2007年07月29日

青森山田高校 vol.3-隣の壁(前)-

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 インターハイを目前に控えていよいよ追い込みに入る、という団体演技の練習の、その合間。そのほんのわずかな時間が、彼に与えられたフロアを自由に使える時間である。限られた時間、限られた場所で、力の限りの動きを詰め込んだ演技をするのは、言わずと知れた選抜王者、柴田翔平である。
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 彼は選抜を獲ってから負け知らずだった。インターハイの予選となる県総体はもちろん、東北大会でも二種目を制して完全優勝。国体予選ではリングで出場、ここでも種目別優勝を飾っている。
 或いは彼にとっては、選抜の優勝よりもこれらの結果のほうが意義深かったかもしれない。彼がもっとも勝ちたかった相手は、全国の名門校に集う選手たちではなかった。敵は、ひとつ町を挟んだ隣の市にいた。



 柔らかな動きと豊かな表現力に定評のある、弘前実業高校の福士祐介は、長らく柴田とライバル関係にあった。体の硬い柴田とは対極の演技をする彼は、三年間、柴田と接戦を演じた。


 一年次、驚くべきことに福士はインターハイ個人出場を果たしている。全国から選りすぐられた37名のうち、一年は福士を含めた2名のみ。二年生の出場者すら10名に満たず、上位はほぼ三年生に独占された状態。そんな中での13位。この年は同率優勝、同率入賞が多かったため、それを除けば点数では10位に手が届こうかというところである。紫野高校・北村の、二年にしてインターハイ優勝という偉業の影に隠れながら、一年にして福士はしっかりとその実力を全国の場に刻んでいた。

 二年になって臨んだ選抜大会では福士が優勝を飾り、柴田は4位。三年になった今年の選抜では柴田が優勝、福士が4位。


どちらも全国を獲る実力をもちながら、インターハイに出場できるのは一名のみ。男子新体操部のない高校もある中でこれだけの選手が潰しあわなければならないことは、傍から見れば「もったいない」のひと言に尽きる。
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 しかしそうした表面的なこと以上に、より根本的な部分で福士は柴田を悩ませる存在だった。
 

 個人競技でインターハイに出場できるのは各都道府県1名。全国で争う前に、彼らはお互いに超えなければならない存在だった。柴田は「県総体から、すごく意識していた」と素直にその心情を語り、こう続けた。「試合前とか、むこう(福士)がどんな演技か気になって」。



 これは、個人選手にしてはかなり珍しいことである。
これまで話を聞いてきた個人選手は、ほぼ100%の確率で「自分の演技をすること」に重きを置いていると語った。優勝を念頭に入れている選手はもちろんいるが、それも「誰に勝つとかではなく」、自身の力を出し切ることで優勝したい、といった類のものだ。競技でありながら他人を意識して競う側面の薄い、稀な競技なのである。
 そんな中での柴田のこの発言は、良いとか悪いとかではなく、素直に私を驚かせた。


 この福士に対する強烈な意識は、いつしか柴田の新体操に対する根本的な部分まで迫っていた。「俺は福士に勝つために新体操をやってるわけじゃない」と、一時は自分の演技を見失いかけた。選抜で彼からふたつも順位を引き離して優勝しても、なお。




 しかし柴田のそうした思いは、久々の直接対決となった県総体で、あっけない形で払拭されることとなった。


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posted by reportage |22:51 | 青森山田高校 | コメント(0) | トラックバック(0)
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