2009年07月02日
● 天才ストライカーの動き トータルフットボール
クライフが左に、カイザーが中に位置交換している状態。左に開いてボールを持ったクライフから、攻め上がってきたスイーパーのハーンにパスが出ました。的確なフリー・ランニングをしたカイザーにパスを通せれば!しかし、ハーンはキックのモーションをしただけで、カイザーには出しませんでした。カイザーの狙う場所には、奥からファン・ハネヘムも走り込もうとしており、それにはぴたりとマーカーがくっついています。 こうした状況を見ると、やはり考えの一致こそがサッカーの核心部分、「マラドーナが11人のチームなら勝てる」、いや、意思疎通が完全であるならば、マラドーナより低い技量の選手たちでも勝てる、そんな風に思えてきます。
ハーンは、レップに叩いて走りました。この時点だと、手前側の画面外にはオランダのクロルとスウェーデンのエイジェルシュテットがいます。8人対8人の状況です。 レップがダイレクトでリターンしたパスはカットされました。
ダッシュしたタッペルにボールが渡ります。エドストレームに密着するレイスベルヘン、そしてもっと前方には、シュルビアにマークされたサンドベリがいます。スイーパーのハーンが上がって8対8の攻撃をしていたオランダは、後方が2対2の同数でした。
タッペルのドリブルに、追ったクライフがからみかけて、速攻のスピードを抑制させることはできました。 ボールを持ち直すタッペルの外側を、エイジェルシュテットが走り抜けていきます。 タッペルはエイジェルシュテットにパスを送りました。
クロルがきちっとマークして並走。タッペルのパスは、下がり続けたレップがカットして、ゴールキーパーに戻しました。 これも役割交換の一場面ですが、急な逆襲を喰らったシーンで、特にトータル・フットボール的な入れ替わりとも見えないかもしれませんね。確かに今でも、こんな状況になったなら、クリスチアーノ・ロナウドとかインザーギなどでも守りに走りそうな気もします。 まあ、これまでオランダのプレーを幾つか切り取ってきた中にも見られたように、クライフと、特にレップは、このような場面で守備にダッシュする意識が高かったということで。元来のポジションなどは、下記をご参照願います。 「美しいオランダ 発展途上」 それでは、もっとトータル・フットボールらしく見える流れの中で、ディフェンダーの自然な最前線までの攻撃、そしてアタッカーがあたり前のように守備へまわる実例を提示してみます。 以前に別の例を図解したこともあるシュバルツェンベックと、異常な天才ゴールゲッター、ゲルト・ミュラーの動向を軸に、そのトータル・フットボールぶりを探る。例示する試合、西ドイツ対東ドイツのメンバー布陣概念図は以前に書いてみましたので、どうぞご覧ください。 このとき、西ドイツのブライトナーは左バックとして出場していましたが、東ドイツ側が4-4-2的でアタッカーが少なく、それに応じて西ドイツは3-4-3風にプレーしていました。布陣図は、そんな雰囲気を表してみたものです。どうもブライトナーを左バックの位置に記すのは気が退けて…。でも、なんだかごちゃごちゃしてしまい、申しわけないです。 そのブライトナーが、自陣の右でスローインを入れました。そして内側のベッケンバウアーにまわります。そこから左のオープン・スペースに、ストッパーのシュバルツェンベックを走らせるパス。
前が空いていたため、シュバルツェンベックがすかさずドリブル。左外でのスクリーン・プレーで、ヘーネスにボールを預けてさらに前進。
少し戻ってターンしたヘーネスはドリブル。
フローエが左斜めに抜けて行くのを利用して、ヘーネスはもっと内へ切り込みます。 画面外では、左に出ていくフローエに代わり、ストッパーのシュバルツェンベックが中央に向かっていく。
ミュラーとの壁パスを狙うヘーネス。ペナルティ・アークでごちゃごちゃしているグループは、次と次の絵で。
スイーパーのブランシュがディフェンス・ラインよりも前進し、フォア・リベロの役をしています。これがよかったんですね。 下がりながらのミュラーのリターンは浮きました。
東ドイツ側は下記。
ここは、ミュラーが出したボールをブランシュがカット。ゴールキーパーにパスをして逃れました。ミュラーにとって、シュバルツェンベックにダイレクトで通すのは難しかったんでしょうね。シュバルツェンベックの侵入は実を結びませんでした。
当時の、バックパスを手で取れるルールは、守備陣には落ち着きを与え、攻撃に工夫を施させることにつながってもいたような。 このあと、ゴールキーパーのクロイは数歩ドリブルして間をとりました。 ゴールキーパーが左バックのヴェツリッヒに展開すると、ヘーネスがセンターフォワードの位置に残っていました。一方、ミュラーはいません。深く進出していたシュバルツェンベックは、これから下がるところ。
ここからブランシュに渡り、ドリブルで少し前進。そして画面外のクルビューバイトにつなぎました。ミュラーはどこに消えたのか。 右バックの位置にいました。クルビューバイトのドリブルに応対するミュラー。
