2008年04月17日

結果だけじゃない、胸を張って 【JAPAN SWIM 2008 Day 2】

Semi Final

◇女子200m自由形◇
準決勝を1位通過したのは上田ということになったが、殆どの上位選手のラップタイムがイーブンに近く、積極的に記録を狙ったかどうかという点では疑問符がつかざるを得ない。もちろん準決勝ということで突破を最優先させたという面もあるだろうが、残念ながら日本の競泳界で一番世界から離れたレベルとなっているこの辺りの自由形で、状況を打破できるようなレースをした選手はいなかった。

決勝でも序盤から接戦となるだろうが、特に上田にはぜひ積極的なレースを展開し、また多くの選手に58秒台のラップで入ってもらいたいところ。各々1秒ずつ準決勝の記録からアップすれば800mフリーリレーの派遣標準突破も見えてくるだけに、牽制し合わず互いに高めあうレースを期待したい。


◇男子200m自由形◇
まずやはり目を引いたのが、佐藤久佳の泳ぎ。序盤は快速で飛ばし、100mのターンで大量のリードを築いたものの、最後は著しく失速。昨年から取り組んだストレートアームが、ピッチが落ちたために勢いが無く肘が曲がってしまうほど、歪んだものとなってしまった。50m、100mが本職とはいえ、不本意な泳ぎに終わってしまい、やや不安を残す結果となった。

第1レースでは内田が良いラストスパートを見せ、全盛期の輝きを取り戻しつつあることを再確認させてくれた。第2レースで面白いレースをしたのが、葛原。この種目、スタート後のドルフィンキックを使って奥村が先行するのが恒例となっていたが、葛原のスタートも良く、15mの時点では殆ど差が無かった。全体的に後半のスパートで勝負していた勘があるが、決勝では最初から飛ばして行く泳ぎをしてほしい。そういった点では、序盤に他を牽引できる佐藤には、決勝で泳いで欲しかったのだが・・・・


◇女子100m背泳ぎ◇
中村礼子は予選でマークした日本記録を更新することができず、やや悔しそうな表情を見せていたが、状態の良さをうかがわせてくれた。決勝では1分をカットしてほしいところ。

そのほかでやはり良いレースをしたと言えるのは、2位に入って高校記録を更新した酒井。後半に関しては中村に引けを取らない泳ぎを披露しており、実際ラップタイムも、後半の50mは中村とまったくの同タイムである。プレッシャーのかかる決勝で、実績ある伊藤との代表争いということになるが、どのような泳ぎとなるだろうか。また田部井も昨年から大幅に記録を短縮してきており、活躍が期待される。


◇女子100m平泳ぎ◇
トップ通過となった田村は磐石の強さで、決勝でも彼女の優位は揺らぎそうに無い。テンポ、パワー等、泳ぎが他の選手とは明らかに違う。タイムとしても自己ベストを更新しており、決勝ではより日本記録に迫るタイムが期待できる。その他で大幅に記録を縮めてきているのが、3位となった松嶋。大会前のベストから1秒以上縮めており、決勝でどのようなタイムを出すか非常に楽しみだ。リカバリーが非常に速く、平泳ぎで必ず生じてしまう“静止時間”が短い泳ぎが特徴的だった。

現実的なオリンピック行きのラインとしては、田村の突破は確実で、残るは種田が派遣標準Ⅱをカットできるかどうか、ということになりそう。三輪は後半の落ち込みが大きく、北川はピッチが上がりきっていないように見えたが、決勝に向けて合わせてくるだろうか。



Final

◇女子100mバタフライ◇
中西悠子 58.52 (日本新、派遣標準Ⅱ突破)
加藤ゆか 58.55 (派遣標準Ⅱ突破)
予想どおり三つ巴の争いとなったが、中西と加藤が素晴らしい記録を出し、オリンピックに出場することとなった。後半型の中西の追い上げも見事だったが、加藤のラスト25mの泳ぎも素晴らしかった。スプリンターとして50m、100mのレースをこなす加藤だが、序盤の飛び出しはまだしも、ラスト25mで土肥に並ばれつつも粘り倒したところが、本当に光っていた。

一方、惜しくも敗れ、オリンピックに進めなかった土肥。27歳という年齢を考えればこれがラストチャンスであり、悔やんでも悔やみきれないレースとなってしまった。日本記録を出した準決勝から、ややターンとゴールタッチが流れ気味ではあったが、決勝でもこのどちらとも決まらず。おまけにラスト25mの伸びを欠いた感は否めず、寸でのところで中西と加藤に先着を許してしまい、夢破れることとなった。

また4位となった星も、ついに1分の大台を突破。4人が1分を切ったレースは、日本では初めてだろう。星は200mをむしろ得意の距離としており、こちらで中西にどこまで肉薄できるか、楽しみだ。


