2008年10月12日
クリアネス
夏に韓国を訪れた際に、高校野球の大会を見る機会がありまして、モクトンの野球場へいってきました。どうも今年の韓国高校野球にはとんでもない大物がいるようで、メジャーのスカウト陣もちらほら。勢い余ってカブスのスカウトに話を聞いてみると、やはり今年の大会には超目玉が参加しているのだとか。僕自身はウリヒーローズが見たくてここまでやってきたという完全に場違いな存在で、その上当のウリがその日チェジュ島で興行をしていると聞いてテンション駄々下がりという有様だったのですが、結果的にはそんな場に立ち会えてラッキーな話でした。まぁもちろんのこと誰を狙っているかまでは教えてもらえなかったため、結局はぼけーっと試合を見守る以外にすることがなかったのですが、その代わりといっては何ですが面白い話も聞きました。 「プロ7年は待っていられないよ」韓国プロに対してMLBの球団の評価が低い本音がまさにこれでしょう、しかし問題は韓国の話よりむしろこの後、その流れで日本もかなと話を振ったら「ハハハ」とお茶を濁されてしまったところにあります。まさかそれが複線だったとは思いませんが、その笑いは数ヶ月たった今となって一本の線へとつながりました。田沢投手メジャー挑戦表明。MLBスカウトは日本のアマチュアをしっかり見ていて、そしてその触手を伸ばしてきている、結果として日本球界にとってそうした行為の宣言とも言える事件となりました。田沢純一、新日本石油エネオスのエースとして都市対抗野球大会制覇を成し遂げ、いまや名実ともにアマチュア球界代表となった大投手。アマ日本の代表候補にも選ばれワールドカップの舞台も見ており、この秋には横浜がドラフト一位に指名するとも囁かれていただけに、確かにNPBにとっては彼の流出は痛手なのでしょう。 通常MLBはNPBとの紳士協定もあって、日本のドラフトで邪魔になりそうな場合アマチュア選手であっても接触することはありません。それは何より、日本の場合においてはNPBのスター選手を獲得するほうが彼らにとって何倍も得だから。国内リーグのシェアが圧倒的な日本の野球市場においては、一握りのスター以外はNPBで活躍することによってはじめてスターとなりますし、その実力もNPBでプレーしているということによってある程度は保障されています。マネーゲームで必ず勝てるMLBの球団からしたら、値踏みのきかないアマのうちから手を伸ばす必要なんて、今まではどこにもありませんでした。事実田沢投手はアマナンバーワンとは言えど知名度の高い選手ではありませんでしたし、松井にしろ松坂にしろアマ球界の時から騒がれていた選手はみなNPBを通して渡米しています。もちろん過去にMLB球団が上原に接触なんて言うこともありましたが、今回の件と性質をダブらせるのは難しい気もします。 まず、田沢自身の渡米について、かつての上原と比べていささか拒否する姿勢に消極的な気がしないでもありません。報道の規模だけ見れば今回の問題は降ってわいたかのような登場の仕方でしたが、実際はそうでもありません。ワールドカップのときから米国スカウトが日本代表をチェックしていたと言われていましたし、実際問題囲い込みをかけていたならMLB球団の側もそうですしNPB球団の側もお互いの挙動に気づいているべきでしょう。横浜は数週間前まで彼をリストの一位へ持ってきていたようですが、気づいていたとしても気づいていなかったとしても、囲い込みをかけるスカウトとしてはかなりおかしな事態になります。ドラフト一位にしておき、なにかあればすぐにドラフトの戦略を練りなおせるようにしておいた、と見ることもできそうですが、人材流出と騒ぐ周囲に対し当の横浜の熱は低いように見えます。だとするならば、NPBは田沢自身の流出そのものより、やはり今後彼に追随する形で選手が流出してしまうことを恐れて対決の姿勢を高めている、と見たほうがいいのかもしれません。 かつてドラフトの目玉であった中田翔がマリナーズに接触をされていると報道されたとき、NPBの関係者はそろって「MLB球団が彼に手をつけるわけがない」と高をくくっていると言われていました。それはもちろんのこと彼らがMLBとの紳士協定をいい言い方で信用して、悪い言い方で約束の上に胡坐をかいていたからなのでしょう。しかし今回MLBがアプローチをかけたことにより、事態は一変しました。NPBはすぐさま厳戒態勢をとり、選手に対して制限的な策をとることで問題を解決しようと動きだしています。中田翔の時は「若い選手が、過酷な生活を強いられるマイナーリーグで安い給料で野球をやりたいと思うとは考えられない、日本ならちやほやされて給料も高い」とNPBは事態を想定していたと言われていますが、まぁそれがどんなかたちであろうと魅力であればそれで構いません、彼らが自分自身が選手に提供できる魅力を信じているということなのですから。MLBと対決になったとしても、生き残るための道筋が見えているのです。 しかし今回の反応は、当時とは明らかに違います、そんな余裕はまったく見受けられません。