2007年11月03日

Touch and Go ~GPレビュー&プレビュー(北米篇)

GPシリーズは忙しい。開幕後6週連続で開催され、最終戦の日本大会(NHK杯)の2週間後にはファイナルがある。先週末、米大会が終わったと思ったら今週末には加大会だ。前大会のレビューと次大会のプレビューを正味4日以内でこなさなければならない。記者さんが時間に追われるのは本業だから日常茶飯事のことだろうが、こちらのブログは生業の合間に道楽でやっているに過ぎない。そこで、今回は米大会のレビューと加大会のプレビューをまとめてやってしまおうというわけだ。駆け足になるがご容赦を。

Review of Skate America
ある意味「初戦らしい」大会になった。ルール改正後、シーズンイン後の「最初の公式戦」として予測された通りの結果になった。
まず、ルール改正の影響はかなりあったと思う。私が主に注目していたのは、ルッツ&フリップのエッジ判定、シットスピンのポジション評価だ。それに対する各選手の対応状況が現時点でどの程度かに注目していたわけだ。
一方で予想外だったのは、ジャンプの回転不足に対する判定は、より厳しさを増したという印象がある。ビデオのスロー&コマ送り再生で確認しても「これでも回転不足なの?」と眼を疑いたくなるほどの厳しさだ。(ジャンプの判定方法の詳細については後日触れよう)

次に注目していたのが、各選手のコンディション作りと今季初披露されるプログラムの仕上がりだ。フィギュアスケートの(公式戦の)シーズンはGPで開幕し、各国の国内選手権、四大陸・欧州のISU選手権を経て、世界選手権で閉幕する。どの時期・大会にコンディションのピークを持ってくるのかは各選手のシーズン目標により異なるだろう。日本選手の場合、世界選手権出場を狙うトップクラスの選手であれば、出場権が懸かる全日本に一度ピークを持ってきて、出場権を得た後、再調整し、最終的には世界選手権をトップコンディションで迎えられるのが理想だろう。全日本出場を目標にしている選手であれば、その前の東日本・西日本で良いコンディションが必要だろう。中には浅田真選手のように、「出場するすべての大会で優勝を狙う」と豪語する兵(つわもの)もいるが、まあそれは彼女ならではの話であって、通常は稀有な例だ。競技に影響する故障を抱えている選手であれば、故障回復と同時並行で調整しなければならないので、なおのことじっくりとコンディションを上げていくことになろう。(手の指の骨折というような直接競技に影響しない程度のケガであれば、コンディション調整には問題ないようだ)

そこでシーズン初戦となったGP米大会では予想通り、コンディション調整中やプログラム仕上げ中の選手同士の大会となった。昨季の米大会では、この初戦を復活の試金石とすべくコンディションを合わせてきた安藤美姫選手の圧勝に終わったのはむしろ例外的で、今季は彼女も含めて各選手とも例年通り「調整中」の様相を呈していたと言える。以下は、注目選手の私なりのレビュー。

浅田 舞
足の疲労骨折の回復が先だったので、明らかに調整不足。フィジカル的にも身体が絞れていなくて全体にスピード不足に見えた。当然、プログラムも滑り込めていないようで、特にFSでは後半失速していた。彼女にとってGP初戦から参加するのは酷だったかもしれない。せめてシリーズ後半戦の参加であればもう少し調整もできていただろうに。気の毒だ。
技術的に見ると、SP、FSともすべてのルッツが「フルッツ」に判定されてしまった。跳び方が昨季とまったく同じように見え、矯正にどこまで取組んでいるのか見えなかった。これも間に合わなかったのだろう。
彼女のGPは米大会だけの参加なのでこれでお終い。次は国内戦なので全日本での復活に期待しよう。

