2008年06月14日

貘が夢を見るとき~2008世界選手権レビュー(女子シングル篇2)

ISU世界フィギュアスケート選手権大会2008
ISU World Figure Skating Championships 2008

カロリーナ・コストナー  Carolina KOSTNER (ITA)
SP:64.28(1位)、FS:120.40(3位)、総合:184.68(2位)
昨季の東京大会ではSPで驚かせ、FSで落胆させる結果で、2日間続けて演技をまとめることの難しさを身を持って示してくれたコストナーだったが、今回は2日間まとめて見事に結果を出して見せてくれた。内容的にはジャンプのミスが多かったためSP首位を守りきることができず、惜しくも欧州選手権との2冠達成というスルツカヤ以来の快挙は1点差未満の僅差で逃したが、FS&総合点でPBSを更新。SPはいいけどFSで崩れるという「SP&FSでキス&クライ」の不名誉なパターンを打ち破った。
彼女のSPは今季を通して本当に安定している。全選手中のベストTES(36.34)をマークし、PCSも平均7点台の高スコアとなればSP首位は当然で、これでルッツのステップアウトさえなかったら昨季マークしたSPのPBS(67.15)に並ぼうかという出来だった。長い手足はダイナミックさよりも寧ろエレガントさを感じさせ、エッジワークはスムースで「よく滑るスケート」を見せてくれる。そのエッジワークをいかんなく発揮しているのがステップとスパイラルで、今大会でも見せてくれた深いエッジワークにはいつもながら惚れ惚れするものがある。
FSはジャンプで細かいミスが連続したのが勿体なかったが、全体的に破綻することなくまとめて、見事PBS。今季の彼女のFSは序盤にジャンプを4回続けて入れるというユニークなものだが、プログラムの構成としてはちょっと損しているような印象がある。せっかくスピード感のあるスケーティングをもった選手なのに、序盤のジャンプ4連発の間の「つなぎの滑り」が単調に感じられるのだ。この辺の印象が評価を分けたのだろうか。PCSのTRは6.00~8.00とバラつきが出た。ジャンプの配分もあまり得策とは言えない。FSのプログラム後半(2分以降)のジャンプは「体力を要するので難易度が上がる」と評価され、基礎点が1.1倍される。このルールを活かして、有力選手の多くは一般的に「前半3回+後半4回」のジャンプ配分にすることで、少しでも基礎点を上げる工夫をしている。それに対して彼女のプログラムは「前半4+後半3」だ。これは得策ではない。例えば、(得意の)前半の3Fのソロジャンプを後半に移動させるだけでも基礎点は自動的に5.50から6.05に上がる。もっともこのルールについて言及するのは釈迦に説法なわけだし、昨季のプログラムでも同様の配分になっていたことから察すると、もしかしたら彼女にとって「前半3+後半4」のジャンプ配分は体力的に難しいということがあるのかもしれない。
コストナーは今回で6回連続の出場で、表彰台は3シーズンぶり。そのポディウムも前回より1段上がり、スコア的にも昨季より大きくアップした(+15.76)。他のメダリストが前回よりもスコアダウンしている中、ミスが少なからずあったとは言え、この成績は立派だと思う。なにせミスをしながらPBSを出したのだ。彼女のスケートは着実に向上していると評価されていると見ていいだろう。但し、私自身はスコアもリザルトも今回に及ばなかったものの、前回の東京大会の演技の方が未だに印象深いことを否定できない。それは前回は会場で生で見られたという臨場感の影響もあるかもしれないが、何と言っても前回はSPの素晴らしさと「日本」をテーマにしたFSの演出の記憶が色褪せないからだろう。

キーラ・コルピ  Kiira KORPI (FIN)
SP:60.58(4位)、FS:85.15(17位)、総合:145.73(9位)
まるで「以前のコストナー」のような結果に終わってしまったのがコルピだった。即ち、SPは良かったがFSが・・・・。
SPはパーフェクトな出来。PBSをマークした60.58の内の34.22というTESは、3+3のコンビネーションを持っていない選手としてはほぼ満点に近い出来と言っても過言ではない。キスクラでスコアを確認するまでもなく、演技終了直後のガッツポーズで達成感あふれる笑顔を見せられれば、こちらもつられて笑みがこぼれようというものだ。
SPで上位につけ期待されたFSだったが、結果は残念の一言。7回試みたジャンプの内、クリーンに降りられたのは3Loのみ。残りの6回はコンビネーションがソロになったり、着氷で手を付いたり、回転不足でダウングレードもあった。これだけジャンプを失敗してしまうとスコアは大きくダウンしてしまう。本来予定していたプログラムではTESの基礎点合計が57.92のものだったが、終わってみると40.98。TESだけで17点も失ってしまっては挽回のしようがない。PCSも欧州選手権に比べると抑えられた感じで平均6点台前半に留まってしまったのは致し方ないところか。結局、TESで失ったスコアがそのまま自身のPBSとの差となってしまった。今回のトータルスコアは東京大会並みだったが、直前の欧州選手権で叩き出したPBSを16点以上も下回っては、その美しい唇に笑みが浮かぶことは遂になかった。
FSではジャンプの失敗だけが目立ってしまったようなコルピだったが、彼女の演技を救ってくれたのは観客の応援だった。彼女にとって、スウェーデンは同じ北欧ということもあり準ホームリンクのようだった。地元観客からも熱い応援があり、最初の2つのジャンプを失敗した後に彼女を励ます拍手が起きたのを聞いたときは私自身もうれしくなってしまった。失敗しても励ますような拍手に観客の質の高さと選手への敬愛を感じてならなかった。その直後に決めた3Loでの爆発するような歓声は、彼女のスウェーデンでの人気をよく物語っている。

