2007年12月08日

青森山田高校 vol.5 -涙-(中)

「直美さんの涙を無駄にしたくない」のだと、主将の柳は語る。


 事前に審判の承諾を得て、演技・曲・ユニフォームで勝負に臨んだ、臨もうとしたインターハイ。会場入りして、本番のまさに直前に出された審判からのNG。当事者でないものが意見をのべることははばかられるが、競技を束ねるものが十分な説明をせずにその態度を急変させたのだとしたら、それは競技のレベルを落とす、嘆かわしい行為だ。


 物別れに終わった話し合いの最後、審判が放った言葉。
「見た目じゃなく、中身で勝負してくれ」
 その言葉に、笑顔が印象的な直美さんが初めて涙を流すのを目にした。

 美しいフォルムだけではなく、選手への安全性の細部にまで気をくばったあのユニフォーム。青森山田の演技とともに、「男子新体操に新風を」という想いの下、多忙を極める合間をぬって彼女が考案したものだった。
 
 荒川監督が青森山田に就任してから、いや、尾坂監督が率いていた時代から、山田が一度だって「見た目で」勝ったことがあっただろうか。






 国体の優勝を決めたあの日。インターハイでの雪辱を晴らすかのような勝利の直後。その興奮に顔を上気させた荒川監督と握手を交わした。
 少し潤んだように見えた瞳でしっかりとこちらを見据えると、何よりも先にそれを言った。

「ジャパンでは、着るから。予選がんばって、決勝残って、減点されても良いから、着るから」

 熱い掌とその力強さが、決意を物語った。








 10月中旬、青森山田の体育館。
 椎野の怪我に関して言えば、正直なところ無理なんじゃないかと思っていた。怪我をしたのが9月半ば。全日本選手権は11月23日。動かさない筋肉は硬くなるからそのリハビリと、もちろん団体の練習期間を加味すると、1ヶ月半ほどで治さなければならない。医師に言われた期間の、半分である。

20071208-01.JPG




 ところが、である。10月半ば、手術から2週間ほどでギプスはとれ、それから10日ほどたつと、すでに彼はタンブリング練習を始めていた。その回復のスピードは私や、恐らく周囲の予想をはるかに上回るものだった。

20071208-02.JPG



 10月末日には医師に「もう本格的にやっても良いか」をたずねるつもりで、病院を訪れた。しかし医師からの「腕立て10回から初めてください」の言葉に、思わずその言葉を飲み込んだ。
 彼の強靭な意志に支えられた治癒力は、それほど驚異的だったのだ。


 “超回復”という言葉がある。筋肉の組織が激しい運動などによって破壊されると、次に回復するときにはそれ以前より強くなっている、というアレである。彼の場合、いかんせん本番まで期日が迫っていたため、回復がそのレベルまで達していたか定かではないが、精神は確実に“超回復”を遂げていた。
 




 国体直前、急遽メンバーチェンジを余儀なくされたことについて、柳は「(チームの状況は)苦しくなった」と語った後、「でも一番苦しいのは(椎野)健人なんで」と続けた。

 椎野が怪我をしたあの組みの練習で、土台をしていた柴田は「自分が土台だったんで、土台に責任があったのかと」と話した。しかし彼がそこまで気に病む風ではないのは「(椎野が)ああやって明るくふるまってくれて、その分こっちに力が出てくる」からなのだろう。

20071208-00.JPG



 また怪我は、最終学年としての彼にも影響を与えた。それまでのように遠征についていくことができなくなった椎野は、必然的に「留守番組」として監督・レギュラー不在の部をまとめる存在となった。留守番組は、毎日監督にその日の報告の電話を入れるのだが、そのときの椎野は監督が驚くほどに、しっかりとした受け答えをするようになっていた。


 さらに、こんなことがあった。ある日、監督はこんな話を耳にする。椎野が、下級生を殴ったのだという。
 事情を聞くと、こうだった。2年生が、1年生に対して「レンタルビデオを返して来い」と使い走りにしようとしていた。それを見た椎野は2年生に意見した。それは違うだろう、と。1年生が出かけるついでなら良いが、そうでないなら、自分で借りたものは自分で返しに行くのが筋だろう、と。だが、2年生は不満の色を露にした。それで手が出た、というわけだった。
「だから、俺は怒んなかったよ。」と、荒川監督は振り返り、改めて「驚いた」と語った。



 椎野自身も怪我を経て「今まで自分に甘えがあったなと(気づいた)。辛いときでも踏ん張れるようになった」とその変化を実感しているようだった。
 




 怪我はまもなく団体に入ってもまったく遜色がないほどに回復した。

 11月24日、彼はリハビリ中に思い描いていた通りに、全日本のフロアに立っていた。


posted by reportage |00:56 | 青森山田高校 | コメント(1) | トラックバック(0)
みんトピに投稿 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加

トラックバックURL
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/reportage/tb_ping/39
この記事に対するコメント一覧
(事務局では、サービス全体の雰囲気醸成の為、全コメントをフィルター/目視チェックし、削除等しております。見逃し等も有りますので、ご不快な思いをされた場合は、事務局宛 support@plus-blog.sportsnavi.com にご意見頂けると幸いです。)
先週の、『学校へ行こうmax』観ました

先週の、『学校へ行こうmax』観ました。
仲間の死や度重なる怪我にも決してめげること無く必死で頑張る彼らの姿に心を打たれました。
三冠達成は出来なかったけど、とりあえず準優勝おめでとうございます。応援しているので、これからも頑張って下さい。
追伸 国体に出場した2年生で、少し身長が小さ   めの子、かわいかったです。((笑

posted by 優樹菜 | 2007-12-08 13:38

コメントする