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川内優輝が示す、様々な“走り方”

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証明した、タフさとスピード
今年の東京マラソンは、非常によくコンディションに恵まれた。快晴、また例年有明の沿岸部で選手を苦しめる向かい風も無く、気象コンディションは万全。レースの方も、昨日の福岡クロカンで圧勝したカロキの完璧なペースメイクにより、淀みない流れが作られた。

それに乗る形でレースはハイペースで進んだ。優勝はエチオピアのメコネンだったが、やはり今大会一番の輝きを放ったのは、3位に入った川内優輝だろう。殆どの選手が終盤ペースを落とす中、一度は3位集団から遅れながらペースダウンを抑えて押し切る走りをしたのは、彼くらいだった。

市民ランナーということで今回の入賞、代表内定により大きくピックアップされであろう川内だが、ここ2年ほどは福岡、東京と年2回ずつ国内の選考レースに出場し、上位戦線に絡んでいる。特に4位に入った昨年の東京でのレースが印象深いが、その時は雨で序盤からペースが上がらず、“勝負”に焦点が絞られた大会だった。今回は好コンディション、ハイペースの中で2時間8分台半ばでの優勝ということで、以前から見せていたタフネスに加え、スピードにも対応できることを示した、素晴らしいレース内容だった。


“エリート市民ランナー”は、彼が初ではない
さて放送でも紹介された通り、川内は実業団チームに属さない、所謂“市民ランナー”である。埼玉県の定時制高校で職員として働く傍ら、朝の時間を使っての練習に加え、出勤時の駅までのランニングなど生活の中で練習する時間を見出し、また休日には数多くの大会に積極的に参加するなどして、自分にできる範囲で実力をつけ、試合勘を磨いてきた。

世界選手権の代表にまでなったのは川内が初めてだが、過去にも実力のある市民ランナーがいなかったわけではない。

2000年代の序盤に活躍した間野敏男という選手の名は、長いマラソンファンなら記憶に残っているだろう。実業団のYKKを退社した後、富山のラーメン屋の店員として働く傍ら、自宅近くの河原などで練習を行っていた選手だ。2002年の東京国際マラソンでは日本人最上位フィニッシュを飾るなど、輝かしい実績を残している。

またNTT西日本の所属ではあったものの、2004年に東京国際マラソンで2時間8分46秒の好タイムで2位になった大崎悟史は、当時会社が陸上部の支援を行っていなかったため、フルタイムで仕事をこなした後に練習を行い、レースに出場していた。当時の大崎の練習環境も、現在の川内とほぼ同様のものと見て良いだろう。

間野はタイムが2時間14分台と芳しくなかったため代表にはなれず、また大崎も国近と諏訪が福岡で2時間7分台を出していたため、アテネオリンピックの代表にはなれなかった。惜しくも2人は日の丸には届かなかったが、今回の川内は年間を通じサブテンが1人しか出ないという日本男子マラソン界が深刻な低迷期にあった中での好記録、そして日本代表内定ということで、そのインパクト、影響は非常に大きいものがある。


エリートで無くてもいい、様々な可能性
通常、日本のエリート長距離ランナーは、全員がほぼ同じようなステップアップをしていく。中学までは野球やサッカーをしている選手もいるが、まずは高校の段階で駅伝の強豪校と言われる学校に入学し、脚を鍛える。そこで大学のスカウトの目に留まれば、主に関東の強豪校に進学、箱根駅伝を目指す。大学卒業後は実業団に進み、競技を継続する。

だが川内は、完全にこのレールから外れた選手だ。まず高校時代に故障したため、駅伝強豪の大学への入学が叶わなかった。だが学習院大学で力をつけ、学連選抜という2000年代に入ってから導入されたシステムで、箱根駅伝出場を果たした。この大学での成功が大きかったのだろう、卒業の段階で今度は自ら実業団からの誘いを断り、埼玉県の職員として、個人で競技を継続する道を取った。

解説を務めた中国電力の坂口監督が、実業団の人間として反省するようなことを口にしていたが、私は決して今回の川内の走りが、実業団の全てを否定するものだったとは考えていない。実業団のスタイルが合い、そこで力を大きく伸ばす選手もたくさんいる。ただ、競技を続けるには実業団に入らなければいけない、社会人のトップレベルは実業団が全て、という固定的な概念を完全に崩したという点では、大いに意義深い結果だったと考えている。

もちろん遠征費を自費で捻出しなければならないなど、選手個人の負担も大きくなってくるのが、市民ランナーとしての活動である。だが、実業団という土壌の上で胡坐をかく選手が増え、なかなか結果を出せなくなった昨今のマラソン界に活を入れ、選手としての様々なあり方があることを示してくれた今回の川内の走りを、単なるいち市民ランナーの敢闘精神を称え、実業団選手の不甲斐なさを嘆くだけに留めてしまっては、何の意味も無い。彼の走りから様々な可能性を見出していくことで、マラソン、陸上競技全体の発展に繋がっていくだろう。



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川内優輝が示す、様々な“走り方”

わたしは、埼玉県人として彼がチヤホヤされるのがとても不快です。実業団の選手がふがいないのが要因とは思いますが、彼の走りは陸連関係者が述べていたように記録のみで真の期待は出来ない未知でしかないという不安要素です。オリンピックを目指すのはとても良い事でしょうが、常にハイリスクな走法の選手に国の名誉を託すこと自身が非常に危険に思います。彼は、日本代表としての実績には一切応えていません。テグ大会での惨敗が事実だということです。自己満足のみで国の威信を左右されては税金の無駄遣いです。

川内優輝が示す、様々な“走り方”

私も実業団の反省は失礼だと思います。なぜなら同様の記録を実業団の選手が何人も出している上でこの回(東京マラソン)だけ市民ランナーに負けたことを反省するならまだしも、そもそもここ数年2時間8分台の記録を出してる実業団(日本のマラソン)の選手はほとんどいない状況で反省もくそもない。
 できる状況にありながらできなかった場合の反省であればそれを達成した人に対する敬意になりますが、そもそもそんな記録が出せる選手がほとんどいない現状を実業団関係者は反省するべきです。
 勿論、スポンサーや所属企業などさまざまな「しがらみ」があることが現在の日本のマラソン選手の足かせになっているのは重々理解しています。
 選手よりも陸連関係者が一番反省するべきでしょう。と同時に箱根駅伝をありがたがる国民ももう少し考えを改めるべきかもしれませんね。

川内優輝が示す、様々な“走り方”

こんにちは。

私も同感ですね。
実業団かそうでないかはサッカーに喩えるなら、ユース育ちと高校卒のどちらかみたいなもので、結局人によって向き不向きがあるんじゃないのという以外ないような気がします。
実業団所属じゃなくても走りやすい環境を作る、というのは大切なのかなとは思いますけれど。

Re:川内優輝が示す、様々な“走り方”

はじめまして。私も先程マラソン関連の記事を書いたのですが、川内選手の走りに対して称賛の声はあって当然だと思いますが、実業団関係者の方々が「反省」を必要以上に口にするのは逆に川内選手に対して失礼かと。彼は彼のスタンスで結果を出したのだからこれも一つの方法ですしハングリー精神にもつながるのでしょうね。ただ実業団選手にも頑張ってもらいたい気持ちは当然私も持っています。彼らがエリートランナーの大多数を占めるわけですものね。いろいろな発見のある東京マラソンでした。

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