2008年06月12日
■ イギリスに負う恩義
アソシェーション・フットボールはほんとうに素晴らしく発展しました。 もうずいぶん昔になってしまいますが、私のレフェリング生活の初めのころ、イングランドの友人たちとよくボールを蹴り合ったものです。でもそれは、ゲームへの感興としてはほのかなものにすぎないでしょう。 それが今や世界のいたるところでプレーされるようになり、とほうもない関心が寄せられています。 こうなるまでのはかりしれない手助け、導き、専門的指導など、世界は疑いなくイギリスに借りがあります。 どんなサッカー民族であれ、イングランド、スコットランド、アイルランド、ウェールズに対して優れた試合ぶりを見せられようものなら、それは誇るに足ることです。 イギリスのスポーツが衰退していると論ずるような人々を気にしてはなりません。イギリスはなおもスポーツの祖国であり、スポーツ精神のふるさとです。イギリスが国際スポーツ大会へ積極的に参加しないとき、残された世界は悲しみの日々を迎えます。 一流にまで登りゆく間に、オーストリアがイギリスの考え方を範とし続け、そして成功したことを、私としては誇らしく思います。 スタンフォード・ブリッジでプレーした私の選手たちに示してくれた友好、そしてこれまでの幾多のご好誼のすべて。ここでそれに謝意を表する機会を得て、若干でも言葉を記せるのは心躍るものです。 偉大なゲームであるサッカーをプレーする世界中で、この「力強いキック」が読んでいただけるように祈ります。 フーゴ・マイスル 1933年、ウィーンにて
これは「力強いキック (W・カペルカービー、F・W・カーター)」の序文としてフーゴ・マイスルが寄稿したものです。(冒頭の標題含む) ● 意味不明? 英国四協会がFIFAを脱退し、フーゴ・マイスルなどがその復帰に尽力したことは「島国根性の記念碑」で引用しました。そしてこの1933年時点、英国四協会はふたたびFIFAから離脱していることも記されていました。 FIFAとは非公式な関係を保っているといった状況で、1930年開始のワールドカップにも参加していません。この本が出た翌年、1934年はイタリア・ワールドカップですが、すでに不参加を表明していたでしょう。 だから、かなり遠回しに触れている感じの国際スポーツ大会とは、ワールドカップとオリンピックのサッカー競技のことでしょう。 1928年アムステルダム五輪にはアマチュアの休業補償問題があってイギリス・チームは参加せず、1932年ロサンゼルス五輪にはサッカーがありませんでした。 英国四協会のFIFA復帰とイングランドのワールドカップ初参加は、第二次世界大戦後のことでした。すでにそのときにはフーゴ・マイスルが没しています。 この本が出版されるころ、フーゴ・マイスルはイタリア・ワールドカップ優勝を目論んで余念がなかった時期だと思います。しかしそれだけにとどまらず、おそらくは水面下で、イギリス代表チームを1936年のベルリン五輪に出場させるべく動き始めていたのでしょう。それは実現し、そこでFAの幹部がイングランド弱体化の懸念を強く自覚することになりました。 そのオリンピック後、一年も経たずにフーゴ・マイスルは急死します。 ● イギリスのスタイルを範に成功したことを誇らしく… モデルとしたイギリスとは黄金時代、じゅうたんの上でボールを転がす、三つのBを充分に備えたサッカーだったろうと思います。 スタンフォード・ブリッジで惜敗したオーストリア代表は、単に英国の友好精神のみではなく、そのプレー・スタイルと実力によって人気を博したと伝わります。 衰退していると論じる人がいたというイギリスのスポーツ、それは疑いなくサッカーのことでしょう。英国通のフーゴ・マイスルがこの本の序文で言い及ぶというのは、そうした論調が大陸のみならず孤高の島国にも伝わってきているからだと想像します。当時のイングランドには、地元無敗の代表チームを有してはいても、内容に不満で他国の風評を気にかける人々がかなりいたものと考えられます。 それにしても平易すぎる印象の文です。弟のウィリー・マイスル以上に英語を使えたはずのフーゴ・マイスルが、外国人らしくかんたんな物言いでつづった感じがしてきます。「大英帝国に心酔した忠実な友」だったという心根が偲ばれます。 ● クラシカル この序文が載った「力強いキック」という本は1933年に Jarrolds から出版されたハードカバーです。原題名は The Mighty Kick, The History, Romance and Humour of Football 。これが2005年になってペーパーバックで再発売されました。Soccer Books というところからです。 実物を見ていませんが、昨今の時流からかけ離れた序文がそのまま収録されているものなのか、そうだとしたらそれに関する解説があるのか、なんとなく興味が湧きますね。ご覧になった方はいらっしゃいませんか? 序文しか読んでいないので「力強いキック」がどれほどの書なのかがわかりません。単に昔を知る物語といった位置づけでもないような気はしますが。 二十一世紀になって再発売した会社はまるでサッカー専門みたいな名称ですが、実態はどんなものなんでしょうか。英国の著作権が切れていないとはいえ、「サッカー・レボリューション」の方が再販されないのは不思議な気がしますね… 山のあなたの空遠く「幸い」住むと人のいう —(カール・ブッセ 上田敏 訳)—
posted by ports |06:48 |
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