2008年03月18日

脱亜入欧~四大陸レビュー&世界選手権プレビュー

今回は、いよいよ開幕する07-08シーズンのフィナーレにしてクライマックスの世界選手権のプレビューを、先ごろ(欧州抜きで)開催された四大陸選手権のレビューとともにお送りする。日米のトップクラスのエントリーで一躍「プレ世界選手権」として俄然注目を浴びた四大陸選手権のレビューから世界選手権のプレビューへつなげてみようという趣向だ。はてさて、うまくいくか・・・・。


ISU四大陸フィギュアスケート選手権大会2008
ISU Four Continents Figure Skating Championships 2008

戦前の期待を裏切ってジョニー・ウィアと金妍兒が欠場してしまったので「プレ世界選手権」の様相は色褪せてしまったが、出場選手の出来具合から世界選手権への展望を知る手がかりとしては用を成しただろうか。既に地上波放送、CS放送も終了しており、ご自身の眼でご覧になった方がほとんどだろうから、あくまでも「世界選手権前の仕上がり具合」という視点で振り返ることにしよう。
世界選手権で活躍が期待される上位選手に絞ってのレビュー。駆け足でのレビューなので、御贔屓の選手について触れられていなかったらご容赦を。

まずは男子シングル。例によって(笑)FSの滑走順に紹介しよう。

エヴァン・ライザチェック Evan LYSACEK (USA)
SP:84.06(2位)、FS:149.05(3位)、総合:233.11(3位)
SPのコンビネーションに4Tを組み合わせてきた。チャレンジングで非常に意欲的なスピリットが感じられた演技だった。最終グループの第1滑走だったので少し緊張気味だったらしく、少し硬さが見られステップでは少しスピード感はなかったかもしれないが、よくまとめられたPGだったように思う。PCSはバトルとまったくの同点で、4Tを入れた分だけTSSでバトルを上回った。SPはSBを更新。
FSではジャンプのミスがあり点が少々伸びなかったのは残念。冒頭の4Tは綺麗に回っていたのだが、着氷のエッジの重心が後ろに乗ってしまって転倒。さらに4Tと3Aのコンビネーションが入らなかったのでTESが伸びなかった。他のエレメンツのGOEはもう少しついてもいいかなあという感じはしたのだが、SP同様にFSでも最終グループの第1滑走というのが多少災いし、不運かなあという気もした。6分間練習のすぐ後というのは息も整えなければならないし、コンセントレーションが難しいらしい。(6分間練習の直後はウォームアップできているのでむしろ有利という人もいるが・・・)

ジェフリー・バトル Jeffrey BUTTLE (CAN)
SP:83.85(3位)、FS:150.17(2位)、総合:234.02(2位)
SPはとても良かった。練習では一度も決まらなかった3Aをピタリと決め、スピンとステップが楽曲に乗って見応えのある演技だった。彼は恐らく韓国で最も人気のある選手の一人で、金妍兒欠場の本大会では一番の歓声を浴びていた。SPでも演技終了前から大歓声が沸き上がり、フィニッシュでは悲鳴に似たような歓声まで混じり、まるでポップ・スターへのそれのようだった(彼のグッド・ルッキングがそれに拍車をかける)。TESに対するGOEもよく付いたが、PCSが意外に伸びなかったのには首を捻ってしまった。楽曲にとてもよく乗っていて表現できていたと思うので、特にPE、CH、INの3項目では8点、もしくは8点近い点が出ても良かったように思う。
FSは実は昨季と同じPG。これはジャッジの印象という点では不利に働くことがあるようで難しいかなあと思っていたが、PCSのINでは8点近い点が出て良かった(ジャッジは毎シーズン新しいPGを要求する)。ジャンプのミスがもったいなかった。3Aがダブルになり3Lzで転倒があったり他にもジャンプの着氷が乱れた。それでも四回転なしでよくまとめたという印象で、SPに続きFSでもSBを更新。ジャンプの仕上げを念入りにやれば世界選手権でも十分上位に入ってくるのではないかという期待を抱かせてくれた。

