり。プロ野球選手会、日本プロサーフィン連盟、その他さまざまなスポーツ関連組織の顧問弁護士を務める。
Field-R法律事務所のHPはこちら。
http://www.field-r.com/

次回の更新は9月4日を予定しております。
お楽しみに。

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2006年08月21日

「スポーツ・ビジネス知的武装講座」第2回

質問者:福井盛太(『SMR』編集長)
【Q】「昨年、東北楽天イーグルスは年間敗戦数新記録を打ち立てましたが、
球団経営に目を転じると、一年目から経営黒字を達成しました。
なぜ、チームが弱くても黒字化できたのでしょうか?」

回答者:床波 浩
(データスタジアム株式会社)
【A】プロ野球界にとって50年ぶりの新規参入球団であり、素人集団と揶揄された楽天球団が、初年度に営業黒字化を達成したインパクトはプロ野球界にとって極めて大きかった事と思います。
あるいは、初年度かどうかは別として、プロ野球球団の経営における“黒字化自体”が驚きだったのかもしれません。

連結での売上高は73.85億円、営業利益が1.56億円(楽天決算資料より)で、当初の収支計画にある9億円の営業赤字想定を10億円強好転させていることになります。この中でも、ボリュームとして大きいのは広告の22.4億円とチケットの23.5億円です。合わせて、46億円ほどになりますが、これは連結売上高の62%を占め、球団単体売上高(65.4億円)では70%にもなります。
これらの売上に共通する点は、いずれも直接コストが殆どかからない収入であることで、営業収益に与える影響は直接的、且つ、大きなものとなります。計画ではチケットと広告の売上合計で39億円ですから、実績との差7億円は、ほぼ全額が営業利益に貢献しているものと考えられます。

広告売上がさらに球団経営上ポイントとなるのは、フルキャストスタジアムのネーミングライツ(年間2億円)を含め、スタジアム広告の売上にあると思われます。これは、スタジアムの運営を楽天球団が行っているからこそで、上記のポイントは、球団経営と指定管理者制度の観点からも重要な点です。
但し、「楽天」「楽天KCカード」「楽天トラベル」など、楽天関連での広告がどの程度広告売上に含まれているのかによって、評価は異なることになるのかもしれません。
楽天の決算資料によれば、73.85億円の売上のうち、内部売上高、または振替高として5.18億円計上されています。この数字が何を表しているか知りたいところです。

冒頭で、連結売上高という言い方をしましたが、楽天球団は、球団グッズの企画、販売の「楽天スポーツプロパティーズ」という子会社を有しており、この2社で楽天のスポーツ事業を構成しています。つまり、楽天球団はグッズ販売を収益源と位置づけ、マージンの最大化を狙って外部へライセンス製造、または、販売させること無く、自社での直接販売を行っているのです。楽天という流通チャネルとのシナジー効果ともあいまって、この試みは特徴的なものと見ることができます。

さて、数字から離れて考察してみると、球団経営がゼロからのスタートであり、そこに参加した島田社長をはじめ、米田球団代表他、ベンチャースピリット溢れる人材が“球団というベンチャー企業”を立ち上げ、経営したことが“初年度黒字化”のすべてではないかと思います。
その上で、ごく普通に、球団という商材をいかにコストを抑えつつ、利益の最大化を図るかを追求した。この、一般的にはごく当たり前ともいえるアプローチを様々な場面で実行したのです。
一言で言ってしまえば、これが初年度黒字化の理由だとするのは乱暴でしょうか。あるいは逆に、他のスポーツ事業体で、このシンプルなアプローチをとれない理由があるのであれば、それこそが球団黒字化への障害として排除していかなければならない要因として、抽出していかなければいけないという考え方もできます。
企業である以上、その活動の目的は「継続すること」と「恒常的に利益を出すこと」を求められるのではないのでしょうか。


【回答者プロフィール】
床波 浩(とこなみ・ひろし)
1980年から10年間に渡り、コンサルタントとして日本IT関連企業の欧米におけるマーケティング、商品企画、技術動向に関して従事。その後、新日鉄でPC関連の事業開発を手がける。97年、株式会社ビットウェイブを設立し、インターネットチケッティング事業に先鞭をつけた。2004年7月よりコミュニティネットワーク株式会社(CNプレイガイド)取締役に就任し、スポーツ事業体経営のためのCRMシステムを開発。06年8月よりデータスタジアム株式会社にてCRMを中心としたスポーツマネジメントエンジン構想を推進。
データスタジアム株式会社のHPはこちら。
http://datastadium.co.jp/

次回の更新は8月28日を予定しております。
お楽しみに。

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