その当時とはあきらかに何かがかわりつつある、もっと厳密に言えば何かが変わったと彼らが思っている、という事なのでしょう。その中で田沢がもしNPBが選手流出に対して鳴らす警告の代表として祭り上げられてしまっているなら、いくらなんでもあんまりのような気もします。MLBの行動に対し疑心暗鬼になりつつあるNPB、ただ、疑心暗鬼になっているのは必ずしもNPBだけとは限りません。NPBが変わっていないのなら変わったのはMLBで、彼らがNPBの持っているシェアに対して積極的になったからNPBは態度が変わったのだといえます。しかしもしMLBが変わっていなかったとするのなら、NPBは単に誤解でMLBを危険視しだしたということになります。MLBがNPBの反応に対して疑心暗鬼になっている可能性も、実はないわけではありません。 9月26日、USAtodayはこの問題について、MLBの代弁に限りなく近いであろう形で見解を示しています。「1962年結ばれたとされる紳士協定はプロ選手のみに適用されるはずのものであって、NPBはそれをアマ球界にまで拡大解釈して行動している」もちろんこれはMLBの公式見解ではありませんし、これを読んでいる読者の皆さんも「へ?」って感じの感想の方のほうが多いと思います。今までこの紳士協定がおおっぴらに人目に触れたことがないのもそうですが、何より今までMLBは慣習として日本のアマに手をつけずNPBを気遣っていた、その事実こそそうした認識の違いの主だった理由でしょう。だからこそNPBは紳士協定をたてにけちをつけているのですし、今回それが破られて、アマ球界、果てはプロにまでMLBが参入という展開が見えているような気にもなります。しかしそうしたMLBの認識を考えてみると、MLB側からしてみれば昔と変わらない範囲で、上の紳士協定に添って動いていただけだったと考えることもできます。昔と同じく、NPBとの対応しだいで獲得できる選手の一人であろうと思ったからこそ獲得に動いたかもしれない、ということです。 上記のとおり、紳士協定という約束はそれ自体があやふやである上に、法的拘束力もなーんにもないお気持ち程度の拘束でしかありません。NPBとMLBの間を埋めていたのはお互いの理解でしかなく、当然MLBからしてみてもNPBとの間の認識の差はやっかいな問題の一つであるはずでしょう。事実紳士協定とはいってもNPBは過去数件の例外を許しており、これまでもMLBは日本のアマを獲得してきていたにもかかわらず、NPBは誰が取られてはいけない選手なのかというラインを明確には示してきませんでした。日本球界から追われた身である選手や大スターなどあからさまな選手はいいですが、それを除いてはその可否がつばをつけてみるまで分かりません。ドラフトを尊重しあうとはいえ、そんな機密情報は建前上知りえないことになっていますし、今回の田沢に関してはMLBとの接触をあっさり許されたりするなど、第一のところドラフトに抵触する行為とは何なのかもよく分かっていないままです。 実際のところ、NPBはMLBの反応を「あまり対立姿勢を煽りたくないのだろう」と見ているようですし、MLBが田沢を上原のような例外として手をつけただけで後は何も変わっていない、周りが騒いでいるだけと見ることは難しいことではありません。まぁそれとMLBが今後も日本の市場に積極的に出てくる可能性とは別問題ですので、こうした選手の管理の問題が語られるのは悪いことではないはずでしょう。ただ、そうした選手管理の問題において、かつてMLBからちょっとセンセーショナルなアイディアが漏れ聞こえてきたことがありました。それを考えるとMLBがNPBの市場を狙っている可能性も、無い訳ではありません。前回日本はそれを首の皮一枚のところで逃れましたが、今から考えれば皮にナイフ一本そなえられたかのような逃れ方ではありました。 世界ドラフト、閉鎖的に選手を平等配分するメジャーリーグにあって、国外の選手をも平等にドラフトにかけて交渉権を得ようとする制度。2002年、NPBはこの制度に対し「日本のプロは除外の方向で」の文言を取り付けました、が、よくよく考えてこの文言は別に今回の問題を何一つ救ってはいません。だって、アマの選手をとらないでって方向でもめているんだから、それって日本のアマに関してもMLBのドラフトにかかっちゃうってことじゃない。 長すぎるので次回、襲い来るMLB編へ続く
posted by shoeless |22:25 |
北米野球 |
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ドラフトあれこれ備忘録 【三星ライオンズ応援記】
さて、話は変わりますが。 ブログ 『ぼくの野球を守って』 のエントリー、 クリアネス より… 本題は田沢投手に絡んでMLBとNPBのことなのですが、冒頭。 ・高校野球を見にメジャースカウトがきていた ・プロ7年は待てないとカブスのスカウト...
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