◇男子100m背泳ぎ◇
森田智巳 54.03 (派遣標準Ⅱ突破)
宮下純一 54.37 (派遣標準Ⅱ突破)
世界的にレベルが上がっており、オリンピックでなかなか難しくなるであろう背泳ぎだが、森田の嬉しそうな表情を見て、こちらとしても素直に喜ぶ事ができた。なかなか一筋縄ではいかなかったことは漏れ聞こえてはいたが、彼らしい序盤から元気良く突っ込んで行く泳ぎがオリンピックを前に戻ってきた事は、大きい。本番では日本記録を更新して、決勝で活躍してほしいところだ。

2位に入った宮下も素晴らしい泳ぎ。前半の積極性も去ることながら、後半のスパート合戦で入江を退けた粘りも素晴らしかった。一方の入江はプレッシャーもあったのか序盤の伸びを欠き、不本意なレースとなってしまった。得意の200mでは巻き返しに期待したいところ。また1コースから健闘した古賀の泳ぎも見事だった。


◇男子100m平泳ぎ◇
北島康介 59.67 (派遣標準Ⅱ突破)
末永雄太 1:00.72 (派遣標準Ⅱ突破)
本人も語っていたとおり、できれば日本記録を更新しておきたかった北島だが、予選から決勝まで安定感のある泳ぎができたと言う事で、まずまずではなかろうか。オリンピックではハンセンのみならず、ダーレ・オーエン、デュボス、リッカードといった、ここのところ急激に記録を伸ばしている面々との対決が予想されるが、北島ここにあり、と改めてその名を知らしめるには充分なタイムである。

2位の末永も準決勝、決勝と自己記録を更新してのこの結果はお見事。本人は引退も考えた中からの復帰ということであったが、本番に向けてさらなる記録アップも望めるだろう。一方、重圧からかやや硬い泳ぎとなってしまった山下は残念だった。そして立石が、予選、準決勝、決勝と相次いで自己記録を更新。スピード強化の成果が出ていることをうかがわせ、200mのレースが楽しみになってきた。


◇2日目総括◇
全体としては3種目で6人と、上限いっぱいのオリンピック進出が決まり、非常に実り多き日となった。

だが、あくまで個人的に、ではあるが、この日一番印象に残った選手は、バタフライで惜しくも代表入りを逃してしまった土肥亜也子だった。

表彰式等では気丈に振舞っていた土肥だが、セレモニーも終わり、既に多くの観客が帰った後、選手席のスタンドでコーチと共に目を真っ赤にして座り込んでいた。1人の水泳ファンとして僭越ながら声を掛けさせていただいたが、当然ながらコーチ共々、まともに話ができる状態ではなく、悔しさがひしと伝わってきた。予選、準決勝と立て続けに自己記録を更新してきた土肥が、今大会にかけていた重いがひとしおではなかったことは、当初から明らかだった。

しかし大会には選考基準があり、それをクリアーした選手がオリンピックに出られる。派遣標準記録はかなりレベルの高いものとなっているが、だがそれを目指して各選手が切磋琢磨した結果、アテネオリンピックでの素晴らしい成果に繋がったのだ。そして選手は、この制度に文句の一つも言わず戦っている。これについて外野がとやかく言うのは間違っている。そしてその記録を突破しても、一国から出場できる選手の枠は限られている。

そういう点からすると土肥がオリンピックに出られないことに関しては仕方が無いと言うほか無いのだが、しかしここへの想いが大きかったがために生じたスポーツの残酷さというものを、これまでで一番肌で感じた瞬間であった。


だがその一方で、エンターテインメント性という点では、彼女は最高に面白いレースをしてくれた。技術的、心境的に悔やむ点は多く、本人としてはどうでもいい事なのかもしれないが、だがお金を払って観客に見てもらっているスポーツである以上、そこに居るファンを楽しませるということもまた、選手の立派な務めである。

あそこで彼女に声を掛けたことは、適切ではなかったかもしれない。だが、ファンとして心を振るわされるレースを見せてもらったことは確かであった。たとえ厳然たる結果として“オリンピックに出られなかった”ということがあろうと、これまでの日本選手権の歴史の中で最もハイレベルでエキサイティングなレースに於いて、彼女が主役の1人だったことは事実。実際問題としてオリンピックに出られるか出られないかというのは、単純に言葉に出来ないほどその選手にとって大きな事だが、一方で彼女が手に汗握るようなレースをしてくれ、そしてそのアグレッシブな姿勢に共感を覚えるファンがいたということも、これまた事実なのだ。

残念ながら敗れるという“結果”を出してしまった彼女だが、それだけが全てではない。敗れこそしたものの、彼女は充分、胸を張れるだけのことはやった。そこは本当に、誇りに思ってもらいたい。

posted by Alan Hetarade |02:04 | 競泳競技 | コメント(0) | トラックバック(1)
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