2008年10月06日
錦織圭(にしこりけい) 試合分析 AIGジャパンオープン2008
錦織圭は海外ツアーの一環として日本開催のAIGジャパンオープンに出場し、1週間弱の日本滞在を終え、また海外へ戻っていった。月曜にはスウェーデン(ストックホルム)の大会で新たな戦いが始まる。 錦織は怪我さえなければこれから10年以上世界各地の大会を1年中飛び回るプロツアー生活をずっと続けいていくのだ。ツアーという名の通り、年中世界を飛び回り続けるテニスの旅人生活だ。去年のジャパンオープンでプロデビューしたため、ジャパンオープンは錦織にとってプロ1年目、2年目、3年目…を迎える誕生日のような節目の大会となる。今回はこの1年で誰も想像できなかったようなとてつもない成長を遂げて凱旋帰国したが、来年ジャパンオープンに19歳になって戻ってくる頃にはどんな姿になっているのだろうか。但しあと数年は発展途上にあるので良い試合もあれば、悪い試合もあるだろう。まずは怪我なく成長できるよう見守っていきたいところだ。 今回のジャパンオープンは錦織にとって極端に良い試合と極端に悪い試合がセットになった大会となった。 【AIGジャパンオープン結果】 ・1回戦 ○錦織圭 7-6 6-7 6-2 ロバート・ケンドリック (世界100位) ・2回戦 ○錦織圭 6-4 6-4 ギエルモ・ガルシアロペス (世界60位) ・3回戦 ×錦織圭 1-6 2-6 リシャール・ガスケ (世界13位) 今大会で感じた点としてはそれぞれ相手が試合前から錦織攻略プランを持って入ってきていたのではないかということだ。これまでは相手は錦織の様子を見ながら対処していたが、今回では相手は錦織をよく研究してきている様子が伺えた。 ■1回戦 ○錦織圭 7-6 6-7 6-2 ロバート・ケンドリック 1回戦の相手、ロバート・ケンドリックは自身の武器であるストロークでのハードヒットを自粛し、サーブを打ってひたすらネットへ詰めて、ストロークでの打ち合いをできる限り避けるプレイを選択していた。自分の持ち味はストロークであるのにだ。第1セットのはじめからこの調子だ。自信のある武器であっても通用しないと考え、あっさり武器を捨て、錦織に対しては有利な展開が見込めるサーブ&ボレーをひたすら繰り返してきた。つまりストロークでは錦織に勝てないと試合前から認めた上で自分の武器を捨て現実的に勝ちにくるプランを持って試合に入ってきたと言えるだろう。このプランは球足の速い有明では特に有効であった。 一方錦織はファーストサーブの入る確率が66%と高く(悪い時は50%台)、ファーストサーブが入った後のストロークではケンドリックを終始圧倒し(ポイント獲得率82%)、セカンドサーブでのポイント獲得率も59%と高く(悪いときは40%台)、サービスゲームを1ゲームも奪われないほどサーブが絶好調であった。対するケンドリックもストロークを省略したサーブ&ボレーの戦術がきれいにはまり、錦織にサービスゲームを奪わせない。2セット終わって両方ともタイブレークで錦織7-6、6-7ケンドリック。お互いサービスゲームを1ゲームも奪わせなかった。お互いメンタル状態もよく、集中力が高く、ミスがなく、絶好調であるため、そのハイテンションの状態から先に降りた方がそのまま一気に崩れるのではないかというほどぴりぴりと緊張感の漂う状態であった。しかし錦織は押しつぶされることなく自分のプレイを自信を持って続けていた。 錦織はこれまでの試合を見ていてもファーストサーブの入る確率が高いとき(具体的に言えば、70%近くのとき)はどんな相手でもそのセットは取られる気配が全くない。それが60%切って50%台になってくるとセットを取られる気配が漂ってくるというケースが多い。錦織のファーストサーブは良い時は時速190キロ以上出ていてビッグサーブとまではいかないが決して遅くはない。トップ選手相手でもコースが悪過ぎなければ相手の1本のリターンで最初から崩されることはほとんどない。そのため、ファーストサーブが入れば、その後のストローク戦で少なくとも五分五分以上の段階からスタートでき、ストローク戦では圧倒できる。ところが問題はファーストサーブが入らなかった後のセカンドサーブの時にある。遅い上にコースが甘く、更に相手が打ち込みやすい高さに跳ねるサーブなのだ。錦織のセカンドサーブは相手がベースラインより内側に入って打ち込めるため、相手はここぞとばかりに一気に攻めてくる。 ストロークでは先に相手をベースラインより内側に入らせた方が一気に不利になる。世界トップ選手は皆、ベースラインからサービスラインの中間くらいの位置まで前に出れれば1本でウィナーを取れる力は持っている。