エミリー・ヒューズ
なんか随分と身体が大きくなったなあ、と思ったら、身長が168cmまで伸びたそうだ。もともと横幅もある選手なので、余計に大柄に見えてしまった。安定感が身上の彼女ではあるが、ここまで身体が縦にも横にも大きくなるとジャンプが苦しくなるのではないかと危惧していたら、その心配が当ってしまった。
彼女もコンディション調整中なのだろうが、全体的にはなんとか踏ん張ったという感じの演技だった。ジャンプの回転不足が目立ち、着氷もバランスを崩すことが多かった。それでもスピンやスパイラルが軒並みレベル3~4に認定されたところはさすが。この辺が大崩れしないところだろう。ジャンプの精度が増せば、シーズン後半にはもっと良くなるのではないか。・・・と思ってたら、次は加大会で連戦だ。わずか1週間足らずで劇的に調子が上がってくるとは想像しにくい。彼女は今後、全米選手権(08年1月)に向けてコンディションを作っていくことになるのだろうか。

キャロライン・ザン
いやーー、恐れ入谷の鬼子母神だ(死語^^;)。昨季の世界ジュニアを見て、アメリカってぇのは層が厚いというか、流石はフィギュア王国、次から次へと金の卵を輩出するもんだなあ、と感嘆の眼で彼女を見ていたのだが、早速GP初戦で魅せてくれた。
彼女のスーパーウェポンの「パールスピン」がFSでレベル4、しかもGOEは全ジャッジがフルマークの「+3」(換算は+1.5)を付けた。私はGOEがフルマークついたLspを初めて見た。これは実質的に彼女のパールスピンは「世界一」だと認定されたも同然だろう。
コンビネーションジャンプも3-3を入れた(3F+3T)。回転不足と判定されたが、厳しいなあという印象。ルッツでエッジエラーがあったのは矯正がまだできていないということだろうが、この辺のジャンプの質を上げていけば、シニアでも十分に戦っていけるだろう。PCSもジュニア上がりでいきなり平均6点台の後半をマーク。今後、ジャッジに顔を売り、プログラムも仕上げていけば、7点台も見えてくるのではないか。いやいや、末恐ろしいとは彼女のことだ。

安藤 美姫
意外と言ったら失礼だろうが、正直に告白すれば、私の予想よりも良い内容だった。(番組で佐藤有香さんもコメントしていたように)SPのSlStでの予想外の転倒はともかく、FSを普通の出来映えで終えていたらSP2位からの逆転優勝は容易かっただろう。
しかし、結果はそうはならなかった。
その原因は明らかだ。出場選手で最もコンディションが悪かったのは明らかに安藤選手だったろう。浅田舞選手もコンディションは悪かったが、それでも足の故障は癒えていた。対して、安藤選手の右肩は相当悪いようだ。右肩は手術しなければ完治しないとのこと。昨季の全日本での右肩脱臼の後遺症で靭帯が伸びているのかなと思っていたら、軟骨に問題があり、完治には手術が必要ということだ。間接に軟骨の問題があるということであれば「遊離軟骨」がすぐに思い浮かぶが、だとすれば激痛を伴うし、手術しなければ完治はしないだろう。通常は内視鏡手術で軟骨を除去するが、練習を再開するまでに3ヶ月くらいかかるらしい。今季中は手術しないということなので、手術するとしてもシーズン後ということか。
SPで得意の3Lz+3Loのセカンドを2Loに抑えたのを見た時点で、これは相当悪いなと思ったが、案の定FSでも高得点を稼げるジャンプに次々とミスが目立った。SPでフリップがきれいに矯正できていたのは収穫だが、「まだ自分のリズムで跳べていない」ということもありFSではパンクしてしまった。これは繰り返し練習し、身体に染み込ませていくしかないし、初戦早々にその兆しは見ることができた。
TESの基礎点合計はマイズナーと微差だったが、安藤選手はGOEの加点が多く、これがFS1位の原動力となった。一方で、肩の故障を始めとした様々な不安要素があったせいか、演技全体には硬さが見られ、まだまだカルメンを「踊る」というまでには至っていない。これがPCSでマイズナーに劣ったところだろう。PCSのマイズナーとの差は1.44だったので、これが総合2位に甘んじた主因と見ることもできよう。(総合点の差は1.64)
どうやら安藤選手の今季はケガとの闘いから始まってしまったようだ。しかも「今季の完治はない。このままの状態」ということであれば、今季はケガとどう付き合っていくかに腐心するシーズンになるだろう。ただ、面白いもので、不調の原因と対処方法が明らかになっているときは選手というものは意外とサバサバしている。(右肩の状態は楽観視できないが)安藤選手の試合後の表情が明るかったのもそこにあるのだろう。その表情が次戦NHK杯ではさらに輝くことを祈ろう。