たぶんミュラーは、ゴールキーパーがパスの出しどころを探していたときに、ブランシュ、クルビューバイトが前でボールを受けようと動いたので、それのカバーに走ったんだと思います。それで、ヘーネスは安心気味に歩いていた、と。 クルビューバイトは中に入りながらパス。受けたシュパルバッサーは、画面外後方のブランシュに、ダイレクトでボールを下げました。
ブランシュに戻ったボールは、東ドイツから見て右に展開される。
いっときクルビューバイトのマーク役になって移動していたミュラーは、ここでクルビューバイトを放しました。ちょっとだけ見えるフォクツに、外へ流れていくクルビューバイトを受け渡したんですね。でもその後、ミュラーは前に戻っていかず、中に下がりました。そちらにどんな不都合があったのかは、残念ながら不明。 結局のところ東ドイツは攻め込めず、また最後尾までボールを下げることになりました。
そしてブランシュにまでまわり、そこで縦に出します。このときにミュラーが、ようやく前線に帰参。
ブランシュからのボールはちょっと長すぎ、二名が追う先のゴール・ラインを割りました。
本来ストッパーとされるシュバルツェンベックのことも、相手の隙があればどんどん前に送り出してしまい、最終的にフォワードの役割までさせる。また、昨今の妙な伝説では、トップの位置から動かない専門職であるかのようにもいわれる天才ミュラーも、状況次第では最終ラインにまで下がって行く。しかしそれは必要に応じてであって、役割交換を目的としてなどいない。 このような姿勢をチームとして戦術的に組み込んだスタイルが、まさに「渦巻き」、トータル・フットボール。 「コーチにとって、もう一つ、やっかいなことがある。それは"ボールなしで動け"というと、たいていのプレーヤーは、いつも同じような調子で走りまわることである。 このような考えは、まったく間違っている。ボールなしの動きは、効果的に動いたときのみ意味がある。これが核心である」 — リヌス・ミケルス — 「ボールなしでのプレーこそが渦巻きにとって重要である」 「チームのフォーメーションはほとんど絶え間なくローテーション化し、〜」 — ウィリー・マイスル —
posted by ports |07:00 |
コメント(4) |
トラックバック(0)
トラックバックURL
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/ports/tb_ping/484
この記事に対するコメント一覧
(事務局では、サービス全体の雰囲気醸成の為、全コメントをフィルター/目視チェックし、削除等しております。見逃し等も有りますので、ご不快な思いをされた場合は、事務局宛 support@plus-blog.sportsnavi.com にご意見頂けると幸いです。)
● 天才ストライカーの動き トータルフットボール
コメント投稿者ID :
最近の私の?は、あのオランダの「渦巻き」や「突撃オフサイドトラップ」は、どうやったら自然に出来るようになるのか?です。
自然に、とは言っても、最低限の遵守すべき決まりごとはあったと思います。でも、この事例にもあるように、ミューラーが守り、シュバルツェンベックが攻めに走る時もあった西ドイツとも、また違う放任主義です。それも、ある意味で徹底された、自律を絶対条件とする放任主義だから、選手達は自分達で判断するしかない。放任主義だから、「必要」にのみ全員が応じる意識が高まる。この「渦巻き」の発想は、選手達の技術やスタミナ、身体能力もさることながら、プレーに対する11人の解釈の一致度が際立っていないと出来ない。それこそ、コリバノフさんが以前から述べられているように、ベストな具現策は全く同じ遺伝子を持った11人のクローン人間をピッチの上で揃える事です。
どうやったら、そんなチームが出来るのか?人選の段階から、あるいは人材育成の段階から、ユニークなプロセスが当時のオランダでは採用されていたと今となっては考える事もできますが・・・、それ以前に、フットボールのルール以外に、あのオランダには独自のプレーの解釈がベースになっていて、それにうまく当時のフットボールのルールを着せたのかな、と、最近よく考えます。フットボールのルールとは別の、自分達の独自のルールが大事にされていたのかな、と。
フットボールの枠に自分達のプレーを当てはめるのではなく、自分達のプレーに、自分達のやりたいプレーにフットボールの枠をかぶせるような、大胆で創造的な発想、解釈を、実際にプレーする選手達に奨励する放任主義が、この74年のオランダだけではなく、70年代ぐらいまでのサッカーでは「当たり前」だった。形は違っても、どのチームも追及していた事だった。そういう事なのかな、と。
