2009年07月04日
トータルフットボール 分析 空飛ぶオランダ人 クライフ
トータル・フットボールは選手の動きに核心があり、フォーメーションなどはたいして関係がありません。4-3-3でなければならないなんてことはないし、また、「監督目線」風に3-3を細分化し、4-2-3-1や4-1-4-1に書き換えてもOKです。 先進的な役割固定、「2」の仕事はこれなんだとかいった窮屈な縛りをせずに、フレキシブルに判断していくスタイルがトータル・フットボール。 だから西ドイツやオランダのように、実質的な見映えが3-4-3や3-5-2のように見えてもトータル・フットボールだし、3バックのゾーン・ディフェンス風にプレーした2008-09シーズンのジェノアのことも、トータル・フットボールのようだなと見えてくる人はいます。トータル・フットボールの本質を、「常々プレス」とかオフサイド・トラップなどではなく、「誰でも行け」だと解していれば。 動きに特質があるということは、その実態の解明は難しいことになりますね。サッカーの重要事項でありながら、ボールなしの動きこそは全容をつかみ難く、理解しづらいものですから。 クライフの芸術 / 皮肉な駄目押し http://www.plus-blog.sportsnavi.com/ports/article/485 幸いにも、上記でリンクを載せた動画には、オランダのトータル・フットボールらしい攻撃が含まれていました。得点場面はごく普通に所定ポジションをとった中での攻めでしたが、成功しなかった決定機には、独特の動きをしているシーンが入っています。10分近くある動画のうち、始まって間もなくのところ、1分44秒あたりでミケルス監督の横顔が映ったあとの映像です。
左ウィングのレンセンブリンクが、内に入りながらボールを持ち、真ん中に上がってくるファン・ハネヘムにパスを戻して前進していきますね。レンセンブリンクの外側には、駆け抜けていくシュルビアがぼやけて映ります。いいタイミングでファン・ハネヘムがスルーパス。
抜け出したのは、バウドミーロを振り切ったシュルビア。バウドミーロにしてみれば、ゼ・マリアにシュルビアを受け渡したつもりか。
ゴール・エリアに迫って、シュルビアがシュート!
このシュートは、Jリーグなどの監督を歴任したゴールキーパー、レオンがブロックします。 オランダは惜しいチャンスを逃しました。しかし、別段特殊な攻めを展開してはいません。外からディフェンダーが侵入するのも、何らおかしいところはない。二十一世紀の今だってあり得る攻めです。長友選手ほか、多数の実演例を発見できるでしょう。 西ドイツ・ワールドカップでのオランダ代表チームの攻撃は、比較的オーソドックスな印象を受けるものでした。センタリング・サッカー、そして速攻です。オープン攻撃を主にしているなどともいいました。でも、外・外・外ばかりが安全だから一番だとかいわず、中央突破も狙うし、ポゼッション状態からの攻めもやります。 ま、そうはいっても大雑把には、当時の普通なセンタリング・サッカーだとしてよさそうです。こういうのは、今も昔もたいして変わらない、わりと普遍的な攻撃手法ですし。 これだけでは、「なんだよ、ばか者め」と、そんなお叱りをいただいてしまうでしょうね。 問題は、顔ぶれ。左から駆け上がったのが、右バックであるはずのシュルビア。そして、ボールには触れなかったものの、フォワードの位置には、ヤンセン、ニースケンスといった、ミッドフィールダーに分類される選手がポジショニングしていました。アタッカーのはずのクライフやレップは、どうして不在なのか? もっと前にさかのぼって収録した動画がありました! http://www.youtube.com/watch?v=QYzzp3oZ_gI 全体としては3分弱と短いのですが、かえって好都合でしょう。これならば、クライフやレップが見えなかったのはなぜか、そこはわかります。 誰がどこのポジションにいるのが本来なのか、それは、概念図を下記の冒頭に載せましたのでご参照ください。 くさってもブラジル、かな… http://www.plus-blog.sportsnavi.com/ports/article/478 新たな動画の9秒くらいからです。ブラジル陣内でのフリーキックが右に展開されますね。そして中でフリーになっているレイスベルヘンにパスがまわりました。 レイスベルヘンは右外のオープン・スペースにボールを送ろうとしています。
