2008年09月13日

藤井恵の決断

7月大会に続いて、9月21日大会も
女子総合格闘技大会である
スマックガールの延期が発表されてしまいました。
不渡り手形じゃないけど、2回はアウト感があります。
これからのことは、これからのこととして
正式な発表を待つとして。

9月12日はシュートボクシング後楽園に
フジメグこと藤井恵が参戦しました。
藤井恵といえば柔道、サンボをべースとした
確かな技術を持つ女子総合格闘家。
現在、15戦15勝中でしたが、
初の立ち技ルールで判定負けを喫する結果となりました。

相手はシーザージムの富田美里。
おそらくシュートボクシングを相当熱心に見ている人で
なかったら知らない選手だろうと思います。

藤井は前回のスマックガールで、
打撃の強さを見せた韓国のハム・ソヒと対戦、
寝技に引き込んで腕十字で一本勝ちしています。

藤井恵が寝技の選手だということはもちろん知ってましたが
打撃が不得手という印象はなかったし
なにしろ運動能力の高い人なんで
正直、あっさり勝つのだろうと思っていました。

立ち関節、投げが認められるSBルールなんで
むしろ、どこまでフジメグが投げまくって極めまくるか
期待していたくらいでした。

ところが、試合は富田が終始優位の展開に。
圧力をかけて前へ前へ出る富田に対して
タックルしかけたり、蹴りで距離を取ろうとする藤井は
攻撃を止めることが精一杯に見えました。
富田も攻めきることは出来ず、ダウンは取れなかったけど
3R終わりには富田がフロントチョーク取りにいったりする場面も。
判定は30-28、30-30、30-29で富田でした。

大会9日前というタイミングで発表された
初の立ち技ルール挑戦と敗北。
試合を終えた感想をどうしても聞きたくなって追いかけてみました。

「手が動くけど、足が動かないという感じでした。
 今年は試合が決まっていたんですけど、それが延期になって、
 何もしないで、終わるのがイヤだったんで。

 打撃は苦手な分野だったんですけど
 タイミングが重なって、逃げたくないって思って。
 負けてしまったけど、スッキリした気分です。
 これからやらなきゃいけない課題がたくさん見えました」

話の中で、幾度も「打撃は苦手」という言葉が出てきました。
見ている側からすると「寝技が得意」とは感じますが
「打撃が苦手」と思ったことは、特になかったような気がする。

ただ今回の試合は、正直「苦手」と言う意味が分かった内容でもあった。
逆に、総合であれだけ出来る人であっても
立ち技だけのルールとなると、これだけ難しいというか、
苦手意識が出てしまうものなのだとも思いました。

「(SBルールは)なにしろ打撃が苦手なので、
 総合やってる以上、打撃は避けて通れないんで。
 殴られるのが、イヤなんで。それが一番です。
 (苦手でも楽しかったとかは?)怖いほうが強いです。
 パンチに目をつぶっちゃうことが多いんで
 今回思い切ってやってみて、成長したかなと思います」

でもせっかくコスチュームも新調したんだし、またやってみては? と言うと
フジメグは笑顔で「タイミングがあえば、また」と言いました。

フジメグの言葉を聞いていて
そういえば、この人は
今年に入って、2度試合のチャンスを流されているのだ、
とあらためて思って。

試合が7月から9月に流れて、9月の詳細もなかなか発表されなくて、
その中で決まった試合でしたけど、それまで、
思い詰めるというか、気持ちの面で、
きついと思う部分が、あったりしましたか。

と、整理されてない言葉で聞いてみたところ。

「AACCは、赤野仁美さんも一緒なんで」と。
これまた、そういえばそうなんです。
藤井恵はライト級トーナメント、
赤野仁美は、無差別級トーナメント。
ともに準決勝は7月、決勝が9月に行われる予定だった。