金 妍兒  Yu-Na KIM (KOR)
SP:59.85(5位)、FS:123.38(1位)、総合:183.23(3位)
韓国国民が熱望していた四大陸を断腸の思いで欠場して臨んだ世界選手権は、結果的には前回と同じ3位にこそ終わったがその内容はやや趣を異にするものだった。順位的には、SP5位と出遅れながらもFS1位で挽回するという展開は前回の浅田真央選手のそれを思い出させるものだったが、FSでも思わぬミスを繰り返してしまっては、コストナーがPBSを出しただけに前回のメダルの色を変えることは叶わなかった。
前回同様、大会前に再発した腰痛をおして出場したわけだが、SPの冒頭のコンビネーションは前回同様「腰痛は三味線か?」と思わせるほどの相変わらずのスピード感溢れるもので舌を巻いた。ところが、「コンビネーションの後に腰痛がぶり返した」そうで続くルッツでよもやの転倒。腰痛の影響か、踏み切りの入り方がずれて軸が傾いてしまった。さらに着氷で重心が後ろにかかってしまったのに加えて、実は回転不足だった。今季の厳しい判定では当然ダウングレード判定されるものと思っていたが、なぜか技術審判がこの回転不足を見逃してくれたのはラッキーだった。ダウングレードされていたら更に2.10も失っていたのだから。それでも彼女のSPで個人的に注目すべきことがひとつあった。楽曲の中盤のワルツでステップを踏むパートがあるが、GPシリーズの頃よりもだいぶワルツらしくなったことだ。以前にも書いたことだが私はこのオペレッタ『こうもり』が大好きなので、だからこそ世界選手権の大一番できちんとワルツを滑ってくれたことに嬉しくなったという次第。
FSはもったいないの一言。3Sが回転不足だったにも関わらずダウングレードを免れ、GOE減点だけで済んだのは幸運だったが、ルッツがシングルになって6点近くも失ってしまったことが順位を決定してしまった。GPで平均9点以上という驚異的なスコアを稼ぎ出したTESのGOEは今回は6.31に留まったが、それでも全選手中のベストスコア。最後の世界選手権でも彼女らしい持ち味を見せてくれた。前回は腰痛がFSでも災いし2回の転倒を喫してしまったが、今回はなんとか持ちこたえたようだ。多少は不安を抱えながらの演技だったかもしれず、GPで見せた疾風のようなスピード感は影を潜めていたものの、本人としては全体的に何とか間に合わせることができたという思いだろう。表彰台の表情がホッとしたように見えたのは気のせいだろうか。
実は全米と欧州選手権の終了段階では、私は金妍兒が優勝候補の最右翼だと思っていた。浅田真央選手の安定感や安藤美姫選手の復調という比較材料はあったが、GPシリーズ2戦の圧倒的な内容、GPファイナルでのミスをしてもハイスコアを叩き出すレベルの高さ、そして3戦通して見られたコンディションの良さ(体力の向上)に、(多くの人と同様に)流石に今回は金妍兒の大会になるのではないかと予想していたのである。ところが、あの腰痛である。多くの報道では単に腰痛とか、中には股関節炎と報じられていたが、母国メディアの報道によると正確には「仙腸靱帯損傷」だそうである。整形外科の義兄に教示してもらったところ、(分かりやすく言うと)脊髄の末端の仙骨と腸骨(骨盤の一部)の間の靱帯が損傷しているということだ。この症例の多くは「骨盤の歪み」に因るものだそうで先天性のものと後天性のものがある。金妍兒の場合はどちらのものかは憶測の域を出ないが、問題はこの症状は慢性化するということだ。昨季もシーズンエンドの世界選手権前に発症し、今回も同様だった。懸命の治療でイエテボリに間に合わせ、何とか前回並みの結果を残すことはできたが、彼女としては内心無念な思いがあったのではないか。2シーズン連続で同じ故障を同時期に発症させたという事実は、この症状が慢性化していることを強く示唆している。ある程度のレベルのスポーツを継続的に行なってきた経験がある人なら実感としても分かると思うが、捻挫や(単純)骨折と違って、靱帯損傷や肉離れ、脱臼というのは反復性が高いため、リハビリを根気よく丁寧にやらないと持病・古傷になりやすく、所謂「爆弾を抱えている」状態になる。これはトップアスリートにとっては致命的な弱点にさえなりうる。どんなに才能があり、どんなにハードワークをこなしても、肉体がついていかなければ元も子もない。慢性化しているとすれば、今後は持病と折り合いをつけながら長期的なコンディショニングを図るのはもちろんのこと、世界選手権や五輪に照準を合わせるのであれば、アイスショーだけではなく競技会の出場も厳選していくような年間計画の見直しも必要になるのではないか。幸い彼女のサポート体制は国家レベル(?)で充実しており、フィジカル面でも専属トレーナーに加えて複数のスタッフが「チーム妍兒」を構成しているという。複数のスタッフがついているということはセカンドオピニオンという点でも有効だろう。
前回の東京大会で見せてくれたSP『ムーラン・ルージュ』の鮮烈さは、未だに私の心を捉えて離さない。願わくはその鮮烈さが記憶にしまいこまれることなく、むしろさらに輝きを増して銀盤を疾風のごとく駆け抜けんことを・・・・。

