スポーツの誘惑と憂鬱

帰ってきた「アンチスケートの野望」最終章 Part 2

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『アンチケートの野望』 最終章「フィギュアスケートの行く末」 Part 2

連載企画『IJS四つの秘密』 最終回「四つ目の秘密」

連載企画「IJS四つの秘密」も本稿で最終回だ。 最終回のテーマは「絶対評価の原則に隠された相対評価」

IJSの基本設計は「絶対評価」である。この評価方法は旧採点方式(One by One)との明確な違いと解釈されている。 まず旧採点方式(ObO)は分かりやすく言うと「絶対評価×相対評価」と言える。 まず最初に選手個々の演技を絶対評価でつけた後に、その評価を他選手と比較して選手の順位を決めていくという方式だ。そのため最も懸念された問題点が、滑走順が先になるほど不利、後になるほど有利ということであった。特に、先に滑る選手が後に滑る有力選手よりも同等以下のレベルだと見られていた場合、後の有力選手がさらに好演技したら高得点をつけなければならないことを想定して、先に滑る選手が好演技をしても得点を控えめにしておく、ということが常態化していた。加点方式ではなく満点(6.0)からの減点方式であることもそのような後半有利の状況を後押しした。 この点はIJS開発時の改善テーマでもあったので、IJSでは相対評価を廃し、絶対評価で採点することを基本設計にした。実際、IJSになってからObO時代にはなかった「早い滑走順から上位進出」が見られるようになった。その最も象徴的な事例のひとつを冬季五輪バンクーバー2010における、ペア・ショートプログラムに見ることができる。 競技会休養から2009/2010シーズンに復帰した元世界チャンピオンの申雪/趙宏博は、前2シーズンを休養していたのでワールドスタンディングは下位。そのためバンクーバーでのSPの滑走順は第1グループ。しかも抽選でグループ内の滑走順も1番目。つまり出場全20組で最初に滑るペアとなったが、終わってみればSP1位。最初に滑った彼らをどのペアも上回ることができなかった。これは他のコンペティターと比較して相対評価するのではなく、当該コンペティターだけを絶対評価するIJSだから可能となったのだ、ベニッシモ!と解釈された。ちなみに、彼らはフリーでは最終滑走者となり総合優勝も果たしているので、競技会の開始から終了まで遂に順位表示ボードの1位から下がることはなかったという、究極の「漬物石」を達成したことになる(厳密にはフリーは2位だったのでフリーの順位表示では1ランク下がるが) 余談だが、このときの彼らのフリーのPCSでは、INに10.00をつけたジャッジがいた。これはIJS史上初のことだったが、このことがエポックメイキングな結果として報道されることはなかった。私自身は、このとき他のジャッジが8.75をつけたほうに注目した。10.00と8.75、この差は許容範囲内だろうかという視点において。

IJSになって、基本は絶対評価となった。これを否定するつもりはない。しかし、相対評価は雲散霧消したのだろうか。

実はIJSには今も相対評価が生きている。それは「採点の刻み幅」である。 フィギュアスケートの採点は機械で計測する measurement ではなく、人間が評価する judgment である。人間はどこまで細かく判断できるのか。以前にも述べたことだが、特にPCSの刻みは細かすぎる。0.25というまるで機械計測したかのような細かい刻みにはどういう意味があるのだろうか。長年疑問に思っていたことだが、この疑問に答えてくれた奇特な方がいた。それは細かく点をつけないと同点者が増えるからだという。同点者を極力なくすために「敢えて」細かく採点し微小な差を生じさせることで順位決定をするというのだ。その結果、0.01の差でも順位が違うということが起きる。時間を競い、時間を機械計測する競技のような場合は、0.01秒差(時には0.001秒差)に意味があるだろう。しかし、フィギュアスケートは陸上競技ではない。フィギュアスケートに0.01の差をつけられることに競技者側には意味はない。それは競技運営側の都合にすぎない。つまり、絶対評価の細かい採点という仕組みの中に「競技運営の都合での相対評価」が息をひそめて生きているというわけだ。 ただ私は相対評価そのものを否定するものではない。競技会であるからには順位付けが必要であり、順位とは相対評価に他ならない。IJSに変わろうが競技会で相対評価を全廃することは不可能。しかし「結果的に付く相対評価」と「意図的に付ける相対評価」とでは、最終的についた順位の価値が異なる。専門家さえも明確に説明できない0.25という採点の刻みが、選手の演技評価のためではなく、選手の順位付けのために便宜的に設けられたシステムは「仕方ない」ことなのだろうか。私は簡単には頷けない。あまりにも細かい刻みで点差をつけるという採点作業は審判の恣意を生じさせる懸念もある。

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