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不器用で頑固。萩原寛が追い求める「稀勢の里寛としての相撲道」は今日も続く。

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 頑固者だ。優勝の瞬間も、インタビューを受けているときも、彼は最後まで一人の立派な力士として振る舞おうと努めていたように思える。喜びをひた隠しにし、また強敵が休場したことによる運が向いてきたということを自覚していたかのようだった。稀勢の里寛はとことん、頑固者だ。  褒め言葉では無い。これまでの力士としての歩みを象徴しているのだから。期待されながらも何度も取りこぼしてきた。先に三役に上がったにも拘わらず、大関昇進は琴奨菊が先。技の豊ノ島と体の稀勢の里が一つになれば、大横綱になれるという評論も出たほどだった。時は白鵬の一人横綱時代。貴乃花引退を最後に日本人横綱が出ていないこの現状で、それでも稀勢の里は多くの相撲ファンたちに才能を絶賛され続けていたわけだ。  白鵬の連勝街道を63で止め、朝青龍からも期待されてきたことは多くの人に知られている。特に花道で悔し涙を流しているときに、「その悔しさがあればお前は強くなれる」と肩を叩かれたというエピソードは有名だ。  一方でとことん表情を作るのが苦手な男だ。昨年の5月場所は、不自然なほどの作り笑いを見せたこともあった。SNSで稀勢の里が笑った写真を見せたことはなかった。どこまでも稀勢の里は「どうすれば勝てるのか?」を真剣に悩み、師の教えを守る求道者なのかもしれない。

 稀勢の里の師匠である鳴戸親方は、かつて隆の里という四股名で横綱まで上り詰めた。昇進した時には30歳を越え、糖尿病に苦しみながらも横綱まで昇進した姿から「おしん横綱」と呼ばれたほどだった。相撲に関してだけでなく、力士が普段から食べるちゃんこに至るまでこだわる人物だったという。  マスコミ嫌いとしても知られ、部屋での稽古を批判されたときには猛然と抗議し、ちゃんこが上手くできなければ角材で血が出るまで殴ったという話もあるほどだ。稽古も厳しいものであることは有名で、土俵の鬼と呼ばれた初代若乃花の最後の継承者を自称していたほど。様々な疑惑の中でこの世を去ってしまったことは、残念である。  15歳で相撲の世界に飛び込んだ萩原寛少年は、何度も涙を流しながら徹底的にしごかれてきた。その鳴戸イズムを忠実に継承している。中卒の叩き上げ力士にこだわり、稽古を積み重ねることで育てるという執念がきっと、鳴戸親方にはあったのかもしれない。  とするならば、稀勢の里寛という男は鳴戸親方にとって最高傑作とも言える力士ではないだろうか。15歳から相撲一筋。エリート街道を歩んできたわけでは無い。豪栄道や琴奨菊、照ノ富士は高校時代から有名だったことを考えても、とことん叩き上げられてきた印象が強い。 「自分は力士として生きているから、土俵上でしか表現できない。結果を残していないから。結果を残して、しっかりやることが自分の使命」。不必要な出げいこはなれ合いを生じさせるために禁じた師匠の言葉を守り続けるところに、彼なりの矜持があるように思えてならない。

 それでも、稀勢の里は勝てなかった。大事な場面になればなるほどナーバスになり、本来の力を出すことができない。それでもプレッシャーから解放されれば、本来の相撲を取ることができる。大関に昇進してから特に見られた傾向だ。その一方で、大関としての務めをきちんと果たしていたのもまた事実だった。前相撲から幕下、幕入り後もケガで休場したことは2014年の初場所を除けば1度しかない。厳しい稽古に裏打ちされたタフで頑丈な身体と、取りこぼしが多いにしても結果として二ケタ勝利を記録する安定感。他の大関たちに優勝を攫われても、泣き言一つ言わず黙々と戦ってきた姿は、どこか昔気質の力士を思わせる。  出げいこに出向いたほうが良いと多くの人からアドバイスがあった。「相撲一筋ではなく、心の余裕を持ち、視野を拡げることも大切なのでは」と白鵬から言われたこともあった。それでも、稀勢の里は何も言わずに撥ねつけた。力士である以上、余計なことはしないという師匠からの教えを守り、理想像を追いかけ続けていたのかもしれない。きっと、今回の優勝はその過程にある。  だからこそ、敢えて言いたい。まだ横綱になるのは早いのではないか。豪栄道、鶴竜、日馬富士が休場した今場所。もちろん優勝という結果は立派だが、横綱は次の大阪場所で彼らに勝利してからでも何ら遅くはない。それに2場所連続優勝という最低限の原則がある。世間の機運に流されて安易に横綱へと推挙するのは、稀勢の里の相撲道に反するはずだし、お情けを与えられたとしか思えないだろう。  だが、この優勝がすごいことの前触れでもあるような。そんな気もするのだ。

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