浅田 真央  Mao ASADA (JPN)
SP:64.10(2位)、FS:121.46(2位)、総合:185.56(1位)
GPシリーズでは今ひとつ本調子とは言えなかったかもしれないが、四大陸できちんと調整し、加えてライバルの相次ぐ故障と不調の僥倖も得て、満を持して望んだ世界選手権。大会前の練習中に足首を捻挫し1週間ほど氷上の練習を中断したとのことだが、このアクシデントが四大陸の直後だったことは不幸中の幸いだった。イエテボリ入りする直前だったら・・・と想像したらぞっとしたことだろう。順位で見れば、東京大会の安藤美姫選手とまったく同じ、SP2位+FS2位=総合1位、という結果だったがその内容は大いに異なる。前回の安藤選手がベスト+ベストで自ら勝ち取った栄冠であったのに対し、今回の浅田真選手の場合は自らベストを出さずとも、(中野友加里選手を除く)他の有力コンペティターが自滅していった結果転がり込んできた優勝だったと言えなくもないからだ。ただ、結果的には薄氷の勝利で内容的にも100%満足のいく出来とは言えなかったかもしれないが、誰よりも激しく熱望し、それこそ喉から手が出るほどに欲していただろう世界チャンピオンの称号をもぎ取った彼女の演技は「アスリートとしての強靭さ」を感じさせるものだった。
SPの技術面では3+3がきちんと入ったことが大きい。SpSqが姿勢保持時間が短くてレベル1に留まったのは勿体なかったが、当ブログで繰り返し書いているように彼女の今季の強みは5コンポーネンツ。今回のSPでも全選手中のベストPCS(28.88)をマークし、TESで多少取りこぼそうがPCSで挽回できるところを証明した。たとえコストナーにTESで1点後れを取ろうが、PCSで逆に1点近く上回り、結果、僅差で2位につけることができたことがFSでも生きた。
そして、FSでも彼女の「勝利の方程式」は有効だった。TESで稼げなくてもPCSで凌ぐ・・・・。とは言っても、当の本人はそれどころではなかっただろう。冒頭の3Aの不発・転倒ではそれこそ心臓が止まるような衝撃だったのではないか。であればこそ、よくぞ堪えた。その後はほぼクリーンな演技。昨季までであれば、勢いで滑りきったときは圧倒的な強さを発揮するが、冒頭で失敗するとその後は焦ってミスを繰り返すというところが見られた。それが今大会では見事に払拭して見せた。今にして思えば、3Aの後のコンビネーションを3F+3Tにしたのが結果的には正解だったかもしれない。これがセカンドを3Loにしていたら連続してミスしたかもしれない。この辺のプログラム構成はアルトゥニアン&タラソワ両巨匠の大英断だったと思う。今季不安定だったコンビネーションを成功させたことで落ち着きを取り戻せたのではないかと思うからだ。そして、5コンポーネンツ。60点台のベストPCSが初優勝の直接の原動力だったのは言うまでもない。「今季の彼女の強みはPCS」と再三指摘した私としても納得のいくスコアだった。
ここで敢えて大胆な自論を披露しよう。今大会は客観的に見れば「終わりよければすべてよし」といったところで、特にFSは前回に遠く及ばなかった。しかし、この先バンクーバーまで見越したスパンで捉えた場合、浅田真選手にとっては今回はターニングポイントになった大会と言えるかもしれない。それは、彼女が現代のトップアスリート(競技選手)としての理想的な域に達しようとしているように思えるからだ。ポイントは3つ。
「真央の体力が羨ましい」 (金妍兒)
まず1番目がフィジカルの強靭さ。これは天賦の才と言えるし、(ご本人は自覚していないかもしれないが)最大の武器である。私は技術を習得するセンスというものは、トップクラスの選手であればそれほど大きな差はないと思っている。選手には各々癖と言うか個性があって、同じ技術でも得手不得手が異なり、習得速度には差が出ることもある。浅田真選手とて例外ではなく、すべての技術をそつなく、簡単に身につけてしまうということはない。ルッツが不完全なのは周知の通りだし、比較的難度が低いはずのサルコウに至っては未だにダブル止まりだ。先日のジャパンオープンで実に3年半振りのサルコウにトライしたがやはりダブルになってしまった。ちなみに、このサルコウの失敗について彼女は「小学生以来跳んでいなかったので・・・」と弁解していたがこれは明らかに事実と異なる。最後にトライしたのは04年ジュニアGP第3戦米国大会のことだから中2のときの話だ。話を戻そう。高度の技術を習得するためには当然ハードワークが必要だ。このハードワークに悲鳴を上げないフィジカルの強さ、高度なエレメントを多数組み込んだプログラムを滑りきれるタフネスが彼女には備わっている。あの伊藤みどりさんでさえ3A習得の過程では骨折をして回復に時間がかかったことがあるし、安藤選手や金妍兒が技術面では浅田真選手と同レベルにありながら、肝心の大一番では故障で実力を発揮しきれないことがままあるのに対して、浅田真選手は少なくとも故障が主因で実力を出し切れなかった、或いは重要な大会を欠場したということはまったくと言っていいほどお目にかかったことがない。トップクラスの選手であれば基礎的なフィジカルトレーニングがベースにあるのは当然のことだが、それに加えて彼女の場合は怪我をしにくい身体を持っている。間接の可動域の広さと筋肉の柔軟性の高さが怪我をしにくい身体を支えているのだろう。そして、こればかりは天性の要素が大きいという。金妍兒がイエテボリ大会の後に「真央の体力が羨ましい」と語ったらしいが、その一言が浅田真選手のアドバンテージを雄弁に物語っている。
「新採点方式の申し子」 (読み人知らず)
2番目は、ルールのトレンドが彼女の特長に合っているということだ。彼女はジュニアからシニアへ移行する際に「新採点方式の申し子」と謳われていたことがある。それは新採点方式の開始が04/05シーズンからだったということと関係がある。中野選手や安藤選手らの1989年以前に生まれた選手はジュニア時代には旧採点方式で育ち、シニア移行後には新採点方式に合わせた修正が求められた。それに対して浅田真選手のような90年以降に生まれた選手の場合は、ジュニア時代から新採点方式で育成されたためシニア移行がスムースに進んだことに由来する(浅田真選手は90年生まれ)。さらに浅田真選手の場合はそれ以外にも「申し子」と称される点がある。新採点方式の大革命の主眼は採点基準の客観性の向上にあったが、その具体案のハイライトが、演技内容を要素別に分解しその難易度を数量化すること、そしてそれらを絶対評価で採点することの2点だった。特に前者が彼女の特性によくマッチしているのではないかと思う。
