2008年07月07日

空の果てのナダル〜ウィンブルドン2008〜

もちろんベストは実際に足を運ぶことだが、母業嫁業歌手業やってるとそうも言ってられず、スポーツはせめて出来るだけ生放送で観ると決めている。例えば私がプロ野球をほとんど観なくなったのは、子供が産まれて、夜7時がゴールデンタイムではなくなってしまったからだ(サッカーの代表戦とか、バレーボールとか、息子@5歳と一緒に観るけど、今何点!?あと何分!?あれは誰!?どっちが日本!?と、延々続く質問の相手をしながら試合を追っかけるのはやっぱしんどいっす、笑)。子持ち主婦スポーツウォッチャーのゴールデンタイムは、子供が寝てから深夜にかけて。音楽家という職業柄、もともと深夜は正しい生息時間帯。とは言え家事と子供にエネルギーありったけ持ってかれることも多く、現在いちばんの敵は睡魔という状態ではありますが(笑)、ま、そんなわけで、時差のある海外スポーツの生中継はありがたい。テニスで言えば、私が全仏・全英に限ってハードウォッチするのは、中継が始まるのがこちらの夜9時〜12時前後という絶好のタイミングだからだ。連夜の寝不足に試合を観ながら沈没する日もありつつ(今年はサッカーのEUROも重なったし)、生放送にこだわる。ビデオに録って観ることはしない。

2008年7月6日、テニス全英オープン男子決勝。試合開始予定は現地午後2時、こちらの午後10時。首尾良く子供を寝かしつけて、テレビの前でスタンバイオッケー。雨のため30分ほど遅れて、フェデラー対ナダル、3年連続同カードの頂上対決は始まった。今年もフルセット?、までは誰もが予想しつつ、期待しつつ。あの時、はげはげの芝生の上では勝負の女神が、作りかけの開閉式屋根の陰ではお天気の神さまが、きっとこっそりほくそ笑んでいたに違いない。なめんなよー。雲が切れて陽射しあふれるセンターコート。テニス史上最高の長くて深いドラマの幕は切って落とされた。

詳しい試合の経過は、きちんと伝えているところがたくさんあるので、細かくは触れない。ほとんど無骨なまでに直進し、自分を動かさなかったナダル。芝への自信とプライドで首の皮一枚つなぎながら、寄せては引くチャンスの波間でもがき続けたフェデラー。1ゲームにも匹敵するような濃密な1ポイントの積み重ね。イレギュラー。強風。13日間の闘いであちこち芝のはがれたコートの上を横切る雲の影。タイブレーク。マッチポイントをかわしたフェデラーのバックハンドのパッシングショット。ゲーム間に混ざり合って鳴り響く「ロジャー!」コールと「ラファ!」コール。屋根のない最後のセンターコートとの別れを惜しむかのような雨による2度の中断。ロンドンの遅い日没。初めて見るウィンブルドンの夕暮れ。期待通りのフルセット。ナダルワンブレークアップで迎えたファイナルセット第16ゲーム。フェデラーのフォアハンドがネットにかかり、合計62ゲーム、4時間48分の陣痛は、光の最後のひとひらが完全にフェイドアウトするのと同時に、新しい芝のチャンピオンを産み落として終わりを告げた。現地時間午後9時16分。試合開始から6時間46分。勝負の女神と、お天気の神さまの笑い声が聞こえるような気がした。もうボールが見えなかった、と、試合後フェデラーもナダルも語っている。でもあの試合をサスペンデッドするのは無理だった、と思う。それも含めて運命だった。そして、何年かにいちどの、もしかしたら一生にいちどのそのような運命の瞬間を目撃するために、私は多分生中継にこだわっているのだ。日本は午前5時16分。夜半に落ち始めた雨が、夜が明けてもまだ降り続いていた。

文字通り観ている方が先に倒れそうな緊迫した展開にこらえ切れなくなると、選手に申し訳ないような気持ちになりながら、テラスに逃げ出して一服する。窓のガラス越しに観る音のない試合は、それはそれで緊張感にあふれているけど。ゲームの合間、のけぞるように夜空を見上げる。この空をたどっていくと、どっかでグラデーションが始まって、朝になり、昼になり、あのすごい決勝をやってるんだなあと思うとわくわくする。はるか彼方のリアルタイムを思う時、とても自由な気持ちになるのは、なぜだろう。寝不足も省みず生中継にしがみつくもうひとつの理由は、この瞬間にある。喜びも悲しみも戦争も宴会もスポーツも、何もかもが世界のどこかで同時進行しているという気が遠くなるような認識。今まででいちばん悲しかった生中継は、ワールドトレードセンターへのテロと、イラクへの空爆だった。世界はどうしようもなくひとつで、どうしようもなくひとりずつだ。でも、それすら勇気だと思えてしまう瞬間。この雨雲の向こうにある太陽は、さっきまでウィンブルドンのコートを照らしていた太陽なんだと思ったら、あと2時間足らずしか眠れなくてもがんばれそうな気がした。真っ暗なセンターコートでの表彰式。空の果ての新チャンピオンは、カメラに向かってうれしそうに優勝トロフィーをかじっていた。心からの祝福が、届くかな。届くといいな。世界はそのようにして、どうしようもなくつながっている。そして、今も、どこかで、勝者が、敗者が、継続し、連鎖し続けている。

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posted by シノハラミヤコ |12:05 | テニス | コメント(11) | トラックバック(0)
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空の果てのナダル〜ウィンブルドン2008〜

