2008年06月01日

日本水連の危機意識に疑問

◆対抗場はデサント社製か◆
この件に関しては私の側としても後だしじゃんけん的になってしまうが、スピード社製の水着を着た選手が見違えるような結果を出しているのは、ここ1ヶ月ほどの事ではない。2月のミズーリGP、3月のヨーロッパ選手権、そしてオーストラリア選手権。ここでスピード社の水着を着用した選手が好記録を連発。アメリカのナショナル選手権はこの後開催されるため、マイケル・フェルプスやライアン・ロクテらによってさらなる世界記録が誕生することも予想される。

今年に入って数多の世界記録が誕生しているが、現在長水路の世界記録を樹立した選手で、唯一スピード社以外の水着を着用していたのは、イタリアのフェデリコ・ペレグリーニ。彼女はアリーナ、即ちデサント社製の水着を着用していた。今回の改良品でも伊藤華英がデサント社製に対して好印象を抱いた旨のコメントを出している。

フランスのロール・マナドゥもフランス選手権において、アリーナとスピードの水着を併用している。以上のような点を考えると、現在世界で圧倒的なシェアを誇るのはスピード社製。そして現状、それに追随しようとしているのはデサント社製、と言えるはずだ。アシックス社製に関しては着用している選手が少ないため、外部の人間が他社と比較するのは難しい状況にある。


◆根本的なコンセプトの違い◆
そもそもなぜ、ここまで水着による“差”が生まれてしまったのか。新聞などでも取り上げられているが、そもそもスピード社とそれ以外のメーカーに於いては、開発段階でのコンセプトにそもそも大きな違いがあった。

スイミングマガジン(ベースボール・マガジン社)に掲載されたLZRの広告を見ると、「受動抵抗を軽減」「スタート時、ダッシュ時、ターン時の加速効率向上」「酸素摂取効率の向上」といった具合に、各項目において従来比でどれくらいLZR RACERが優れているのか、具体的な数値で示している。一方ミズノやアシックスの広告では、骨盤を中心に身体のコア(体幹)の安定性向上が謳われているが、具体的な数値による改善までは示されていない。またミズノは契約している各選手のコメントを掲載しているが、「着心地が良くなった」という旨のコメントが見られる。

ここから見えてくる両者の根本的なコンセプトの差。スピード社が水着自体の性能を上げることによるスピードアップを目指したのに対し、ミズノ社らは選手の能力を引き出そうとすることに主眼を置いていたのだ。細かい材質、締め付け云々以前に、水着を作る前提が違っていたのだ。結果的には、“水着自ら速くなる”ことを選んだ、スピード社製に軍配が上がる事となった。


◆気になる現場とのギャップ◆
とにもかくにも3社の新作水着は完成したわけだが、付け焼刃的な対応だった感は否めない。そして1ヶ月やそこらの急場しのぎで創り上げた水着に関して、選手が疑問に思うことは当然。そんな最中、ヨーロッパへ遠征に出る森田智巳が新水着が届いていない事に関して不満を漏らした。これは至極当然な事である。

私自身は選手として誇れるようなレベルには無かったが、実力あるスイマーほど、事前に試さずいきなり試合でその水着を着用するという事は無い。試合を想定したタイム計測を練習内で行う日などには普段の練習用水着に加えて試合用の水着を持ってきて、実際にタイムを計測する際には水着を着替えて、感触を確かめるものだ。トップスイマーであればあるほど、こういった細かい点にも過敏になると言える。

今回遠征に出発する選手のリストは事前に分かっていたわけだから、森田にはより優先的に水着が支給されるべきだった。それが後回しになっているという現状は看過できない。確かに対外的に見れば森田はメダル獲得に向けて厳しい状況にあるが、それでもメドレーリレーの代表選手であり、何より彼自身も代表選手なのだ。そのような点も考慮できない日本水連、そしてメーカーの姿勢には、現場との差異があるといわざるを得ない。


◆対応遅い連盟に不安◆
冒頭にも書いたとおり、スピード社製の水着を着た選手が目覚しい結果を出したのは、何もここ1ヶ月の話ではない。2月のミズーリGPでカースティ・コヴェントリーとナタリー・コグリンがいずれも驚異的な世界記録を出している。そして3月のヨーロッパ選手権、オーストラリア選手権。ここでLZRの優位が決定的になった。しかし日本でこの問題が騒がれるようになったのは4月の日本選手権後。確かにそこまで待たなければ日本選手がどのような結果を出すのか分からなかったとはいえ、選手側は既に選考会に気持ちを向けている。