画面外、左手前の方には、クライフとレンセンブリンク、ブラジル側ではルイス・ペレイラとゼ・マリアがいるはずです。 ブラジルの選手名も表示しましょう。クライフはパスをもらおうと下がってきました。
でもレイスベルヘンは当初の予定どおり右へ出します。 ディルセウにカットされました。
ディルセウは、すぐさまジャイルジーニョに縦パス。
ここで、レップとクライフがブラジルの速攻を警戒し、急いで下がろうとするんですね。 しかし、ジャイルジーニョは一気に縦へ勝負しようとはせず、追ってくるレップをいなしにかかりました。そこでレップがなんとかからみます。
戻ろうとしたハーンもジャイルジーニョに向かい、それをニースケンスとヤンセンが挟むかたちになりました。
ジャイルジーニョはこれをかわしましたが、ディルセウに短くつなごうとしたパスを、ヤンセンが的確にカット。
レップが右バックになりましたね。クライフは自陣にいるんでしょう。またゆっくりと上がってきますが、前線には参加しません。これで、本来の前線と中盤が入れ替わったわけです。 ヤンセンはドリブルで突進。 しかし、クライフ等が下がり、ヤンセン一名だけになってしまっていたので、無理せず左翼のレンセンブリンクに展開しました。
そして、レンセンブリンクがファン・ハネヘムに預け、シュルビアが左で疾走する、この記事の最初の絵につながります。
クライフが抜けたセンターフォワードにはヤンセンが移動、右サイドへは、レップの代わりにニースケンスが進出してきました。自然な位置交換。 前回記事では、クライフのジャンピング・ボレーによるゴールにも触れました。それは、Flying Dutchman というあだ名のきっかけになったでしょう。しかし、この言葉には、かつてサッカーニョさんのブログにコメントさせていただいたように、空を飛ぶことのほか、いろんな場所へふらふらと出没する意味などがかけられています。 ワグナーの「さまよえるオランダ人 Der fliegende Holländer」が第一の出典。この楽劇には、永遠に彷徨するオランダ人が登場しますよ。その下敷きには、さまよえるオランダ人という伝説、素早く神出鬼没な幽霊船のお話があります。日本では、どうして「さまよえるオランダ人」と訳せず、かっこ悪い直訳風の「空飛ぶオランダ人」なんかになってしまったのでしょう? ヨーロッパはオペラの本場で、それは日本の歌舞伎に相当するような伝統見せ物だといえそうです。歌舞伎とかなり違うのは、衣装や演出を、本来のストーリーとは異なる時代や場所などに設定する、見立て上演が大流行していることですかね。1974年当時の実情はわかりませんが、どうやらオペラ自体はかなり広範に浸透していたみたいです。 クライフのことを「さまよえるオランダ人」と称するのを聞いて、プレーぶりに重ねる方も多かったと思えます。クライフはダッシュが速いし、先読みをして所定ポジション以外に移動するのも特徴の一つでした。 クライフの彷徨癖だけでなく、やはり前回記事などで触れたように、レップは、下がって守る意識が高かった。そして、左のスピアヘッド的なレンセンブリンクだって、状況次第では左バックになったりもします。逆に、ミッドフィールダーやディフェンダーが最前線に立つのも、禁忌だったりはしない。そのように柔軟な判断をすることが、このチームの「ディシプリン」みたいなものなんですね。それで、この例の攻めのように入れ替わっていることが、わりと頻繁に生じるわけです。役割交換がシステムとして行き渡っています。あくまでも基本のフォーメーションがあってのことですけどね。 しかしなぜ、シュルビアが左バックになり、スイーパーのハーンが右バックをしていたのか。バウドミーロをマークするのは、本来の左バックであるクロルでしょ? あまりに長すぎるので、それはまた… 「さまよえるオランダ人たち トータルフットボール 分析」↓ http://www.plus-blog.sportsnavi.com/ports/article/487
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トータルフットボール 分析 空飛ぶオランダ人 クライフ
コメント投稿者ID :
ドイツ語は解しませんが。
昔、「炎のランナー」という映画を見たことがありますが、主人公のライバルのあだ名が、Flying Scotsmanでした。