キミー・マイズナー
安藤選手とは対照的に、マイズナーに対する私の予想はもう少し良かった。大会前の強気のコメントと自信みなぎる表情からは、昨季、安藤選手と同時出場した大会ですべて後塵を拝した彼女はリベンジに燃えているのか、初戦からトップギアに入れてきているのか、と思わせるものがあった。米大会の公式スポンサーのWEBサイトでは公式練習の様子を動画で見られるのだが、そこで彼女の動画はなかった。事前にコンディションを眼で確かめられる機会を逸したので、彼女のコメントを鵜呑みにするわけにはいかないのだが、彼女の実力を知る者としてはそれなりに期待するのも当然と言うものだ。地元ファンの期待に水を差したくなかったのか、地元メディアに煽られたのかは知る由もないが、蓋を開けてみれば、やはり彼女もトップコンディションとは言いがたかった。
SPのフリップがいきなり「リップ」判定になったときには、「おいおい、俺はブログで君のことを『全種類のジャンプを正確に跳べる』と褒めてんだよ」と冷や汗をかかされたが、FSでは見事にきれいに跳んでくれて、私の名誉(?)をかろうじて守ってくれた(汗)。ジャンプの着氷で度々バランスを崩し、TESのGOEは減点となったが、演技全体を通じてスピードが落ちなかったのは流石。
メディアや一般ファンならず一部の専門家からも、今季も世界選手権のメダリスト3人が中心になるだろうという声が多いのは承知しているが、やはりマイズナーは実力者であることに疑いはない。兎にも角にも、内容はともかく最高の結果を得たのだから、(地元の期待に応えたという意味でも)初戦は目標達成というところだろう。


Preview of Skate Canada
GP第2戦は北米連戦でカナダだ。加大会の概要を述べている暇はないので、さっさと注目選手についてコメント。

★ Today’s Skaters ★ #6
ジョアニー・ロシェット Joannie ROCHETTE
地元カナダからの一番手はやはりロシェット。今年21歳になった彼女だが、既にベテラン選手の貫禄さえ漂わせる。その容姿だけではなく、安定感のある演技が余計にそう感じさせるのだ。スピード感が魅力的な選手で、ジャンプをミスしなければ上位争いの常連だ。
但し、強豪とぶつかる大会でさらに上位を目指すとなると、コンビネーションジャンプにどうしても3-3を入れたい。彼女の事前情報は伝わってこないので予測は難しいが、地元大会ということで表彰台の一角に食い込んでくることを期待しよう。

