新体操研究所

こんなステージ★観たことない。その10

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16, “Pursuit・・・追求・追跡・追撃” 

 ステージ上の6つの人影に、1つずつピンライトが当たる。青森大学のインカレ9連覇を果たし、全日本チャンピオンにも輝いた英雄達が、1人ずつ、暗闇の中に浮かんでは、消える。6人全員にライトが当たり終えてから、青森大学の2010年オールジャパンでの団体演技がスタートした。
 青森大学の十八番ともいえる、静かなもの哀しい旋律で、屈強な男たちが動き始める。6人が2つに分離した態勢から始まるが、すぐに6人は一体となり、力を合わせて1人を高く羽ばたかせる。そして、最初のタンブリングに入っていく。速い、高い! 5人目までが、すさまじい勢いのタンブリングでフロアをつっきり、そして、第1タンブリングの「トリ」として外崎が助走を始める。フロア左奥から右端に向かって、回る回る。ラストは、ダブルスワン! 決まった! 昼の部では着地でやや動いたが、夜の部では、ごくわずかなはずみで押さえた。青森大学卒業後にシルク・ドゥ・ソレイユ行きが決まっている外崎のダブルスワンを、団体演技の中で見られるのは、これが最後かもしれない。そんな思いで見守っていただろう多くの人々の期待に十分に応える見事なパフォーマンスだった。
 そこからの青森大学の演技には、なんの不安もなかった。迷いも見えなかった。その演技からは、長い時間いっしょに戦ってきた、常に支えとなってくれていた4年生との「別れ」を惜しむような、そんなせつなくて温かい思いだけが伝わってきた。
 
