2007年11月27日

「ドクター達の質は、劣化した」

セリエA前節のインテル対アタランタ戦。このところ、ベストメンバーが揃わないインテルは、ホームでアタランタに苦しめられながらも、リザーブFWコンビ、スアソとクルスの得点で2-1で勝利し、セリエA首位の座を守った。ヴィエラ、フィーゴ、クレスポ、セザール、トルドが怪我で戦列を離脱。マテラッツィとスタンコビッチは何とか動けるようにはなっているが、まだ慣らしの段階にある。選手層の厚さではセリエA随一のインテルの指揮を執るマンチーニ監督は、昨シーズンとは違う戦況に、どこか、追い立てられているようなところがある。今シーズンの開幕以来、故障者リストがなかなか空にならない状況下、試合数は一致していないものの、ユヴェントス、ASローマ、ウディネーゼ、フィオレンティーナの4チームが、振り落とされずに、インテルに勝ち点3~4ポイント差で喰らいついてきている。

そのマンチーニ監督が、アタランタ戦の後、暗にインテルのメディカルスタッフに対する不満の意を露わにした。

「以前に比べて試合数がかなり増えた事もあり、怪我で戦列を離脱した選手達がチームに復帰するのに、少々手間取っている。ドクター達は、チームに復帰しようとしている選手達を、いつも止めようとする。ドクター達の質は、劣化した。何故ならば、ドクター達は、選手達の戦列復帰に『待った』をかけたがる傾向にあるからだ。肉離れで選手が1ヶ月も戦列から離脱するなんて事は、あってはならない。自身も現役時代に多くの怪我を経験していて、どれ程の期間がどんな怪我を治すのに必要かが判る監督は、こういう事には、多少は苛立つものだ。」

このマンチーニ監督のコメントに、イタリアのスポーツ医学関係者達は物議を醸しており、イタリア・スポーツ医学協会会長のカザスコ氏は、マンチーニ監督を、イタリア・サッカー協会やイタリア・オリンピック委員会に提訴する構えを示している。

インテリスタとして、マンチーニ監督を弁護すべき私でも、このコメントは、いただけない。特に、「ドクター達の質は、劣化した」というコメントが、彼がボローニャやサンプドリアのエースだった頃に比べ、スポーツ医学が飛躍的に進歩した今に対して向けられたものなのであれば、それは、極めて理不尽な発言という事になろう。

大金を積んで創られた無敵艦隊・インテルを、セリエAを引っ張って行く立場にあるインテルを、巨大化したカルチョ・ビジネスの利害関係が複雑に絡み合うインテルを率いる者として、また、年末まで続く過酷なゲーム・カレンダーを前に、鍵となる選手達が故障で戦線離脱しているこの状況下、マンチーニ監督が受けている、尋常ではないプレッシャーは、理解出来なくもない。だが、インテルの監督が、インテルやカルチョを支えるメディカルスタッフに対してとる態度ではない。マンチーニ監督は、いつからサッカー選手達の怪我に詳しいスポーツ医学博士になったのだろうか。せめて、彼が、サッカー界で実績と経験を積んだフィジオセラピストなら、こういう話に別の意味を持たせる事が出来たのかも知れないが。

これに似たような事が、最近、欧州のビッグクラブで、頻繁に起きている。昨シーズンのプレミアリーグでは、チェルシーのモウーリニョ前監督が、亀裂骨折と診断されたロッベンの起用の可否を巡り、チェルシーのチームドクターと激しくぶつかっている。また、マンチェスター・ユナイテッドのファーガソン監督が、体調が完璧でない限り、どこも痛くない限り、試合に出たがらないサアを酷評した記事を読んだ事があるが、ファーガソン監督のその怒りの矛先は、サアだけに向けられたものではない、というのが、その記事を読み終っての、私の感想だった。今シーズンの初めには、ASローマのスパッレッティ監督が、今回のマンチーニ監督と同じ趣旨のコメントを表に出し、話題になった。