高橋 大輔 Daisuke TAKAHASHI (JPN)
SP:88.57(1位)、FS:175.84(1位)、総合:264.41(1位)
“Dark Swan” の愛称を韓国の地で戴いた高橋選手は、今季目標としていたヒップホップ・ステップ(CiSt)で遂にレベル4を獲得。GOEでも満点をつけたジャッジがいたほどだ(見せ場のSlStはLv3だったが・・・)。基礎点こそ上位3選手の中では一番低かったが、10ポイントを超える大量のGOEが付いて、四回転なしでもTESでライザチェックを上回った。エレメンツの多いFSならまだしもSPで10pt以上の加点は見たことがない。ジャンプはどれも高さがあり着氷にも余裕があった。Lv4を得たCiStと3つのジャンプで大量のGOEを稼ぎ、この4つのエレメンツだけでGOEは8.29という凄まじさ! TESに劣らずPCSも凄かった。TRを除いてすべて8点台。TES、PCSともトップのスコアでTSSで文句なしの首位通過は脱帽。彼の今季のSPは世界選手権を前に、いよいよ完成の領域に入ってきたと見てもいいのではないだろうか。
FSは圧巻。これまた今季の目標だった4T×2回を決め、他のエレメンツもほぼノーミス。PCSもSP同様8点台を連発。合計のTSSが170点を超え、SPとの総合点264.41はあのプルシェンコを越えた。なんと言ってもまずジャンプが素晴らしい。質がいいのだ。4Tに眼が行きがちだが、私は3F+3Tのコンビネーションが素晴らしいと思った。どんな選手、どんなジャンプでも通常プレ・ローテーション(踏切り前の事前回転)があって、踏切り時には既に半回転くらい回っているものだが、彼の3Fはこのプレ・ローテーションがわずかに1/4回転以下に収められていているのだ。ふわっと跳び上がって空中で綺麗に回転するというジャンプで大変質がいい。高難度のジャンプをさらに高い質で跳んで、しかもノーミスとなれば、現在の採点方式では高得点が獲れる。TV解説の樋口豊さんが「勝てるプログラム」と言っていたが正にその通りで、日本のスポーツ紙の(かび臭い)表現を借りれば「勝利の方程式」というところだろう。
これで後はコンディションの調整さえ間違わなければ、北欧の極光は彼の頭上に輝くのではないだろうか。但し、難しいエレメンツを目いっぱい詰め込んだPG構成のためか、ダイナミックな反面、全体が少しせわしない印象を受け、もう少しスローパートでエレガントなスケートを見せてくれたら、彼の頭上に輝くであろう極光は力強さに美しさが加わるのではないかというのは欲張りだろうか。

続いて女子シングル。

ジョアニー・ロシェット Joannie ROCHETTE (CAN)
SP:60.04(3位)、FS:119.50(2位)、総合:179.54(2位)
まず最初に言いたいのは、男子に比べると女子のSPは随分と厳しい判定が多かったなあという印象だった。上位3選手ともコンビネーションのセカンドジャンプが全員回転不足の判定で、他のエレメンツもGOEがあまりつかなかった。
ロシェットはチャレンジしてきた。セカンドが回転不足を取られたとは言え、3+3のコンビネーションを入れてきた。ルッツとフリップを綺麗に跳び分けていて他のエレメンツもノーミス。TESのGOE加点がもう少しあってもよかったかなあとは思ったが、全体に上出来のSP。
FSは前半が素晴らしかった。クリーンなジャンプが続き他のエレメンツもすべてレベル3~4。後半の連続ジャンプ2つをシークエンスで跳ぶのでTESが伸びないのだが(しかも1つはミス)、ここにSPでトライしてくれた3+3のコンビネーションをもってくることができればさらにTESは伸びただろう。PCSが7点近くまで伸びて、ミスがあったのにTSSは119.50というハイスコア。つまり、ロシェットはFSで十分に120点台をマークできるポテンシャルがあるということ。世界選手権では是非FSでも3+3にトライしてほしい。

