2007年07月31日

青森山田高校 vol.3-隣の壁(後)-

 県総体、福士への激しいライバル意識は柴田の緊張感を増長させた。選抜を優勝したことで、県の大会で負けられないというプレッシャーもあった。

 そんな中迎えた本番で、彼の耳に周囲からの応援の声が届いた。そんなものは、大会に出れば誰でも当然のごとく経験することである。しかし、それを聞いた柴田は改めて思った。「この応援に応える演技がしたい」。



 選抜で福士に勝ったことで、無意識のうちに周りを見る余裕ができていたのだろうか。それとも選抜前に団体を経験していたことが、「周囲を見る目」を養っていたのだろうか。

 とにかく、それが柴田の試合に取り組む考え方を変えたことは確かだった。福士とは持ち味が対極にあるあまり、「自分は自分」と凝り固まっていた考え方が、変わり始めた。「周りの人が評価してくれる演技なので、みんながいいと言うような演技がしたい」。そして、そこから柴田の連勝が始まる。


 大切なことというのは、案外あっけなく見つかるものなのだ。






 団体練習の合間に行われる、柴田の通し。私は何よりも、その運動量に圧倒された。

 「伸びとか入れると、ライン悪くて目立っちゃうんで」と語る柴田の演技は、体の硬さをカバーしてもなお余りあるほどの運動量だった。1分半の間、彼の静止しているシーンはいくつあっただろうか。その想像を絶する動きは、間違いなく、私が今まで見た中でもっとも消耗するであろう演技だった。
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 さらに驚かされたのは、その調整力だ。
 インターハイ直前のこの時期、団体中心になりがちな練習の中で、柴田は3時間もの間フロアが空くのを待っていた。そして3時間後、何の前触れもなくかけられた「ごめん、翔平、(通して)良いよ」の荒川監督の声で、柴田はすぐに1本通してみせた。

―――3時間、である。もちろん、その間常に動き続けていたわけでも、ずっと休んでいたわけでもない。彼は団体の様子を見ながら監督がGOサインを出すタイミングを見計らい、それに合わせて通せるよう、調整していたのである。 その姿には、練習場を共にする青森大学の中田監督ですら「ありえねぇ」と舌を巻いた。



 選抜前、団体と個人を兼任していた柴田は、傍目にわかるほどに焦っていた。しかし今の彼はその対極にあった。何かふっきれたような「穏やかさ」が感じらるのだ。



 因縁のライバルに勝利したこと、自分の新体操にとって大切なことを見つけられたこと―――そうしたことが、彼にこの穏やかさをもたらしたのだろう。

 最も近いところにあった、最も高い壁は乗り越えた。
 
 8月4日。インターハイに臨む彼は、今までにない強さを見せてくれるはずだ。
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○●全国高校総体(インターハイ)新体操・男子(団体) 8月5日16時~NHK教育にて放送●○


posted by reportage |20:32 | 青森山田高校 | コメント(0) | トラックバック(0)
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