ネットで調べたところ、急行列車の名前だったのですね。日本で言えば「つばめ」みたいなものでしょうか。
あちこち訪問する外交官なども、flyingと形容されることがあるようです。
「速い」、「飛び回る」などの意味がありそうです。
むしろ、私は、「さまよえる」の原語がなんでflyingなんだろうと思いましたね。
しかし、訳としてはうまいかも知れません。日本語で言えば、「成仏」できずに、この世をさまよう幽霊みたいなもんですからね。
以上、サッカーと関係ありませんでした。
失礼。
posted by 素人 | 2009-07-04 11:05
トータルフットボール 分析 空飛ぶオランダ人 クライフ
コメント投稿者ID :
ワグナーってopera(歌劇)よりMusikdrama(楽劇)のイメージが強いです。彷徨えるオランダ人はoperaですけど。
operaというとイタリア・オペラを想定してしまいます。ワグナーってドイツ・オペラというより、もっと独自性が強くありませんか。そう思ってしまうのも日本人的囚われ、みたいなものがあるんでしょうかしら。勉強になります。
posted by 3B | 2009-07-04 18:03
返.トータルフットボール 分析 空飛ぶオランダ人 クライフ
コメント投稿者ID :
素人 さんへ
どうもありがとうございます。ドイツ語も英語も難しいですね。
「炎のランナー」は、なんとなく見に行こうかと思うほど有名な映画だったと思いますが、見てません。いろいろ見てると、関連づけが広くなって豊かになれますね。
英語だと、flee という、逃れさる意味の文語的な動詞が、以前のイギリスでは fly で代用して使われたと辞書に書いてありました。「光陰矢のごとし」に相当する語句として、Time flies. といったりもするらしい。急ぐ意味もあるわけですね。
オリンピックのヨットに「フライング・ダッチマン級」というクラス区分があったりするくらいですから、この言葉はかなり知られていたものだろうと想像します。
さまよう意味で使うこともあるのかどうか知りませんが、「さまよえるオランダ人」は意訳かなという気がします。うまいと思います。
今だったら単にカタカナにするだけだったり?
それなら「空飛ぶ」の方がまだしもか。以前の訳語には感心してしまうのがけっこうありますね。
コメント欄は、スポーツと無関係でも本文と関わりがあれば、ほとんど削除することはないそうですので、気になさらずにどうぞお願いします。
3B さんへ
どうもありがとうございます。これはオペラでしたね。もう忘れちゃいました。ワグナーは通り一遍という感じでレコードやテレビを見ましたけど、好きで何種類も借りたり実演に出かけたのは指環だけです。いや、このたびの新国の黄金とワルキューレにも行ってませんが…
ウォーナーの一年ごとの初演時や、バレンボイムのNHKホールには通いましたっけ。今年のはご覧になりました?
イタリアっていうと、ミーハーにヴェルディ好きです。なんといっても、初めてテレビで通して聞いたオペラが、コッソット二期会だかのトロバトーレで、以来、軽傷のとりこですね。あれは筋が滅茶苦茶というか、「何歳ですか」と訊きたくなるようなものですが、音楽がいいですねぇ。
あ、勉強させていただくのは当方でして、もろもろご教示お願いします。
posted by コリバノフ | 2009-07-04 19:06
トータルフットボール 分析 空飛ぶオランダ人 クライフ
コメント投稿者ID :
オペラは劇場に行く派です。日本だと東京文化か新国です。テレビやDVDだと、、根性がないものでいつしか他のことをし出して。 ワグナーは、連日に渡り観なくちゃ、という作品もあり、体力的にもきついので気合いを入れて行かないと、な感じです。
音は次の瞬間、空気の中に消え、ひとつ一つのプレーはゴールという感動に結実される。その感動を呼び起こされるゲームは、ひとつ一つのプレーをも記憶として甦らせる。ゲームによっては、時が経つと気にもならなくなった疑問にも似たものも抱えたままになっていたりします。私の場合は単に頭が悪いだけなのですけれど。
トータルフットボールの連作テキスト。刺激になります。
posted by 3年B組 | 2009-07-07 10:00
返.トータルフットボール 分析 空飛ぶオランダ人 クライフ
コメント投稿者ID :
3年B組 さんへ
> 行く派です
どうもありがとうございます。ポッペアはご覧になりましたか?