(錦織はベースラインの外側の有り得ないような位置からでもウィナーを打ってくるから対戦相手はど肝を抜かれて、尚更前に出てこれない)そのため、お互い相手をベースラインより後ろに釘付けにさせて、いかに自分が先に前に出るかを工夫し合っているのだ。(ベースラインの後ろで粘って相手のミスを待つ守備的なタイプの選手もいるが上位には少ない)錦織がセカンドサービスの時は相手にとってはベースラインの内側に入って攻撃が仕掛けられる唯一とも言えるようなチャンスなのだ。 錦織は相手をベースラインより後ろに下がらせておくからこそ多彩なショット(前後左右の揺さぶりや球種、タイミングの変化)も有効になってくるのだ。錦織のストロークが世界でもずば抜けて高速なので相手が返球できるように後ろに下がっているからこそドロップショットやアングルショットもよく決まっていると言えるだろう。 ところが錦織の放つショットの中で、セカンドサーブだけは怖くないので、相手は錦織がセカンドサーブの時はリターンする前からベースラインの前に入って打ち込むために待ち構えているのだ。そしてリターン1本で決めるか、少なくとも錦織の体制を崩してストロークで一気に主導権を握って錦織が五分五分の体勢に戻してくる前に早めに勝負を仕掛けられる。このパターンになると錦織のポイント獲得率は一気に下がる。つまりセカンドサーブを打つ回数の多いサービスゲームはブレークされる可能性が極めて高くなるのだ。つまりセカンドサーブを打たないで済むようにファーストサーブをできるだけ確率よく入れられるかどうかがそのサービスゲームをキープできるかどうかの鍵になってくる。特に有明のような高速コートではサーブ力が何割り増しか強力になるためどの選手でもブレークすることがそもそも難しい。逆に言えば1度ブレークされただけでそのセットは失う可能性が一気に高くなるようなコートだ。 ケンドリックがサーブに自信があるのと対照的にサーブに不安のある錦織はこのような厳しい客観情勢でありながら、サーブ&ボレーで確実に勝ちにくるケンドリックとの勝負でプレッシャーに押しつぶされることなくメンタルの強さを見せ、しっかりファーストサーブを入れて、3セットの中で一度もブレークされずに完璧に勝った。7-6、6-7、6-2というスコア以上に圧倒的な強さを見せていたと言えるだろう。あまりの完璧さにむしろ大味な試合の多い錦織らしくないとさえ感じた程の完璧さであった。たまたま調子が良かっただけなのか、取りこぼしをなくしていくような次のステージに上がり始めたということなのか、定かではないが、とにかくこの試合の錦織は完璧な強さであった。 錦織 ケンドリック サービスエース 11 18 ダブルフォルト 4 2 1stサーブ確率 66% 61% 1stサーブ時ポイント獲得率 82% 75% 2stサーブ時ポイント獲得率 59% 56% 1stサーブリターン時ポイント獲得率 25% 18% 2stサーブリターン時ポイント獲得率 44% 41% ブレークポイント獲得率 67% 0% ブレーク数 2 0 ■2回戦 ○錦織圭 6-4 6-4 ギエルモ・ガルシアロペス 録画ミスで試合を見れず分析不能。(痛すぎる凡ミス。。) ただ、試合結果の詳細を見る限りでは相手を圧倒していたことが伺える。ファーストサーブの確率は59%と1回戦の66%よりかなり落ちたがセカンドサーブでのポイント獲得率が58%と高かったため(悪い時は40%台)フォローできている。ガルシアロペスは錦織のセカンドサーブをリターンで攻め込まなかったのだろうか?それとも攻め込めないほど錦織のセカンドサーブが良かったのか?見てないので何ともとも言えないが。。またガルシアロペスのセカンドサーブの時の錦織のポイント獲得率が55%はかなり高い。錦織がリターンから圧倒していたのだろうか。ガルシアロペスがやりたいことを逆に錦織が実践していたような結果に見える。またガルシアロペスは2セットでダブルフォルト8は異常に多い。メンタルが相当悪かったのではないだろうか。ともかく2セットでブレーク数が3対1は圧勝といえるだろう。1回戦がサービスゲームの良さが目立った試合だったが2回戦は逆にリターンゲームの良さが光った試合だったのではないだろうか。 錦織 ガルシアロペス サービスエース 3 3 ダブルフォルト 3 8 1stサーブ確率 59% 60% 1stサーブ時ポイント獲得率 76% 61% 2stサーブ時ポイント獲得率 58% 45% 1stサーブリターン時ポイント獲得率 39% 24% 2stサーブリターン時ポイント獲得率 55% 42% ブレークポイント獲得率 19% 33% ブレーク数 3 1 ■3回戦 ×錦織圭 1-6 2-6 リシャール・ガスケ ほぼ強引に時間を作り有明で生観戦。 