2009年09月12日

1974 西ドイツ ~ギュンター・ネッツァー狂騒曲

74年のビッグ3。彼らのなかでまず転んだのはイタリアでした。
ハイチとの初戦でよもやの無失点記録ストップ。いちおう試合には勝ちましたけど。
このショックが尾を引いたかその後も精彩がなく、一次リーグにて西独を後にしました。
…バッティ先生ボロクソ書いとるなぁ。評価してるのはマッツォーラだけだよ。

のこる優勝候補。西ドイツとブラジルは、結果も内容も要求される格のチームでした。
しかしながら…両軍ともとくに一次リーグはかんばしくない評ですね。
まあブラジルの場合は戦前から、すくなからず懸念されておりました。
ペレ、トスタン、ジェルソン、カルロス・アウベルト。そして直前にクロドアウドまで。
前回をいろどったメンツがこれだけいませんから。とはいえ…それでも優勝候補ですか。
かたや西ドイツはといえば…と、彼らについてはあとに回しましょう。

これに対し元気だったのがオランダにユーゴ。そしてイタリアを葬ったポーランドです。
残念ながらポーランドとユーゴは動画だけ。焦点はオランダにしぼりましょう。
まあ彼らへの評価は、八月号にある記事の副題をみればあきらかですね。
“ショッキングなまでのオランダの好調ぶり”ですから。期待感のなさは一目瞭然。
そのオランダが文句なくたのしかったと。“衝撃”の理由その1はコレですね。

もうひとつ証拠をあげておきましょう。九月号の「フットボール断想」より。
筆名は秋庭亮となっていますが、大谷四郎さんといったほうが知られているでしょうか?
氏は決勝戦の中継にこんな苦言を呈しておられます。


ところで今回の放送にちょっぴり注文をつけさせてもらうと、オランダについての説明が西ドイツにくらべて足りなかったことだ。日本のファンは、西ドイツについては幸い一応の知識を持っているが、オランダについては未知で今回が初見参の人がほとんどであろうと思われる。私もその一人だ。


秋庭さんはそんなオランダを「有名選手はいるが未知のチーム」と表現してますね。
西ドイツは随一のチームで欧州でも評が確立している。日本にも映像や情報は入る。
かたやオランダは選手個々のウワサは耳にしても、具体的な絵はえがけない。
“衝撃”の理由その1は、意外すぎるオランダの活躍。そう結論づけていいでしょう。

ではでは、そのオランダのサッカーとは? 一次リーグからはウルグアイ戦を。
そして二次リーグのアルゼンチンブラジル。それぞれダイジェストをどうぞ。
なるほどエリック・バッティが評価しない理由はこれか。すくなくともフェアじゃない。
ま、その点はウルグアイやブラジルも同様ですけど。存外アルゼンチンはおとなしいかな。
とまれ観衆はオランダに快哉を叫びます。理由はまあ…連中のサッカーをご覧ください。

さて…西ドイツです。
二年前バッティ先生をして絶賛させたチームは、どうやら下降線に入っていたようですね。
ま、理由はいろいろ考えられます。そもそも絶頂期が何年も続くほうがおかしい。
ですが世間をいちばん失望させたのは、ギュンター・ネッツァーの不在だったみたいです。

このネッツァーという人は、まあおそろしく人気のある選手だったようでして。
彼のかんたんなプロフィールはコチラ。ですがこんなものでは当然おさまりません。
ベッケンバウアーとの確執だの、西ドイツの“賢い”戦略による犠牲だの…。
試合に出てないのに伝説ができるんですよ? こりゃ文句なしのスーパースターだね。

たしかに74W杯当時。ネッツァーはチーム内で微妙な位置にいたのやもしれません。
その原因はハッキリしています。73年にR・マドリーへ移籍したことでしょう。
サッカーマガジン七三年九月号「外国だより」に、以下のニュースが報じられています。


バルセロナ、ミュラーの獲得に失敗   西ドイツ
西ドイツ・サッカー連盟が「代表チームのエース・ストライカー、ゲルト・ミュラーの申請をはねつけた。ミュラーの申請というのはスペインのCFバルセロナに移籍できるよう、バイエルン・ミュンヘン・クラブとの契約を解除することを許可してほしいというもの。
…スペインの各クラブは、つい最近、外人選手の輸入禁止の規約が改正になったことから、各国の有力選手の獲得にやっきになり、レアル・マドリードが電撃作戦で、西ドイツのスーパースター、ギュンター・ネッツァーをボルシア・メンヘングラッドバッハから引っこ抜いた。その第二弾が一九七〇年ワールドカップ得点王のミュラーだったわけ。
…バルセロナ側はミュラーに三年契約で約二億五千万円、バイエルンにも同額の移籍金を支払うという大金持商法で迫った。
この札束攻勢にミュラーの意志もぐらつき、西ドイツ・サッカー連盟への申請となったものと想像されるが、ネッツァーの移籍にショックを受けたばかりの連盟は、すっかりガードを固め、拒絶という強い態度でミュラーのスペイン行きを阻止した。同連盟は、さらに今後も代表選手の外国への移籍は認めないと、これ以上西ドイツからスター選手が国外へ流出しないようくぎをさしている。(原文ママ)