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あなたの文章、とっても素敵です!
本当にいい試合でしたよね。
昨日感動しながら観戦した試合を、この文章を読みながら思い出してまた心がぎゅっとなりました(^^)

posted by tegedarikossen1313 | 2008-07-08 02:53

空の果てのナダル〜ウィンブルドン2008〜

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初めまして。ナダルが大好きで、色々な記事を読み漁っていて、こちらも覗かせていただきました。
先の方も書いていらっしゃいますが、とてもとても素敵な文章に、思わずコメントを残したくなってしまいました。
昨日の試合は、ヘタに4,5時間の睡眠をとるよりも、もっともっと素晴らしい新たな活力を与えてくれた時間でした。
あの試合をリアルタイムで観戦出来たこと、本当に素晴らしく思います。
本当に、素敵な記事をありがとうございました。
また、覗かせて下さいね。

posted by ぴこ | 2008-07-08 05:56

空の果てのナダル〜ウィンブルドン2008〜

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ナダル好きの一人です。楽しく読ませて頂きました。昨日は試合を見ながら2度泣きました。ナダルの誠実さと、フェデラーの勇気に。

posted by Ken.T | 2008-07-08 11:20

空の果てのナダル〜ウィンブルドン2008〜

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コメントを、ありがとうございます!
すごくすごくうれしい。
あの時のナダルのように、あの時のフェデラーのように。
時間が経って思いだした時、きっと力をくれる、
そんなふうに思えた試合でした。
なので、なんとしても書き残しておきたいと思って、書きました。
これからも、色んなスポーツのココロに残る瞬間を書いていきたいと思ってます。
読んでくださって、ほんとうにありがとう。

posted by シノハラミヤコ | 2008-07-08 13:20

空の果てのナダル〜ウィンブルドン2008〜

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はじめまして。
私も朝までゲームを見ていた一人です。
昨日はフラフラで仕事をしましたが、本当に生中継で最後まで見届けることができてよかったと思っています。
フェデラーとナダルの心とカラダのとてつもない強さと
ゲーム後のインタビューの素晴らしさに感動をしました。

ステキな記事を有難うございました。
また、遊びにこさせていただきます。

posted by BLUE | 2008-07-08 13:48

空の果てのナダル〜ウィンブルドン2008〜

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自分の気持ちはフェデラーの6連覇を見ることが出来なかった。。。この先2度と見れないだろう。。。この数日きもちは沈みっぱなしです。。。

posted by ゴン太 | 2008-07-08 20:15

空の果てのナダル〜ウィンブルドン2008〜

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こういう文章書けるのをうらやましいと思いながら読んでいました。哀愁があるようで、希望も持たしてくれるというか何というか。うまく言えないですが。これからも楽しみにしています。

posted by ホーリー | 2008-07-08 22:35

空の果てのナダル〜ウィンブルドン2008〜

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興味深く読ませていただきました。
いろんな要素の詰まったすばらしい試合でしたよね。

>時間が経って思いだした時、きっと力をくれる、
>そんなふうに思えた試合でした。
非常に同感です。

私は、昨年、ナダルファンなのに最高の試合を見たと思っていました。が、あっさり今年それを上回る試合を見れました笑。来年もあの二人の決勝を楽しみにしたいです。

posted by betti | 2008-07-09 02:37

空の果てのナダル〜ウィンブルドン2008〜

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この空をたどっていくと、あのすごい決勝を~。
読んではっとしました。こんなことも最近感じられなかった自分が情けない。
朝早く起きてテレビをつけると、試合は終わったばかりで、ウィンブルドンの空の色と会場を去る人々の映像に、心が締め付けられる感じがしました。あ~本当に生で見ればよかった!4、5時間の睡眠なんて、ほんとにちっぽけですね。後悔ばかりです・・・

posted by polo | 2008-07-09 10:31

空の果てのナダル〜ウィンブルドン2008〜

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初めまして。先日のウィンブルドンの決勝の余韻に浸りたくてこちらに辿り着きました。
私もテニスプレーヤーですが(勿論アマチュアです)あの試合を言葉に出来ません。。
ミヤコさんの気持ち凄く分かります!私は大のラファ・ファンなので4セット目のタイブレークでナダルが5-2とリードして迎えたチャンピオンシップ・ポイントの時は心臓が止まるんじゃないかって位に、その場から逃げたくなりましたよ。
私も試合でマッチ・ポイント迎えた時は少なからずとも緊張はしますが、この試合程のもんじゃありません。
ナダルもダブル・フォルト喫しましたが私ならトスアップすら出来ないだろ~なって。
結果ファイナル・セットまで縺れて「やっぱり芝ではフェデラーが一枚上手か・・」過去2年連続の結果が頭を過ぎりました。
しかし・・こんなドラマチックな結末が待っていたなんて・・・
このテニス史上最大・最高の試合を私は生涯、忘れる事は無いでしょう。
ミヤコさんの文章の最後の括り「勝者と敗者…」表彰式の時のフェデラーのコメントを思い出します。
先にも触れましたが私は大のナダルファンです。だけどフェデラーの紳士な態度は間違いなく偉大な王者だとも思ってます。
この先も二人の「良きライバル対決」を楽しみにしています。最後に・・・フェデラーがフォアをネットにかけてナダルが大の字にコートに寝転んでガッツポーズした瞬間、私は泣いてしまいました。。

posted by ユージ | 2008-07-09 11:02

空の果てのナダル〜ウィンブルドン2008〜

コメント投稿者ID :

私も素敵な文章に思わずコメントしてしまいました。
これからも拝見させていただきます。
がんばってください。

posted by ぼす | 2008-07-10 19:45

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