2007年02月26日
光明高校に初めて取材の電話を入れたとき、貝瀬監督から「4人しかいませんけど、良いですか?」と言われていた。4人と言えば、団体も組めない人数だ。練習はきっと閑散としているのだろう、と想像していた。
中学生を入れてもたった5人で開始された練習。しかしながら、10時に始まって、昼休みを入れずにに午後まで行われるタンブリング練習までの間、フロアから「ファイトー!!」という元気な声が途切れることはなかった。
それは少ない人数を声で補おうという気張ったものではなく、ただ自然に、その場から生まれてくる掛け声だった。
またこの日は人数の面でも、閑散さはなかった。
練習の途中途中に、「こんにちは」の声とともに人数が増えてゆく。光明の卒業生である。
この日は卒業生のひとりが仕事で遠方に行くということで、その激励もかねて集まったのだと言う。ぽつりぽつりと集まった卒業生は5名、それに習いに来ている近所の小学生も合わせて、最終的にフロアには12人の姿があった。
現役生よりも卒業生の方が多いという、なんとも妙な構図の出来上がりである。
この日はたまたま人数が多く集まったと言う貝瀬監督だったが、何もない土日でも、1~2人、誰かしら卒業生が自然にやってくるという。
現在国士舘大学で新体操を続ける大原は、「今日は大学の方の練習は良いから」と、別の日にまたこちらに顔を見せた。
国士舘大学を経て現在社会人の村山は、「アイツは趣味で来てます」と貝瀬監督に言われるほどに、現役生顔負けに練習に加わっていた。
こんな風に卒業生が自然に集まってくる要因のひとつには、指導者との距離の近さ、というのがあるようだ。
光明高校には現在、千葉監督、貝瀬監督という2名の指導者がいる。両名とも部活を見ているが、現在、直接指導しているのは貝瀬監督である。
フロアでの練習中、舞台でのタンブリング練中、ファインダーを覗くといつも選手の近い場所に貝瀬監督の姿がある。
指導中はもちろんであるが、選手が遊んでいるときですら、その輪の中に貝瀬監督がいる。選手が黙々と補強をやっている最中に、監督がバランスボールを投げて邪魔しているシーンさえあって、思わず笑ってしまった。
この日、タンブリング練の後に個人・団体の構成作りをして、練習を終了したのが15時。しかしあいさつを終えた後、フロアを後にするものは誰もおらず、いつの間にか卒業生も含めた全員がフロア上で円状に集まっていた。
何が始まるのかと思えば--------バレーボールだ。
そしてその輪の中にはもちろん、貝瀬監督の姿が。
見ているとまるで練習よりもこっちが目的なんじゃないかというほど、選手も卒業生も、そして監督も夢中になってよく動き、よく笑う。
どうやらここでは3回落とすと罰ゲーム、という決まりらしい。罰ゲームは壁に沿って立ち、他の全員から1回ずつボールを投げられる、というもの。全員がかなり本気でボールを当てにかかるこの罰ゲーム、もちろん監督にも適用される。
「15時に練習が終わるのに、このせいで18時頃まで帰れなかったこともありますよ。“ダメです、先生が罰ゲームするまで終われないんです!”なんて言って」
笑いながら、貝瀬監督はそう話す。ここではあらゆる意味で、指導者と選手の距離が近い。もちろん、選手同士の距離も。
ここを流れる心地良い空気のわけが、少しだけわかった気がする。
私は人数の少ない部活動を見ると、「がんばってほしい!」とか、「どうやったら部員が増えるだろうか?」なんてことを懸命に考えてしまう。
でもことに、光明高校に関してはそんなことはなかった。
人数は少ないが、「この高校はきっと大丈夫だろう」と思える。
この心地良い空気に、きっと自然に人が集まってくる------そんな風に、思えるのだ。
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2007年02月23日
取材をしていていつも思うことは、ここから自分という存在を消して、空気みたいになれれば良いのに、ということだ。そうすればもっと、自然な彼らが見られるのに、と。
まぁこれはあくまでも例えの話だが、でももしも、本当に空気になれるとしたら、私はここの空気になりたい---そう思わせる心地よい何かが、ここ、光明高校の練習場には流れていた。
光明高校に取材に訪れた日、私は時間を勘違いして1時間も早く体育館に到着してしまった。入り口でしばらく顧問の貝瀬監督を待っていたのだが、やはり時間をもてあましてしまい、少し覗いてみようと練習場に足を向けた。
練習場を覗いてみると、私は一瞬あせってしまった。というのも、選手達がすでに手具を持って曲にあわせて動き始めていたからだ。
「もう練習が始まってしまったのか」と焦って時計を見たが、監督に言われた開始時刻の30分も前であった。
時間通りに到着した貝瀬監督にそのことを訊くと、「ああ、アレはただ遊んでるだけですよ」とのこと。そう言えば、流れていた曲もインカレなどで聞き覚えのある、大学生が使っていた曲だった気がする。
他の学校や選手の曲に合わせて演技を真似る姿は、男子新体操ではよく見かけるシーンである。