浅田 真央  Mao ASADA (JPN)
SP:60.94(1位)、FS:132.31(1位)、総合:193.25(1位)
本人もびっくりしたと言っていたが、最初のコンビネーションのセカンドが回転不足に判定されたのは相当厳しい。ルッツがフルッツになったのは今季は「確信犯」だということなので仕方ないが、ステップアウトしてしまったのはルッツに対して開き直りが足りないせいだろうか。たとえTESで伸びなくてもPCSでカバーできるのが今季の彼女の強み。SPでただ一人平均7点台をマークして、TESは全体の3位だったがPCSで挽回して、混戦のSPで僅差の首位。
FSを見て、彼女の世界選手権へ向けての調整は順調だと見えた。3Aを今季初めてクリーンに降りた。「今季初めて」どころか、今までで一番出来の良い3Aだったのではないか。彼女の3Aはジュニア時代から何度も見てきたが、少なくとも私はクリーンに降りた3Aは過去に1回しか見たことがなかった(05年全日本)。転倒はなくても回転不足やステップアウト、両足着氷することがほとんどだったのだ。ルッツがフルッツになってしまうのは今やご愛嬌だが、他のエレメンツもほぼ申し分なく安心して見ていられた。安定感が増してきた。これは世界選手権へ向けて心強い。
現在の彼女の周囲を見渡すと、昨季のビデオを再生して見るように同じような状況が起きている。GPシリーズ中、あれほど無敵を誇った金妍兒が股関節に故障を抱え調整が大幅に遅れ、安藤選手も相変わらずフィジカルの問題は回復しない。それに対して浅田選手のコンディションは抜群だ。なんだかんだ言ってもスポーツは体が資本。「無事これ名馬」とは浅田選手のことだろう。彼女の行く手を阻むものはない。あとは本人も言うように「自分が100%の演技をするだけ」。昨季以上に彼女の視界は良好なはずだ。

安藤 美姫  Miki ANDO (JPN)
SP:60.07(2位)、FS:117.59(3位)、総合:177.66(3位)
彼女もまたコンビネーションのセカンドが回転不足。上位3選手が揃いも揃ってダウングレードというのは本当に珍しい。今季課題としていたフリップはかなり矯正がうまくいっていて、わずかではあるがGOEも加点されるようになった。恐らくシーズン中にエッジ矯正を試みて成功しているのは安藤選手だけだろう(その代わり代償もあったのだが・・・)。右肩の故障は仕方ないが、LSpが相変わらずLv2に留まっているのはもったいない。ビールマンが出来なくても、バックエントランスで入るとかの工夫でLv3まではいけるはず。LSp2とLSp3では基礎点で0.60の差がある。混戦になると無視できない差だ。できないはずはない。是非世界選手権までに調整してほしいものだ。
そして僅差で2位につけて迎えたFSはまたもや最終滑走。それにしても安藤選手というのは本当に不思議な抽選運の持ち主だ。いったい何回目の最終滑走だろう。本人は最終滑走は好きではないらしいので、自分の抽選運(の無さ?)にいい加減呆れているかもしれない。
今季の彼女の目標のひとつに4Sの復活があったが、世界選手権を前に挑んだ試運転の結果は空振りに終わった。冒頭のコンビネーションで最初の3Lzの着氷をミスしたため3+3が入らなかったことで、2シーズンぶりの4Sに対して一気に硬くなってしまったのではないか。アプローチのターンで極端にスピードが落ちていた(緊張は筋肉を硬くしスムースな運動を妨げる)。これでは4Sどころか3Sでも失敗していたかもしれない。体調も芳しくなかったようなのでこのまま崩れてしまうかなと危惧していたら、彼女の収穫はこの後にやってきた。昨年末の全日本で会心のカルメンを演じ、国内歴代最高スコアをマークしたFSの時ですらスピン&ステップはレベル4がわずかに2つ、レベル1~3に留まったものが4つもあった。それが今回はレベル4が4つ、レベル3が2つという出来映えだった。全日本後に力を入れてきたスピンとステップが、ミスが続いた試合の中でもきちんと出せたということは自信になるだろう。
あとは世界選手権までに4Sをどうするか。4Sがなくても他のジャンプをクリーンに跳べば十分勝負できることは昨季の世界選手権でも実証済みだ。4Sは将来的には復活させる必要が出てくるだろうが、そのためにはGPシリーズや全日本、その他の競技会で積極的に跳んで失敗と成功を繰り返すことが必要なのではないか。実戦を練習の場とするくらいのトライ&エラーを繰り返さなければあれほどの大技は復活しないだろう。今季の世界選手権を捨ててまで再度4Sに挑むか、それとも「今できるベストの演技」に集中するか、3月20日、極光が降り注ぐ北欧の夜(日本時間21日未明)、サルコウの母国でその答えが出る。


