2007年03月14日
選抜大会をほぼ1ヶ月後に控えたこの日、多くの高校でもそうであるように、埼玉栄高校でも団体のレギュラー争いが始まっていた。
団体レギュラー6名中5名はほぼ確定の状態、残り一席をかけて争っているのは2年の征矢(そや)と1年の高信(たかのぶ)である。
現在のところ、団体練習は高信を入れて行っている。だがまだ大会一ヶ月前であるし、この日の練習を見る限り、入れ替えの可能性はまだ十分にあるようだった。
この日の練習は、午前中からすでに団体の分習(団体を4つのパートに分けて行う練習)に入っていた。9時から練習を開始して分習を終えたのが11時過ぎ。その後各自柔軟に入り、11時半、新チームとなってから初となる全通し(曲に合わせて団体演技を通して練習すること)を行う。
埼玉栄の通しを初めて間近に見て、少なからず圧倒された。しかし初の全通しということで後半は疲れの色がみえていた。主将の青木が「最初はこんなもんか」と語ったのにも、何となくうなずけた。
通し終わるとすぐに、息も切れ切れのなか走って阿部監督のもとに集まり、講評をもらう。するとすぐに、また団体の曲が流れる。補欠の選手、征矢たちが通す番である。
先ほどの迫力のある通しから一転、一気に広くなったフロアの中で、動きは先ほどのそれと全く同じことをする。人を持ち上げたりする「組み」の部分では、そこに人がいることを想定して動く。
それぞれ通し終わると、レギュラー、補欠ともに阿部監督、橋本コーチの両名から講評をもらうわけだが、補欠の通しは阿部監督がレギュラーに講評している最中におこなわれる。
レギュラーほどしっかり見てもらえないのは当然のことだが、「あまりちゃんと見てなかったんだが…」で始まる監督の講評からは、やはりレギュラーとの大きな隔たりを感じずにはいられない。
征矢と高信の実力は、現在のところ均衡している。
タンブリングでは高信の方が上だが、彼は柔軟に大きな課題がある。体操は征矢の方が美しいが、こちらはタンブリングに課題を抱えている。一長一短、なのである。
技術の面で均衡しているとすれば-----決定打になるのは、精神面である。
征矢が新体操を始めたのは高校から。キャリアで言えば、中学時代から経験のある高信の方が上である。
団体のチームキャプテンを務める山中は話の中で、「アイツ、すっごいがんばってるよな」と征矢のことを評した。
橋本コーチは征矢のことを「自分で自分を追い込むことができる選手」だと言う。たまにそれが行きすぎて、体を壊してしまうほどに。
「練習中心がけていることは?」という問いに、征矢は即座に「気持ちで負けないこと。意味のある練習にすること」と答えた。今まで訪れた全ての高校でこの質問をしてきたが、すぐに答えが返ってくる選手は少ない。
技術が均衡しているとすれば、決定打になるのは、精神面である。
この日、全通しのあとの前後半(演技を前半と後半に分けて行う通し)では、監督から征矢が入るように指示された。
入れ替わりを言い渡された高信は、「抜けろって言われて何も思わないのか?」と監督に言われ、押し黙ってしまった。
何も思わないわけはない。むしろ自分でも分かっていた。
「気持ちが先輩より入っていなかった」。
それだけに、何も言えない。
前後半を1回ずつ行うと、この日の団体の練習は終了した。
午後の個人練習後は通常みな補強に入るのだが、団体の補欠は監督に呼ばれ、タンブリングの重点練習を行うこととなった。
タンブリングを見ていると、やはり高信の方が上かな、と思う。課題の1回ひねりでは「良いじゃん、それそれ!」と、何度か阿部監督から拍手をもらうシーンもあった。ただ、「忘れないうちにやるんだよ!」との注意のもと、もう一度やろうとするとどうも上手くいかない。自分のものにするには、まだ時間を要するかもしれない。
技術面では均衡、精神面では征矢がややリード。ただこの技術面の均衡も、近いうちにわからなくなる。というのは2年の征矢はこの後に修学旅行を控えており、丸々8日間、練習から離れるのである。
柔軟に課題のある高信だが、練習後にひとり追加される柔軟に加えて、寮でもそれを欠かさないという。この8日間が、ふたりに大きく影響することは間違いないだろう。
埼玉栄のレギュラーの行方は、まだまだわからない。
こうしてレギュラー争いを繰りひろげるふたりだが、そこにピリピリした空気は全くない。タンブリング練習を撮影したビデオを高信がチェックしていると、「オレにも見せてよ」と征矢が近づき、仲良く肩を並べて見入る。
彼らは争うべき相手はお互いではなく、自分の中にあるということを知っている。そんな気がした。
簡単な用語解説などはこちら→http://reportage.web.fc2.com/link.html
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埼玉栄高校 |
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2007年03月06日
公立高校の弱みといえば、大きく二つのことが挙げられる。ひとつは施設が私立のそれより劣っていること、もうひとつは学区制のため、強い選手を呼び寄せることができないことだ。