この、マンチーニ監督の発言は、常に勝つ事を強く求められたチームの台所事情が、怪我人が続出する事によって苦しくなった時に、切羽詰った監督達から発せられる、単なる小言として受け流すには、あまりにも表現が強すぎる。マンチーニ監督は、今のチーム事情がどうであれ、チームを支えるメディカルスタッフに、インテルの監督として、もっと敬意を払うべきだろう。昔、アヤックスからインテルに移籍して来たカヌの、手術を必要とする心臓疾患を、大事に至る前に発見したのは、インテルのドクター達だ。インテル在籍時に何度も膝を壊し、一時は再起不能とまで言われたサッカー界の宝、ロナウドの膝の治療に尽力したのは、インテルのドクター達だ。オランダで十字靭帯を断裂する大怪我を追ったマクスウェルを、イタリアで復活させたのは、マクスウェル本人の強い意志と、それを支えたインテルのドクター達だ。チームの財産であるインテルの選手達の健康状態やフィジカル・コンディションに常に細心の注意を払い、試合に勝つ為に、毎試合、心身共々、ありったけの力を引き出すことを求められるインテルの選手一人一人の命を守るのは、インテルのドクター達だ。さらに、壊れた選手が完治しないままピッチに上がった結果、再起不能に陥った場合、責められるのは、マンチーニ監督ではなく、インテルのドクター達である事を、マンチーニ監督は、自覚するべきだろう。監督とチームドクター達が、普段から信頼関係によって結ばれていないとすれば、それは、我々インテリスタ達にとっても、非常に残念な事だ。

選手達が壊れるパターンは、大きく分けて、二つある。一つは、シーズン開幕前に身体が、筋肉が、十分にできていなかった事によるシーズン中の故障。もう一つは、主に試合中に、選手達の間で起きるフィジカル・コンタクトによって怪我をする場合。前者は、新たなシーズンの開幕を控えた選手達の身体づくり、筋力強化の期間が、最近は、昔に比べて短くなってしまっている事=シーズン中のゲーム・カレンダーが過密になった事による、シーズンオフ期間の短縮化が、シーズン中に多くの故障者を生み出す事に関係しているように、私には思える。もちろん、その一方で、サッカーのプレースタイルそのものが、よりフィジカルな強さを要求するプレースタイルに変化してきている事も、見逃してはならないが。

昔のインテルは、夏のオフの時間をじっくりと使って、キャンプを張った場所のローカルチームをまず相手にし、次いでセリエCのチームと練習試合を組み、それからセリエBのチームと練習試合を組みながら、段階的に、選手達をセリエAシーズン開幕に向けて、実戦モードに持って行く事が出来た。選手達にも、シーズンを無事に乗り切る為の体力づくり、筋力づくりを行う時間が与えられていた。だが、今は、そんな悠長な事を言っていたら、シーズン中に一試合でも多く選手達に試合をさせたいと思っているスポンサー達が許さないだろう。慌しいご時世になってしまった。

マンチーニ監督の軽率さに対しても嘆きたいが、そんな慌しいご時世に対しても・・・嘆かずにはいられない。

posted by sinfonia |00:46 | My thoughts | コメント(3) | トラックバック(0)
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「ドクター達の質は、劣化した」

人権が資本主義の利害関係によって損なわれることに、資本主義にどっぷり浸かっている私にとっては、そのジレンマに苦しむことがあります。また、現代の殺伐した社会に絶望感を感じることも多いです。
僕は人権とモラルさえ尊重できる社会であれば、イデオロギーに捉われない、弱者に優しく公平なユートピアが出来るのではないかと安易に想像してしまいます。しかし、それは現実逃避でしかないですよね。今はこの不公平な時代に合わせて生きていくしかありません。
カルチョにおいても、それにどっぷり浸かってしまっていることに、はらただしさを感じながら、何もできない自分の不甲斐なさに苛まれます。良心の呵責に苦しむとはこういうことを言うのでしょうか。
しかし、生命はおろか、選手生命の保障は守られるべきですよね。医者は人命を守る義務がある最も権威のある職業なのですから、それに不満の意を露にするマンチーニは選手を軽んじていると思われても仕方ないですよね。
マンチーニの采配は賛否両論あると思いますが、人格者としては、“迷”監督と呼ばれても仕方が無い気がします。