長くなりましたが、重要な部分ですのでほぼ略さず引きました。
前回あげたアンチェタの例もあるように、たしかに国外移籍は契約上危険をはらみます。
しかしそれにしてもねえ…。この書きようは、まるで傭兵といわんばかりじゃないか。
同時期にバルセロナへ移籍したクライフも「最も裕福な逃亡者」と言われてますね。
(七四年一月号より 筆者はレズリー・バーノン氏)
しかしこれが往時の空気です。後世の人間がとやかく言えることじゃない。
エリック・バッティ氏はおなじ七四年一月号で
「ネッツァーのスペイン行きは当然、彼のナショナル・チーム出場を制約した」
と、よりハッキリ書いています。ネッツァーも覚悟のうえでの移籍だったのでしょう。
観客がどんなに彼を熱望しても、チームにつめたい空気が流れていた可能性はあります。

とはいうものの…本当にマドリー移籍が干された理由なのかしら?
どうもそうは思えないんですよね。さんざ振りまわしといてなんですけど。
なんせ七四年八月号で、鈴木武士さんがミもフタもないこといってるんです。


西ドイツの中盤は、左足の芸術家オベラーツが六六、七〇年大会当時の彼の調子を思い起こさせる働きをしている。
必然的にこの一年間スペインへいって停滞し、来シーズンはレアル・マドリッドから西ドイツへ戻るのではないかとうわさされているネッツァーの出番は、なかなかやってこなかった。


ネッツァーの不調を伝える記事は、74年のあちこちで散見されます。
よそのリーグ挑戦一年目のスランプ。この現象はわれわれにも容易に想像できますよね?
親善試合でもネッツァーの不振はネタになっています。コチラにてご判断ください。
とまれオランダが“衝撃”となった理由その2は見えたかな。これは副次的な要素だけど。
本命西ドイツにみんなが見たいネッツァーがいなかった。思いのほか評判倒れだった。
対照的に未知のオランダは絶好調で、鮮烈なデビューを飾っていたと!
…こう書くとオベラートが気の毒だなぁ。わたしはこのあからさまな左利き、好みです。

この西ドイツに対するはオランダかクライフか…と、長くなっちゃいましたね。
一度ここで切りましょう。このあと省略できるワケもありませんし。
いずれにせよ7月7日の決勝戦。ここに至りいよいよ日本における74W杯が開幕します。



<おまけ>
一度くらい74年の曲をかけておきましょうか。
それではわたしのすきなこの歌を。
…ま、飲めませんけどね。

posted by 由比彰紀 |15:50 | 何番? | コメント(19) | トラックバック(0)
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2009年09月05日

1974 西ドイツ

74年のオランダ。彼らは“衝撃”というキーワードで飾られるチームです。
これがなんといいますか…どうもわたしにはピンときません。
魅力的な、そしてかなり異質なサッカーだったということはわかりますよ?
それだけなら映像の断片を拾ったわたしにもなんとなく理解できます。
ま、戦術うんぬんは専門家におまかせしましょう。こちとら語れる器じゃねえや。

それにつけても不思議です。三十五年も前の標語が今も鮮明に生きているなんて。
70年や82年のブラジルも賞賛されますが、体系的に評されることはあまりない。
それに比すると74オランダは特化しています。異常といっていいでしょう。
このチームがかくも伝説的になった事情とは? 74年の“衝撃”とは何なのか?
わが疑問はそこにあります。今回はそれを探ってみようと思いたちました。
とはいうものの…大風呂敷広げちまったなぁ。オレに太刀打ちできる問題なのだろうか…。

しかたない。まずは74年当時のW杯展望から見てみましょう。
このW杯開幕前、大会の行方はどのように予想されていたのでしょうか?
74W杯一次リーグの組み合わせは以下のようになっていました。

1.西ドイツ 東ドイツ チリ オーストラリア
2.ブラジル ユーゴスラビア スコットランド ザイール
3.ウルグアイ オランダ スウェーデン ブルガリア
4.イタリア ポーランド アルゼンチン ハイチ

