2007年05月10日

青森山田高校 vol.2-策士(後)-

 亀井が団体から抜け、柴田が団体と個人を両立する、という状態が続いたあるとき。柴田は自分の思いも寄らぬところで注意を受ける。



 団体練習の休憩の間、柴田は他のメンバーが休む中、ひとり個人の練習に励んでいた。その個人練について「他のメンバーが団体に集中できない」という指摘をうけたのだ。



 このことから、私は改めて青森山田のレベルの高さを感じた。

 個人と団体を兼任する以上、どちらも十分に練習しなければならない。空いたわずかな時間であっても無駄にしまい、という柴田の行動は立派なものであるし、別の場所であれば、あるいは評価されたかもしれない。

 しかし、少なくとも青森山田ではそうではない。

 彼はやはり、団体練習の間は“団体メンバー”に徹するべきだった。例え休憩中であっても、団体に裂いている時間は、団体に集中すべきだった。


 このことは団体に微妙な影響を与えるとともに、長い間、個人中心でやっていたゆえの「個人中心」になりがちな自身の姿勢を知るきっかけとなった。




 こうして柴田が自分の中にあった「協調性の薄さ」に気づきだした、選抜大会2週間前。団体メンバーの入れ替えがあった。

 亀井が団体に復帰することとなり、柴田は再び、個人に集中することとなった。







 実はここまでの流れ、全て荒川監督の思惑通りであった。
仕事で留守の間、団体メンバーが入れ替わっていたことは、もちろん想定外であった。しかしその後、これはふたりとって良い機会かもしれない、と思い直した。

 柴田の協調性の薄さや大会前のマネージメント能力の低さについては、以前から思うところがあった。また、個人演技の練習だけでは、柴田が課題としている体力・筋力の強化に限界がある。一方で亀井はタンブリングで他のメンバーに後れを取っている中で、まだ精神面で自分を追い込めずにいた。

 このふたりを入れ替えることで、それぞれに肉体的・精神的負荷をかけることで、これらがうまいこと解消されるかもしれない。
 
 「これは、丁度良いかもしれない」-----。







 

 そして、この荒川監督の読みはほぼ的中した。迎えた高校選抜、以下がその結果である。



 第22回全国高校新体操選抜大会

【団体競技】
 優勝   神埼清明高校     得点18.775
 準優勝  青森山田高校       18.475
 準優勝  小林工業高校       18.475


【個人競技】
 優勝   柴田 翔平(青森山田高校)    得点36.675
 準優勝  日高 祐樹(小林工業高校)      36.175
 第3位  枡平 庸介(井原・精研高校)     36.075






 団体という精神的・肉体的負荷を外された柴田は、その開放感からか大会で練習以上の力を発揮することとなった。練習ではかならず、個人1種目につき1つずつミスを犯していたのだが、大会では4種目のうち棍棒で1つミスがあったのみで、他は全てノーミスであった。結果は堂々の優勝。


 団体では、亀井が悔しさをバネに努力を重ねた。大会では団体の見せ場のひとつである3つバックで他のメンバーから大きく後れを取るという痛恨のミスがあったが、もともとタンブリングに後れのあった状態、荒川監督の中では「計算のうち」のミスであった。



 ただひとつ、計算外だったのは「団体準優勝」という結果である。



 荒川監督いわく、あれは「とれちゃった2位」。チームの実力としては4位か5位、完璧に演技したとしても3位、といったところだった。

 それが、小林工業のラインオーバーによるまさかの減点。これにより青森山田と小林工業の同率2位という結果となった。



 

 今回の選抜は、柴田・亀井両名の不足していた部分を補う、という点では大きな収穫があったと言える。
しかし計算外の準優勝は、青森山田の新たな懸念材料となった。


「なるべくしてなった2位ではない。実力としては4、5番手。にもかかわらず選手達の中には“1位になれなくて悔しい”といった錯覚が生じている」

 つまり、監督に言わせれば「自分達には2位の実力がある」という勘違いが生じてしまっている、ということなのである。と同時にそのなかでどこか「でも、先生がなんとかしてくれる」という甘い部分がある、ということにも、監督は気づいていた。青森山田を連覇に導いた荒川監督である。その信頼は絶大であるが、ここにきてそれが裏目にでているのである。



 選抜を通じて、青森山田には新たな課題が見えた。しかし多少のずれはあったが、選抜までの道のり、そして結果がここまで荒川監督の「思惑通り」にはこんだのだから、青森山田には策士がいる、と改めて感じた。


 

しかし思えばこのことも、元をたどれば尾坂総監督の思い付きから始まったこと。
しかしもしそれが、単なる「思いつき」でなかったとしたら----







「団体は先生がひと言うだけで、ガラッと良くなる」
「あの人は勝負勘、もってるから」











 やはり、青森山田には策士がいる。


20070512-00.JPG



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posted by reportage |22:40 | 青森山田高校 | コメント(0) | トラックバック(0)
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