「今年はトーナメントに参戦するって決めて、
 今年の最初から毎日毎日、試合のこと考えてて、
 2回勝った後も、次は準決勝って思って、気が抜けなくて。
 試合のことを考えない日はなかったです。

 7月が延期になって、9月になって、
 9月も延期になってしまって、
 自分の中で思い続けていたものがあるので、
 けじめをつけたい、というのがあったんです。

 勝ちたいとはもちろん思っていたけど、
 勝っても負けても、気持ちよく
 リングを降りたいというのがあった」

藤井恵は、もちろんプロであり
高い実力を持つ選手であるゆえなのですが
国内の試合に関しては、決して腰が軽い選手ではない。

それでも選んで自分で決めたトーナメント参戦。
参戦に向け、アメリカでトレーニングを行っていたとも
以前、語っていました。

さまざまな事情ゆえに延期は仕方ないことかもしれない。
だけれども
延期という残念な結果になったとき、やっぱり
そのために準備をしてきた「思い」は
どうしようもなく、行き場を探していた。

私は選手ではないけれど
大事な一戦に向けて自身を鍛え、コンディションを
整えていくというのは
薄紙を毎日重ねていくように
時間がかかるし、根気も根性も使う行為だと思います。

そうして作ってきたものを
大会が延期になったからといって
無駄にしてしまうのは、もったいないと思って当然だし。

突然の立ち技ルール挑戦という
無謀とも言える冒険をしてみないことには
藤井恵の思いは
行き場がなかった。

結果、戦績に思わぬ黒星をつけてしまったけれど。
それでも聞いてみなくてはいけない。

「気持ちよくリングを降りることはできましたか?」

そう聞いたところ

「そうですね。悔しい気持ちより、楽しかった気持ちのほうが、いま大きいです。
 今回、試合の機会を与えてくださったシュートボクシングさんには
 あらためて、ありがとうございましたとお礼を言いたいです」

そう答えて笑ってくれたので。
よかったなぁって。

いや、よくないことがあったんだけど、
ちゃんと試合できるのが一番いいんだけど、
それでも、まだ少し、
彼女になにかが残ったのだとしたら、

よかったなぁと思ったのでした。

プロレスも格闘技も毎日のように大会が行われているけれど、
それでも、やっぱり
試合が行われているということは、
そこに、大会を支えている人がいて
選手を迎え入れる準備をしているということ。

それが叶わずに試合のチャンスを逃してしまうということも、
とっておきだった試合が、いつできるか分からなくなるということも、
あったりする。

藤井恵という、キャリアを積み重ねた選手の身にも
そんな事態は、起きてしまったりもする。

試合ができるということが当たり前のようであっても
実は、リングに立てているという事実じたいが
その選手が、とても多くの人に支えられていることの証でもある。

普段は、その当たり前のようなことが
当たり前に行われているのを前提とした上で、
選手がどれだけ、いい試合をするかとか
大会の進行や演出がどうこうとかいう
いわば「ケーキの上の飾り」について徹底的にこだわるべきだけど。

時々は、いつも喧嘩する恋人のことを
好きな人に好かれている奇跡という視点で見てみるとか、
太っていることを、体が元気であることとか
憎たらしい家族でも、事故にあわなくて良かったと思ってみるように、
土台がある幸せという形から、考えてみることもしてみないと
いけないのかなと思います。

プロレスと格闘技に関わるすべての人に、
お疲れ様と、いつもありがとう、を。
あなたのその当たり前のことが、
かけがえのないことなんだ、と、声を大にして伝えたい。

そして、立ち技ルール挑戦でさらに発展のきっかけを掴んだ藤井恵と
まだ「思い」の行き先が決まっていない赤野仁美をはじめとする、
トーナメント参戦決定選手たちの全力を受け止められるリングが、
どうか、早く見つかりますように。

フリーライター佐々木亜希がときどき更新するブログ
「ときどきキックアウト」は
女子格闘技をときどき応援しています。

posted by sasakey |02:44 | 女子格闘技 |
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