ISU世界フィギュアスケート選手権大会2008
ISU World Figure Skating Championships 2008

このブログを書き始める直前になって、ライザチェックの欠場が発表された。練習中の負傷ということで彼の落胆はいかばかりであろう。トップクラスの選手であれば誰しもシーズン最後の世界選手権への出場を目指す。まして彼の場合は今季の全米チャンピオンだ。やはり有力選手の欠場は寂しいものだ。せめて世界選手権後に米国内で行なわれるマーシャルズUSで元気な姿を見せてほしい。
さて、ここからは世界選手権のプレビューとしよう。今回のプレビューは07-08GPシリーズと先の欧州選手権と四大陸選手権の結果を踏まえて、上位争いが予測される選手にスポットを当てて、今季の世界チャンピオンの行方を占おうというものだ。
そうは言っても、私にも時間の制約というものがあるので、かなり選手を絞り込んでのプレビューになることを予めご容赦いただきたい。その代わりと言っては何だが、いつもは女子シングルの話が中心のところを今回は男子シングルも採り上げよう。なにせもしかしたら日本選手による男女アベックチャンピオンが誕生するという絶好の機会が今季は見えているからでもある。ペアやアイスダンスは採り上げないのかって?流石にそこまで余力は残っていない。どうかご勘弁を・・・・(汗)

今回のプレビューは各選手のPGの基礎点に着目してみた。何かと不評の新採点方式だが、その副産物として選手のポテンシャルを数量的に把握できるというものがある。技術点の基礎点だ。GOEやPCSはそのときのジャッジの判定に左右されるので予測不能な部分が多いが、選手(やコーチ)が予定しているPGの基礎点を比較することで各選手の力関係を予測することが多少は可能になるのだ。
実際の競技会ではミスがあったり、予定(練習)していた通りの演技がなかなか出来ないものだし、シーズン中にPG構成を変更することも少なくない。
よって、今回は下記の方法で選手のPG基礎点を算出し、比較してみることにする。
(1) 基礎点は、ジャンプ、ステップ等の “Technical Elements” を対象とする。
(2) GOEはカウントしない。
(3) PG構成は今季の競技会で当該選手が演じたすべての演技から推測。(国内大会含む)
(4) ステップ、スピンのレベルは、今季獲得した最高レベルで計算。

男子シングル
男子は日米欧の闘い。比較対象は、高橋大輔、トマス・ヴェルネル、ステファン・ランビエール、ジョニー・ウィア、ジェフリー・バトルの各選手。
本来であればここに現役チャンピオンのブライアン・ジュベールの名前が入らなければならないのだが、彼の欧州選手権の演技を見たが、とても試合に出られるような状態ではなかった。ウィルス性疾患から回復したばかりでいかにも病み上がりの姿は悲痛そのものだった。今季のPGで参考になるデータもないので今回は比較対象から外した(もちろん世界選手権では鮮やかに復活してほしいのだが・・・)。
各選手を基礎点の高い順に並べると・・・・、

SP
ランビエール42.20、バトル39.00、ヴェルネル38.80、ウィア38.70、高橋38.30
ランビエールが高いのはSPに4T+3Tを入れているからで、彼のSPのジャンプ基礎点の合計は26.50。他の4選手はすべてジャンプ要素が23.00で並び差が無い。差が出るのはステップやスピンのレベルで、最も高いのはバトルで16.00。彼はSlSt以外はすべてレベル4を持っている。つまり高橋選手の実際のSPのスコアが高いのは、GOEやPCSで稼いでいることが分かる。

FS
高橋83.63、ランビエール79.13、ヴェルネル78.43、バトル75.61、ウィア71.73
FSでは一気に高橋選手が高くなる。これは今季4Tと3Aを各2回組み込んでいるのが彼だけだからだ。ランビエールも4Tを2回予定しているが3Aは1回だけでその差が出ている。FSでもバトルのステップ&スピンのレベルが最も高く18.70。ウィアはジャンプやそれ以外の要素でも基礎点が低く、GOEとPCSで稼がないと高得点が獲れないPG構成になっている。