詳細は後日に譲るが、新採点方式では技術要素はまったく機械的に点数化されている。以前の芸術点の要素はわずかに演技構成点(PCS)に名残を留めてはいるが、その様相は以前とはだいぶ異なる。どうしても主観性を排し客観性を高めるというコンセプトの下では「表現」の評価視点が異なってくるからだ。「いかに美しいか」ではなく「いかに上手か」、或いは「いかに適切か」という価値観が支配的となる。PCSの中でもPE、CH、INの3項目はどちらかというと以前の「芸術点」の名残を留めていると言えないこともないが、これとて判断基準となるのは正確さ、適切さ、バランスといったものでエモーショナルなドメインには属さない。つまりPCSですら技術的な視点が評価の基盤になっていると言える。少し大雑把な言い方になるが、新採点方式に求められるのは、高度な技術力と正確な実施力なのである。そして、このコンセプトに浅田真選手の特性が非常に親和していると思われる。月並みな比喩ではあるが、私は直感的に彼女はフィギュア界における「デジタル世代」の選手なのだなあと思ったことがある。それと対比して、彼女の先輩たちは「アナログ世代」の選手だとも・・・・。欧州のメディアが彼女の演技を「ロボットのようだ」と評したらしいがこれは言いえて妙だ。「ロボット」という表現にはダブルミーニングがあったと思われるが、ポジティブな解釈をすれば、それだけ彼女の演技は常人離れした難度と精度の高さがあるということだろう。もっとも「ロボット」という表現は可愛げがない。私だったら “Clockwork Dolly” くらいには言える。
ところで、私の勝手な妄想だが、トップスケーターを一同に会して各選手とも自分のプログラムを合計10回演技するような競技会が開催されたら、彼女は十中八九、寸分違わない演技を連続して行なえるのではないだろうか。彼女のシーズン通しての安定感、破綻の少ない演技が私にそのような妄想を抱かせて止まない。
新採点方式はフィギュアスケートの「スポーツか?芸術か?」という長きに亘る論争に対して、明確にスポーツの方向へ舵を切った。今もその舵角は変わらないどころか、むしろ強まっている感さえある。しかし、その舵が切られた軌跡を彼女は忠実にトレースしようとしている。
「だって心が真っ白だから」 (浅田真央)
3番目は、競技自体からは少々離れるが、彼女はとても「記号的」だということだ。「メディア的」だと言い換えてもいい。今や彼女の存在は日本国内のフィギュアスケート界においてはアイコンとなっているのではないかということだ。
彼女の演技は初めてフィギュアスケートを見た人でも分かりやすいという声を聞いたことがある。トリノ五輪前後でフィギュアスケートファンが急増したことは有名だが、その急増ファンの多くは彼女のファンなのではないだろうか。私の周りでも最近フィギュアをみるようになったという人の多くが彼女の名を口にする。一方で、(あくまでも私の周囲にいるファンの傾向だが)彼らの「ファン気質」は特徴的でもある。関心の対象は浅田真選手に限定され、他の選手には目もくれないのはもちろん、フィギュアスケートという競技自体への関心もそれほどでもないという人が多い。ただ彼らに共通しているのは、浅田真選手に対してのイメージが一致していることだ。ファンが抱くイメージというのも十人十色だと思っていたら、彼女の場合は万人共通のようだ。彼女の登場時からの展開、話題、そして彼女自身のキャラクターがそうさせるのであろう。世間一般の見方に沿って言うと、まず彼女は彗星のごとく現れた。とにかく詳しくは分からないが「トリプルアクセル」という彼女だけの武器を持っているらしい。お姉さんたちと堂々と渡り合い、試合では常に表彰台。なのに「なぜか」五輪には出られないというのはかわいそうすぎ。そして、あの可憐で無邪気なキャラクター・・・・。彼女を語る際のストーリー、プロフィールは明快で簡潔なのだ。この明快さと簡潔さはメディアにとっては大変好都合で扱いやすい。シンボル=記号になりやすいからだ。加えて、シンボルに相応しい成績を挙げ続けてくれている。実は、このシンボルとしての存在、イメージは彼女のアスリート環境を大いにサポートすることになるのである。そのサポートの主体は企業であり、活動の実体はマーケティングである。
現代のトップアスリートには個人の力だけではなく、そのサポート体制も重要な「戦力」だ。現代の国際的コンペティションの世界は、その競技のメディア露出が増えれば増えるほど、選手がレベルを向上しようとすればするほど金がかかるようになっている。大会の出場給や賞金で生計を立てる、即ち当該競技そのものを生業とすることが(建前的には)許されないアマチュア選手にとって、協会の補助金以外の活動資金は自分で工面しなければならない。それも競技以外の場で。そこで重要なのは企業のパーソナルスポンサードということになる。スポンサード契約、スポンサード料金、スポンサーズベネフィット等々のスポンサード活動を総称して「スポンサーシップ」と言うが、企業のスポンサーシップの目的はマーケティングである。特にスポーツを活用したマーケティングを「スポーツマーケティング」と呼ぶが、スポーツマーケティングが選手に求めるのは当該企業のブランドやメッセージのシンボルとなってもらうことだ。そのため、その選手がシンボルとして市場に認知され、受容されるかということが重要な選定基準になる。先述したように、浅田真選手の記号性はマーケティング、特に広告においては好都合なのである。
広告は複雑なコミュニケーションが苦手なので、単純なイメージや印象を消費者に与えることが広告の主たる目的となる。テレビの世界で言えば、実話を取材してテーマをじっくり掘り下げていくドキュメンタリー番組よりも単純明快で即時的にイメージが伝わるCMに彼女は適している。彼女が愛犬エアロと共演したネスレ・コンフェクショナリー社のチョコレート「ネスレ・エアロ」のCMを思い出してみよう。このCMの企画には広告界における「黄門様の印籠」と言われている「女、子供、動物」の要素が巧みに単純化して描かれている。この3要素は誰からも好感を持たれると信じられているのだ(もっともこの「黄門様の印籠」には広告クリエイティブの手法として安直だという戒めも含まれているのだが・・・・)。本項の小見出しの「だって心が真っ白だから」というのは、彼女が出演するオムロンヘルスケア社の電動歯ブラシ「メディクリーン」のCMでの彼女自身の台詞だが、広告にとって重要なのは実際に彼女の心が「真っ白」かどうかではない。彼女のイメージを通じて「真っ白」という記号が視聴者に残像として蓄積されればいいのである。そして選手にとって重要なのは、そのシンボルとしての価値・イメージが選手自身に多くのCMスポンサー企業をもたらし、その企業を通じて選手に多大なサポート体制が与えられるという構図だ。広告契約金だけではない。企業は選手に活躍してもらわなければならないので、広告以外でも様々に選手をサポートする。来季から彼女にはスポンサーの森永製菓から専属トレーナーが派遣されるという。私が知りうる限り、スポンサーから専属トレーナーのサポートを受けるというフィギュアスケート選手は彼女が初めてではないか。金妍兒にはサポート体制が充実しているという話は先述の通りだが、金妍兒のサポート体制はどこか東欧時代のステートアマのような印象がある。それに対して、浅田真選手の場合は現代のスポーツマーケティングらしい企業主導型のサポート体制が敷かれようとしている。
本人の実力に加えて、いよいよそのサポート体制も日本フィギュアスケート史上、最強のものになりつつあるのだ。


