2008年01月28日
岡田武史と日本代表 キーワードと応用力
どんな相手にも、同じことを繰り返していてはチームとして成長しないと思っていますので、そこで(選手たちに自分の考えを)押し付けないと言いました。 チリ戦後 岡田監督のコメント 2008年1月26日
日本代表のキリンカップ、チリ戦が行われたその当日、僕はもう一つの「接近・展開・連続」を見ていた。なんのことはない、学校の校庭で娘が出る小学校二年生のサッカーの試合を見ていたのだ。本当に寒い日だった。
小学校の低学年のゲームだから、転がるサッカーボールに、子供たちが集まってくる。そんな「接近」の「連続」は当たり前だと思うだろうが、しかし、こんなレベルでも現代サッカーの戦術的影響は如実に感じられる。 相手チームのコーチの声の八割は「当たれ!」か「なんで当たらないの!」だった。当たるとは、相手がボールを持ったらみんなで体を当てにいけ、という意味らしく、まさしく「接近」のプレス戦術だった。コーチに影響されたのか、チームを応援する子供たちやお母さんまで「みんなで当たりにいけ」と声をかけている。 「プレス」を子供たちに強いるのも、この年代では疑問だが、それ以上に「当たれ」というシンプルなキーワードを繰り返すことで、子供たちの応用力を奪ってしまっているように思えた。 しかし、悔しいことに「接近」戦術はとても効果的だ。 娘のチームは、ボールを持ったら丁寧に運ぶのをテーマに試合に臨むから、この「当たりプレス」の格好の餌食になった。ボールを持つと、拙いフェイントを入れて前に運ぼうとするが、そこに敵のうまい子がわっと当たってくる。これではすぐにボールを奪われてしまう。 点数の上では0-0とはいえ、明らかに苦しい展開だった。 しかし、試合の終盤、機転を利かせた子供が、相手の「接近」戦術をかいくぐる策を編み出す。ボールを持って、いつものように前に運ぶと見せかけて、相手が迫ってきたら、逆サイドの味方に少ないタッチ数で、すばやくパスを出したのだ。 あらかじめ空気を読んでいた味方の選手は、スペースでボールを受け取ると、普段から練習しているドリブルで前に前に運んでいく。相手は密集していた分、サイドチェンジにはついていけず、一人をかわすと、キーパーと一対一になり、見事なゴールを決めることになった。 このクレバーな1点を守りきって、10分ハーフのゲームを勝利で終えることができた。 もちろん、それは嘘で、たまたまボールを持った子が、敵が来て慌ててミスキックをしたというのが真相だ。それが、また運が良いことに、少し離れて走っていた子の足もとにいった。 「急にボールが来たからびっくりしちゃたよ」というのがゴールを決めた少年のコメントで、パスをした子も首をかしげたまま「えへへ」と笑っていた。 子供たちのその場面は「接近」を見事に破る場面のように見え、見かたを変えれば、接近から展開の典型的な姿にも見え、ちょっと不思議な気分だった。 その勝利の余韻を残したまま、夜は本当の日本代表戦に足を運んだ。 「日本代表に昔ほど情熱が持てなくなった」などと普段からぶつくさ言っている癖に、僕は国立のスタジアムに座っていた。周りにはしっかり新しい日本代表のユニフォームを買った人たちがいる。僕もサッカーショップで早く買わなくちゃ、と思ったりしている。 代表を見ない、という選択肢はやっぱり僕にはない。代表は代表なのだ。 数日前、小学校二年生の娘に「岡ちゃんのキーワードはなーんだ?」なんて問題を出されたものだから、僕の頭には「接近」というキーワードが張り付いていた。 (もっとも、娘は問題を出した癖に「答えは『なんとか展開連続』でした!・・・なんとかは、忘れちゃった」とのこと) しかし、そんな表面的なキーワードはかえって邪魔になる。日本のプレスに注目して見ていたが、相手のチリ代表のプレスだって、見事なものだった。 試合を通して、日本の「接近」が特別に見えた場面は、それほどなかったように思う。まして、「接近」が「展開」になる場面も、前半38分周辺の攻防とか、後半19分の大久保のシュートにつながる動きとか、それほど多くはなかったように見えた。 厳しいプレスは、いまや当たり前の話だし、問題はそれをいつどれだけ効果的に行うか、という話だと思う。奪い方、その後の展開だって、相手の状況に応じて速効かタメか、一人で運ぶかを判断するしかない。 逆にチーム全体が、型にとらわれて思考停止し、単調な「連続」を繰り返せば、結果は悲惨なものになるだろう。 試合を見ながらそんなことを考えていると、なんだか悲しい気分になった。 目の前にいる選手の面々は、オシムのメンバーとそれほど変わりはない。日本の特徴を生かすサッカーを目指すというのも同じだし、ボールも人もよく動くサッカー、というベースも変わりはない。 それでも、目の前で展開されているサッカーは、全然違っていた。 チリ戦はとてもバタバタとした印象のサッカーで、バランスも仕掛けもタメもなかった。試合の流れを読みながら、選手たちが仕掛けどころを探るような感じがすっかりなくなっていた。 髪型がガットゥーゾになった鈴木啓太は、すぐにボールをはたいていた。両サイドバックも、落ち着かない中盤との意志の疎通を失っているように見えた。ボールの奪い方にしても、次を考えた効果的なものには見えなかった。 チーム全体が、キーワードや型と引き換えに、バランスと応用力を失ってしまっていた。 今の気持ちを正直に言えば、いささか悲観的な気持ちだ。 審判の笛が吹かれた直後から、千駄ヶ谷門が人であふれた風景は、寒さだけが原因ではなかったように思う。 しかし、僕も、他の人々も、水曜日にはまた性懲りもなく同じ場所で代表のゲームを見ていることだろう。 また新しいビジョンの上に、考える作業がはじまった。 フィールドに立った選手たちの、考える力をどう引き出すか。子供の年代から代表のサッカーまで、ずっと日本が抱え続ける課題が、また新しい形で目の前にある。
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相手チームのコーチの声の八割は「当たれ!」か「なんで当たらないの!」だった。当たるとは、相手がボールを持ったらみんなで体を当てにいけ、という意味らしく、まさしく「接近」のプレス戦術だった。コーチに影響されたのか、チームを応援する子供たちやお母さんまで「みんなで当たりにいけ」と声をかけている。
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