私はオシム監督時代の日本代表は、英国に住んでいた事もあり、ほとんど見た事はありませんが、オシム氏が唱えた「ボリバレント」性の向上だけでは、あのオランダのような「渦巻き」や「突撃オフサイドトラップ」は生まれませんよね。
posted by sinfonia | 2009-07-02 11:26
返.● 天才ストライカーの動き トータルフットボール
コメント投稿者ID :
sinfonia さんへ
> どうやったら
どうもありがとうございます。突撃の方は。これは、偏見ながら、比較的かんたんかなという感じですね。まずはハーンに従う。同様の声がほかの誰かから発せられたときも、迷わずいけよ、と。ベースはその程度でもよさそうに思います。
> 11人のクローン人間をピッチの上で揃える
これは最重要ですけど、現実化させることが、今の世界では困難。だから単純なコンビネーションの形式をいくつか、反復して共通認識化させたりとかしますね。
70年代から80年代にかけては、静的な三角を何個つくれるかとか、どのフォーメーションに三角がたくさんできるから優れてるなどと、そんな高度で馬鹿げた話は出ませんでした。ミニ・サッカー風の流動を基軸としたチームがわりと多かったように思いますよ。
オールラウンダーを仮にそろえられたとしても、その彼らに分業ゴチゴチを強いるなら、渦巻きどころか洗濯機にもならなそうです。
もう少し動き方の原則をしぼりとってみますかね。
posted by コリバノフ | 2009-07-03 06:58
● 天才ストライカーの動き トータルフットボール
コメント投稿者ID :
お返事を有難うございました。
「突撃オフサイド」はスイーパー、ハーンがスイッチというのは理解しました。こちらはある意味で判り易いです。?は「渦巻き」の方です。オランダ人は、以心伝心が特別優れた欧州民族ではないと思うのですが・・・欧州諸国の中では、既成概念にとらわれない、リベラル志向でおおらかなところは多少は感じますが・・・。
>洗濯機にもならなそうです
笑。
>もう少し動き方の原則をしぼりとってみますかね
お手数をおかけします。
posted by sinfonia | 2009-07-03 22:37
返.● 天才ストライカーの動き トータルフットボール
コメント投稿者ID :
sinfonia さんへ
こちらこそありがとうございます。では、動画で見ることができる攻めからピックアップして、以心伝心が特別に優れていなくても、わりと普通に、ある意味、システマチックにプレース・チェンジしていく状況をとりあげます。
おおらかなところは、同じ例にからめて別途…
posted by コリバノフ | 2009-07-04 06:59
コメントする
「他サービスID/メールアドレス」で投稿する場合は、そのID/メールアドレスは表示されず、当サービス専用の固定のコメント投稿者ID「英数+連番」に変換され表示します。
- Yahoo! JAPAN IDでコメント投稿
- mixiアカウントでコメント投稿
- Googleアカウントでコメント投稿
- Hatena IDでコメント投稿
- Biglobeアカウントでコメント投稿
- ログインしてコメント投稿
- メールアドレスでコメント投稿
※新規のメールアドレスによる投稿IDご利用は停止しました。
※コメント投稿手順
(1)上記リストから希望のIDを選択する。
例: Yahoo! JAPAN IDでコメント投稿
(2)Yahoo! JAPAN上の本人確認画面でIDとパスワードを入力する。
(3)スポーツナビ+blog側のコメント入力画面が表示される。
(4)コメント本文を記入し、投稿ボタンをクリックする。
(5)コメント投稿者IDとコメントが表示される。
詳しくは以下2ページをご覧下さい
・【仕様変更】PCからのコメント投稿について
・ブログ利用マニュアル「コメント投稿方法」
※コメント投稿手順
(1)上記リストからログイン/メールアドレスのどちらかを選択する。
例: ログインしてコメント投稿
(2)plus-blogのアカウントとパスワード/メールアドレスを入力する。
(3)コメント入力画面が表示される。
(4)コメント本文を記入し、投稿ボタンをクリックする。
(5)コメント投稿者IDとコメントが表示される。
詳しくは以下2ページをご覧下さい
・【仕様変更】PCからのコメント投稿について
・ブログ利用マニュアル「コメント投稿方法」

しかし、ハーンはキックのモーションをしただけで、カイザーには出しませんでした。カイザーの狙う場所には、奥からファン・ハネヘムも走り込もうとしており、それにはぴたりとマーカーがくっついています。
こうした状況を見ると、やはり考えの一致こそがサッカーの核心部分、
この時点だと、手前側の画面外にはオランダのクロルとスウェーデンのエイジェルシュテットがいます。8人対8人の状況です。
レップがダイレクトでリターンしたパスはカットされました。
