2008年12月02日
花園大学 木村功-プラン-(後)
しかし、である。実施に重きをおいた演技というのは、正直なところ面白くない。技の精度を高めることが最優先になるから、同じ難度でもより確実な、言ってしまえば派手さのない技を入れる。動きにしたって、シンプルであればあるほど、実施点は取りやすいのだ。 まず初めに基礎を固めて実施点をあげる、というのは、よくよく考えれば当然のことで、決して奇をてらった方法ではない。だから感心したのは方法そのものではなく、彼がそれをストイックに行ったということの方だった。 彼はそもそも、能力が低い選手ではない。高校時代に目立った成績を残していないとはいえ、地元では「アイツは、本当にすげえ」と上級生から噂されるほどだった。![]()
そもそも男子新体操、とりわけ個人は、自分を表現してナンボの競技である。演じるのは自分ひとりだから、自分の考えを動きで表現し、評価を得ることが醍醐味の競技。選手にも、新しいことや自分の個性で周囲をあっと言わせることに、達成感を覚える気質が多い。 彼はすでにある程度、自分のしたいことを表現できる能力を持っていた。それでも、シンプルな演技で実施点を上げることに努めた。 自己表現とは正反対に当たる、決められた演技を確実にこなすことは、個人選手にとっては競技から魅力そのものを奪うようなものである。 それでも、あえてその道を選んだのは、彼にとってそれが「勝つ」方法としては確かなものではなかったからだ。それは何よりも高校時の実績が示している。 だから、地道な、それでも自身が確実に結果が出ると信じたプランを選んだ。![]()
彼はそれを大学に入ってから自身が納得するまで続けた。個人選手がもっとも自分を表現できるはずの構成づくりでも、決してつくりこむことはせずに、一度つくったものを多少手直しする程度にとどめた。 それよりもひとつの演技を徹底的にやり込むことに集中した。彼はこともなげにこのことを語ったが、いつ結果が出るか分からないことのために、自身が本来望まないことを続けるということは、恐ろしく胆力のいる作業である。それはまるでゴールの見えないマラソンを走るようなものだった。 ただ、彼はこのマラソンの中にも少しずつ、喜びを見出していった。成績では1年時に比べて2年の方が劣っているが、着実に延びる実施点に、やりがいを感じていった。構成でみせる選手を順位で上回ったときには、ひとり喜びを噛みしめた。そして2年の秋に行われた、関東圏の大学の集う交流戦で、彼は確信を得た。実施で、9.4の高得点をたたき出したのだ。機は、熟した。![]()
その翌年、つまり今年の春からつくった棒とリングの演技は、5~6回も作り直しをし、自分の納得した作品をつくり上げた。それまで決して行わなかった、つくりこんだ構成は、周囲からも以前より良くなったと評価された。 さらに身体的な特徴を生かした表現も加えられた。彼の左腕は、過去に骨折している。そのため手の平を上にして両腕を左右に伸ばすと、左腕だけが肘からしなるようにして反り返る。奇妙な傾斜がつくのだ。両腕を上にあげたり、左右に伸ばしたりといった基礎的な体操をするときには、これを目立たなくするために左肘を少し曲げるようにして調節して動かしていたが、柔らかな表現ではこのしなった腕も魅力になると気付いた。 彼は柔軟な動きを表すときには、必ず左手を用いるようになった。その、本来人にあるはずのないラインは、彼だけの持ち味になった。![]()
基礎と演技の精度を高めることを、1年以上に渡って積み重ねてきた彼が、本来持っている構成能力を開花させれば、結果は火を見るより明らかだった。彼は突然、上達したわけではなかった。ただ待っていたのだ。彼のプランに合わせた、タイミングを。 今年の全日本選手権に、木村は高校3年以来、出場を果たす。もう、あの頃のように「旅行気分」ではない。 今回の話を聞いて、彼のストイックな姿勢に正直なところ驚かされた。冷静で、どこか淡白な印象のある選手だと思っていたからだ。ただ、恐らく彼にとってこれは、「しんどいことをがんばり続けて、やりとげた」という、情熱溢れるストーリーではないのだろう、とは思った。彼はただ、自身の思う最適なプランを選んだだけなのだ。![]()