と、ここまでFS滑走順に進めてきたわけで、次はいよいよ最終滑走者、中野友加里選手の番となるところだが、浅田真選手のレビューが予想以上に長くなってしまった。普段、彼女のことを長く採り上げる機会がなかったので、取り合えず新チャンピオンにもなったことだし、この際だから一気に書いてしまおうと思ったら、自分でも呆れるほどに長くなってしまった。ここまでお付き合いいただいた方への感謝と労いを表わす適切な言葉を不幸にして私は知らないが、せめて、ここはブレイクを入れることでご容赦願おう。つまり、当初、2回に分けてアップすると予告した女子シングルのレビューは急遽3回に変更。中野選手と総括は次回へ、という次第。
なんのことはない。私自身の電池が切れしてしまったのだ・・・・。

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posted by pbq1464 |15:15 | コメント(15) | トラックバック(0)
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2008年06月06日

貘が夢を見るとき~2008世界選手権レビュー(女子シングル篇1)

ISU世界フィギュアスケート選手権大会2008
ISU World Figure Skating Championships 2008

前回はスコアをもとにざっと大会を俯瞰したわけだが、今回からはカテゴリー別に振り返る。大会当日の競技進行順にレビューすると、ペア、女子シングル、アイスダンス、男子シングルという順になるのだが、本レビューでは女子シングルから振り返る。(普段見る機会がどうしても少なく、私としても主観と言うか個人的な嗜好に頼らざるをえないペア&アイスダンスは最後にまとめさせていただくことをご容赦願いたい)

LADIES 女子シングル
今回は44の国と地域、合計53選手がエントリー。前回のエントリー数は37の国・地域、45選手。ここ数年の選手エントリー数はだいたい40数名で推移していたので今回はかなり増えた。国・地域別に見ると、3名出場が日本と米国、2名出場がイタリア、フィンランド、カナダ、韓国、スイスだった。2枠(名)以上を持っている国・地域が強豪国と見ていいだろう。
レビューはFSに進んだ24選手の内、総合上位選手及び(私自身の)注目選手を中心に2回に分けて進めよう。(FS滑走順)

