2008年05月13日

貘が夢を見るとき~2008世界選手権レビュー(総括篇)

ISU世界フィギュアスケート選手権大会2008
ISU World Figure Skating Championships 2008

世界選手権が閉幕して既に一月半。遅筆を自覚している私としてもよもやレビューがここまで遅くなるとは思いもしなかった。4月中にはアップできるだろうと予定した矢先に、予定外の仕事で日本を離れることがあり、更にはプライベートでいくつかの困難が重なり、こんな中でブログに費やす時間を優先しようものなら公私ともども破綻してしまうところだった。つくづく執筆業を生業に選ばなかった自分の狡猾さに感謝するものだ(ちょっと情けない気もするが・・・・汗)
というわけで、フィギュア界がランビエールの坊主頭に目を丸くし、「モロゾフ・ショック」に騒然となり、基礎点の見直しに糠喜び(?)している真っ最中に、今更ながら色褪せた感のある世界選手権もなかろうに・・・・というところだろうが、私としては本ブログは備忘録という意味合いもある。私自身も大会開催時は悲喜交交の思いで観戦したことは当然だが、時間という鎮静剤が投与された後ではこの大会がどう見えてくるだろうか。ちょっと時間を置いて振り返るのもまた一興というものかもしれない。

レビューは今回の総括篇から始めよう。次回以降は女子シングル、男子シングル、興が尽きなければペアやアイスダンスにも触れてみたい。(あまり当てにはならないかもしれないが・・・・)
全種目で新チャンピオンが誕生したイエテボリ大会はどんな大会だったのだろう。まずは大会全体をスコアで俯瞰して振り返ってみたい。参考までに前回のそれとも比較してみよう。


アイスダンス
1位 212.94 (前回201.61、前回差+11.33)
2位 208.80 (200.46、+8.34)
3位 203.26 (195.43、+7.83)
4位 203.00 (195.19、+7.81)
5位 201.91 (193.44、+8.47)
6位 191.19 (183.94、+7.25)
1-3位平均 208.33 (199.17、+9.16)
1-6位平均 203.52 (195.01、+8.51)
FD出走全24組平均 171.03 (163.86、+7.17)
前回からの連続出場15組平均 183.60 (164.48、+19.12)

驚くことに上位ペアだけではなく、(FD出走の)全24組の平均も大きく前回大会を上回っている。昨季から今季にかけては大きなルール改定はなかったのでスコアが比較しやすいのだが、アイスダンスは全体的に前回よりもレベルアップした大会だったと言えよう。私自身は前回接戦を繰り広げた金銀ペアの不在が多少なりとも上位スコアに影響するかもと思っていたところもあったのだが、それはまったくの杞憂だった。
また、シーズンごとにエントリーの顔ぶれは変わるものだが、FD出走組に限定すると前回からの連続出場を果たしたのは15組(全体の62.5%)。その連続出場組の平均スコアが特に大きく向上している。連続出場組の高成績が全体のレベルを引き上げたと言えよう。これは当然優勝スコアにも影響し、前回の優勝スコアでは今回はメダルどころか6位になるのが関の山というレベルアップぶりだった。なお、メダリストは前回から総入れ替えとなり、今回のメダリストは前回の4、6、8位のペアだった。


ペア
1位 202.86 (前回203.50、前回差-0.64)
2位 197.82 (188.46、+9.36)
3位 192.78 (187.39、+5.39)
4位 191.33 (173.62、+17.71)
5位 186.78 (173.39、+13.39)
6位 169.61 (167.25、+2.36)
1-3位平均 197.82 (193.12、+4.70)
1-6位平均 190.20 (182.27、+7.93)
全20組平均 147.35 (156.12、-8.77) *前回は18組平均。
前回からの連続出場14組平均 164.14 (159.13、+5.01)

全ペア平均では前回大会を下回ったが、上位は接戦となった大会だった。3度世界チャンピオンとなり、前回も圧勝した申雪/趙宏博組が不在のため接戦が期待されたが、果たして上位が見事に接戦を繰り広げる結果となった。ペアは常連組が多く、今回は14組が前回からの連続出場(全体の70.0%)。この連続出場組の平均スコアも前回を上回った。
個別に見ると、優勝スコアこそ前回並みだったが、2位以下、特に4-5位のスコアが大幅に前回を上回ったため、上位5組のスコア差は前回の半分に詰まった。結果的にはGPファイナルから欧州選手権までの好調を維持したサフチェンコ/ゾルコーヴィ組が世界選手権でも優勝をさらい初戴冠。今回のメダリストは前回の3、5、7位のペアだった。


男子シングル
1位 245.17 (前回240.85、前回差+4.32)
2位 231.22 (237.95、-6.73)
3位 221.84 (233.35、-11.51)
4位 220.11 (226.25、-6.14)
5位 217.88 (222.18、-4.30)
6位 216.02 (214.96、+1.06)
1-3位平均 232.74 (237.38、-4.64)
1-6位平均 225.37 (229.26、-3.89)
FS出走全24名平均 195.90 (198.66、-2.76)
前回からの連続出場15名平均 199.86 (201.06、-1.20)