錦織、ガスケを知る人ならこのカードは心から楽しみにしていた人も多かったはずだ。お互いテニスセンス溢れ、幼少から神童と呼ばれた天才同士。極上の芸術作品のような試合が展開されるかもしれないはず、だった。ところがふたを開けてみれば結果は1-6、2-6で錦織の惨敗。拍子抜けで「???」「こんなもの???」「これが全米で世界4位を倒した錦織???」等とあまりにもあっさりと終わってしまった試合に思考停止になる人もいたかもしれない。 実際のところ錦織は「らしさ」を全く出せないまま不発に終わったといっていいだろう。 1セット目の入り方は今年前半の錦織に戻ったような印象で、これは2セット目に大爆発する例のパターンかなと見ていたが、2セット目に入るとガスケが事前に錦織の着火点に随時水をかけるような巧さで、錦織はどうにも火が付きようにない状態になってしまった。ガスケは錦織の様子を見るようなことはせず、やはり最初から錦織攻略プランを持って試合に入ってきているように見えた。錦織は先に仕掛けることでペースをつかむタイプだがガスケは錦織に先に仕掛けられないように常に先手を取ろうと仕掛けを急いでいた。そのためには錦織の爆裂フォアを恐れずベースラインから後ろに下がらないことが必須で、錦織の強烈な打ち込みをライジングに近いタイミングで天性のラケットさばきで逆に攻撃を仕掛けていた。普通の選手は錦織の甘い球を待っているうちに錦織に攻め立てられることが多いがガスケは錦織の球が厳しいにも関わらず甘い球を待たずに先手を取ろうとしていた。あのような攻撃はガスケのようなラケットさばきのセンスがあるからこそできるような攻撃で他の選手が簡単にまねできるような攻撃ではなかった。そういう意味ではやはりガスケがすさまじかったのは間違いないが、錦織は気持ちが消極的になったのかどうも攻める気持ちを失ってしまったように見えた。ただこなしているだけというかガスケのショットに後手後手に対応するだけになってしまった。こういう時の錦織は凡ミスが多発する傾向がある。全体的にキレがなくなり全てのショットが悪くなってしまうのだ。ストロークでは凡ミス多発の上、ファーストサーブの確率は52%であり、1回戦66%、2回戦59%と比べても極めて悪い。ファーストサーブの確率が50%に近い時は相手がガスケでなくてもかなりの格下相手でも負けている可能性が高い。ファーストサーブ時のポイント獲得率も61%と低目でこれはガスケのリターン力によるものだが、問題はセカンドサーブでのポイント獲得率38%で、1回戦59%、2回戦58%とは比較にならないほど悪い。明らかにセカンドサーブは狙われていたのだろう。ファーストサーブの入る確率が52%と悪いため、セカンドサーブを打つ機会が多くなったためこの38%は致命的で自分のサービスゲームでポイントを取るのに非常に苦労していた。2セットでブレーク数で0対4となって試合結果1-6、2-6通りの完敗と言える。 錦織 ガスケ サービスエース 0 7 ダブルフォルト 1 0 1stサーブ確率 52% 57% 1stサーブ時ポイント獲得率 61% 88% 2stサーブ時ポイント獲得率 38% 67% 1stサーブリターン時ポイント獲得率 13% 39% 2stサーブリターン時ポイント獲得率 33% 62% ブレークポイント獲得率 0% 50% ブレーク数 0 4 今の錦織は日によって調子が大きく変わる。発展途上なのでこれは当然だ。錦織の型ができあがってきた後はある程度安定してくるだろう。しかし今はまだプロ2年目に入ったばかりの18歳で技術は既に世界トップクラスとは言え、体も心もまさに発展途上の段階なのだ。武道でいう、勝つために必要な「心・技・体」のうち「心」「体」はまさにこれからだ。時間が経つにつれ、良い試合が多くなっていくことだろう。自分が試合を見に行った日にいい調子であってほしいこととは観客なら誰でも願うことだがこればかりはそう都合よくもいかない。だからこの試合で初めて錦織の試合を見た人は今後錦織の試合をたくさん見ていけば良い。必ずいい時の錦織を見れる日は来るでしょう。 今回のAIGジャパンオープンの有明を見ていて感じたことは錦織は日本において、テニスを「やる」スポーツから「見る」スポーツに変えつつあるという意味での「テニスの革命児」でもあるということだ。 これまでテニスを「やる」人でもプロの試合を「見る」ことに興味がない人がかなり多いように感じていたが、錦織の登場でテニスを「やらない」人さえもテニスを「見る」ように変えていっているのでは思わせるほどの今年のAIGジャパンオープンの大盛況ぶりであった。 