総合
高橋121.93、ランビエール121.33、ヴェルネル117.23、バトル114.61、ウィア110.43
SPとFSの基礎点合計で高橋、ランビエール両選手の差はグッと接近する。SPでランビエールがリードし、FSで高橋選手が巻き返す。予定しているPGが本来持っている基礎点で見ると、そういう予測が成り立つ。(もちろんお互いノーミスだったらの話だが・・・)

女子シングル
女子は昨季のメダリスト3人+ロシェットで比較。これまた本来であればここに欧州チャンピオンのカトリーナ・コストナーと前世界女王のキミー・マイズナーを入れたいところではあるが、どうしても今季の参考データが低く比較するには差があり過ぎるので割愛。もちろん世界選手権では調子を上げてきてほしいのは言うまでもない。

SP
浅田真央35.40、安藤美姫34.80、金妍兒34.60、ロシェット34.40
ちょうど1点差以内に4人が並ぶ接戦。特に浅田、安藤選手の差はLSpのレベル差だけ。あとはまったく同じ基礎点を持っている。換言すると、安藤選手はLSpをレベル3に上げないと浅田選手との差が埋まらない。金妍兒とロシェットはジャンプの基礎点が19.00で同点だが、ステップ&スピンのレベルが金妍兒が0.20高いだけ。しかし、実際の試合では金妍兒のSPのスコアが高いのはやはりGOEが高いため。金妍兒は高難度のPGではなく、質の高さ(GOE)で勝負するタイプの選手だということが改めて分かる。

FS
安藤美姫73.55、浅田真央70.55、金妍兒64.95、ロシェット63.99
面白いことに4人のスピン&ステップの基礎点合計は19.50で全員同点。差はジャンプの基礎点。安藤選手は4Sを、浅田選手は3Aを予定通り決めると各々54.05、51.05がジャンプの基礎点となる。金妍兒のジャンプ基礎点は45.45、ロシェットのそれは44.49だ。ここでもそうだが金妍兒の基礎点は決して高くない。しかし実際の彼女のFSはこの基礎点にGOEを大幅に上乗せしてくる。

総合
安藤美姫108.35、浅田真央105.95、金妍兒99.55、ロシェット98.39
基礎点だけで見れば、SPで浅田選手がリードし、FSで安藤選手が挽回するという構図にはなる。しかし大会直前になって状況が激変してきた。安藤選手はSPのPGを昨季の『シェヘラザード』に戻し、FSでは4Sを回避するらしいという情報が入ってきた。せっかくここまで計算した私の苦労は水の泡。まったく無意味になってしまった。もっとも浅田選手にしても今季の状況ではルッツが1~2点減点対象になるのは予測がつく話で、この2人に関して言えば今回の企画は無駄だということになろう(恐らく2人ともこの企画を見たら大笑いするだろうなあ・・・汗)。ちなみに安藤選手のサルコウがトリプルに変更になった場合、FSの基礎点は68.55に、TSSでは103.35に下がり、浅田選手のルッツが1.5点減点になるとやはりFSのそれは69.05に、TSSは104.45に下がる。


またもつまらない企画をやってしまったのではないかという懐疑心が私の脳裏から消えない。あくまでも基礎点の計算は机上の話だ。フィギュアスケートはそんなものでは語れないし、そんな机上の空論を吹き飛ばしてしまうほどの活躍を当然願っている。

英国でも米国でもないヨーロッパのどこかの国の名も無いポップ・グループ、ビヨルン&ベニーが “She’s My Kind of Girl” でささやかなヒットを飛ばし、日本のラジオから流れてきたのは1972年のこと。しかし、『木枯らしの少女』という邦題が付けられたその佳曲がスウェーデンから届けられたことを再認識するにはさらに2年を要した。1974年、そのグループがABBAと名前を変えて世界のアイドルになることを確信して放ったナンバーが彼らの出世作となった “Waterloo” (邦題『恋のウォータールー』)。それは正に天下分け目の「ワーテルローの戦い」に相応しいスマッシュヒットとなって世界を駆け抜けた。
2008年3月18日、30年余の時を越えて、スウェーデン・イエテボリの地で07-08シーズンの「ワーテルローの戦い」の火蓋が切られる。