優勝したジェフリー・バトルが孤軍奮闘した大会だった。彼自身PBSを大きく更新したばかりか、前回の優勝スコアさえ超えてみせた。上位選手の中で前回を上回ったのは他にはジョニー・ウィアがいるだけで、この2人以外の上位は軒並み大きくスコアダウン。今回2位のスコアでは前回ではメダルに届かないし、同様に今回3位のスコアは前回では6位止まりだ。全種目中、この男子シングルだけはディフェンディングチャンピオンが出場し2位に入り面目を保った格好だが、彼自身も前回より10点近くもスコアダウン。もっともディフェンディングチャンピオンはよくイエテボリに間に合わせたなあと言ったほうが的確かもしれず、むしろ上位のスコアダウンは、高橋大輔、ステファン・ランビエール、トーマス・ヴェルネルの3選手に因るところが大きいと見るべきだろう。なにせこの3選手の平均スコアダウンは20点を超えるのだから・・・・。
前回からの連続出場選手は15名(全体の62.5%)。この15名平均スコアは実は前回並み。上位が大きくスコアダウンしているのにこの平均があまり下がっていないのは下位グループで大きくスコアアップした選手がいたことを示唆している。(詳細は後日)
バトルはもちろん初戴冠。世界選手権出場6回目にして得た栄冠。ウィアも出場5回目で届いたメダルだった。


女子シングル
1位 185.56 (前回195.09、前回差-9.53)
2位 184.68 (194.45、-9.77)
3位 183.23 (186.14、-2.91)
4位 177.40 (180.23、-2.83)
5位 174.12 (168.92、+5.20)
6位 171.88 (168.92、+2.96)
1-3位平均 184.49 (191.89、-7.40)
1-6位平均 179.48 (182.29、-2.81)
FS完走23名平均 147.38 (152.39、-5.01) *前回は24名平均。
前回からの連続出場15名平均 153.93 (154.95、-1.02)

昨季以来競争が激化し、レベルアップが喧伝されているはずの女子シングルは、意外にも今大会中、最も優勝ラインが下がった種目となった。個別に見れば、カロリーナ・コストナー、中野友加里、ジョアニー・ロシェット、サラ・マイアーの4選手は前回よりも大きくスコアアップしたのだが、他の選手は軒並みスコアダウン。順位とスコアの関係で見れば、5-6位以外はすべて前回よりもスコアダウンしてしまった。その低調ぶりは上位スコアに顕著だ。
優勝争いは今回も1点差未満の大接戦となったが、その中味は大きく異なる。今回の優勝スコアは前回よりも大きく下回り、前回で言えばメダルにすら届かないものだった。その結果、前回の1-6位の点差は26.17だったが、今回のそれは13.68に縮まった。他の種目ではディフェンディングチャンピオンの不在、不調が上位スコアに影響することはなかったが、女子シングルに限ってはディフェンディングチャンピオンの不在が優勝ラインを大きく下げた形となった。(もちろんスコア計算上の話)
(今回DNFの安藤美姫選手を除くと)前回からの連続出場・完走選手は15名(全体の65.2%)。この15名平均スコアは実は男子と同様前回並み。先述の4選手のスコアアップが他の選手のスコアダウンを補った格好だ。(詳細は後日)
今回僅差で2位となった欧州女王は実は2度目のポディウム。彼女はジュニア年代から世界選手権に出場しており、今回で6回連続出場の常連。浅田真央選手はもちろん初優勝であり、SPで出遅れFSで挽回するという前回とは正反対の内容だったにも関わらず金妍兒は前回と同じ3位に終わった。


リザルト・スコアで総括すると、ざっと以上のような概況だ。いつも言っていることだが、各選手の出来栄えというのはスコアや順位だけでレビューするのは当然不十分。次回以降、種目別に注目選手を中心にその演技内容を振り返ってみたい。
最後にアペンディックスを付け加えて、今回の総括篇を一旦締めくくろう。前回、大変話題になったTV視聴率は今回は果たしてどうだったのだろうか。まあ、興味本位で見るだけで十分だが、何かの参考になればと思う。

