2010年03月17日
ジョゼ・モウリーニョがもたらしたもの 【チェルシーvsインテル】
Chelsea 0-1 (AGG:1-3) Internazionale 【I:78.Samuel Eto’o】 ■尋常ならざるテンション ジョゼ・モウリーニョと、カルロ・アンチェロッティ。片やかつては相手チームを率いて頂点を極め、片やかつては相手のライバルチームを率いて覇を争った男である。 現在は立場を変えて対戦した両監督だが、唯一の共通項とも言えるポイントがある。どちらもCLのタイトルを取るために、チームに招聘された監督だという点だ。それは即ち、それだけ両クラブがこのタイトルを欲していることを意味する。既に近年、国内でのタイトルは欲しいままにした経験を持つ両クラブにとって、ヨーロッパの覇権こそが、まだ手の届かない唯一のタイトルであった。 そのような事情も相まって、勝負が掛かったこのセカンドレグは、並の試合ではありえない緊張感の中で行われた。ファーストレグのスコアーは、どちらに有利とも不利ともいえないスコアー。全てがスタンフォード・ブリッジでのゲームに掛かってくる。両チームの監督、選手、そしてファンがこの重みを理解し、噛み締め、戦いの舞台に立った時、見る者が目を離せない、まさに食い入るように見ざるを得ないような攻防が、90分間絶えることなく繰り広げられた。 ■“ドログバ潰し”と意外性 フェイクかどうか定かではないものの、ファーストレグのビデオを「7回見直した」というモウリーニョ。しかし基本的な戦術はファーストレグとは変わらず、まずはチェルシーのキーマンであるドログバを徹底的に潰し、その上で他の攻撃を抑え込む、という対策を取った。 常人のそれではないフィジカルを持つドログバに対峙するのは、ルシオとサムエル。この2人も体格だけなら、ドログバに負けてはいない。だがドログバは、時にその身体能力でもって、相手の予測を上回る突破を見せる。これを封じる方法はただ一つ、ラインの上げ下げにはあまり拘らずとも徹底的にドログバに密着し、身体を当て、必要であればファウルになることをも厭わず、物理的に“止めて”しまうことだ。 並のDFであれば、それでもドログバはなりふり構わず吹っ飛ばしてゴールを決めてしまうところだろう。しかし上述した通り体格だけなら、ルシオやサムエルも引けを取らない。その2人が執念深く身体を当ててくるとなれば、どんなFWでも苦戦はまぬかれないだろう。CKの場面で、フリーになりけたドログバをサムエルが後ろから抱え込んで投げ倒すPKになりかねないシーンがあったが、あそこまでしてでも、ある意味ではPKになるリスクを冒してでも物理的にドログバを止めてやろう、という意図が伝わってきた。 その上で次は周りの選手という事になる。アネルカは、テクニックは優れているものの卓越した創造性があるわけではない。ゴール前でボールを持たれない限り、数的有利を作ってしっかり対応すればひとまず大丈夫だ。イヴァノヴィッチのクロスは、精度は悪くないが工夫は無いため、コースを切った上で上げさせ、中で屈強なCBが弾き返せば良い。ランパードとバラックの推進力は、MFらが人数をかけてスペースを潰し、縦への走りだしをさせないことで対応する。 だがこれらの対応策の中で唯一如何ともし難かったのが、マルーダの個人技による突破だ。数的有利を作っても、独特の距離感とリズムでもって撹乱してくるマルーダのドリブルに対しては、インテルの選手たちは長らく手を焼いていた。 ■攻勢に転じる時 もちろんこのような対応をしたところで、チェルシーの攻撃の全てを防ぎきれたわけではない。たびたびゴール前に迫られ、あわやというシーンを作り出された。しかしそれでも方針を曲げず、集中を保って粘り強くこの対応を続けたことで、時間が経つにつれてチェルシーの選手は焦れ、徐々にミスが出るようになってきた。 後半開始から暫く経ったところで、インテルはポゼッションでリードし、試合を支配しはじめる。頑健なチェルシーのラインだが、今シーズンはLBに怪我人が続出してレギュラーを固定できなかった点、さらにはCBのアレックス、GKのターンブルと、レギュラーではない選手が起用された点など、ほころびが無かったわけではない。もちろんアレックスもジルコフもターンブルも、悪い選手ではない。ただ、普段から彼らでやっているわけではないのだ。 ここで生きたのが、スナイデルのイマジネーションだ。その視野の広さと絶妙なバランス感覚で持って、多少無理な体勢からでも決定的なパスを供給し続けたスナイデル。ある時はジルコフがラインを上げるのが遅れた瞬間を逃さず、ある時は自らのマークに熱心になるあまりスペースを作ってしまったチェルシーDFの背後を突いた。 そして78分、遂にその時は訪れた。スナイデルが見たのは、ぎりぎりのタイミングながらフリーランニングでイヴァノヴィッチの半歩前を行くエトーの姿。彼は体勢を崩しながら左脚を振り抜き、ここしかないというところにパスを通した。そしてそれを決めたのは、今年に入ってからここまでゴールが無かった、“眠れる獅子”エトーだった。 ■モウリーニョが作った“戦う集団” 何よりこの試合で感心させられたのは、インテルが見せたチームとしての、そして選手個々が持っているメンタリティの強さだった。それはもちろん、異様な数に上ったシュートブロックに表わせるような各局面での執念もそうなのだが、1点リードを奪い勝負をほぼ確実にしてから見られた場面にこそ、象徴されている。 短い残り時間で2点が必要になったチェルシーは、アレックスを前線に上げ、マルーダをLBに置くという捨て身の布陣で攻撃に打って出た。そうなった時間帯、プレイが切れるたびにカンビアッソやサネッティといった守備の要人たちはベンチの前に行き、モウリーニョと激しく言葉を交わしながらマーキングについて確認していた。この光景は、ドログバが退場し、インテルがほぼ勝利を手中に収めたアディショナルタイムになろうかという時間になっても、見る事が出来た。 これがあの、インテルの姿だろうか。他を圧倒する強さを持ちながら、常にチーム内でのいざこざが絶えず、CLではあまりにも淡泊なゲームをやってあっさり敗退し、セリエA衰退の象徴的存在としての烙印を押され、それでも奮起することなく毎シーズンのように同じことを繰り返す。それが2シーズンほど前までのインテルの、当たり前のような姿だった。 だがこの日のスタンフォード・ブリッジには、そのようなインテルはいなかった。選手、スタッフ、ファンが一丸となり、勝利に向かってまい進し、試合終了のホイッスルまで一瞬たりとも緊張を緩めない。まさに勝利に異常なまでに拘り、執念を見せ、そして勝ち取って見せた。勝気の塊のようなチームとなったのが、インテルだった。 もちろん戦術的にも精神的にも、随所でモウリーニョが選手にチェルシー対策のアドバイスを送っていたであろう事は、試合を通じて伝わってきた。だがそれより何より、モウリーニョが選手たちに教えた事、植え付けた事。それはまさしく、勝利に向かうメンタリティである。それがいかんなく発揮されたからこその、この大一番の勝利であった。 やはり今シーズンのインテルは、一味ちがう。
posted by Alan Hetarade |07:35 |
UEFAチャンピオンズリーグ |
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