2008年09月01日

世界フィギュア2008 エピローグ ~ 08-09シーズンへ向けて

世界選手権の出場枠

ファンというのは通常、自分が応援している選手の演技や成績が関心の中心だろうが、複数枠を保有している国/地域の協会関係者や指導者らにとっては選手個々人の成績と並んで、この出場枠数は大変な関心事である。少しでも多くの自国選手を出場させ、選手育成に役立てたいと考えるからだ。ここで簡単にこの10年間の日本の例で見てみよう。
男子シングルでは、長らく日本の第一人者として活躍していた本田武史さん(現・プロスケーター)の成績次第で日本の出場枠数が1-2名の範囲で増減を繰り返す時代が続いていたが、前回の東京大会で高橋大輔選手(2位)と織田信成選手(7位)が揃って活躍、合計9pt.を獲得し、08年イエテボリの出場枠として3枠を得た(私の記憶が正しければ日本男子勢の3枠獲得は初めて)。だが、そのイエテボリでは3枠獲得の原動力の一人であった織田選手不在の中、高橋、小塚、南里の3選手で再び3枠を確保できるかどうかについて、JSFが相当気を揉んだのは想像に難くない。
一方で女子シングルの場合は、2001年バンクーバー大会までは1枠だったが、この大会で村主章枝選手が7位と健闘し2枠獲得。翌02年長野では村主(3位)、恩田美栄(5位)両選手の活躍で合計8pt.を得て初めて3枠獲得。以降はこの2名に加えて、荒川静香、安藤美姫、中野友加里、浅田真央の「野辺山世代」の選手が次々に出場。日本女子勢は毎回2名以上が好成績を連発し、03年以降は連続して3枠を維持している。
こうして見ると複数枠獲得のためには、国内1強ではなく2強以上で競い合う層の厚さがいかに重要かが分かろう。それは長らくJSFが推進してきた育成計画のひとつの到達点であり、私のようなオールドファンの夢だった。こうして08年イエテボリで初めて男女揃って3名ずつ出場できるという状況になったのである。新聞の片隅にしか載らずTVでもついでに紹介される程度だったが、男女揃って3枠を獲得した07年東京大会は、そういう意味でもエポックメイキングな大会だったのだ。

そこで今回は世界選手権のエピローグとして、次回09年ロスアンゼルス大会の出場枠数について記しておこう。出場枠数を見れば、各種目での勢力図も分かりやすくなる。
世界選手権では当該大会に出場した選手の「順位ポイント」により次回の各国/地域の出場枠数が決定される。翌季に五輪を控えている場合は五輪の出場枠数にも適用される。簡潔に説明すると以下の通り。

選手に与えられるポイント
1-15位の選手: 順位をそのままポイント化。 (例)1位=1pt.・・・・15位=15pt.
16-24位の選手: 全員16pt.
25位以下(FNR)の選手: 全員18pt.
大会にエントリーしていたが故障等で最初から棄権した選手(今回では男子シングルのプレオベール)、FSで途中棄権した選手(今回では女子シングルの安藤美姫選手)も「FSの成績が記録されなかった選手」であり、FNR扱いとなり25位以下の選手と同様に18ptとなる。

次回複数枠を獲得する条件
どの国/地域でも最低1枠はエントリー枠として与えられ、最大は3枠。出場選手の順位がポイント化されるので、合計ポイントは少ない方がよいというシステムだ。2枠以上獲得する条件は以下の通り。
3枠獲得の条件
今回3名(組)出場した国/地域: 3名(組)のうち上位成績2名(組)合計ポイントが13pt.以下。
今回2名(組)出場した国/地域: その2名(組)の合計ポイントが13pt.以下。
今回1名(組)出場した国/地域: その1名(組)の獲得ポイントが2pt.以下。(=2位以内の成績)
2枠獲得の条件
今回3名(組)出場した国/地域: 3名(組)のうち上位成績2名(組)の合計ポイントが14-28pt。
今回2名(組)出場した国/地域: その2名(組)の合計ポイントが14-28pt。
今回1名(組)出場した国/地域: その1名(組)の獲得ポイントが3-10pt。(=3-10位の成績)
上記条件に合わなければ、次回はすべて1枠になる。例え今回3枠持っていた国でも、出場選手の上位2名(組)の合計ポイントが28pt.以下に収まらなければ、次回は一気に1枠に激減してしまうこともありうるわけだ。


