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静かなる〜テニス全米オープン2017〜

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 4横綱のうち3人休場で始まった大相撲秋場所は、その後高安、照ノ富士もケガで脱落し、3横綱2大関休場という99年ぶりの緊急事態で中日を迎えている。テニスに例えれば4横綱はさしづめビッグ4か。年中綱取りを期待されながら波のある大関バブリンカ。ラオニッチ、錦織あたりは、カド番ですよ〜という感じ。期待の若手北勝富士はティエム、阿武咲はズベレフ。味のあるベテラン嘉風、玉鷲は、ガスケ、ツォンガとダブる。

 いずれにしてもケガには勝てず。早々に今期離脱を表明したジョコビッチ始め、バブリンカ、錦織、ラオニッチもお休み。直前にマレーもアウト、というわけで、大相撲同様、ちょっと記憶にないくらい上位陣不在で迎えた今年最後のグランドスラム全米オープン。ああ、もう終わって1週間になるのか。

 準決勝が終わった時、もう今年は、トップハーフはナダルの優勝、ボトムハーフはアンダーソンの優勝でいいじゃん、と思った。風邪引きよれよれのデル・ポトロが驚異の復活でティエムを破り、フェデラーにもさくっと勝ち、ナダル相手についに力尽きたあたりで胸いっぱいおなかいっぱい。もういい、十分、みんな優勝、みたいな気分だった。ナダルが勝ち残っていることはうれしかったけれど、これ以上望んだらなんかバチが当たりそうな気がして、ちょっと決勝が怖い気持ちもあった。

 だって、1年前、ナダルが来年グランドスラムふたつ取るよ、なんて誰が想像出来ただろう? しかも全盛期より強くなって帰ってくるなんて、お釈迦さま、知ってた? 知ってた?

 3ヶ月前、全仏で10回目の優勝を果たした時、復活の要因はと聞かれて「Health」と即答していたのを思い出す、その短いひと言に込められた万感がやたら胸に沁みた。どんなにうまくいかなくてもヤケを起こさず、自分を信じて、努力を続けること、情熱と希望を失わず、それでもテニスを好きでいること。言葉にすればなんてたやすい。全豪とウィンブルドンを制したフェデラーも同じ。あのおだやかなたたずまいの陰に、どれほどの過酷があったのだろう。

 今年ふたつ目のグランドスラム、3回目の全米チャンピオンとなった瞬間、ナダルは意外なほど静かだった。黙々と試合をして、勝利のあとは思い切り感極まることが多いのだが、夕暮れの濃いブルーに包まれたセンターコートで、ナダルはコートに倒れこむことも、涙を流すこともなく、噛み締めるような笑顔だった。元気にテニスが出来ることが、ただうれしくてたまらない。シンプルで、だからこそ深い喜びが伝わって来るような笑顔だった。ああ、よかったなあ、ほんとうによかったなあ、と、思った。

 そして、6-3,6-3,6-4のストレートというスコアにも関わらず決勝が凡戦にならず、堂々たる熱戦以外の何物でもなかったのは、ひとえにケビン・アンダーソンの健闘の賜物である。ほとんど満身創痍に近いケガを克服し、初めてグランドスラム決勝のコートに立った、31歳、2メートル3センチの静かな南アフリカ人は、これまでにないほど声を上げ、ガッツポーズで自分を鼓舞して勝ち進み、どんなに劣勢でも1球もあきらめることなく、最後まで勇敢に戦った。築20年となったアーサーアッシュスタジアムの神さまは、彼に勝利は与えなかったけれど、ただいちどに賭ける思いの強さは、相変わらず行儀の悪い全米の観客席にふかぶかと刻まれたはずだ。

 次がナダルのサービングフォーザマッチとなった時、ベンチで息を整えながらアンダーソンはほんのり微笑んでいたように見えた。届かないとわかってなおベストを尽くすこと。この日、ナダルのファミリーボックスにいたタイガー・ウッズの胸に残ったのは、もしかしたらナダルではなくてアンダーソンの姿だったかもしれない。

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テニス
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テニス全米オープン

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篠原美也子。シンガーソングライターであり、1児の母であり、感傷的スポーツウォッチャー。佐瀬稔氏、藤島大氏を師と仰ぎ、HPにもスポーツに関するエッセイ多数。宇都宮徹壱氏主筆のメールマガジン”徹マガ”にて、月1コラムを連載中。15年秋、初の書籍となるスポーツエッセイ集「スポーツに恋して〜感傷的ウォッチャーの雑食観戦記」(花伝社)を上梓。
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