ダッシュしたタッペルにボールが渡ります。エドストレームに密着するレイスベルヘン、そしてもっと前方には、シュルビアにマークされたサンドベリがいます。スイーパーのハーンが上がって8対8の攻撃をしていたオランダは、後方が2対2の同数でした。
タッペルのドリブルに、追ったクライフがからみかけて、速攻のスピードを抑制させることはできました。
ボールを持ち直すタッペルの外側を、エイジェルシュテットが走り抜けていきます。
タッペルはエイジェルシュテットにパスを送りました。
クロルがきちっとマークして並走。タッペルのパスは、下がり続けたレップがカットして、ゴールキーパーに戻しました。
これも役割交換の一場面ですが、急な逆襲を喰らったシーンで、特にトータル・フットボール的な入れ替わりとも見えないかもしれませんね。確かに今でも、こんな状況になったなら、クリスチアーノ・ロナウドとかインザーギなどでも守りに走りそうな気もします。
まあ、これまでオランダのプレーを幾つか切り取ってきた中にも見られたように、クライフと、特にレップは、このような場面で守備にダッシュする意識が高かったということで。元来のポジションなどは、下記をご参照願います。
前が空いていたため、シュバルツェンベックがすかさずドリブル。左外でのスクリーン・プレーで、ヘーネスにボールを預けてさらに前進。
少し戻ってターンしたヘーネスはドリブル。
フローエが左斜めに抜けて行くのを利用して、ヘーネスはもっと内へ切り込みます。
画面外では、左に出ていくフローエに代わり、ストッパーのシュバルツェンベックが中央に向かっていく。
ミュラーとの壁パスを狙うヘーネス。ペナルティ・アークでごちゃごちゃしているグループは、次と次の絵で。
スイーパーのブランシュがディフェンス・ラインよりも前進し、フォア・リベロの役をしています。これがよかったんですね。
下がりながらのミュラーのリターンは浮きました。
東ドイツ側は下記。
ここは、ミュラーが出したボールをブランシュがカット。ゴールキーパーにパスをして逃れました。ミュラーにとって、シュバルツェンベックにダイレクトで通すのは難しかったんでしょうね。シュバルツェンベックの侵入は実を結びませんでした。
当時の、バックパスを手で取れるルールは、守備陣には落ち着きを与え、攻撃に工夫を施させることにつながってもいたような。
このあと、ゴールキーパーのクロイは数歩ドリブルして間をとりました。
ゴールキーパーが左バックのヴェツリッヒに展開すると、ヘーネスがセンターフォワードの位置に残っていました。一方、ミュラーはいません。深く進出していたシュバルツェンベックは、これから下がるところ。
ここからブランシュに渡り、ドリブルで少し前進。そして画面外のクルビューバイトにつなぎました。ミュラーはどこに消えたのか。
右バックの位置にいました。クルビューバイトのドリブルに応対するミュラー。
たぶんミュラーは、ゴールキーパーがパスの出しどころを探していたときに、ブランシュ、クルビューバイトが前でボールを受けようと動いたので、それのカバーに走ったんだと思います。それで、ヘーネスは安心気味に歩いていた、と。
クルビューバイトは中に入りながらパス。受けたシュパルバッサーは、画面外後方のブランシュに、ダイレクトでボールを下げました。
ブランシュに戻ったボールは、東ドイツから見て右に展開される。
いっときクルビューバイトのマーク役になって移動していたミュラーは、ここでクルビューバイトを放しました。ちょっとだけ見えるフォクツに、外へ流れていくクルビューバイトを受け渡したんですね。でもその後、ミュラーは前に戻っていかず、中に下がりました。そちらにどんな不都合があったのかは、残念ながら不明。
結局のところ東ドイツは攻め込めず、また最後尾までボールを下げることになりました。
そしてブランシュにまでまわり、そこで縦に出します。このときにミュラーが、ようやく前線に帰参。
ブランシュからのボールはちょっと長すぎ、二名が追う先のゴール・ラインを割りました。
本来ストッパーとされるシュバルツェンベックのことも、相手の隙があればどんどん前に送り出してしまい、最終的にフォワードの役割までさせる。また、昨今の妙な伝説では、トップの位置から動かない専門職であるかのようにもいわれる天才ミュラーも、状況次第では最終ラインにまで下がって行く。しかしそれは必要に応じてであって、役割交換を目的としてなどいない。
このような姿勢をチームとして戦術的に組み込んだスタイルが、まさに「渦巻き」、トータル・フットボール。
「コーチにとって、もう一つ、やっかいなことがある。それは"ボールなしで動け"というと、たいていのプレーヤーは、いつも同じような調子で走りまわることである。
このような考えは、まったく間違っている。ボールなしの動きは、効果的に動いたときのみ意味がある。これが核心である」
— リヌス・ミケルス —
「ボールなしでのプレーこそが渦巻きにとって重要である」
「チームのフォーメーションはほとんど絶え間なくローテーション化し、〜」
— ウィリー・マイスル —


