2008年09月07日

滝沢南中学校 -持論(後)-

 中学から男子新体操を始めた小渡監督は、盛岡市立高校を卒業すると、中京大学に進学。 当時全国大会の優勝格に名を連ねていた中京大学に、推薦で入学した。推薦というとあたかもエリートのような印象を受けるが、入学してまもなく彼は周囲との差を痛感する。同じ新体操部の新入生たちは、自分以外は皆、全国大会優勝経験者だった。

 
 彼の高校時代の最高成績は、個人でのインターハイ3位。十分立派に思えるこの結果は、大学での団体レギュラー入りを目指す彼に微妙な劣等感を与えた。さらに実はこの実績は、大学入学時にも足をひっぱる存在だった。


 当時、中京大学に特待生として入学するには、全国大会で準優勝以上の成績を収めていることが必要な条件だった。進学を考える際、中京大と同じく全国の覇権を争っていた国士舘大学からは特待生の話をもらっていた。それだけの、実力はあった。ただ、彼が第一志望とする中京大学に入るためには、ひとつランクが下のスポーツ推薦枠を受けるしかなかった。だから、思った。



「日本一を経験してるやつに、負けたくない」    「自分がいたから勝てたと言わせたい」



 そうして生まれた劣等感と負けん気は、すぐに行動に直結した。部活が始まると、練習中は誰よりも声を張り上げた。どんなことでも、常に誰よりも早く行動することを心がけた。そしてそうした行動は、比較的早い段階で実を結ぶこととなる。入学したその年に、1年生で唯一の団体レギュラーに、抜擢されたのである。



 しかし努力が実を結んだのも束の間、新たな課題もまたすぐに立ちはだかった。ルーキーの彼に課されたのは、“2回きりもみ”というD難度のタンブリングを成功させることだった。高校を出たての彼にとってそれは決して容易いことではなく、たったひとりの1年生レギュラーは失敗に失敗を重ね、今度は他のレギュラーとの差を、まさに身をもって痛感した。



 団体で失敗続きの彼に、ある日先輩は賭けの話を持ち出す。何ということもない、その日の通し練習で、2回きりもみが成功すれば先輩から夕飯をおごってもらい、失敗すれば彼が先輩にタバコをおごらなければならない、というものだ。他愛もない賭けだったが、日ごとに数を増やすタバコを見て、「いくつ貯まるかなぁ」なんてこれ見よがしに言われれば、たとえ冗談であっても悔しくないはずはなかった。



 そういった思いが、すぐに行動につながるのが彼の長所である。大学では、練習が終わると1年生が後片付けをする決まりだった。片づけを済ませ、同輩たちと「お疲れ」を交わして解散すると、彼はひとり、スクーターでまた体育館にもどった。大学のハードな練習が終わった後に、そうして練習を重ねた。



 そうまでしても、課題の技は成功しなかった。団体メンバーで、特に彼に厳しく当たる先輩からは、通しの最中に「できねぇなら岩手に帰れ!!」と怒声を浴びせられたこともあった。


 大会直前になると、通しこみが始まる。団体はノーミスが出るまで、何本でも演技を通す。それはつまり、彼の2回きりもみが成功するまで、練習は終わらないということでもあった。そしてその時でさえ、ついに技は成功しなかった。練習は、いつまでも終わらない。


 自分以外のミスのために終わらない練習は、決して雰囲気の良いものではない。明らかに消耗し、集中力も切れてくる。自然、ミスも増え、そのスパイラルにはまると抜け出せなくなる。メンバーの苛立ちもピークに達するであろうその場面。彼はいつも厳しくあたられていた先輩から、意外な言葉をかけられる。
「今日は何回でもいいから失敗しろ」






 ―――また、別の先輩の話である。賭けに負け続け、先輩に渡すタバコが数を伸ばし続けていたある日、夕食に連れ出してくれたことがあった。「賭けには負けてるけど、メシおごってやる」。食事の最中、彼はその先輩が「お前は絶対に、2回きりもみ成功する」と力強く言っていたことを思い出す。それまで通し練習では一度も成功したことがない、自分にである。





 通しこみの最中にも関わらず、ボロボロと涙がこぼれた。彼は、周囲が自分の陰の努力を認めていたことを知る。






 その年、ルーキーを擁した中京大学は、全日本インカレと、続く全日本選手権を制した。

 優勝の歓喜に沸き、会場からの帰途につくバスの中。彼は先輩から問われる。
「なんで今年、中京が勝てたか分かるか?」
「先輩のがんばりが…」「演技構成が…」彼の挙げた言葉はすべて「違う」と一蹴され、こう続けられた。「お前が、中京に入ったからだ」