こういうときこそ統括団体が主導し、公にするのは選手権後としても、メーカー側と競技の場などを持っておき、あらゆる事態に備えて対応できるようにしておくべきだ。ところが連盟が3社に改善の支持を出したのは、日本選手権後。そしてミズノ社などはGW後に水着の開発を行ったというが、これでは明らかに対応が後手後手に回っている。選手が一層不安になるのも無理はない。

今回の新作水着発表の際にも連盟は3社の努力を褒めるようなコメントを出したが、現場レベルでの感想がない中であのような発言をするのは不適切。建前にしても、だ。選手がより一層不安になるのも無理はない。


◆もっと危機感を持て◆
このように水着問題において連盟は対応を誤った感があるが、これは連盟がメーカーと契約している中で、公平性のある判断を欠いてしまったためである可能性が高い。2月に行われた短水路選手権でのMVPの選出(男子は3種目日本新の佐藤久佳ではなく北島康介が、女子は100mバタフライで敗れた中西悠子が選ばれた)においても、連盟がスポンサーに対して気を使っていたことは明らか。今回の水着問題においても、契約しているミズノ社らとの関係が気になり、素早い対応が出来なかった。

このような連盟のぬるま湯的な体質は、北京オリンピックに向けてのJOC視察団のレポートにも表れている。スイミングマガジン4月号に掲載された村松さやか/日本水泳連盟競泳委員のレポートでは、「マイナス面に気をもむより、プラス材料を作る」「状況はきわめて良好。心配することはない」としている。村松氏は根拠として、米や炊飯器、加湿器、或いは控え室で使用するマットが現地調達できること、或いは選手村からプールまでが徒歩圏内にあること、などが挙げられている。

しかし、どうだろう。毒餃子問題が起こった今、北京で売られている米を食べて、果たして安心と言えるのだろうか。土鍋から亜鉛が検出された中、北京で売られている炊飯器は使えるのだろうか。マットの材質はどのようなものなのか。加湿器の性能は大丈夫なのだろうか。また食事に関してもアテネ五輪時と同じ会社が請け負うから大丈夫としているが、その食材はどこから調達されるもので、それは本当に安全なのだろうか。大気汚染や衛生面に不安がないとしているが、科学的な数字はこのレポートにはまったく示されていない。

そもそもマイナス面を洗い出そうとせずプラス面を探そうとしている時点で、“コンセプトが間違っている”のではないか。実際に現場レベルで選手と接触するような役員がこれでは、日本水泳連盟の北京オリンピック対策には、あらゆる面で不安が残るといわざるを得ない。

posted by Alan Hetarade |13:08 | 競泳競技 | コメント(8) | トラックバック(3)
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日本水連の危機意識に疑問

動きが遅いのもありますし、中々決断をしないのも選手の不安をかきたてるでしょうね。
それこそダメならダメでも早めに決めた方が選手も無視してスピード社製を使うか、諦めるか腹を括れるものだと思いますが、条件もつけずに「とりあえず3社のを見てから最終決定をする」とずるずる期限だけ延ばしているだけでますます選手を精神衛生上悪い状態にもっていっているのではという気がします。

統括団体が頼りないというのは日本の場合ほぼ全ての競技にあてはまりそうですけれど、一方で一部競技ではそれこそ運営もままならないような現状もあるわけでスポンサーとの関係は色々難しい部分があるんでしょうね。

posted by 川の果て | 2008-06-01 19:37

日本水連の危機意識に疑問

川の果てさんの仰る通り、
相撲協会然り、日本の競技団体は昔から外部監査が行われず、
古い縦社会構造が色濃く残っていると思います。
世界の流れを読んで、積極的に良いところを
取り入れるよりは、自分の過去の栄光や保身の為に、
上手く団体を回そうとしている感が否めません。