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posted by pbq1464 |04:31 | コメント(17) | トラックバック(0)
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2008年03月05日

哀愁のヨーロッパ~2008欧州選手権レビュー

ISU欧州フィギュアスケート選手権大会2008
ISU European Figure Skating Championships 2008

サンタナが『哀愁のヨーロッパ』をリリースしたのは今からもう30年以上も前のことだが、原題は単に “EUROPA” と言う。この原題を直訳すれば邦題も『ヨーロッパ』となるところだが、これを『哀愁のヨーロッパ』と意訳したのは単にCBSソニー(当時)の宣伝マンのセンスの問題だけではなく、日本人が欧州に抱くイメージが影響していたことは想像に難くない。当時、洋楽を日本国内でリリースするときは必ずと言っていいほど「邦題」が付けられていて、キャッチーな邦題が付けられるかどうかもレコード会社の重要なプロモーションだったのだ。その副作用として、楽曲のテーマや歌詞の内容に関係なく、ただ単に覚えやすそうだからという理由で「悲しき~」とか「涙の~」、「恋の~」といったセンチメンタルな邦題が乱造されたのも事実だが、この『哀愁のヨーロッパ』について言えばそれなりに楽曲のサウンドと重なって聞こえるのでそれほど評判は悪くなかったように記憶している。確かに、カルロス・サンタナのサステインをよく効かせたギターフレーズはやや湿り気を感じさせ、粘っこい印象を残す。「哀愁」が最適かどうかは分からないが、そのサウンドの印象は「陽」というよりはやはり「陰」に近かっただろう。

さて、いきなり小林克也さんみたいなネタから始まったが、今回は先ごろ全米選手権と同時期に開催された2008欧州選手権のレビューをかいつまんでお届けする。
意外にご存知ない方もいるかもしれないが、欧州選手権はフィギュアスケートの国際選手権としては最古の歴史を持つ。世界選手権よりも古い。この歴史からも分かるように、フィギュアスケートは欧州が発祥の地(元々は北欧という説あり)。ISU本部がスイスにあるようにフィギュア界では未だに欧州出身者が実権を握っているという声も聞く(よくある話だが・・・)。ゆえに、欧州選手権は昔から世界選手権に匹敵する注目を集める(この辺はサッカーにも通じる)。男子シングルは欧米に日本が食い込もうとしている構図だが、ここ最近の女子シングルの世界勢力図は完全に日米が中心になっている感がある。女子シングルで欧州が日米の後塵を拝しているのは特にロシアの衰退が大きく影響していると言われている(昨年11月に第1子を出産したスルツカヤはもう競技会には戻ってこないだろう)。
そんなんじゃあ今の欧州選手権の女子は見所が少ないのか?という懸念を持たれる方もいるかもしれないが、そんなことはない。フィギュアスケートの文化を創った欧州にはやはり今も「伝統美」が生きている。
今回は先般クロアチアのザグレブで開催された大会をレビューしよう。

毎年、全米選手権と同時期に開催される欧州選手権は、加盟国数の多さから選手のエントリー数も相当の数になる。最もエントリーの多い女子シングルで見てみると、32ヶ国から40人の選手がエントリーした。出場枠の規定は世界選手権と同様で、1ヶ国最大3枠、最低1枠が与えられている。今季3枠持っていたのは、イタリア、スイス、フィンランド。つまりこの3ヶ国が現在の欧州女子界をリードしていると見ていい。そして、大会の結果はこの勢力図をなぞるものとなった。
以下、(例によって)FSの滑走順にレビューする。

カロリーナ・コストナー Carolina KOSTNER (ITA)
SP:59.31(1位)、FS:111.97(2位)、総合:171.28(1位)
ディフェンディング・チャンピオンがどうもピリッとしない。トリプルのコンビネーションはいいのだがその他のジャンプが安定しない。スピンは要求要素を満たしているがスピードに欠け見栄えがしない(即ちレベルは取れてもGOEが上がらない)。その代わりと言ってはなんだが、NHK杯で女子初(!)のレベル4を記録したSlStは安定している。今回もレベル3だがGOEはかなりついた。PCSはチャンピオンの貫禄か、SPで7点台を取ったのは彼女だけだ。このPCSがTESの低迷をカバーして、TSSでなんとかコルピを上回り、SPは首位で通過。
FSでもSP同様にルッツがダブルになってしまった。いつもはレベル4を取っているSpSqが姿勢保持の時間が短くてレベル1になったり、フライングキャメルでバランスを崩してしまったりしたのは、演技終盤ということで息切れしてしまったように見えた。コンディション調整がうまくいっていないのかもしれない。但し、相変わらずの姿勢の美しさに手の優雅な動きも加わって、彼女の演技はますます正統派の輝きを増していて、とてもエレガント。FSでは2位に甘んじたが、総合で1位。スルツカヤの去った欧州で見事連覇を達成した。

