2008年04月27日

◆ それは次第に真実

 もちろん破壊者のために主張すべき面もある。その方が簡単であり、早く教えられる。軍事教練のような猛練習を施すことでだいたいのところは達成できるし、もしプレーヤーの技術的熟成が欠けていたとしても、その必要性がきわめて薄いのだ。サッカーのまばゆさが非常に足りなくても、敢闘精神によって粉飾が可能だ。粗暴さでも同様に
 … 中略 …
 私がかなりの弱小チームの監督だとすれば、
 … 中略 … 
 ひったくりの勝利や引き分けにより、勝ち点をくすねることで満足するかもしれない。チームがばらばらになって敗戦続きになってしまうのを、「安全第一」を旗印にすることで回避もできる。壊滅的敗北を避けるというのが主たる望みならば安全第一はよき方法だ。

 しかし自分のチームにサッカーをさせたいと欲し、そしてスポーツの破壊者になりたくないと願えば、選手の個性を大いに発揮させるべくかつてそうだったようなゲームをとる。

 … 中略 …
 たまたまテレビのスイッチを入れたときにやっていた真のサッカーを、ときおりのぞいたことならばあるかもしれない。またあるいは、外国からやって来た優れたチームが演じるそういった試合ぶりを見たかもしれない。それは、スコットランド、イングランドの群衆の、変わらぬ開放的な喜びによく似たものだ。
 ヒトラーは完全に正しかった。大きな嘘を頻繁に繰り返していけば、それは次第に真実、少なくとも事実としては受け容れられるだろう。
 … 中略 …
 疑いもなく第三のフルバックが、事実センターハーフのことなのだと。単一政党による機械的な議会選挙に投票する際、人々のデモクラシーは信じ込まされた。それとまさに同じである。サポーターたちはほとんど気づかない、本物のセンターハーフを見たことがないらしいということに。英国サポーターには間違いなく
 … 後略 …

  — 「サッカー・レボリューション」(ウィリー・マイスル)—

● 抽象的

 繰り返し見せられたサッカーがあたりまえのサッカーだと受け容れられるようになったというのは、戦争前後のことを指しているようです。でも、どうもはっきりとはわかりません。
 前回の引用部分では、チャプマンについてこう言っていました。

「彼は新たな戦術に、むしろ古いかもしれない戦術へ切り換えたことだろう」

 古いかもしれない戦術とは、たぶん三人オフサイドに対応できる種類のもの、オフサイド・トラップをさして意に介さずにすむ「旧式」のこと、それが実際にブリテン島にあったものかどうかが疑問視されそうなやり方でしょうね。かつてそうだったようなゲーム。
 ウィリー・マイスルは別のところでは次のように述べています。

「一九二五年以前の全期間に渡り、サッカーにはほとんど如何なるシステムもない」

 おや、システムのないところに戦術は…。すると、古いかもしれない戦術など存在しないようです?
 マイスルが「ほとんど」としているのは、2バックのやり方をある種基本システムとも見ているからですね。でも、どうやらそれもあまり気にかけてはいません。

 少し誇張すれば、サッカーの試合での「人の並び方概念」と「実演時の選手の機能性」、この二つは別段システマティックに固く結びついてなどいない。そういう考え方がマイスルにはありそうです。

 これだと、逆にどこまでいっても…。
 ずれはするけれど少し枉げて裏から考えてしまえば、かんたんな例はあります。WMシステムでも守備専従風のやり方があり、また、つねに逆襲を狙って、それをつねに実行する場合もあったようだし、ところ変われば逆に中盤を厚くして試合もボールも支配した例も実在したようです。キック・アンド・ラッシュに傾いた場合もかなり多かったらしく、しかし細かく組み立てるチームも当然のようにあったとのこと。
 すると論理をきれいにするためには、試みにWM1、WM2・・と分類する、あるいはWMシステムは、システムとは別種の範疇だとしなければいけないか。こんなひねった見方も可能ではあります。実態を把握するのに必要だけど、そのエッセンスから仮構を展開しようとすると不出来な帰納になりかねない。

● ふるさと?

 システムとしての機能性という概念から自由になってしまった場合でも、マイスルにとってのサッカーには戦術やチームワークが存在していたらしく、1954年時点で、下の方に引用する文を書いていました。
 そのときから四十五年以上も昔についてです。

 1910年ころまでの、これが実態だったのか風刺的な表現なのか、それはわかりません。著者の少年時代のことで、歳の離れた兄フーゴの影響により、イギリスのトップ・クラスのサッカーを実地に見ていただろうと思える時期です。
 同じころジミー・ホーガンはオランダでコーチ業を始め、そしてすぐ後、1912年にマイスル兄弟と出逢うことになった…

 ウィリー・マイスルは十代後半にホーガンから指導を受けるわけですが、すでにハンガリーの技巧派選手たちの影響下にあったのではないかと想像します。まだオーストリア=ハンガリー帝国でもありますしね。おそらくゴールキーピングのみならず、ボール・コントロールにも長けていたでしょう。
 そしてボールなしの動きを重視する評論家になり、英国に移住した後に書いた一節が

「およそ四十五年前に — 英国に関する限りでは — 個性による至上の統治の時代は過ぎ去った。われわれが忘れるべきでないことは、それが至高の水準のチームワークの時代でもあったことだ」
  — 「サッカー・レボリューション」(ウィリー・マイスル)—


 … dreaming dreams no mortal ever dared to dream before …
 … ひとみなの夢せぬ夢を夢みつつ …
   — 「大鴉」(エドガー・アラン・ポー 日夏耿之介 訳) —

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