posted by foresta | 2007-11-28 13:06

返信:「ドクター達の質は、劣化した」

foresta様

コメントを有難うございます。お元気ですか。

昨晩は、インテルも、ローマも、良い試合をしましたね。来年の2月から始まるCLノックアウト・ステージで、インテルがいきなりローマに当たらないことを祈りますが・笑。

先日、43歳になったばかりのマンチーニは(私とほぼ同年代です)、以前から(現役時代から)時々、世間に対して何か意思表示をする際に、利己主義な面が前面に出過ぎて、それを表に出してしまった事が、周囲にどう影響するかを計算しきれていないところがあります。イタリア人は、こういう事は、比較的不得意な民族です。さすがに今回は、このマンチーニ発言を弁護しようとする関係者は、イタリアでも少ないと思います。現に、インテル・クラブ側も、選手達も、この発言を擁護する立場も、否定する立場も取っていません。

最近の私の投稿は、どうも、純粋なスポーツ・コンペティションの域を脱してしまった欧州サッカーに対し、その不健全さを無意識のうちに指摘してしまうものが多くなってきているような気がします。本来なら、サッカーほど、純粋に楽しくて、多くの人々に大きな喜びを与えてくれるゲームはないはずなのですが・・・。これからも、この、欧州サッカーに対する、懸念先行型の路線にはまって行くとなると、書いている方が、次第につまらなくなってくると思います。

まだ、日本のサッカーは健全です。その健全さがしっかりと日本の文化に定着する事で、「サッカーの理想的なあり方」が、常に世界に自慢出来る国になって欲しいですね。もちろん、実力も伴わなければ、世界のサッカーのお手本にはなりきれませんが・笑。

ずっと心配されている、オシム監督の容態は、いかがですか?


posted by 筆者 | 2007-11-29 00:03

「ドクター達の質は、劣化した」

早速返信頂きありがとうございます。僕は元気です。でも、まだ心はまだ晴れないです。
インテルとローマできることなら決勝で当たるようになると最高なんですが(笑)
sinfoniaさんの記事ほど、サッカーの根底にある部分から見事に問題提起されているブログは他にないと思いますよ。でも、書く側としては、次第に筆が進まない心境に陥りやすいことは僕もそうであるように、お気持ちは痛いほどわかります。
それに悲しいかな、日本の欧州サッカーファンは選手のプレーのみに魅入ってしまい、環境や文化に対して造詣を深める方がまだそれほど多くないんですよね。欧州サッカーは、文化とか歴史を加味した上でサッカーを見るのが一番の醍醐味だと思うんですけどね。

話は変わりますが、オシム監督は意識を回復され、生命の危機は脱したようでひとまずホッとしています。ただ、ストレスをかけさせない為の治療法として10日以上も無意識の状態にさせたおいたようなので、病状はあまり良いとは言えません。脳梗塞という病気から復帰することはおそらく難しそうです。オシム監督が日本代表監督の要請に当初慰留していたのは自身の健康上の理由からであるようなので、僕自身オシム監督の心境まで図り知ることはできませんが、おそらく思考が正常に戻った時に勇退されるような気がします。オシム監督がこれから苦渋の決断をしなければならないことを考えると胸が痛みます。
余談ですが、協会は後任の監督を、98年仏W杯で日本代表を率いた岡田氏一本に標準を絞っているようです。

日本は先週から11月にしては記録的な寒波が襲来しました。今年は暖冬ではないような気配です。
sinfoniaさんもお体には気をつけてあまり無理をなさらないようにして下さい。それでは。

posted by foresta | 2007-11-29 01:08

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