各上位2チームが二次リーグに進むという、現代人にもつかみやすいルールですね。
このなかで激戦が予想されたのは三組と四組だったようです。


一次リーグは組み合わせからみると三組と四組が相当にきびしいものになりそうだ。特に三組は…シードされた南米のウルグアイがオランダ、スウェーデン、ブルガリアの欧州勢にはさみ込まれて相当の苦戦を強いられよう。
ウルグアイは過去二回の優勝経験を持ち、前回のメキシコ大会も四位になった名門。この国はアルゼンチンとともに優秀な選手の国外流出に悩まされ(ている。)…FBのアンチェタがブラジルのクラブから吹っかけられた高額の〝解放料〟のため代表チームから外れたのは大きな痛手だ。


サッカーマガジン74年7月号より。執筆は以前も紹介した鈴木武士さんです。
うーん、代表とクラブの軋轢は今も健在ですが…それが原因でW杯に出場できないとは。
(ちなみにシブったクラブはグレミオで、“解放料”は6万ドルだったそうな。)
アンチェタの場合はたまたまブラジルでしたが、これは南米にかぎった話ではありません。
70W杯ではスウェーデンのロジャー・マグヌソンが、フランスはマルセイユにより拘束。
やはりW杯出場を逃しています。ふむ、事態は現代よりはるかに深刻ですな。
FIFAの仕事もしんどいねえ。トンチンカンなだけじゃないのかな、あの会長さんも?

いかん、話題が全然ずれてるぞ。チャッチャと74年の三組をかたづけましょう。
問題もあったウルグアイですが、鈴木さんはオランダとともに突破候補としています。
前回大会の好成績に選手の知名度。やはり捨ててはおけないチームだったようですね。

ではではつぎに四組。ここはもう、なんといってもイタリアです。
イタリアはこの時期72年から無敗記録継続。あまつさえ無失点記録までつづけていました。
さぞかし人気のないチームでしょうね。そんなワケで鈴木さんも一位はイタリアで決まり。
このグループの関心事は、もっぱらポーランドとアルゼンチンによる二位争いです。
気の毒なのはかやの外のハイチで、鈴木さんは彼らをこう評します。


ハイチは徹底的な体力増強を図り、タシー・コーチは「いつの大会でも、あっといわせる番狂わせをするチームが出るもので、今回はわれわれが六六年大会の朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の役割を果たす」と不敵に笑う。しかし…チリあたりにもやられているハイチが他の三カ国を打ち破るのは奇蹟に近い。


ほほお、サッカーとは関係ありませんが…66年と比べこれはなんとも興味深い。
サッカーマガジンも66年時にはシンプルな表記でしたよ? あのお国については。
よもやコーチ殿が「デモクラティック・ピーポーズ…」などとブッたワケじゃあるまい。
日本メディア側の事情でしょうね。コレが90年代初頭までつづくのか…。

どうしても寄り道グセがなおりません。全力で74年にもどりましょう。
かように各グループの点検を終え、鈴木さんは二次リーグ以降の展望へと向かいました。
二次リーグはA、B二つのグループ。各組首位が決勝、二位が三位決定戦に進みます。
そして二次リーグの組み合わせは以下のように決まっていたんですね。

A.一組一位 二組二位 三組一位 四組二位
B.一組二位 二組一位 三組二位 四組一位

これを鈴木さんはこう予想します。

A.西ドイツ ユーゴスラビア オランダ アルゼンチン(またはポーランド)
B.東ドイツ ブラジル ウルグアイ イタリア

「またはポーランド」ってのがズルいですが…。ま、予想にはつきものの悩みですね。
予選でイングランドを破ったポーランドは、やはり軽視することができなかったのでしょう。
この予想をもとに鈴木さんはその後の展望へとうつります。


A組はそれぞれ持ち味は異なるにしろ全員攻撃、全員守備のバランスのよくとれた〝トータル・サッカー〟の西ドイツ、オランダ、ユーゴの対決がたまらないおもしろさを見せてくれるだろう…。
そして、決勝はイタリア対西ドイツ、ブラジル対西ドイツのどちらかの可能性が強いのではないだろうか。
オランダがその次にランクされ、ダークホースとしてはユーゴ、もう少し可能性が薄くなってアルゼンチン、ウルグアイといったところだが、この辺を読者はどう推理するだろうか。


おのずから鈴木さんによる各チーム番付表となっています。
優勝候補は前回優勝のブラジル! ここ数年したたかぶりを見せつけているイタリア!
そしてバッティいわく「半自動的な優勝候補」西ドイツ! ビッグ3はこのメンツですね。
では次点とされたオランダは? 鈴木さんによればこうです。


オランダ国内でしのぎをけずるアヤックスとフェイエノールトはスタイルの違うサッカーをやっており、この両クラブ選手を中心にした代表チームの意思統一がうまく行くかどうかに疑問を持つムキもあるようだ。


どうやら“衝撃”の理由その1が見えてきましたね。
開幕前、オランダはすくなからず懐疑的にとられていた。が、フタを開けるや…。

posted by 由比彰紀 |16:54 | 何番? | コメント(10) | トラックバック(0)
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