ヴァレンティーナ・マルケイ Valentina MARCHEI (ITA)
SP:53.69(6位)、FS:99.65(6位)、総合:153.34(6位)
J sports Plus で放送された番組では実況の小林千鶴キャスターが「マルシェイ」と紹介していたが、それだとフランス人になってしまう。ここではイタリア原語に近い読み方の「マルケイ」に統一する。(風邪のため)コストナー欠場の国内選手権を制しての出場。
とにかく表情が豊かな選手で、いかにも南欧の陽気さをスケート全体に感じる。SPはほぼノーミスで本人も納得の出来栄えだったようである。ジャンプもクリーンに決まったし、全体のスピード感もまずまず。但し、ノーミス=無難とも言えるわけで、顔の表情以外には何かアピールするものが足りないなあと思っていたら、PCSが伸びなかった。
FSではジャンプにいくつかミスが出たが、その他の要素が良かった。スピンはすべてレベル3~4で、SlStではエッジがよく氷に乗っていたと思う。コストナーと同世代の彼女は欧州選手権では年々成績を上げていて、イタリアはコストナーだけじゃないわよ、ってところを見せてくれている。

キーラ・コルピ Kiira KORPI (FIN)
SP:58.60(2位)、FS:103.62(5位)、総合:162.22(5位)
元来、北欧には美人が多いと言われているが、彼女もまたその「伝統」から生まれた選手に違いない。プラチナブロンドで抜けるような白い肌と常に微笑を湛えた唇、すらりと伸びた長い手足に均整の取れたシルエット・・・、これだけで既にレベル4だ^^;(小さな胸に小さなヒップは「官能的」ではないかもしれないがアスリートとしてはむしろ好都合だろう)
この選手も全体的にポジションが綺麗。現在はコンビネーションのセカンドで跳ばれる事が多いループだが、彼女はそのループが得意らしくソロジャンプとしてPGに組み込むことが多い。SPでSpSqがレベル1に留まったのは首を捻ったが、ダイナミックな展開がない代わりに全体的にクリーンな演技にまとめた感じだ。PCSも高く、6点台後半のスコアが並んだのは納得。
FSではトリプルの予定がシングル~ダブルになってしまったジャンプが3つもあったのは痛かったが、その他の要素が素晴らしい。PGで使われた『ファンタジア』の弦の調べは彼女のキャラクターに合っていて、うっとりするような気分にさせてくれる。スコアが伸びなかったのはジャンプのミスが影響したのは明らかで、これがなかったら表彰台に乗っていただろう。

ラウラ・レピスト Laura LEPISTO (FIN)
SP:56.96(3位)、FS:108.69(3位)、総合:165.65(3位)
フィンランド・チャンピオンとして初出場を果たした彼女もコルピ同様に姿勢が綺麗な選手だ。とても上品でエレガント。技術要素ではそれほどのハイライトがないので演技全体の印象はおとなしい感じがしないでもない。
SPでは堅実な演技でしっかりとスコアメイクした感じ。基本に忠実なスケートをしているなあ、という印象でコルピとイメージがダブらないでもない。FSではスローな楽曲にも関わらずうまくスピードの緩急をつけていて、よく滑っているという印象。彼女はスピンの姿勢が綺麗で、回っている時のシルエットがとても美しい。PCSも7点台に届こうかという点が出て、シーズンベストをマーク。フィンランド勢の層の厚さを印象付けた。