08年大会の獲得ポイントと09年大会の出場枠

それでは、各種目別に次回ロスアンゼルス大会で複数枠を獲得した国・地域のポイント数、イエテボリ大会からの枠の増減を見てみよう。
表記内容は以下の通り。
国・地域 / イエテボリ大会での有効獲得ポイント(ポイント内訳) / 枠の増減数

アイス・ダンス
3枠獲得
フランス / 8 (1+7) / 増1
米国 / 10 (4+6) / 増減0
2枠獲得
英国 / 8 (8) / 増1
イスラエル / 9 (9) / 増1
ロシア / 16 (3+13) / 減1
イタリア / 15 (5+10) / 増減0
カナダ / 18 (2+16) / 減1

今回3枠を持っていたブルガリアは1枠に激減してしまった。カルガリーに続き東京も連覇した大立者、デンコワ/スタビスキー組の偉業で今回のイエテボリでは3枠を獲得していたのだが、スタビスキーの不幸な事故により彼ら自身が07-08シーズンの活動を停止。イエテボリも欠場したため、今回のブルガリアは出場枠をフルに使えずデミレワ/クラーキン組のみの出場だった。そのデミレワ/クラーキン組がFDに進めず(FNR)18pt.に留まったため、次回は1枠に戻ってしまった。
それにしてもスタビスキーはどうしているのだろうか。不幸な事故だっただけに軽率なことは言えないが、東京大会の後には引退を撤回し現役復帰の意志を見せていただけに残念でならない。今となっては、レセプションパーティでお会いしたときのユーモラスなお人柄が偲ばれるだけなのだが・・・・。

ペア
3枠獲得
ドイツ / 1 (1) / 増2
中国 / 7 (2+5) / 増減0
カナダ / 9 (3+6) / 増減0
ロシア / 11 (4+7) / 増1
2枠獲得
米国 / 21 (10+11) / 増減0
ウクライナ / 27 (9+18) / 増減0

現在、ペアの2強、中国とカナダが3枠を維持したのは流石だが、特筆すべきはドイツ。ドイツから唯一出場したサフチェンコ/ゾルコーヴィ組が優勝、ドイツは2枠増の大躍進となった。但し、ドイツは次回何組出場してくるかがポイント。せっかく3枠獲得しても今回同様1組出場だと2位以上の成績を挙げないと3枠は維持できないのだが。

男子シングル
3枠獲得
カナダ / 10 (1+9) / 増1
日本 / 12 (4+8) / 増減0
米国 / 13 (3+10) / 増減0
2枠獲得
ベルギー / 6 (6) / 増1
ロシア / 7 (7) / 増1
フランス / 18 (2+16) / 減1
スイス / 21 (5+16) / 増減0
スウェーデン / 27 (13+14) / 増減0

カナダの3枠獲得はもちろんバトルの戴冠なくしては成しえなかったわけだが、チャンの初出場にして9位の健闘も光る。日本は高橋選手の失速に肝を冷やしたが小塚選手のこれまた初出場で8位の大健闘が窮状を救ったと言えよう。米国はライザチェックの欠場で3枠維持に危機感を抱いていたはずだが、そこはフィギュア王国USA。キャリエールが奮闘し層の厚さを見せたと言えようか。
むしろ今回失速したのは欧州勢。フランスはやはりプレオベールの棄権(=FNR)が響いた。ジュベールの孤軍奮闘では減枠も致し方ないところ。それよりも皮算用が大きく狂ったのはチェコだろう。欧州覇者ベルネルを擁して臨んだイエテボリで2枠維持は堅い、あわよくば3枠も、と見込んでいたかもしれないが、蓋を開けてみればまさかの大失速。1枠に減ってしまったのは大誤算以外の何ものでもないだろう。そして、ロシアはヴォロノフの活躍で増枠の2枠。帝国復活を目論む皇帝プルシェンコは、この増えた1枠を利用してロスアンゼルスで現役復帰を現実のものにするのだろうか。どちらにしても新旧の世代が群雄割拠する男子シングルの来季はますます楽しみだ。

女子シングル
3枠獲得
日本 / 5 (1+4) / 増減0
2枠獲得
イタリア / 15 (2+13) / 増減0
フィンランド / 17 (8+9) / 
米国 / 17 (7+10) / 減1
韓国 / 19 (3+16) / 増減0
カナダ / 19 (5+14) / 増減0
スイス / 24 (6+18) / 増減0