なぜ他校の曲をもっているかというと、大会で仲良くなった選手と互いに曲の交換をするのだという。互いをライバル視して“競う”意識の強い女子の新体操ではありえないことだが、こういったことが選手の競技に対する姿勢を象徴している気がする。
女子の新体操は、選手一人一人の競技に対する意識が非常に高い。
やるからには高得点を、上をめざす。0.025の点差が水をわける。そいういう世界だ。故に他の選手に対する意識ももちろん強くなる。
一方で男子の場合は、人と競って上を目指す意識はもちろんあるのだろうが、それよりも競技そのものを好きな気持ちが上回っているようだ。だから、良いと思う演技があれば真似てみるし、良い曲は他校のものでも欲しい。
多少の意識はあるだろうが、それでもそこまで敵味方意識なく、競技全体を愛せる姿勢がある。こういう姿をみると、これも男子新体操の魅力のひとつだな、と思う。
ひとしきり「遊んだ」後、練習は10時から開始される
練習自体はまだオフシーズンのせいもあってか、決して目新しいものがあるわけではなかった。。
軽く走った後、長座の状態で腕の力だけでフロアを往復、倒立での往復、3重とび、倒立腕立て、人を肩車してのつま先立ちなどなど。
決して目新しくはないが、自分や他人の体重を負荷にしたそれらは、地味にキツイ。
それが終わると、柔軟の後、今度はタンブリング練習のため体育館の舞台の上に登る。というのは、床に敷かれたフロアは4cmほどの厚さのウレタンの上にじゅうたんを敷いただけの簡易フロアのため、その上でタンブリングをすることが出来ないのだ。
タンブリングの出来るフロアを持っていないわけではないのだが、体育館は男子新体操部専用のものではないため、セットに時間のかかるちゃんとしたフロアを敷きっぱなしにしておくことができないのだ。
そのため、タンブリングは舞台の上に設けられた、狭い幅のタンブリング板の上で行われる。大会間近にでもならないと、タンブリングを入れての演技の練習は出来ない。
光明高校は私学であるが、私学の練習環境が必ずしも十分に恵まれているわけではないのだなと感じた。
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2007年02月12日
夕方。ファミレスで記事を書いていると、合コンらしいことをしている、高校生くらい年齢の集団に出くわした。
取材していると忘れがちだが、「ああ、これくらいの年の子はこういうものだったか」と、改めて思う。
そして、「こういうときは割り勘なんだろうか」などと、考えたりする。
埼玉栄の選手たちの印象として残っているのは、「人懐っこい」ということ。
突然カメラを携えてやってきた来訪者に、練習中は戸惑うようにチラチラとこちらを見ていた。しかし練習後のストレッチ中、彼らのひとりに話を聞いていると、いつの間にか自然に周囲に集まってきていた。
始めはお互いに緊張していたが、次第に色々なことを話してくれるようになった。その様子を見ていて思ったのは、当然かもしれないが、「仲が良いな」ということ。
レギュラー争いなんかはある?とたずねると、「あるある、ものっっすごくある!」なんておどけた調子で話す。
実際のところ、レギュラー争いはある。
高校1、2年生と、中学生も入れて15名。3年生も入れると20名ほどになる。男子新体操部としては、大所帯な方である。
試合に出られるのはうち6名。それ以外は全員が補欠である。
レギュラーが発表されると、それ以外の選手は「いつ、どこのポジションに入っても、すぐに動けるように」と、レギュラー全員の動きを頭に入れ、練習する。
フロアで練習するのはレギュラーの6人だが、それ以外の選手もフロアのまわりでまったく同じ練習をする。いや、全員分の動きを把握しなければならない分、レギュラー以上に練習していると言える。
副キャプテンの石原は、今はレギュラーではない。現在の課題を「早くレギュラーに追いつき、追い越すこと」と語る。
彼らには全国の高校生と争う前に、身近なライバルとの争いが控えているのだ。
これは女子の話であるが、大学の新体操部になると、規模の拡大に伴い熾烈なレギュラー争いが起こる。それは部活にとどまらず、私生活に影響を及ぼすことすらあるという。
レギュラーになれなかった選手は当然、レギュラーのサポートにまわる。
どこのスポーツの世界にもあることだが、自分の立てない舞台を支えるというのは、辛いことである。
そのことについてたずねると、「まわりのケアや、みんなをまとめることは嫌いじゃないから。みんながやりやすい状態をつくりたい」と、さらりと言った。
それは決して諦めなどではなく、純粋にチームの「勝ち」を願うからこそ出た言葉なのだろう。
熾烈なレギュラー争いは彼らには無縁、とは言えないが、少なくともそれが原因でが仲たがいをするということはなさそうだ。
意識してる高校や選手はいる?と訊くと、皆異口同音に口をついて出るのは「青森山田高校」の名前。「とにかく上手い」と口をそろえる。
なので、「以前取材に行ってきた」という話をすると、身を乗り出すように聞いていた。