ユリア・セベスチェン  Julia SEBESTYEN (HUN)
SP:47.04(19位)、FS:98.13(8位)、総合:145.17(11位)
欧州選手権の出来が良かったので楽しみにしていたのだがSPではコンビネーションの失敗で大きく出遅れてしまった。ステップ、スピンもFCSpを除いてすべてレベルが1~2の判定に留まり、すべての要素でGOEがあまりつかない状況ではスコアは伸びない。ただ、相変わらず素晴らしい出来映えに思えた3FですらGOEが低く抑えられたのは少々疑問が残った。
FSはSPでミスしていた3Lzがうまく決まったのが大きい。前日の鬱憤を晴らすかのような高さも距離もある豪快なルッツで見ている方もスカッとするような快心の出来栄えではないか。ところが好事魔多しとは次のフリップのことだろう。得意のフリップでリップ判定を取られてしまった。これは彼女としては珍しい。ルッツに注意が集中してしまったためにフリップのエッジが狂ってしまったのだろうか。勿体ない。(本人には失礼かもしれないが)面白いことに彼女は3Tが苦手なのだという。トウジャンプが得意な選手はエッジジャンプが苦手というのはよくある。彼女もサルコウが苦手。ところが彼女はルッツやフリップという高難度のトウジャンプが得意なのに、最も低難度のトウループが苦手らしい。この日も3Tがすべて2Tになってしまった。確かに同じトウジャンプでも使う足が逆になるが、ルールで定めた難易度と選手本人の感覚が一致しない好例(悪例?)のひとつだろう。ただSPの出遅れが微妙に本人のメンタルに影響していたのかもしれない。FSは全体的に各要素を慎重にこなしているような印象で、欧州選手権のときのような流れる滑り、エレガントさが感じられなかった。PCSのCH、INあたりが伸び悩んだのはそのせいかもしれない。それでも今季は彼女にとってカムバックのシーズンで、演技終了後には今季の達成感を得られたのだろう。ガッツポーズが清々しかった。
彼女は世界選手権は98年大会から11シーズン連続出場だという。あのルッツやフリップはまだまだ見応え十分。これからも見続けたい選手の一人だ。

キミー・マイズナー  Kimmie MEISSNER (USA)
SP:57.25(9位)、FS:92.49(12位)、総合:149.74(7位)
今季ずっと調子が上がらないままで世界選手権を迎えたマイズナーだが、SPの出来はまずまずだった。本人は “Smart program” を心がけたのだという(「得点を確実に取るための効果的な滑り」という意味か?)。全米で悔しい思いをした後、2ヶ月かけての調整が奏功したのかもしれない。スコアこそSBSに及ばなかったが、コンビネーションで3+3が入ったら60点台に乗せられたと思う。ただフリップがリップ判定になったのは相当厳しいなあという感じ。「完璧なインエッジ」ではなかったかもしれないが「明らかなアウトエッジ」でもなかった。マイズナーのフリップは技術審判から特に厳しく監視されているのではないかと勘ぐってしまうほどだ。とは言え、本人には今季ベストの出来栄えの感触があったのだろう。SP終了直後のガッツポーズには06世界チャンピオンの意地を感じて、見ているこちらの拳にも思わず力が入った。
しかしFSでは全米選手権のビデオを再生しているかのような出来に終わってしまったのは残念。とにかくジャンプに高さがない。回転不足が目立ち、転倒も2度してしまった。J sports の中継で解説の樋口豊さんが「スピードはあった」とフォローしていたが果たしてどうだろう。画面で見る限りではいつものスピード感も感じられず、演技に流れを感じなかったのは気のせいだろうか(TV画面を通じて観ると遅く感じられることはままあるが・・・)。そのせいか安定しているPCSも伸びなかった。浅田真央選手もそうだが、彼女はTESで伸びなくてもPCSで挽回できる手の一人だが、今回はPCSも平均6.2弱に留まり、FSのTSSが100点を大きく下回ってしまったのは、到底彼女の実力ではない。
ただ少しだけ救われたのは、全米のときと違って演技終了後の表情が少しだけ柔らかかったことだろう。首をすくめてみせたその表情からは「今回はこの程度でも仕方ないかな?」という、さっぱりしたような気持ちが垣間見られた。ある意味で納得の演技だったのだろうか。
演技内容よりも気になった点がひとつある。それは彼女の体形のことだ。昨季から比べると、少しふっくらとしたというか、大人の女性らしい体形に変化してきているように見えたのである(特に下半身)。彼女はこの時点で18歳5ヶ月。来季は19歳で迎えるシーズンになる。米国女性の第二次性徴の変化がいくつくらいまで続くのかは知らないが、昨季から今季にかけて体形の変化がありジャンプに影響している可能性もある。身体の成長には伸長期と充実期があるが(これは試験に出ます)、日本女性の場合で言えば高校生くらいの年代は後者にあたる。体重が増えるのだ(決してトレーニング不足のせいではない)。むしろこの時期に適正な体重になっていないと、この後に迎える完成期で強い身体にならない。思春期の無理なダイエットがその後の健康に悪影響を及ぼすと言われているのはこのためだ。この点に関する彼女の情報が入ってこないので推測するしかないのだが、この2シーズンほど3Aをプログラムに入れていないのはその影響もあるのかもしれない。練習は続けているらしいが、恐らく以前よりも成功率が下がっているのではないだろうか。
ここまで読んで、安藤美姫選手にも同じようなことがあったなあと思い出す人も少なくないだろう。安藤選手は03-04シーズンまで4Sを公式戦のプログラムに度々入れてきたが、04-05年から06-07年までの3シーズンはプログラムに入れることを中断した(トリノ五輪を除く)。安藤選手もちょうどこの時期に第二次性徴の充実期を迎えていたと思われ、急激にグラマラスなプロポーションに変化した。一般女性として見れば大変魅惑的なプロポーションもシニア移行に差し掛かった重要な時期と重なり、本人は大変悩んだらしい。この頃の安藤選手に対して、主に男性諸氏から「太った」とか「練習不足」、「体調管理ができていない」などといった声が上がったことを記憶しているが、それは女性の生理現象に対してまったく無知でデリカシーがないばかりか、フィギュアスケートというスポーツ競技にさえ大変敬意を欠いた誹謗中傷に過ぎなかった。私は安藤選手と同じような現象がマイズナーにも起きているのではないかと危惧している。もし、そうであれば大変難しい時期にあるとも言えるし、一方でこの時期を乗り切ればマイズナーの復活は時間の問題とポジティブに見ることもできよう。いや、是非そうであってほしいと思うのは私だけではないはずだ。