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 2010年11月21日、全日本選手権で青森大学の団体は連覇を成し遂げた。インカレ9連覇に続いて、ジャパンでも青森大学の連覇がまた始まった。2010年はそんな年だった。今の青森大学の強さはホンモノだ。そのことに、異論をはさむ余地はない。  だが、ジャパン決勝の演技を見ながら、私に伝わってきたのは、「王者の孤独」であり、「追われる身の苦しさ」だった。演技には揺るぎはなかった。ミスをしたわけではない。だが、青大の演技がかもし出す「せつなさ」が、あの代々木の体育館という空間の中では、「苦しさ」に映ってしまったのだ。  そこは闘いの場だったから。現に、青大よりあとに演技をした花園大学は、「追う身の強さ」を見せつけるような、のびやかで新鮮味のある演技で、青大を凌駕するほどの大喝采を受けた。  勝ったのは青大だ。それは間違いない。しかし、その闘いはいつも、「楽勝」ではないのだ。  だからこそ、見ているものは感動する。  だからこそ、進化が止まらない。  しかし、そこには傍から見ている者の想像を絶するプレッシャーがあるに違いない。  ジャパンでの青大の演技からは、私は、その苦悩を感じ取ってしまった。だから、演技のすばらしさに、ただ感動するというわけにはいかなかったのだ。
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 ジャパンの表彰式が終わり、胴上げもひと段落して観客席に座っていた中田監督に声をかけた。まずは「おめでとうございます」と伝え、そのあと、今回の演技から私が一番強く感じたのは「追われる身のつらさ」だと伝えてみた。すると中田は、間髪を入れずに「苦しいさ」と言った。「今回も、演技する前からもう次のことを考えている。今の4年生がいなくなったあとどう戦うのか考えてる。苦しいに決まってる」と。    強ければ強いほど、それを守っていく重圧はきつくなる。  中田も、青森大学も、もう何年も前からその重圧と戦っているには違いないが、「外崎成仁」という最強タンブラーを擁していた4年間が終わるというこの年に、抱える苦悩は例年以上に深かったのではないか。だから、ジャパンという舞台での演技から、その苦悩がにじみ出てしまった、それは決して採点に響くようなものではなかったし、感動を損ねるものではなかったけれど。  あのオールジャパンから2か月弱が過ぎた盛岡でのステージでの、団体演技は、4年生にとっては、正真正銘の「引退演技」だった。  そのステージで、私は、この演技が本来伝えようとしていたものを受け取ることができた、のだと思う。代々木の体育館では、「苦しさ」のほうが強く伝わってきてしまったが、ここ盛岡のステージでは、それ以上に「惜別の思い」が、静かに深く強く伝わってきた。  王者・青森大学といえど、「苦しさ」が伝わってきてしまうほどに、このチームにとっての4年生の存在は大きかったのだと。だからこそ、競技の場を離れたこのステージの演技では、ひたすらに「この時間が終わってしまう寂しさ」が伝わってきた。  神とも呼ばれた奇跡のタンブラー・外崎成仁、強力なリーダーシップで常にチームを引っ張り、大柄な体で青森大の演技に華とスケール感を加えていた鈴木大輔。この2人が青森大学を卒業し、シルク・ドゥ・ソレイユという新しい世界へ旅立ってしまう。おめでたく、誇らしいことには違いないが、今まで普通にそこにいた、偉大な先輩達の姿が、もう明日からはないのだということへの、みんなの思いが、この演技にはこめられていたように思う。そしてそれは、フロアマットにのっているメンバーだけでなく、このとき舞台袖で見ていただろう仲間達、観客席で見ていた仲間達の思いでもあったに違いない。  演技終盤、最後のタンブリングでは、外崎ひとりをマット左奥に残して、ほかのメンバー達はフロア前方に位置する。そして、外崎がスタートを切る寸前に、2人がもう1人を肩の上に持ち上げ、人間アーチを形成する。外崎はその人間アーチの下をものすごい勢いのバク転でくぐりぬけていく。人の作ったアーチの下をタンブリングでくぐる、そのリスク。お互いに信頼し合っていなければ、とてもできることではないだろう。そんな信頼のうえに築かれたこのアーチが、青森大学を卒業していく外崎のために用意された花道のように見えたのは私だけだろうか。  大学生活最後のタンブリングを決めた外崎は、日高に抱きかかえられるようなポーズになる。 これが、「おわり」だった。
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 もう、青森大学の団体には、外崎も鈴木もいない。男子新体操選手としての、彼らはここで「おわった」のだ。  だが、それは、青森大学にとっては、大きなターニングポイントではあるが、もちろん「おわり」ではない。新しい始まりなのだ。そして、外崎と鈴木にとっても。このおわりは「始まり」だ。それも、とてつもなく広い、大きな世界への旅立ちなのだ。  2010年ジャパンの青森大学団体演技のテーマは「惜別」だった、と私は思う。そして、この思いを乗り越えて、この偉大な先輩たちを乗り越えて、また、今年の青森大学は強くなっていくのだと、そう確信した。  「こん☆ステ」の演目の中で、唯一この作品だけが、演技を終えたあとに、ステージ前方に出て観客の拍手に選手たちが応えた。この作品だけは、ある意味、「こん☆ステ」の中の一演目を超えた存在だった。彼らのことは、やはり一出演者としてではなく、「青森大学新体操部団体チーム」としてみんなが讃えたかったのだ。この素晴らしい舞台を構成・演出した大沼氏にもそういう思いがあったのだろう。  彼らは、大きな功績を残し、感動を残し、このステージから飛び立っていった。男子新体操というステージからも羽ばたいて行った。この日、盛岡で、彼らのテイクオフの瞬間を見ることができた幸運に感謝したい。                        (写真は、2010年全日本選手権のもの) <撮影:小林隆子> ※小林隆子(こばやしたかこ)  ⇒AJPS(日本スポーツプレス協会)会員のカメラマン。『DDD』『クララ』『スポーツナビ』などで活動するとともに、自ら運営するWebサイト『Figgym』では、感性豊かな新体操の写真を公開している。 ☆緊急プレゼントのお知らせ☆   「こん☆ステ」への関心のあまりの高さに驚いています。たしかに、これは見て損はない、いや、見ないと損だったすばらしいステージでした。ただ、いかんせん盛岡開催。どうしても遠くて見に行けなかったという方も多かったと思います。  そういう方のために、せめてものプログラムを入手いたしました。出演者全員の写真も掲載されているこの貴重なプログラムを、プレゼントしたいと思います。ご希望の方は、rgkeikos@yahoo.co.jpまで「プログラム希望」という件名で、メールをお送りください。希望者多数の場合は抽選のうえ、20名の方にお送りしたいと思います。プレゼント申し込みの際は、お名前(ハンドルでかまいません)と、男子新体操に対するコメントをメールにご記入ください。当選された方には通知メールをいたしますので、住所などは当選通知を受け取ってからお聞きします。  応募締め切りは、1月20日(木)中とさせていただきます。たくさんの方からの応募をお待ちしております。  ※なお、当ブログのコメント欄に投稿いただいた方は、優先的にプレゼントさせていただきます。ふるってコメントもお寄せください。  




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DVD販売の件

シーナです。
DVD販売の件は、大変希望が多いため、現在前向きに検討中とのことです。信じてお待ちくださいね! 販売が決まりましたら、当ブログでもご案内いたしますので。

それまでの間、せめてものプログラムでお楽しみください。プログラムを送らせていただきますので、住所・氏名をrgkeikos@yahoo.co.jpまでメールしてください。よろしくお願いいたします。

こんなステージ★観たことない。その10

どうしてこのステージを見に行かなかったのか
とっても後悔してます。。。。(( T_T)
だって盛岡、遠くて。。。
DVD発売予定ありますか?
絶対買います。
販売してほしいな・・・。
関係者のみなさんおねがいいたします!!

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椎名桂子 競技経験者でも指導者でもない一介のフリーライターだが、1998年から新体操にはまり、本業もおろそかになるほどのめり込み現在に至る。その執念が実り、2004年からスポーツナビで新体操コラム執筆の機会に恵まれる。「R25」「DDD」「Number」等にも、活動の場を広げている。2010年は、ついに女子新体操のみならず、男子新体操にも本格的にはまり、ますます切実に新体操情報の発信の場を求めている。

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