「寮生活で、新体操以外あまりすることないらしいよ」
と言うと、
「すげー」。
「部活の前にいつも雪かきしてるんだよ」
と言うと、
「すげー」
「補強だ!」
「だから強いんだ!」
打てば響くような反応が返ってくる。
「ものすごい雪の中でも、歩いて通ってるんだよ」と言ったとき、「え!スキー通学じゃないの?」と答えたのには、思わず笑ってしまった。
埼玉栄高校は、全日本選手権で大学生、社会人と争うほどの実力を持つ。
迫力のタンブリング、キレのある動き、芸術性のある構成。一般人の我々からすると卓越したその身体能力に、思わず鳥肌が立つ。
それらを見ていると、彼らがあたかも特別な資質を持ったアスリートであるかのように思えてしまう。実際、そいういう選手もいるだろう。しかしほとんどの場合、そんなことはないのだ。
始めたのは高校生からと言う選手がほとんどであるこの世界。始めたきっかけをきくと「バク転をしたかったから」なんて理由を耳にするのはよくあることである。そんな普通の高校生が、3年間努力して努力して、あの演技をつくり上げているのだ。
会場で彼らを取りまく歓声が、血のにじむような努力の末に成り立っているということを、忘れないでいたい。
気がつくと、合コンらしいものは解散し始めていた。お勘定はどうやら個別会計らしい。
こういう高校生活もありか、と思う。一方ででもやはり、部活に懸命になってる高校生活の方が好きだなと、大人ならではの身勝手な思いを巡らせていた。
そして今頃、疲れた体をひきずって家路についているだろう、彼らに思いを馳せた。
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2007年02月03日
9時から練習を開始して、1時間ほどのアップ。それが終わると15分ほどの柔軟。
特に体が硬い部員には、監督からの「愛の鞭」がふるわれるのも、新体操部ではよくある風景。
柔軟が終わると、いよいよ全員が手具を持っての個人演技の練習となる。
このとき持つ手具は、棒、リング、縄、棍棒と、様々である。何を練習するかは、各自に任されている。
ここでは主に、手具を投げ上げ、タンブリングやターンをしてからキャッチする、“リスク”の練習を行う。
全員がフロアで一斉に練習を始める。なんとか写真におさめようとシャッターをきるのだが、動きが早くてなかなかうまくいかない。
ファインダー越しに選手達を必死で追っていると、ふと、気がついたことがあった。ひとりだけ、やけにファインダーに飛び込んでくる回数が多いな、と思う選手がいた。
その選手には高校生にしてはうまいな、という印象をうけた。
しかし驚くべきことに、彼はまだ中学2年生だという。
中2にしては比較的背も高く、体格、技術ともに決して見劣りしない。
それもそのはず、彼、斉藤良輔は、中学生ながら昨年の全日本選手権に出場し、高校生はおろか、大学生、社会人と争っていた。
男子新体操の最高峰の大会であっても「緊張はしなかった」と語る斉藤。
インタビューの最中も決して言いよどむことなく、中2とは思えぬほどに落ち着いた態度からも、それが決して強がりや虚栄心からくる言葉ではないことが伺える。
栄高校での練習に加わるようになったのは小5から。しかし、新体操自体は小3のときから始めており、すでに5年のキャリアがある。
最近では男子新体操のジュニアクラブも増えたため、幼少期から経験している者も増えてきているが、高校から新体操を始めた者が多い埼玉栄のなかで、中2にして5年の経験は、かなりのアドバンテージになる。
昨年の全日本ジュニア選手権では、3位入賞を果たしている。橋本コーチも「今年1番、見ものな選手」と期待を寄せる、有望株である。
しかしそれらは、単に経験の長さのみからくるものではない。
中学生の部活は、基礎的な能力を向上させることに重きをおくことが多い。故に指導者に指示を仰ぎ、そのメニューをいかにストイックに、忠実にこなすか、ということが重要となる。
そんな中、彼はすでに自分で課題を見つけ、考えながら練習をする、という形を身に付けつつある。自主性を重んじる阿部監督の意向のせいか、彼自身の資質かはわからないが、この歳にしては意識は高い。
練習中に厳しい檄をとばす橋本コーチも「あいつは一番練習してますよ」と評価している。
ファインダーに飛びこんでくる回数が多かったのは、決して偶然ではなかったようだ。
今の目標は?とたずねると、こともなげに「全日本ジュニア優勝」という言葉が返ってくる。
昨年は3位だったのだから、当然の返答ではある。
だがその淡々とした様子には、もしかしたらそれは、彼にとっては単なる通過点でしかないのかもしれないと思わされる。
リスクの精度が高いだけに、今後の斉藤の課題はタンブリングに絞られそうだ。しかしまだ14歳。焦る必要はないだろう。
彼の活躍する舞台は、これから先にまだまだ控えているのだ。
posted by reportage |23:54 |
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