TV視聴率
まずは簡単な基礎知識のおさらい。一般に「視聴率」としてビデオリサーチ社から発表され、各メディアで報道されているのは、正確に言うと「関東地区の番組平均世帯視聴率」のこと。
1. 関東地区
現在、視聴率は全国27地区で測定されている。その内、最も視聴人口の多い関東地区の視聴率がよく使われる。全国ネットの番組が在京キー局から放送されていることも、関東地区の視聴率が使われることの一因。
2. 番組平均視聴率
実は視聴率は番組単位で測定されているのではなく、専用機械により1分単位で測定されている。(後述の世帯視聴率の場合)
したがって、番組平均視聴率とは「番組開始時間から終了時間までの間に1分単位で測定された視聴率の平均値」のこと。
ついでに言うと、「瞬間最高視聴率」というのを目にすることがあるが、それはこの1分単位の視聴率を使って、番組放送中のピーク視聴率を表している。つまり、番組の視聴率は放送中は一定しておらず、絶えず変動しているのである。
3. 世帯視聴率
視聴率には「世帯視聴率」と「個人視聴率」があり、一般に発表されているのは前者。測定単位が世帯であり、女性だろうが男性だろうがどんな人が見ているかは関係ない。分かりやすく言うと、「家」単位の視聴率と考えていい。よく「視聴率30%」のことを「3割の人が見た」という記事を目にすることがあるが、これは正確ではない。敢えて言えば「3割のご家庭が見た」がより正確な言い方だ。
では「3割の人が見た」を表すのは何か? 「個人視聴率」がそれだ。ビデオリサーチが調査対象としているのは4-69歳の男女。この視聴者全員を母数とした視聴率を「個人全体視聴率」と言う。個人全体視聴率が30%を記録したら「3割の人が見た」と見なしていい。

ここまで書くと、「あんたはTV局関係者か?」と勘ぐる人も出てくるかもしれないが何のことはない。実は調査方法の詳細等はすべてビデオリサーチ社のサイトで公開されているのだ。これ以上の詳細について興味のある方はそちらをどうぞ。なお、現在TV視聴率で公表されているものは地上波のみ。ここで扱うのも地上波のみで、BS、CSは対象外。
閑話休題。
さて、今回フジテレビで中継された番組の視聴率を前回大会のものと比較しながら見てみよう(いずれも関東地区)。視聴率というのは日時や放送形式(生放送か録画放送か)の影響を強く受ける。その条件ができるだけ近いもので比較しないと意味がない。そこで前回比較するのは、女子シングルのFSのみとする。(男子FSは生中継であり、時間帯も深夜だったので条件が違いすぎる)

2007女子FS
放送日時:2007年3月24日(土) 21:00-22:54 (録画放送)
世帯視聴率:平均38.1%、最高50.8%(22:46に記録)
個人全体視聴率:平均22.4%、最高30.8%(22:46に記録)
前大会は東京開催であり生中継も可能だったはずだが、フジテレビはゴールデンタイムに放送するため録画放送だった。世界選手権の放送権獲得後、初の母国開催を中継する同局の徹底した番宣も奏効し、女子FSの中継は録画放送にも関わらずフィギュアスケート大会史上最高の視聴率を叩き出したことは未だに記憶に新しいところ。
上記の視聴率は、番組の開始から終了まで平均して4割近い家庭で、ピーク時には半数を超える家庭で見ていたことを示している。また、個人では平均して5人に1人以上の人が、ピーク時には全体の3割を超える人が番組に釘付けになっていたことになる。ちなみに、世帯、個人とも最高視聴率を記録した22:46という時刻は、安藤美姫選手がキスクラで歓喜の声を上げ、感涙に咽びながらも懸命に場内インタビューに応えるまでの時間帯に相当する。同大会で最もドラマチックで感動的な場面に心を惹かれた人が最も多かったことをこの最高視聴率が力強く示していた。

2008女子FS
放送日時:2008年3月21日(金) 19:04-21:09 (録画放送)
世帯視聴率:平均24.3%、最高33.3%(20:53に記録)
個人全体視聴率:平均12.2%、最高17.7%(20:53に記録)
今大会は欧州開催でもあり、時差の関係もあって当然ながら録画放送。前回の2匹目の泥鰌を狙うフジテレビは、今回も週末のゴールデンの枠を用意したばかりか、四大陸選手権を世界選手権の前哨戦に位置づけて番宣を開始。前回に勝るとも劣らないプロモーションの展開を図った。ところが、蓋を開けてみると視聴率は前回の6割程度、約4割減という数字に留まった。週末のゴールデンで録画放送という放送枠自体はほぼ同条件であり、番宣、大会前の話題作りは前回と遜色がないように思われたが、当日の視聴率は明らかに下がってしまった。TVコンテンツとしてのフィギュアスケートの人気が落ちてしまったのだろうか。実はそうとは言えない事実がある。(詳述は別の機会に譲るが)06年と07年の全日本は同じフジテレビがほぼ同じ日時で放送しているのだが、視聴率は下がっていないのだ。つまり、この世界選手権だけが前回よりも下がったということになる。前回が高過ぎただけ、という見方が一番無難なのかもしれないが果たしてそうなのだろうか。
今回、最高視聴率を記録した時刻は20:53。これは中野友加里選手のリザルトが出て、充実感溢れた笑顔で同選手が番組インタビューに応えるまでの時間帯に相当する。今回の女子FSで最もスタンディングオベーションが多く、歓声に包まれたのが最終滑走の中野選手の演技だった。日本の視聴者の感性はイエテボリのオーディエンスの歓声と共鳴していたようである。

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posted by pbq1464 |03:48 | コメント(6) | トラックバック(0)
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