女子シングルは地殻変動が起きた。フィギュア王国の名を長く牽引してきた女子シングルで米国が2枠に減ってしまったのだ。記録を丹念に調べれば正確なところが分かるだろうが、私の記憶では米国女子勢は3枠が当たり前であった。それくらい2枠の記憶がない。マイズナーの低迷はもう少し辛抱が必要だろうが、全米選手権の勢いに期待していただろうワーグナーの不出来には全米協会(USFSA)の面々も落胆したのではないか。これで3枠は日本だけになってしまった。安藤選手の負傷には日ス連(JSF)の方々も心臓の縮む思いがしただろうが、中野選手が安定した力を発揮したことには心強い思いがしただろう。浅田真選手も含めて日本の女子陣はこの3強が揃って崩れない限りは3枠は安泰と思わせるほど全盛期を迎えている。
一方で惜しかったのはイタリア。3枠獲得まであと一息だった。13位のマルケイが11位になっていれば、2位コストナーのポイントと合わせて3枠獲得だった。13位マルケイと11位セベスチェンの差はわずか2.24だったのだから。

各国とも出場枠数を維持した中、フィギュア王国・米国が1枠減らしてしまったことは別な視点でも興味深い。というのも、ただでさえ米国内ではジュニア勢の台頭が著しく、USFSAは誰をシニアに移行させるかに腐心しているだろうから、この減枠状況ではUSFSAの苦悩ぶりが想像されるからだ。
とは言え、USFSAでは選手の格付けが明文化されているので、イエテボリの閉幕後1ヵ月も経たずに来季の陣容が早くも発表されているので、米国女子シングルの08-09シーズンの陣容をご紹介しよう。USFSAでは選手を前季の成績により3チーム(+予備1チーム)に格付けしていている。JSFで言うところの「強化指定」のランクに近いものだと見て差し障りはないだろう。

Team A (いわゆるAランク)
◆選定基準:
全米1位、世界選手権10位以内、GPファイナル3位以内、四大陸1位、のどれかに該当すると無条件でAランクに指定される。(この条件を満たさなくても、直近3年以内に世界選手権3位以内の実績がある選手はコンディション次第で考慮)
◆08-09指定選手:
ナガス(全米1位)、マイズナー(世界選手権7位)、B・リャン(世界選手権10位)
◆派遣大会のレベル(出場資格を与えたわけではない):
ISUチャンピオンシップ大会(世界選手権、冬季五輪、四大陸選手権、世界ジュニア選手権)

Team B
◆選定基準:
四大陸2-3位、シニアのGPファイナル出場者、世界ジュニアまたはジュニアGPファイナル3位以内、全米2-4位、全米ジュニア1位
◆08-09指定選手:
ザン(シニアGPファイナル4位/世界ジュニア2位/全米4位)、フラット(世界ジュニア1位/全米2位)、ワーグナー(全米3位)、ジル(全米ジュニア1位)
◆派遣大会のレベル:
ISUチャンピオンシップ大会以外の国際大会(GPシリーズ等)、米国内の各種大会

Team C
◆選定基準:
ジュニアGPファイナル4-6位、シニアまたはジュニアのISU公認競技会3位以内、全米のシニア5-7位/ジュニア2-5位/ノービス1-3位、(その他実績も考慮)
◆08-09指定選手:
E・ヒューズ、ハッカー、他13名
◆派遣大会のレベル:
米国内の各種大会

ISUチャンピオンシップの成績で考えるとナガスはフラットに譲ることになるが、米国内のタイトルを優先させるところは米国らしいとも言うべきか(なにごとにも「全米一=世界一」と考えるのが米国らしさ?)。
ともあれ、フラット、ザン、ナガスのジュニア3人娘(死語?)は来季はいよいよシニア資格を得る。この3人にマイズナー、ワーグナー、B・リャンも絡んで、世界選手権出場の2枚のチケットを巡る米国内の争奪戦は熾烈を極めるのではないか。しかも来季の世界選手権はバンクーバー五輪の出場枠数をも賭けた重要な大会だ。USFSAとしても何とか3枠に戻したいだろうから、次回の出場者選考は相当慎重になることは想像に難くない。もしかしたら、地元LAで開催される09年世界選手権に出場する米国勢の顔ぶれは今季とはまったく違うものになるかもしれない。
ついこの前まで「日本は世界で最も代表争いが熾烈な国」と喧伝されていたが、どうやら来季はその称号が太平洋を渡ることだけは確かなようだ。

posted by pbq1464 |03:26 | コメント(11) | トラックバック(0)
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