「日本一を経験してるやつに、負けたくない」   「自分がいたから勝てたと言わせたい」
 



 入学して周りの新入生と自分を比較し、団体メンバーに起用されても技が成功せず、常に後れを感じ続けていた。それを負けん気で跳ね返し続けた1年生の、思いが遂げられた瞬間だった。




 「気持ちがあれば、絶対にうまくなれる」

 使い古された感すらある、あまりにも真っ直ぐな指導論。そこに説得力を持たせるのは、あまりにも真っ直ぐな彼自身の過去である―――。





 そんな思いに導かれて、悲願の優勝をなしとげた滝沢南中。今年も優勝格の筆頭として期待は厚いが、実は今年のチームに昨年の優勝メンバーはひとりも残っていない。選手の内訳にしても、昨年は6人中3人がジュニアでの新体操経験者だったのに比べて、今年のチームに経験者はたったの1人。力強いタンブリングで周囲を圧倒した昨年の演技だったが、今年はそうもいかなくなる。
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―――滝沢南中と彼の持論の、真価が問われる年になりそうだ。



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2008年08月30日

滝沢南中学校 -持論-(前)

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 昨年、滝沢南中学校新体操部を、見事全日本ジュニア初優勝に導いた小渡監督には、ささやかな自負がある。

「自分は演技指導はかなり下のほうだと思ってるけど、選手が部活に来たいと思わせることに関しては、自信がある」

 滝沢南中の練習を見れば、それが決して驕りなどではないことが分かる。



 監督には、部に新入生が入ると必ずすることがある。大会のビデオを配るのだ。昨年の全日本ジュニアで優勝した際の演技などはもちろんであるが、全日本選手権を制した大学生のものなど、中学生ではとても手の届かないようなレベルの高い演技も見せる。

 中でも現在も全日本選手権を連覇中の青森大学の演技は圧巻である。鍛え上げられた大きな身体から繰り出される迫力のタンブリングに、一糸乱れぬ徒手。今年度の場合は、その演技が、現在、滝沢南中Bチームの指揮を執る中村祥輝によるものであることを説明してみせた。さらに彼が滝沢南中で新体操を始めたことを話せば、きっかけとしてはもう十分である。「中学から始めてもこういう風になれるんだ」。まずは憧れと、イメージを持たせる。


 それから、監督は普段から頻繁に「日本一」という言葉を持ち出す。「日本一を目指すやつが宿題もやってこないのか」「日本一のチームならできるだろう」。とにかく場面を問わずにそう言われれば、日本一なんて夢にも思わない選手だって、自然、意識するものである。


 動機付けと、日本一を目指す気持ちが芽生えれば、あとは「練習を好きにさせて、部活を楽しませる」ことに尽きる。

 手具の投げ技の練習では、チーム分けして対抗戦にしてみる。シェネで何ポイント、タンブリングで何ポイント、なんて技によってポイント制にすれば、自然とゲームのような雰囲気になる。冬場にメインとなる、地味な補強や筋トレも、景品がかかると途端に面白くなる。「補強メニューが一番早くに終わったやつには、財布の中の何かをあげよう」なんて言われれば、それが十円玉か百円玉か分からなくとも、盛り上がるというものだ。
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 言うまでもないが、楽しい練習と楽な練習は違う。冬の体づくりのシーズンは、徒手の基本的な動きに1時間、ブリッジや転回といったマットの基本にみっちり2時間を費やす。ロンダートなどのタンブリングの基礎をつくる「あふり」という動きでは、フロアを10往復させる。これは大学生も嫌がる練習量である。


 それでも、主将の三上健太は補強運動を「辛いけど、自分に力もつくし、楽しくやったりするので」と笑って話す。「練習全体も楽しいし、先生も面白いし」


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かつては不登校だった生徒も、部活にだけは顔をだすようになったという。


 やはり、驕りなどではない。
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 それともうひとつ、彼には譲れない持論がある。
「気持ちがあれば、絶対にうまくなれる」

 この根拠を知りたければ、監督自身の歴史について少し振り返ればいい。自身でも「キラキラしていた」と語る大学時代をちょっと遡れば、この持論は十分に説得力を持つ。


posted by reportage |21:48 | 滝沢南中学校 | コメント(6) | トラックバック(0)
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