有明というとこれまで閑散としたイメージであったが錦織×ガスケの試合は平日14時頃からのスタートであるにも関わらず、3階自由席まで完売の満員御礼で有明コロシアムが入場規制となるなどこれまででは考えられないような大盛況ぶりであった。他コートで錦織が練習中の時には錦織を目の前で一目見ようとコートの周囲が人で埋め尽くされていた。またセンターコート以外で錦織以外の試合が行われている他コートもぎっしりと観客で埋まり、コート間の通路は人でごったえがえしていた。本当に有り得ない光景であった。他の選手も今年はあまりに観客が多くて嬉しく驚いたことだろう。 3回戦錦織×ガスケの試合は平日昼という時間帯のためか主婦層が大半で、残りが時間に余裕のある大学生らしき層という感じであったが、(1回戦~3回戦全て平日昼に試合実施)学校をさぼることに成功して見事有明まで到達できた小、中、高生はほとんど見られなかった。来年錦織の試合がナイトセッションになるなど配慮されれば、小中高生、平日昼に仕事のある社会人も見る機会ができるので是非期待したいところだ。
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posted by sirotona |00:56 |
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ナイトセッション
コメント投稿者ID :
野球やサッカーと同じにして欲しい、とは言わないまでも、ナイトセッションの実施は、これからのテニスの将来が掛っている、とちょっと大袈裟に感じています。やっぱり、小学生や中学生たちが観戦して感動することがどのスポーツでも、その発展につながっていると思うのですが・・・
posted by Zero Cool | 2008-10-06 02:48
錦織圭(にしこりけい) 試合分析 AIGジャパンオープン2008
コメント投稿者ID :
■Zero Cool さん、コメントありがとうございます。
私も真剣にそう思っていますよ。スポーツの発展は世代を超えた「感動の連鎖」がどこまで広がるかにかかっていますので。問題は多くの人が感じている通り、感動できる選手がいても観戦できる環境がなければ感動が生まれようがないということでしょう。
「試合観戦環境の整備」と「試合の事前広告」の2点が特に重要だと思います。
・「試合観戦環境の整備」について
試合観戦に関してはナイトセッション等観客の都合に配慮した試合日程等、試合会場での生観戦の環境やテレビ観戦、ネット観戦等あらゆる観戦環境で、観客の視点から考えた様々な環境整備が必要でしょう。歴史を振り返ってみても稀有なスーパースターの存在がそのスポーツの発展の起爆剤になっていると感じます。そのような点から考えて「錦織圭」というテニスの将来のスーパースター選手を多くの人が感動できる観戦環境を用意できるかどうかはテニスの将来に大きく関わると思います。
・「試合の事前広告」について
試合日程場所などの情報も一般に広告されているとは思えません。もともとテニスに興味のある人はこれまでの知識、経験もあり、自力で情報を収集することもできるので例えば10月初旬から有明でジャパンオープンがあることは知っていますし、有料放送のGAORAやWOWOWでいつどの時間帯で試合が見れる等情報収集できますが、これまでテニスに興味なかった人にしてみればこれはあまりにハードルが高過ぎる状況ではないでしょうか。そもそも普段テニスに関わりのなかった人でジャパンオープンの存在自体知っている人がどれくらいいるのか?地上波でジャパンオープンのCMは見たこともありませんし(試合の地上波放送がないので当然ですが…)、スポーツ番組での試合の事前宣伝も見られません。あくまで結果報告の形で「後の祭り型」が多いのです。首都圏ですら駅構内などにジャパンオープンのポスターが張られているのも見たことがありません。大会前の盛り上がりがないので試合結果をニュースで聞いて大半の人が「え?やってたの?」と「後の祭り」となってしまうことでしょう。この状況を回避できる人は情報収集力のあるネットの達人だけで大多数の人は必要な情報に辿り着けない。試合前までにどれくらい早くから盛り上がれるかどうかは重要な要素ですので「試合の事前広告」は特に重要でしょう。
posted by sirotona | 2008-10-11 23:36
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