2006年08月09日
10年分の思いをこめて 伊志嶺監督と島っ子たち 八重山商工野球部
「臥薪嘗胆」
最後まで決してあきらめない。
褐色の肌と濃い眉に彫りの深い顔。島の少年達の大きい二重の目はしっかりと見開き輝いていた。
第88回全国高校野球選手権1回戦、相手は一昨年ベスト4の千葉経済付。得点は6-4でリードされていた。9回表、ツーアウト。あと一人で試合が終わる。誰もがそう思っていたなか、窮地に立たされていた沖縄県代表、八重山商工の選手は誰一人、諦めていなかった。いや。諦めたくなかった。諦めることはこのチームでの最後の試合を意味することであり、何より、監督である伊志嶺吉盛が諦めないことを常に選手に教えてきたことだったからだ。
「勝つための根拠は練習だけ。今の生徒の多くには小学3年から野球を教えてきた。厳しい練習に耐えてきた子どもたちと甲子園に出場できるのは本当にうれしい」
本州のはるか遠く、そして沖縄本島からさらに400キロ離れた石垣島というこの小さい離島からでてきた八重山商工が甲子園にたどり着くまでには長い長いストーリーがある。それは監督、伊志嶺吉盛の歴史でもある。
伊志嶺と選手達の歩みは10年という歳月を経て積み上げてきたものだ。石垣島に生まれ育ち、自ら選手として甲子園を目指して野球に明け暮れた伊志嶺だったが、夢は叶わなかった。本島の沖縄大学に進学し準硬式野球で全国選手権、優勝を果たすも165センチの小柄な体ではプロは断念せざるをえなかった。帰島して伊志嶺が思い立ったことは
「子供たちに野球を教えて島に恩返しをしよう。」
1978年から1983年まで八重山商工の監督に就任したが結果は出なかった。94年に八島小学校の少年野球チーム「八島マリンズ」の監督になり、他チームの監督と共に8つのチームで島内リーグを作る。人口の少ない島内でより多くの試合を子供達にさせることが目的だった。この成果は実り、7年後には島の少年野球チームとして初めての全国制覇を遂げる。さらに、中学硬式野球、ポニーズリーグを設立し、「八重山ポニーズ」の監督としてチームを世界大会で3位に導く。そしてこの八島マリンズ、八重山ポニーズで手塩にかけて育てた選手たちが現在の八重山商工の主力の選手たちなのである。
八重山商工の監督に再度、就任し少年野球の選手達と甲子園を目指すと決めた時、練習着に「臥薪嘗胆」の文字を縫いこんだ。
臥薪嘗胆:目標を達成するためにはどんな苦しいことも耐える。
これは伊志嶺自らが経験してきた苦しみの中から見出だした教訓でもある。95年に20才の長男を亡くし、野球にのめりこみ全てを捧げる代償に2度の離婚もした。亡くなった長男に対して親父らしいことを何かしてあげられなかったかという自問にかきたてられ、その思いは少年野球の子供達に代わり、注いできた。子供たちにも苦しみに耐えることを「臥薪嘗胆」という文字を練習着に縫い付け、練習で体に染み込ませ教えてきた。
「高校野球で大事なのは精神面です。それを教えないと勝てないことに気付いた」
最初に八重山商工で結果を出せなかった経験から学んだことである。
すでに日は沈み、闇夜にカクテル光線が照らし始めた甲子園球場に金属音の響きがこだました。アルプススタンドでは沖縄民謡のリズムと指笛が勢いよく鳴った。9回、ツーアウトから同点に追いつき、さらに延長10回に逆転をとげ劇的な勝利をつかんだ八重山商工の野球に伊志嶺の生き様を見た気がする。10年間ともに歩んできた子供たちは伊志嶺の教え、そして野球をしっかり受け継ぎ体現している。
「気持ちでもぎとった勝利です。でもこのままでは次はないでしょう。」
伊志嶺は開口一番、インタビューで答えた。しかしまだまだ終えるわけにはいかない。それは選手も同じである。10年間、伊志嶺監督の元で小学校からずっとみんな一緒にプレーしてきた。プロ注目のエース、大嶺がナイン全員の気持ちを代弁する。
「もっと、みんなと野球がしたい。一番、長い夏にしたいんです。」
臥薪嘗胆。目標を達成するまで苦しみに耐える。
選手より熱くひときわ甲高い怒鳴り声を散らす伊志嶺監督と大きい二重の目をギラギラさせて必死にプレーする選手達。八重山商工の野球を見ればこの言葉の意味がよく分かるはずだ。
そして春のセンバツで果たし得なかった目標。伊志嶺監督と褐色の島っ子たちは悲願の優勝旗を石垣島に持って帰るべくまだ続く最後の夏を戦う。10年間、積み上げてきた思いとともに。
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posted by ブラウンシュガー |01:44 |
野球 |
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