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吉田沙保里「純粋に目指し過ぎたがゆえに」

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 恋は盲目と言ったのはどこの誰だろう。吉田沙保里の銀メダルの報を聞き、不意に思った。伊調馨と並びオリンピック4連覇という奇跡を達成するはずだった霊長類最強女子は、まさか届く直前で敗れることとなってしまったのだから。それも、かつてのライバルである山本聖子が育て上げた選手だったというのは、運命か何かなのだろうか。  かくして15年間守り続けてきた世界王者という座から降りることとなったわけだが、それでも吉田の功績が色あせることはないだろう。公式戦100連勝以上を2回、アレクサンドル・カレリンの記録を凌駕する世界選手権連覇記録を樹立。もはやレスリングを飛び越えて、その存在は日本のスポーツ界におけるレジェンドプレイヤーとして名を刻み続けていくことは間違いない。  しかし、どんな素晴らしい選手であっても、いつか敗れる時が来る。ウィラポン・ナコンルアンプロモーションが長谷川穂積に敗れた時や、ロジャー・フェデラーやラファエル・ナダルだってそうだった。横綱・白鵬にもそのような兆しが徐々に見えてきている。どんな絶対王者でも、いつかは敗れ去っていく。悲しいかな、それがスポーツという厳しい世界の掟なのだ。

 吉田も年齢は34歳になる。初めてメダルを首にかけたのが20歳の時。かつてのような身体能力はないし、恐らくは身体にもガタが来ているはずだ。それでも守り続けてきた。そして、自分は今回も勝利するんだという自覚があった。むしろ、勝たなければいけないと使命感を持っていた。そして、プライベートであった父の死や綜合警備保障からの退社、8ヶ月ブランクを空けて臨んだオリンピック。今までとは違う調整方法。色々と重なった出来事があったが、結果としてそれが彼女の勘と鋭さを鈍らせてしまったか、それとも衰えを促してしまったか。  とにかく、銀メダルに終わって「ごめんなさい」という彼女のコメントは、自らの調整を悔いていたというのも一端にはあったのではないだろうか。  さて、そんな彼女には慰めのコメントが散見された。「銀も立派」。それもそうだろう。「謝らないで」。間違いない。だが、本当に彼女が立派なのは「銀メダルになって騒がれる」という功績をこの15年で残した事である。  だからこそ、謝らないでということができない。  あえて声をかけてあげるなら、「銀を取ってもこれだけの人が応援し、そしてそれだけの実績を今まで作ってくれて本当にありがとう」だろうか。

 そんな彼女にあえて厳しいコメントを送るとするならば。決勝戦、見えていたのは相手ではなく金メダルではなかったのかということだ。相手を省みることがなく、自省ばかりを述べたのは、ある種そこに油断があったからではないだろうか。負けるはずがない。その想いが、彼女の動きを徐々に鈍らせていたのではないか。大きな失敗は、いつだって些細なことから始まる。吉田がここまでどれだけ研究されても勝利してきたのは、高速タックルを磨き続けてきたことであって、しかしそれらを支えてきた何かしらが少しでも狂った。それでも自分を信じ続けるしかなかった。  繊細なのだと思う。相手を讃えることができなかったのは、思わずごめんなさいという言葉が出てきたのは。目の前のことだけで手いっぱいになってしまい、相手を見る余裕も自分自身に生じていた微かな狂いも。様々なプライベートのトラブルと転換期が重なり、彼女を少しずつ錆び付かせていた。そんな気がしてならないのだ。  金メダルに恋い焦がれ、それに真っすぐになるが故に。彼女は盲目になってしまった。勝利とはそれほどまでに甘美で、しかも麻薬のような依存性がある。どんな人でも盲目にしてしまうほどに。

 私事になるが、ちょうど欧陽菲菲の「ラヴ・イズ・オーヴァー」を聴いていた。それから彼女のレスリングを見た。準決勝の時の余裕はどこへやら、明らかに焦りが見えていたが、それだけ彼女は攻略されていたのだろう。銀メダルという結果は彼女にとって敗北であるということは確かなのだろう。  しかし、世の中そんな単純なものだろうか。確かに今回、吉田は金メダルを取ることができなかった。そして涙にくれた。とても悲しい物語だ。見ていて、彼女の涙は辛かった。どうしてこちらも辛いのだろう。それは、今まで「圧倒的強さを誇ってきた」というストーリーがあったからだ。  だからこそ誰もが感動して、私は辛くなった。朝から「ラヴ・イズ・オーヴァー」を聴いたからかもしれないが。切ない、負けだった。  吉田沙保里という人物の物語が、これからどのような道へと進んでいくかはまだわからない。東京五輪で劇的な復活を遂げるかもしれないし、栄コーチとともに道を進んでいるかも分からない。だが、確かなのはどのような道へと進もうときっとそれは多くの共感を呼ぶということ。そして誰もがきっとリオの負けを思い出すだろう。最強を誇った人間として、それが最後の宿命なのかもしれない。

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吉田沙保里

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