木村はフロアを歩くときに、まるで氷を踏むような、慎重な動作をみせることがある。走るときも、足を極力浮かさず、地面をするようにして走る。それは、長年抱えている故障のためだった。 高校時代から、彼は両足首を痛めていた。慢性化していたその痛みを、自身ではねんざ程度にしか考えておらず、病院にいくことはしなかった。![]()
それが、大学に入ってから監督のすすめで診察をうけたところ、両足のじん帯が断絶していたことが分かった。片足に2本ずつある大きなじん帯の、それぞれ外側のものが完全に断ち切れていた。痛みを押してもなお動き続けられたのは、すでにその部分の筋肉が、じん帯の代わりを務められるほどに発達していたためだった。 故障に負けない、素晴らしい選手の話をしたいわけではない。このことが、彼の性格と微妙にリンクするように思えたのだ。![]()
じん帯を断絶すると、場合にもよるが、それを縫い合わせる手術が必要になる。手術すれば最低1週間程度は入院が必要、歩けるようになるまで1月程度かかり、ギプスが外れるようになるまでさらに1月かかる。2ヶ月の間、まったく動けない期間をもつということは、スポーツをする者にとっては脅威だ。 大きく損傷したじん帯をカバーするだけの筋肉を養うためにかかる期間は個人によってことなるが、鍛えれば筋肉は必ず育つ。痛みは伴うし、時間もどれほどかかるか分からないが、その間、体を動かし続けることはできる。足首は悲鳴を上げる代わりに、耐えながらただ黙々と、その代用になる筋肉を鍛えた。 痛みを伴うし、先は見えないが、確実な方法―――彼が選んだプランと、似てはいないだろうか。![]()
posted by reportage |22:37 |
花園大学 |
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花園大学 木村功-プラン-(後)
コメント投稿者ID :
記事読みました!!
個人選手がよく行う
構成の作り直し
ぼくもあまり構成の直しはしませんでした
なぜならやはり自分で曲に合わせて作った演技なので
そこからの演技変更は
不自然な演技を生むこともあるからです
だからこそずっと同じ演技で続けていくことで
実施の点数は伸びていきました!
個人の醍醐味は同じ演技を続けて
字氏の向上を待つ!
というところにも確かにあるかもしれません
posted by 体操人 | 2008-12-03 17:32
花園大学 木村功-プラン-(後)
コメント投稿者ID :
体操人さん
いつも以上に返信が遅くてすみません。。
やっぱり個人の選手は自分なりの方法論というか、持論というかを持ってるんですね~。しかも結果に結びつくと、より確かなものになりますね!
ひとりでやるからこそ、そういう人間性が現れるところが面白いですよね~!
posted by 管理人 | 2009-01-14 19:59
花園大学 木村功-プラン-(後)
コメント投稿者ID :
花大の構成は一番好きです
今僕たちも構成を作っていますが
なかなか先へ進めず
悪戦苦闘です・・・
posted by Swanharf | 2009-01-25 20:14
花園大学 木村功-プラン-(後)
コメント投稿者ID :
連続投稿すみません^^;
コメントの趣旨が
合いませんでしたね・・・
ミスです
体操人さんのように
僕も構成の作り直しは
あまりしませんでした
動きを少し変えたりは
しましたが・・・
しかし
プランを立て、ここまで
あがってきたというのは
とても素晴らしいと思います
少しずつ、着実に歩を進めていくことが
大切なのか、と
感じました
posted by Swanharf | 2009-01-25 20:20
花園大学 木村功-プラン-(後)
コメント投稿者ID :
Swanharfさん
コメントありがとうございます!
私も、自分なりにプランを持つことはもちろんですけど、それを結果が出るまでやり続けることは凄く胆力のいることだなと、彼を見て改めて感じました。
また良かったら感想残してください!
構成づくりもかんばってくださいね!
posted by 管理人 | 2009-02-02 16:08
花園大学 木村功-プラン-(後)
コメント投稿者ID :
はい!
構成作り頑張ります!
posted by Swanharf | 2009-02-02 22:18
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