サラ・マイアー Sarah MEIER (SUI)
SP:56.44(4位)、FS:113.00(1位)、総合:169.44(2位)
彼女のプロフィールの紹介は不要だろう。現在の欧州を代表する選手の一人だ。これは私見だが、日本人の感覚で見たときに「ヨーロッパ」の香りを漂わせてくれる最右翼の選手だろう。ヨーロッパの石畳やテラコッタ、淡いパビスタンプで彩られた街並みの映像に彼女のスケートをオーバーラップさせるととても似合うと思う。いい意味でクラシックで品があり、佇まい自体が美しいのだ。
ジャンプの高さがあまりなくランディングも不安定なのは残念だが、スピン、ステップのときのポジションがとても綺麗だ。SP、FSでもLSpはビールマンをやらなくてもレベル3まで取っている。しかもGOEも+2~3(彼女はビールマンなしのLSpでレベル4を取ったことがあるらしいが、残念ながら私は見ていない。是非見てみたいものだが・・・)。

ユリア・セベスチェン Julia SEBESTYEN (HUN)
SP:55.54(5位)、FS:107.35(4位)、総合:162.89(4位)
04年大会の覇者は今年で27歳になるベテランだが、そのダイナミックで美しいスケートは故障で不遇に喘いでいた2年前から見事に復調したのではないか。特に彼女のフリップ&ルッツは必見で世界屈指のものがある。予備動作が短くステップからすぐ跳べるし、右足もさりげなくトウを突き、サッと跳ぶ。思いっきり右足を後ろに振り上げてトウを「えいやっ」と力任せに突いて跳ぶ選手が少なくない中、彼女のジャンプは優雅だ。しかもその高さがまた素晴らしい。バレーボールのように「最高到達点」という記録がフィギュアスケートにもあったら、彼女のそれは世界一ではないだろうか。跳ぶ前の動作、跳ぶ瞬間のタイミングの取り方、正確なエッジ、空中姿勢、着氷後のフリーレッグ、そして流れ・・・、トウジャンプに関しては彼女に適う選手は今でも探すのは難しいのではないか。(しかも彼女は今年27歳だ!・・・・失敬)
SPでも3Fと3Lzで素晴らしい高さを見せてくれた。本当に見応えのあるジャンプだ。2Aがシングルになってしまったのはもったいなかったが、全体的にきれいな演技。ややスピード感に欠けるかなとは思ったが、彼女の容姿も手伝い、むしろ優雅にさえ感じた。FSでは後半に少しスタミナ切れがしたのか、スピードダウンして、演技全体もスケールダウンしたように見えたのは残念だった。
彼女は今回で欧州選手権は11回連続出場だという。10代の選手ばかりにスポットが当たりがちな日米とは違って、こういうベテランが戻ってきてくれる欧州選手権は本当に味わい深いものがある。

欧州選手権はいわゆる「ISUチャンピオンシップ」のひとつに数えられる格式の高いものであり、そのスコアはISUスコアとして公認される。全米選手権では不安定だったエッジ判定も安定していたように見えた反面、PCSは上位選手でも抑え気味のスコアだったように思われた。
スコア自体を比べることは乱暴だが、全米選手権と比べると欧州選手権のスコアは高くない。その原因の多くはジャンプにあると思う。3+3のコンビネーションを跳ぶ選手が少なく、ジャンプで基礎点を稼ぐというPGになっていない。しかし、ジャンプ以外の要素は美しく、質の高い選手が多いのも確かだった。姿勢が美しく、基本に忠実な「きれいな」スケートを数多く見せてもらったと思う。
新ルールになってからフィギュアスケートがスポーツ色を強める傾向にあり、その時流に乗っているのが現在の日米(特に10代の若手)だと言えよう。しかし、どんなにテクニカルなスケートを日米勢が見せてくれようが、欧州の美しいスケートは色褪せることはない。競技会はスコアや順位を競うものであることは事実だが、世界のフィギュアスケートがすべて日米のようなスケートになってしまったら味気ないだろう。美しいスケートを見たかったら西へ行け。これが欧州選手権の醍醐味だ。

サンタナが1976年に発表した名曲『哀愁のヨーロッパ』には “Earth’s Cry, Heaven’s Smile” という副題が付けられていた。もしCBSソニーがこの副題を意訳して邦題をコピーワークしていたら、果たして『哀愁のヨーロッパ』になっただろうか。

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posted by pbq1464 |23:12 | コメント(15) | トラックバック(0)
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