2008年04月05日

春めいてきた欧州

夏時間になり、ようやく春めいてきた欧州では、いよいよサッカーシーズンも終盤の、最も盛り上がるステージにさしかかってきた。

先日、出張先のダブリンでASローマがマンUにやられた試合のハイライトをテレビで見た。スコールズのクロスボールをクリスティアーノ・ロナウドがヘディングでASローマのゴールに突き刺した1点目は圧巻だったが、彼はそのゴールを覚えていないと言う。ヘディングの後、彼は勢い余って地面に落下し、倒れたままなかなか起き上がれなかった。あれだけ遠くからゴールエリア内にトップスピードで突入し、ASローマのカッセッティと競り合いながら放った打点の高いヘディングシュートともなれば、地面に落下した時の衝撃で脳震盪を起こしていたとしても不思議ではない。それにしても、クリスティアーノ・ロナウドは、凄い選手に育ったと思う。まだ、弱冠23歳というのが、これまた末恐ろしい。

今シーズンのチャンピオンズリーグでのイタリア勢対イギリス勢の戦績を振り返ると、露骨なまでに明暗がはっきりしてしまっている。インテルがリヴァプールに、ミランがアーセナルに敗れ、イタリア勢では唯一準々決勝に勝ち進んだASローマもホームでマンUにあっさりと沈められてしまった。私は、イタリア勢がイギリス勢に勝ると思ったことはここ数年間、一度も無いが、ここに来て、伊-英の間ですでに存在していた「格差」が、さらに広がったような気がする。あるイタリアのサッカージャーナリストが最近、「イギリス・プレミアリーグの方がイタリア・セリエAに比べ、外国人選手達の年俸にかかる税率が低く、球団が支払う選手達の移籍金にかかる税負担も軽いので、こうした税制面での違いも、良い選手達が世界中からプレミアリーグに流れる図式を作っているのではないか」と指摘していた。そういう側面も確かに考慮されるべきだろう。だが、この格差の原因は、やはり、ピッチの上での90分間にあると、私は思う。

スピード。運動量。テクニック。どれを取っても、私はプレミアリーグが今は欧州では頭一つ、あるいは二つ、抜けていると認めざるを得ない。スピードの無さ、運動量の無さ、テクニックの無さを、基本で劣っている部分を補う為に本来ある「戦術」は、イタリア勢が欧州の強豪を相手にする際に盾にしてきた「十八番」だったが、それも最近では全く通用しなくなってしまった。この「十八番」が通用しなくなればなるほど、イタリア勢は、イタリア勢ならではの、大事な勝負を前にした時のナイーブさを露呈してしまっている。欧州サッカーの資本主義化、ボーダーレス化は、欧州の主要クラブにおいて、テクニックの部分の平準化には仮に寄与しているとしても、その一方で、サッカーの基本中の基本であるスピードと運動量と壊れない身体を、それぞれ純粋に頂点まで究めることこそが、真の強さを、特にチャンピオンズリーグのようなトーナメントで発揮する為の秘訣である事を、監督や選手達に要求し始めているような気がしてならない。欧州では、このところ、小細工無しの、単純に強いサッカーの原点への回帰が進行しているように、私には思える。

サッカーにおける強さの探求という営みは、実は、サッカーをよりシンプルに、純粋に見るところから始まるのではないだろうか。クリスティアーノ・ロナウドは、メッシ、カカ同様、何十年に一度、出て来るか来ないかの逸材である事は間違いないが、彼の最近のプレーを見ていると、「もっと簡単なところに、答えは転がっている。否、簡単なところにしか、本当に強くなる為の解は存在しない」と、ふと、思ってしまう。彼は強いサッカーを極めてシンプルに体現する天性の能力と、その天性の能力が活かしきれる環境に非常に恵まれた選手だと思う。でも、そのクリスティアーノ・ロナウドが、サッカーをより難しく、戦術的に捉える傾向が歴史的にも強いイタリアでプレーしていたら、彼はここまで開花しなかっただろう。

ファーガソン監督の手腕とマンチェスター・ユナイテッドというチーム、プレミアリーグという環境に、彼は感謝しなければならないだろう。次のバロン・ドール賞の受賞式には・・・。

posted by sinfonia |01:50 | My thoughts | コメント(7) | トラックバック(0)
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この記事に対するコメント一覧
春めいてきた欧州

うーん。
でも昨シーズンのミランとマンUの準決勝ではマンUの方が
ナイーブさを露呈していたというか、
たった1年でそこまで差がついたとも思えませんけどね。
イタリア人は旬なチームに弱いというか、
自信を無くすと結構あっさりとやられたりするので。
まあ今のプレミアビッグ4がTV映えのする速くて強い
サッカーを実践しているのは間違いないと思います。
何より、うらぶれたイタリアのスタジアムの映像を見慣れた目には
あのエンターテイメント感は眩し過ぎます。
そのシンボル的存在がクリロナなんでしょうね。

CLの前身であるチャンピオンズカップでも、
へゼイルの悲劇で欧州の舞台から閉め出される前の10年位は
イングランドのクラブが圧倒的に強かったんですよね。
カップ戦を尊重する文化が強みになっているのでしょうか?
でもビッグ4はみな今季のFAカップは敗退している訳で、
やはり経済力の違いなのかな??