これは産業面でも同様で、護送船団方式といわれる自己保身の形は、
やはり鎖国時代から染み付いた、血の巡りの悪い、
良くいえば安定気質という日本人の特質に近いものだと思っています。
このグローバルの時代において日本があらゆる面で取り残されているのは、
そういった自己安泰の気質が影響しているのだと個人的に考えております。

しかし、大体において内部崩壊をかばい切れず、ボロが外に漏れ出たところを
突かれて一度崩壊して、健全な流れになっていく…という一種定型が出来ている様にも思えます。
その流れの一番の犠牲者は、選手たちなんですよね。

結局何を一番に優先すべきかをしっかり見据えられるかどうかなんでしょうね。

posted by コータロ | 2008-06-03 10:43

>川の果てさん

そのとおりなんですよね。この問題、責任の所在がどこにあるのかというのは非常に曖昧ですが、ぐだぐだと問題を引き伸ばしている分、選手への影響も大きくなるのでは、と心配しています。一応もうすぐ結論が出るはずですが、今回のジャパンオープンでLZRを穿いて記録を出した選手もいるわけで、既にチョイスが分かれつつある辺り、やはり心理的な影響は既に出ているでしょうね。

統括団体は、まぁそれこそ某競技の協会とかどうしようもないのもありますが、それでもやはり理想を求めてしまうもので(笑) 日本水連はスポンサー集め、競技の普及という点では近年かなり成功を収めていると思いますが、その一方で選手たちへの影響というものも忘れないでほしいものです。

posted by Alan Hetarade | 2008-06-06 23:24

>コータロさん

上記のとおり、統括団体の近年の活動としては、日本水連はかなり成功している部類だと思います。その一方、やはり内輪でコソコソ何かをやっているんだろうな~、と思ってしまう場面は多いですね。仰るとおり組織は風通しがよくなくては、と思います。あまり良すぎても問題アリでしょうが、ある程度外部から指摘が入ってそれを上層部が受けられるような体制は、作っておくべきでしょうね。

個人的には水泳連盟もそろそろ尻尾が出てきているかな、という気がします。まぁ私はこのレポートを読んだ分、今度の北京オリンピックで何か変なことが起こったら、真っ先に連盟の責任を追及するつもりですが(笑)

ホント、選手が安心して競技に打ち込めるように、尽力してもらいたいですね。

posted by Alan Hetarade | 2008-06-06 23:28

日本水連の危機意識に疑問

日本でもたこ焼きメーカー製の水着が発表されたにも係わらず、日本製のミズノ等がそれを採用使用ともせず、
自分の会社の性能に疑いを持たなかったのは、まったく無責任です。あのたこ焼きメーカーの水着を採用していれば、もう少しは対面を保てたが、今になっては遅すぎる。
北京オリンピックにはsupeedo社製採用しなくてはならない。日本でも中小の技術者のの水着を馬鹿にするからこうなっただけで、日本のミズノ社他2社の責任は重い。
日本水連もこれだけのスピードを見せつけられて、日本社製品を採用することもない。

posted by 小田継雄 | 2008-06-08 20:47

>小田継雄さん

あのたこやきラバーの話は、ちょっと失望しましたよね。ここに来てなに意地張ってるんだ、と。3週間やそこらで、スピードが何年もかけてやった開発と太刀打ちできるはずがないわけで。あのたこやきのが選手の手に渡らなかったとしたら、不幸な話ですよね。善意でやってくれたのに。

もっとも契約とかを考えると仕方ない部分があるのでしょうが、ただどちらにせよ、負け犬が云々やっているなぁ、としか思えませんね。

まぁあそこまでハッキリしちゃうと、日本代表もほぼ全員LZRじゃないんでしょうかね。さぁこれでイタリア水泳連盟はどうするんだろう(笑)

posted by Alan Hetarade | 2008-06-10 00:31

日本水連の危機意識に疑問

2月に行われた短水路選手権でのMVPはFINAポイントにより自動的に決められるものですよ。
この件に関しては、水連がスポンサーに気を使ったということはありえないと思います。
http://www.japan-swim.com/short2008/pdf/prize.pdf

posted by ろう人形 | 2008-07-01 23:41

>ろう人形さん

ありゃ本当だ。ご指摘ありがとうございます。
ってかFINAポイントなるものがあること自体知らなかったですわ。

posted by Alan Hetarade | 2008-07-02 05:48

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