前者のことは、前橋工業に関してはあまり問題ではないだろう。ほぼ男子新体操部専用となっている、日当たりの良い天井の高い練習場に、だいぶ年季が入っているが、市からゆずってもらったというフロアが敷きっぱなしの状態になっている。
私立でも専用体育館などほとんどない中で、公立としては十二分に恵まれた施設である。
しかし後者の問題は、さすがに頭を悩ませるところである。
多くの私立校は、全日本ジュニア選手権などで好成績をおさめた中学生を呼び寄せることができる。学区制ではないし、遠方の選手であっても寮に入れることができる。時に学費免除などの特典がつくことさえあるのは、そこに「勝たなければならない」私立校ならではの事情があるためだ。
一方で公立ではそこまでのプレッシャーはない代わりに、経験者を集められない分、一から選手を育て上げなければならない。前橋工業もその例にもれず、部員は全員が新体操未経験者だ。
たとえば、これがサッカーや野球であれば、このことはチームの実力を決める上で、埋めることのできない決定的な差を生み出すものとなるだろう。
しかしながら、必ずしもそうならないところが、現在の男子新体操のおもしろいところである。前橋工業の新体操をみていて、改めてその魅力に気づかされた。
前橋工業男子新体操部の部員は全部で8名。その全てが、男子新体操未経験者である。中学時代に器械体操の経験の有無はあるが、タンブリング以外の動きに関しては全員が全く同じスタートをきる。それだけに、練習風景、特に個人演技の練習をみていると選手の個性やセンスがはっきりと見えて愉しい。
今度2年生になる岸は、練習を見ていると時々アレッ、と思うことがある。
スムーズに練習していたかと思うと、突然まったくの素人のようなミスをするのだ。
それもそのはず、彼は中学時代に器械体操の経験すらない、ズブの素人から始めた選手なのだ。
始めて1年にも関わらず、すでに十分新体操らしい動きをモノにしている。
男子新体操ではまったくの素人が、資質次第では1年足らずで十分に見れる演技をするのだ。
新3年生の桜井は、典型的な個人向きの選手である。
徒手(手具を持たない状態)で行うタンブリング練習でもいち早く手具をもち始めていたし、何かというと器用に手具を動かしている。
前橋工業の個人演技は、基本的に先輩の演技をマネるところから入る。
そのため部内で同じ演技をする選手がいるわけだが、同じ演技だけに、手具操作や体の使い方の器用さが際立つ。
また、練習中には大学生が演技で使用している曲がBGMとして流されるのだが、彼はタンブリング練習中、自分の番になるとわざわざ好きな曲に変えてから、気分をのせるようにしてからタンブリングに入る。
個人選手は演技構成や曲を、だいたい全て自分で決める。こういったこだわりも、「個人選手らしいな」と感じた。
ただでさえ各選手の個性がよくあわられる個人演技で、前橋工業の場合スタートがほぼ同じなだけに、如実に現れるその違いが見ていて愉しい。
しかしその個性も、団体演技となると必ずしも良い方向には働かない。
団体演技をみせる方法としては、大きく2つの方法がある。
ひとつはセオリー通り、全体のレベルを均一にあげる方法。もうひとつはひとり、スター性のある選手を入れてその選手を中心にみせる、という方法である。
しかし後者の方法は「スター選手」をとれる私立ならではの方法。やっとこさ団体を組んでいる公立校では、地道にレベルを均一にしていく外ない。
そうなってくると、邪魔になるのが個性やセンスの差である。
団体向きであるが、個人はさっぱりな選手がいれば、その逆もまたしかり。かと思えば、両方そつなくこなす選手もいたりする。経験の浅い選手ほど、そうした部分ははっきりと現れる。
加えて、前橋工業の昨年の団体チームは、6名のレギュラー中5名が3年生であった。新チームでの団体経験者は1名だけである。前橋工業にとって、今年は厳しい一年になりそうである。
昨年のインターハイでは12位。「柔らかい動きの演技で上手くみせられず、点数がのびなかった」と主将の大沢はその結果を振り返る。今年は「一昨年の固い演技に戻して」リベンジを図る。
初心者ばかりのチームだけに、今後の課題は多い。しかし男子新体操の魅力のひとつに「突然の成長」がある。昨年まで何でもなかった選手が今年とつぜんに上位争いに食いこんでくる、なんてことがままある世界なのだ。
現に、現在主将をつとめる大沢は、中学までテニス部に所属していた、これまたズブの素人から始めた選手である。
テレビ番組「笑ってコラえて」での男子新体操の特集に魅了さて新体操を始めた。数年前に一視聴者だった彼が、今では部を率いているのである。
男子新体操という競技の特性を、良くも悪くも如実にうける前橋工業。
選抜を経験してどのような成長をみせてくれるのか、今後も見守っていきたい高校のひとつだ。
posted by reportage |22:44 |
前橋工業高校 |
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