2010年02月28日
帰ってきた“エース”藤原正和 【東京マラソン】
■栄光の学生時代 藤原正和――― 長年の陸上ファン、及び箱根駅伝を見てきたファンにとっては、忘れられない名前である。 彼は中央大学在学時代、押しも押されぬ学生長距離界のエースであった。のみならず、今後10年の日本の長距離ロード界のエースに君臨するであろうと目された、紛れもない天才ランナーだった。 2000年の第76回箱根駅伝、1年生にして5区を任された藤原は、1時間11分36秒(当時の5区は現在より短く、柏原らとタイムでの比較はできない)で山を駆け抜け、見事に区間賞を獲得。鮮烈な箱根デビューを飾った。その後01年、02年も5区を走ってそれぞれ区間2位、3位と、安定して良い成績を収める。 そして4年生となった03年の第79回大会では、満を持して花の2区に登場。この時の2区には、昨年の実業団駅伝で劇的なトップフィニッシュを飾った松下龍治(駒澤、現富士通)や世界陸上のマラソンで11位に入った清水将也(日大、現旭化成)をはじめ、09年日本選手権10000m3位の尾田賢典(関東学院、現トヨタ)、独特の走法とクロスカントリーの強さで印象深い飛松誠(帝京、現安川電機)、後にホンダでチームメイトとなる三行幸一(東洋)、留学生のオンベチェ・モカンバ(山梨学院)などが出場していた。そんな彼らの中で、誰よりも早く2区を駆け抜けたのが、藤原だった。 さらに同年のびわ湖で、衝撃的なマラソンデビューを飾る。歴代屈指の高速レースとなった同大会では、翌年のアテネオリンピック代表となる国近友昭や諏訪利成らが次々と遅れる中、終盤で壮絶な3位争いを演じたのが、佐藤敦之、清水康次、そして藤原の3人だった。この中で終盤一気にスピードを上げたのが藤原で、当時次代のエースとして期待されていた佐藤、さらに安定感のあるベテランとして確固たる地位を築いていた清水を引き離し、堂々日本人最上位の3位入賞。2時間8分12秒という日本人初マラソンの歴代最高タイムをたたき出し、見事その年のパリ世界陸上のマラソン代表に内定した。 ■怪我での低迷、ステップ・バイ・ステップの復活 しかしそのパリの世界陸上を負傷で欠場すると、04年に駅伝に出場するも、その後長らく表舞台から姿を消すことになる。その間、彼が日本代表のエースとして出場することが期待されていたアテネ、そして北京オリンピックが開かれたが、当然藤原はそこで走ることは出来なかった。その間に日本のマラソン界を牽引したのは、油谷、尾方、佐藤といった中国電力勢だった。 07年の東日本実業団駅伝、藤原はHondaの選手として6区に登場し、区間3位とまずまずの走り。地味ながらも、第一線に帰ってくる。08年の全日本実業団駅伝では、最終第7区で区間賞を獲得。その勢いをかって出場したびわ湖マラソンでは9位と振るわなかったものの完走を果たす。まるで一歩一歩、着実に感触を確かめながら往年の感覚を取り戻すように、藤原は歩みを進めてきた。 迎えた今シーズン。東日本実業団駅伝では、2番目に長い7区で区間賞を獲得。全日本実業団駅伝では最長区間の4区に登場して8位と、まずまずの走りを見せる。そして2年前のびわ湖とは違って勝利を期し、準備万端で臨んだ3回目のマラソンで、40kmすぎでスパートを決め、遂に優勝を飾った。 ■真の“エース”と呼ばれるその日まで これまでの藤原のキャリアでの全盛期という言い方をするのであれば、おそらく自他ともに中央大学時代を挙げるであろう。当時の藤原は、速さ、強さ、安定感を併せ持った、本当に隙の無いランナーであった。箱根駅伝での安定した成績、そして初マラソンながら叩きだした2時間8分台というタイムが、それを物語っている。 現在の藤原に、あの頃のようなスピードがあるかどうかは、まだ定かではない。今大会は最初から全選手が勝負に徹する(そうせざるを得ない)ほどの悪コンディションの中で行われた大会であり、レースの展開として、藤原のスピードが試される機会は無かった。そのため優勝したとはいえ、彼が完全に往年の走りを取り戻したかという事に関しては、評価する事は出来ない。 しかし、彼が持つロードでの“強さ”が戻ってきたことは確かだ。いや、怪我を乗り越えて円熟味を増した彼の心は、学生時代よりも強くなっているだろう。我慢を強いられる展開の中、序盤は常に集団の後ろで待機を続け、途中でダメージにならない程度の揺さぶりはしかけたものの、本当の力は40kmまで取っていた。あれを焦れて35km過ぎでスパートしてしまっていたら、今日の藤原の勝利は無かっただろう。そこまで勝負をガマンできたのは、やはり彼が貪欲に勝利に拘り、またその心を押さえつける事が出来る強さを併せ持っていたことを示す。 日本のマラソン界としては、失望の福岡国際の後、別大、そしてこの東京と、2レース続けて同じような展開のレースが続いた。その中で、福岡では新鋭の井川が活躍し、そして東京では藤原が復活劇とも言えるレースを完遂した。どちらも日本のマラソン界にとって、非常に明るいニュースである。 しかし優勝を飾ってなお、過去の彼を知っている者ならば、こう思うだろう。 ―――まだまだ藤原は、こんなものじゃない――― それはファンはもちろん、Hondaの明本監督も、そして藤原本人も思っているところだろう。彼は優勝直後にも関わらず、インタビューでロンドンオリンピックについて言及した。この優勝が、キャリアのハイライトになる選手ではない。そうなってはいけないし、そうはならないだろう。それほどのポテンシャルを、藤原正和は秘めている。 藤原正和の全盛期は、日本マラソン界のエースとしてのキャリアは、まだこれからである。
posted by Alan Hetarade |18:08 |
陸上競技 |
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