★ Today’s Skaters ★ #7
浅田 真央 Mao ASADA
彼女はコンディション調整がうまい。というか仕上がりが早い。シーズン始めからトップギア近くに入ってくる。ケガ知らずというのも強みだ。このオフシーズンでは(珍しく)膝に軽い炎症を起こしたらしいが、それもあっという間に回復。これはひとつの才能だ。
若くして既に完成された感があり、弱点を見つけにくい選手のように見える。特に私が評価するのは膝の柔らかさだ。ジャンプがどうしても注目される彼女ではあるが、この膝の柔らかさはまるでクルマのサスペンションのように機能し、彼女のスケーティングにしなやかさを与えている。一見パーフェクトに見える彼女にも実は弱点がないわけではない。浅田真選手と言えば、今や3Aが代名詞になっているようにジャンプの名手のように報道され、そう思っている人も多いだろうが、敢えてパラドキシカルな言い方をすると、そのジャンプに弱点があるのだ。意外にも彼女は全種類のジャンプを跳ぶことができない。ルッツがリップになってしまうのはノービス時代からの長い癖で、日米対抗でも矯正できていなかった。本番の公式戦でどこまで対応してくるだろうか。サルコウに至っては明らかに苦手で、彼女のサルコウは04年のジュニアGPの米大会が最後だ。しかもこのときは3Sが回転不足で2Sにダウングレードされ、転倒までしてしまった。それ以来、彼女のプログラムからはサルコウが消えてしまった。(跳べないとは言わないが)使えるジャンプの種類が限られるというのは、ウェルバランスの点で不利で、プログラムの構成に片寄りが生じるだろう。もっとも、苦手を克服してバランス良くするのか、得意を伸ばしてユニークネスを追求するのかは本人次第だが・・・。
また、特に減点対象にはなっていないようだが、彼女のフリップもちょっとした癖があり、ノービス~ジュニア時代には(国内の)ジャッジの間では意見が出されていたことがある。本来フリップは「トウジャンプ」なのだが、彼女の場合はトウを突くはずの右足が「エッジ気味」になり、ループのようになってしまうというものだ。実際にはこれが原因でGOE減点されたものを見たことがないので、競技上は問題なしとされているようだが、最近、一部のファンの間で話題になり思い出した次第。その代わりと言ってはなんだが、彼女のアクセルは実にきれいだ。本人も一番好きなジャンプなのではないか。ジャンプというのは、ルール上の難易度と本人の中の難易度とは必ずしも一致しないという好例だろう。(安藤選手が3Aや4Tを跳んだことがないのに4Sを跳べる、というのも同様だ)
浅田真選手の見所は、まず初戦から3Aを成功させてくるか。調整の早い彼女のことだから期待しよう。そして、日米対抗でレベル4と判定されたSlStが公式戦ではどう判定されるか。たとえレベル4と判定されなくとも彼女の今季のステップは要注目。本人の「大人にはなりたくない」という発言とは裏腹に、大人っぽい表現力を身に付けようとしているのが今季の彼女のテーマのひとつ。その原動力としているのがステップだ。ヤグディンが「真央はジャンプはいいが、ステップはまだまだジュニアだね」と言っていたらしいが、さすがのヤグディンも今季の彼女には脱帽するかもしれない。楽しみだ。

★ Today’s Skaters ★ #8
中野 友加里 Yukari NAKANO
中野選手の仕上がりが早い。先日の東京選手権で久しぶりに3Aを決めてくれた。直接見に行った友人の話によると、回転不足も見られずクリーンな着氷だったとのこと。他の選手が公式戦に初めて臨む中、彼女は既にシーズンインしている。試合勘とコンディションと言う点では彼女は一歩リードしているかもしれない。これは面白いことになりそうだ。
伊藤みどりさんが引退した後、3Aの後継者となったのは実は中野選手。浅田真選手よりも先に、FSで3Aを2回入れるプログラムに挑んだばかりか、3A+2Tのコンビネーションさえ成功させた。このコンビネーションは私も実際に見たことがあり、思わず歓声を上げたことを今でも鮮明に覚えている。しかもこのときは、最初のソロ3Aを失敗した後だけに「たいしたものだなあ」と感嘆した。
(村主章枝選手は別として)彼女は最近選手仲間から「おねえさん」的存在として慕われているという。それはそれで微笑ましくもあるが、まだまだどうして、バンクーバーだって十分狙えるし、すでに昨季から再上昇のモードに入っている。跳べ!友加里、バンクーバーの国で。

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posted by pbq1447 |01:11 | コメント(0) | トラックバック(1)
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2007-11-05 20:14 | 続きを読む
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