サラ・マイアー  Sarah MEIER (SUI)
SP:59.49(7位)、FS:112.39(6位)、総合:171.88(6位)
今季安定した演技を続けているマイアーは世界選手権でもその好調を維持していたようだ。SPではステップやスピンのレベルがやや低かったのは残念だが、振付けは楽曲にとても調和しているように思われ、PCSはもう少し出ても良かったように思う。ただ安定したスコアを出せているのは大きなミスがないことだけではなく、今季のルールに対応した周到な計算があることも確かだ。彼女のフリップはアウトエッジになる癖が今季未修正のままだが、SPでは3Fを3Sに変更することで減点を回避し、むしろスコアアップにつなげている。この辺は全種類のジャンプを跳び分けられる選手ならではの応急処置と言えるだろう。
FSは惜しかった。彼女の演技はスペクタクルには欠けるかもしれないが、シンプルだけどもエレガントでこの日も綺麗なスケートを見せてくれた。中でもスピンは相変わらず美しく見応えがある。私はスケートのエレメントの中でも昔からLSpが大好きなのだが、今季のルール改定でLSpではビールマンを入れないとレベル4が取れなくなってしまった。私はビールマンスピンというやつはアクロバティックなだけでちっとも美しいスピンだとは思っていない。それゆえ今季のルール改定は改悪だと思っているのだが、そのビールマンを入れてもレベル2~3に留まる選手がいる中、彼女のLSpはビールマンなしでレベル3、しかも質の高さでレベル4を超えるスコアをマークしている。この日もGOE+2.0(スコア換算で+1.00)の加点で、LSp3で3.40を稼ぎ出した。LSp4の基礎点は2.60だから、彼女のLSpはレベル4+GOE0.80と同等の価値があることになる。彼女のLSpを見ていると、LSpのレベル4にはどれだけ意味があるのか疑問にさえ思ってしまう。
欧州選手権での調子を維持していただけに、ジャンプのミスがやはり惜しまれる。フリップがリップ判定されたのは気の毒。技術審判員の角度からの視認では「明確なアウトエッジ」を見分けるのは難しかったはずで、彼女のフリップはリップになりやすいという予断が働いたのではないかと疑ってしまうほどだ。とは言っても、ダブルがシングルに、トリプルがダブルになってしまった失点も大きかったのは事実で、これらの失敗で5点は損してしまった。それでもPCSは7点台をマークして、TSSでSBSに近いリザルトに笑顔がこぼれた。

アシュレー・ワーグナー  Ashley WAGNER (USA)
SP:51.49(11位)、FS:85.91(15位)、総合:137.40(16位)
全米選手権を席巻したヤングパワーの一翼を担い、フィギュア王国新世代躍進の期待を集めて北欧に乗り込んできたワーグナーだったが、四大陸と同様にサプライズをもたらすことはできなかった。全米では認定された3Lz+3Loの最強コンビネーションは不発に終わり、スケート全体もなぜかあまり滑っていなかったように見えた。
SPでは安全策に出たかのような消極的な演技に映った。コンビネーションのセカンドを2Loに落とし、演技全体も慎重になるあまり、スピードに乗っていなかった。初出場となった世界選手権は流石に国内選手権のようなメンタリティでは通用しなかったのか、彼女の演技が小さく感じたのはやはり初出場のプレッシャーなのだろうか。四大陸同様にルッツはフルッツ判定され、ステップはぎこちなく硬さが感じられた。楽曲の流れや構成にシンクロした振付けはもう少し評価されてもいいかなと思ったが、全体的に小さくまとまった演技はいかにも「ジュニア上がり」の印象が否めず、彼女らしい「歳に似合わない大人のムード」が生きなかったように思う。(特にSP首位に躍り出たコストナーの直後という滑走順はさらに不運だったかもしれない)
FSで2回跳んだルッツもSP同様フルッツ判定されたが、これはちょっと気の毒。マイアーの場合と同様にあの角度からではエッジは見分けにくかったように思う。彼女のルッツはフルッツになりやすいのは確かだが、あくまでもその時のジャンプを個別に見て判定してほしいものだ。予断が働いていたとしたら不運としか言いようがない。3Fがダウングレード判定されたのも疑問。回転不足というよりもむしろオーバーターンだったのではないか。GOE減点は妥当だがダウングレードはいかがなものか。今回ワーグナーのジャンプは確かにクリーンなものは少なかったが、減点の度合いについては随分と厳しい判定が多かったように思えたのは私の贔屓目からだろうか。
なお、彼女のFSについて付け加えておきたいことがある。彼女のFSの滑走順は安藤選手の次だったのだが、安藤選手が途中棄権となったのでワーグナーの出番が早まってしまった。ワーグナーのFSの出来が芳しくなかったことに対して、日本のTV解説で「アクシデントで予定より出番が早まったので動揺があったかもしれませんね」とコメントがあった。このコメントを真に受けたせいか、ネット掲示板等で「安藤選手の棄権はワーグナーに迷惑をかけた」という無知なコメントが散見された。これに対して両選手の名誉を守るために明らかにしておきたいことがある。本来、公式大会では各選手の滑走順は分単位でスケジュール化され、滑走順の抽選後に公表される。ゆえに選手はそのスケジュールに従ってスタンバイする。その滑走時間の予定が大きく変わると選手は影響を受けることもあるだろう。しかし、実はアクシデントによる時間の変更の場合、選手はレフェリーに申請して時間を予定通りに戻してもらうことができるのだ。演技中のアクシデントがレフェリーに認められた場合、演技を途中からやり直すことができることは知られているが、この滑走順・時間についてはあまり知られていないのでこういう誤解に基づいたコメントが出るのだろう。少なくともワーグナーのコーチはこのことを知っていたはずで、ワーグナーと相談の上、滑走時間の変更を受け入れたのだ。即ち、影響なし、と判断したのである。つまり、安藤選手がワーグナーに迷惑をかけたということはないし、ワーグナーも影響はないと判断してのことだったのである。(J sports 解説の樋口さんが「動揺があったかも」とコメントしたのはワーグナー選手の不出来をフォローしてあげる気遣いから出たものだったというのは想像できるが、厳しい言い方をすれば、余計な憶測を呼ぶ不用意なコメントだったと思う)