あのレアルも46億円を借り入れとか言ってますし、米露の強大な資本をバックに
しばらくはプレミアの時代が続くのでしょう

posted by 坊川 | 2008-04-05 06:19

春めいてきた欧州

クリスティアーノ・ロナウドって、マンUに居るからこそ最大限に能力を発揮できるのでしょうね。
たぶん他のクラブに移籍しても今ほど自由に楽しく活躍できるとは思えません。
将来的にはスペインに移籍するんでしょうけど、マンUに居る間に多くのタイトルを取っておいて欲しいものです。

posted by イングランドふぁん | 2008-04-05 11:30

返信:春めいてきた欧州

坊川様

コメントを有難うございます。
うーん(笑)。私の頭の回転の鈍さが、コメントにある坊川さんの考え方の本流に到達することを阻止していますが、やはり、今シーズンは、誰の目から見ても、イタリア勢はイギリス勢に完敗です(オールドトラッフォードでASローマが奇跡的な大勝利をおさめない限り)。

>しばらくはプレミアの時代が続くのでしょう

プレミアリーグもグローバル化が70年代~80年代に比べて進んでおり、選手達の回転も当時に比べ早くなっているので、イギリス勢は、この勢いを止めない為には、大きな資本投下を毎年やりながら、選手層の厚さを保ちつつ、ゲームプランを組み立てる際の選択肢を絶えず豊富に持っておくことが重要なのではないか・・・と思います。


イングランドふぁん様

コメントを有難うございます。
私も同意です。クリロナはマンUと契約を更新して大正解ではないかと。それにしても、凄い得点力ですね、今シーズンは。ゴールデンブーツ賞もとってしまう勢いですね。

posted by 筆者 | 2008-04-08 23:43

追伸:春めいてきた欧州

記事を投稿し終わって、気づいた事ですが・・・昨年、ミランが欧州チャンピオンになった事で、イタリア勢とイギリス勢の間に存在していた「格差」が一瞬、うやむやになってしまった、「イタリア勢は強い!」という錯覚に陥ってしまったような気が、今更ですが、しています。ここ数年、唯一イタリア勢では欧州で奮闘して来たミランが、イタリア勢の本質的な欧州での「後退」を、マスキングしてしまったかな、と、今となっては思います。新しい価値を創造し続けながら進化し続けるプレミアリーグの強豪クラブと、この十年間、本質的には何も変っていない、それどころか、カルチョポリ・スキャンダルの勃発によって、変化のスピードがさらに遅くなってしまったセリエA。イタリア勢は、この辺りで、しっかりとした中期計画のもと、欧州で通用する底力を、価値を、抜本的に一から積み上げて行く必要がありそうです。

posted by 筆者 | 2008-04-10 22:27

春めいてきた欧州

「新しい価値を創造し続けながら進化し続けるプレミアリーグ」という表現は良いですね。
今季のイタリア勢はイギリス勢に完敗で、もちろん戦力や戦術を的確に分析すればすべてきっちりと説明のつくものだとは思うのですが、私にはどうしてもそれ以前の問題が
大きく作用したとしか思えません。試合に臨む際の落ち着きとか勝利への執念とかチームとしての一体感とか言葉にしてしまうと精神論になってしまいますが、とにかく入場してきて横1列にならんだときの空気がすでに負けていました。空気が充実しているチームが必ずしも良い結果を手に入れられるとは限りませんが、空気で負けているチームが成功を勝ち取るところを見たことがまだありません。あの心弱い感じはいったいなんなのでしょう?昨年のミランは確かに今季から見ると仇花のように(笑)感じますが、自信満々でピッチに向かったあの戦いぶりはやはり高評価に値すると思います。

posted by あねもね | 2008-04-11 11:36

春めいてきた欧州

ごめんなさい、途中で送信してしまいました。続きです。

リーグ全体の実力や魅力の点で相当な差があってもことピッチの中の90分に限れば五分五分に持ち込める可能性は常にある、ということを昨年のミランが示していたと思うのです。但し「しっかりとした中期計画のもと一から積み上げていく必要」は絶対にあると思います。疲労もけが人も避けて通れないこの時期、大枚叩いたビッツグネームよりもベンチ要員の平均値の高さがものを言ったりするわけですから。ヴィオラのように、哲学を持った指揮官に
中期でチーム作りをまかせることが増えるといいと思います。そういう意味でローマはスパレッティのもと、性懲りもなく(笑)「0トップ」を追求して欲しいです。それからクリスチアーノ・ロナウドには準備万端、自信満々のイタリア勢とベスト4以上でぶつかってその包囲網を打破して欲しいです。そのときの輝きはいったいどれほどのものでしょう!!

posted by アネモネ | 2008-04-11 12:26

返信:春めいてきた欧州

アネモネ様

コメントを有難うございます。

ミランは確かに、選手達の高齢化が指摘される一方で、敵との潜在的な力の違いがどうであれ、敵のモメンタムがどうであれ、一戦一戦が死ぬか生きるかのCLの試合では、目の前のピッチでの90分の中だけで勝負ができる、イタリア勢では数少ないチームでした。インテリスタの私が言うのも何ですが、ミランはここ数年、CLにおけるイタリア勢の旗手として、そうやって、独り、欧州の強豪を相手に奮闘してきましたよね。

>大枚叩いたビッグネームよりもベンチ要員の平均値の高さがものを言ったりするわけですから。

その通りだと思います。

イタリアのサッカーも、プレミアリーグの強豪達のように「新しい価値を創造し続けながら進化し続ける」為に、抜本的な構造改革がまず必要で、そこから中期計画の軌道にイタリアのサッカーを乗せる施策をコツコツと計画性を持って積み上げて行く新しいエネルギーが必要になってきたな、と、最近痛感しています。私は、イタリアサッカー協会(FIGC)と、各クラブのオーナー達が、その「鍵」を握っているように思います。


posted by 筆者 | 2008-04-11 22:04

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