BCJというのはCDだけでしか知りませんけど、マタイなどは繰り返し聴いたりしました。根性はないので、途中で別のことをしつつ、切れ切れに。笑
さすがに指揮者は鈴木さんではなかったようですね。
新国、来るシーズンはカルメンや魔笛の再演があるようですが、ヴォツェックなど、おもしろそうな気が…
トータルフットボールについては、妙ちきりんな歪曲が流行しているのに驚いています。今の風潮に合わせたお笑い言説の結果が、味の悪いゴチャゴチャお好み焼きみたいにしたとでもいうべきか、まるで異なったもののように見たがる妄想がまかり通っているようで。
刺激できて、このシリーズは大成功でした。トータル・フットボール、それはポゼポゼしないサッカー。
posted by コリバノフ | 2009-07-08 06:18
トータルフットボール 分析 空飛ぶオランダ人 クライフ
コメント投稿者ID :
3年B組 さんへ
間違えました。
ふと、コッソットのアズチェーナを思い浮かべていたら、テレビの記憶がよみがえってきましたよ。藤原歌劇団ですね、トロバトーレの放送で見たのは。
五十嵐さんが番組中で解説していた言葉も、なんとなく幾つか復活してきそうな感じです。
そういえば、新国でご挨拶をなさっている姿を見るたびに、NHKの放送を思い出したものです…
posted by コリバノフ | 2009-07-13 07:00
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いいタイミングでファン・ハネヘムがスルーパス。
抜け出したのは、バウドミーロを振り切ったシュルビア。バウドミーロにしてみれば、ゼ・マリアにシュルビアを受け渡したつもりか。
ゴール・エリアに迫って、シュルビアがシュート!
このシュートは、Jリーグなどの監督を歴任したゴールキーパー、レオンがブロックします。
オランダは惜しいチャンスを逃しました。しかし、別段特殊な攻めを展開してはいません。外からディフェンダーが侵入するのも、何らおかしいところはない。二十一世紀の今だってあり得る攻めです。長友選手ほか、多数の実演例を発見できるでしょう。
西ドイツ・ワールドカップでのオランダ代表チームの攻撃は、比較的オーソドックスな印象を受けるものでした。センタリング・サッカー、そして速攻です。オープン攻撃を主にしているなどともいいました。でも、外・外・外ばかりが安全だから一番だとかいわず、中央突破も狙うし、ポゼッション状態からの攻めもやります。
ま、そうはいっても大雑把には、当時の普通なセンタリング・サッカーだとしてよさそうです。こういうのは、今も昔もたいして変わらない、わりと普遍的な攻撃手法ですし。
これだけでは、「なんだよ、ばか者め」と、そんなお叱りをいただいてしまうでしょうね。
問題は、顔ぶれ。左から駆け上がったのが、右バックであるはずのシュルビア。そして、ボールには触れなかったものの、フォワードの位置には、ヤンセン、ニースケンスといった、ミッドフィールダーに分類される選手がポジショニングしていました。アタッカーのはずのクライフやレップは、どうして不在なのか?
もっと前にさかのぼって収録した動画がありました!
画面外、左手前の方には、クライフとレンセンブリンク、ブラジル側ではルイス・ペレイラとゼ・マリアがいるはずです。
ブラジルの選手名も表示しましょう。クライフはパスをもらおうと下がってきました。
でもレイスベルヘンは当初の予定どおり右へ出します。
ディルセウにカットされました。
ディルセウは、すぐさまジャイルジーニョに縦パス。
ここで、レップとクライフがブラジルの速攻を警戒し、急いで下がろうとするんですね。
しかし、ジャイルジーニョは一気に縦へ勝負しようとはせず、追ってくるレップをいなしにかかりました。そこでレップがなんとかからみます。
戻ろうとしたハーンもジャイルジーニョに向かい、それをニースケンスとヤンセンが挟むかたちになりました。
ジャイルジーニョはこれをかわしましたが、ディルセウに短くつなごうとしたパスを、ヤンセンが的確にカット。
レップが右バックになりましたね。クライフは自陣にいるんでしょう。またゆっくりと上がってきますが、前線には参加しません。これで、本来の前線と中盤が入れ替わったわけです。
ヤンセンはドリブルで突進。
しかし、クライフ等が下がり、ヤンセン一名だけになってしまっていたので、無理せず左翼のレンセンブリンクに展開しました。
そして、レンセンブリンクがファン・ハネヘムに預け、シュルビアが左で疾走する、この記事の最初の絵につながります。