ジョアニー・ロシェット  Joannie ROCHETTE (CAN)
SP:59.53(6位)、FS:114.59(5位)、総合:174.12(5位)
彼女もマイアー同様、今季安定して、しかも尻上がりに調子を上げてきた選手だ。この調子に乗って、SPでは3+3のコンビネーションを入れてくるかなと注目したが、セカンドはダブルに留めたのはちょっと残念。四大陸で試みた3+3ではセカンドが回転不足の判定になったことが大一番の舞台で慎重にさせたのだろうか。それでもスピン、ステップはすべてレベル3以上を獲得。これでルッツのステップアウトがなければ彼女はSPでPBSを更新できただろう。それにしてもチャイコフスキーの『ピアノ協奏曲#1』は彼女のキャラクターによく合っていると思う。ブロンドで大人の高貴な色香を漂わせる容姿とフォルテが連続するゴージャスなピアノの調べが気持ちよく調和していた。
FSは彼女のベストの演技ではなかった。ジャンプの細かいミスが響いて、トータルではベストよりも4-5点低いスコアに留まったが、それでも手堅くまとめたという印象だ。ただ、ステップには切れがなく、素早いエッジワークも見られず、手堅い反面、全体的には元気がないなあという印象が残ったのも事実。結果的には総合点で昨季よりも15点以上のスコアアップを果たしたが、今季のGPシリーズや四大陸のときよりも失速感が感じられたのは私だけだろうか。詳しい情報がないのでこれ以上は言えないが、シーズンエンドの大一番でベストの演技ができなかったのは、四大陸からの1ヶ月間のコンディショニングがうまくいかなかったのかもしれない。
彼女のキャリア、演技内容から見ても、彼女は技術的には完成に近い選手と見ていいだろう。今後、競技会でスコアアップを図っていくためには、SPで試みている3+3のコンビネーションを完成させることが考えられるし、FSでのコンビネーションのバリエーションを増やすことだろう。彼女の2連続コンビネーションはシークエンスにしていることがユニークだが、コンペティション上は得策ではない。例えば、今季のFSのコンビネーションは、3Lz+2T+2Lo、3T+3S+SEQ、2A+2A+SEQ の3つだが、最初の3連続はいいとして、3T+3S+SEQ は疑問。なぜ3S+3Tにしないのだろう。前者はシークエンスのため基礎点が8掛けになり2割減ってしまう(8.50×0.8=6.80)。後者であれば基礎点がフルマーク(8.50)取れるのだ。もちろん、こんなことは本人もコーチも百も承知のはずで、なにかロシェット特有の事情があるのかもしれない。エッジジャンプの後にセカンドジャンプを付けるのが苦手とか・・・。
また、彼女はルッツとフリップを跳び分けることができる数少ない選手の一人なので、ルッツだけではなく、フリップでもコンビネーションを跳ぶプログラムをFSで開発できないだろうか。それだけのポテンシャルがある選手なので是非見てみたいものだ。但し、どの選手に言えることらしいが、ソロジャンプが跳べるからと言って、そのジャンプを組み合わせたコンビネーションが跳べるかというと必ずしもそうではない。ところが現行ルールではこういった実際の難易度ではなく、机上の難易度だけで採点が決められている。同じ3Tでも、単独で跳ぶ3Tと2Aの後に付ける3Tとでは選手の感覚では難易度は同じではない。当然セカンドに跳ぶ3Tの方が難しい。ところが現行ルールではどちらも同じ4.00の基礎点しか与えられない。ルールというのは選手同士がフェアに競い合うためにあるのだから、理論だけではなく、現場の実態(選手やコーチの声)もできるだけ反映したものになってほしいと願うばかりだ。
この採点基準に関する問題点は別の機会にまとめて触れることにしよう。

女子シングルの第1回はここまで。第2回はメダリストを中心としたレビュー。それはいつか? Tomorrow never knows. (ミスチルじゃないよ。FAB4だよ)

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posted by pbq1464 |17:26 | コメント(5) | トラックバック(0)
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