2007年01月27日

JFAテクニカルレポートが抱える広大な行間

「全員がハードワークする」というこの傾向は、日本人が特性として最も力を発揮できる部分であると考えられている
2006FIFAワールドカップ ドイツ JFAテクニカルレポートより


もうあちこちで話題になっているJFAのテクニカルレポートの話。
ご存知のように日本サッカー協会が、ドイツワールドカップの分析をまとめたレポートだ。
お堅い分析レポートだから「楽しんだ」は適当でないように聞こえるが、僕は純粋にサッカーのエンターテイメントDVDとして楽しんでいる。

サッカー協会という権力を持った体制側(?)がまとめたビデオだから、なんとなく斜めに構えて見てしまうのだが、はっきり言って、これまで見たサッカーのDVDの中でも、最も面白い部類に属する。
ハイライトシーンを集めたワールドカップのスーパープレイ集よりも、ずっと面白いんじゃないかと個人的には思っている。サッカー協会の皆様、本当にご苦労様でした。

必ずしもゴールにつながらなかった場面でも、ゴールにいたるまでの隠れたプレイ、たとえばポジショニングとか、スペースを作る動きとかが、わかりやすく語られている。
知ったかぶりして語っていた言葉が、実は具体的にこういうことなんだ、というのがわかってくる。だから、もう三回ぐらい見直しているのに、「へぇー」と「ほぉー」と「なーるほど」がいっぱい並ぶ。

このレポートの一番大きなメッセージは、現在のサッカーが、「甘えの許されないサッカー」になったという点にある。守備が免除されるスーパースターはもはや存在しないのです、と重苦しい解説が語るように、90分手を抜かない守備のすごさを長い時間を割いて見せてくれる。

さて、最初は「面白い、面白い」「へぇーそうなんだ」というふうに見ていたこのDVDが、正月に見直したときにちょっと重い感じになった。
それは「甘えの許されないサッカーを実現するために、育成年代からそれを徹底していくべきだ」という趣旨のことが語られていたからだ。

これは、聞き手の立場にたつと、甘えの許されないサッカーを子供たちにも徹底させようと言っているように聞こえるのだ。
もしかしてやばいかも、と僕は腕を組んで下を向いた。

テクニカルレポートが無くても、ワールドカップと代表のサッカーは子供たちのサッカーに大きな影響を与える。スーパープレイを見た子供たちが、あこがれてマネをする、といった面ももちろんあるが、コーチやお父さんたちが結構、影響をもろに受ける。

「ゾーンプレス」と加茂監督が言うと、プレスっぽい動きが小学生のサッカーでも目立ち始める。トルシエが推し進めた守備戦術で縛るサッカーは、小学生たちの現場にも持ち込まれ、守備意識が高められて、ポジションと動きが教え込まれた。

ジーコが登場すると、口では代表とジーコを批判しつつも、「自分で判断してプレイするように」といった感じで、お父さんたちが子供に言ったりする。
そして、今はとにかく、走るサッカーが全盛だ。

そうすると、このまま行くと「甘えの許されない」守備中心のサッカーの徹底、というのが小学生たちのサッカーにも持ち込まれていくのは間違いない。
子供たちとその周りのお父さんたちが、みんな必死になって「甘えの許されないサッカー」に向かう姿を想像してみてください。
なんか、そのお父さんたちが会社で働いている姿に似てきませんか?

特に今回のドイツワールドカップが日本に突きつけた現実が悲惨だっただけに、「死に物狂いでがんばって世界に追いつかないとかなりやばい」という肌触りが日本のサッカーに蔓延している。

そもそも日本という国の経済的な勝利は、敗戦という痛すぎる出来事から、「甘えの許されない」労働時間と「甘えの許されない」品質向上の追求を基本に、「甘えの許されない」経済発展を遂げた結果から得られたものだ。

状況は酷似している。
ドイツでの歴史上もっとも痛い敗戦から、「甘えの許されない」展開で世界を目指すのは、日本人の成功体験にあまりにぴったりしすぎる。
お仕事をまじめにこなしはじめると、とても優秀な民族で、そんな日本を支えたお父さんたちが子供たちのサッカーに口を出す。

「全員がハードワークする」というこの傾向は、日本人が特性として最も力を発揮できる部分であると考えられている。言い換えると、世界のトップレベルのサッカーの流れが、日本人の特徴を生かせる方向に進んできてくれていると言ってよい。
2006FIFAワールドカップ ドイツ JFAテクニカルレポートより

ちょっと待ってほしい。そんなに簡単に言わないでほしい。
そんな風にサッカーをお仕事に変えられたら、ぜんぜん子供たちのサッカーが楽しくなくなってしまう。
何かとても大きな忘れ物をしている、と僕は休みの日に公園を歩きながら悩み始めた。

ええと、もうちょっと根本から考えてみよう。
そもそもなんでこんなに世界は甘えの許されないサッカーになったのかな。
ああ、そうか。
そうしないとゴールを獲られちゃうからだ。つまり、ちょっと甘え=隙があればどっからでもシュートをうたれてしまうからだ。

一つの現象には必ずそこに背景がある。
今回の「甘えの許されないサッカー」の前には、「どこからでもいつでもゴールを狙っている」サッカーがあった、と順番から言えばそうなる。
そういえば、ヨーロッパや海外のスーパープレイを見るたび「げっ、こんなところにもシュートコースがあるんだ」とか「まさかここからゴールを狙うとは」というショックを受ける。どこからゴールになるかわからないから、どこでも守備をする。そういうことだ。
でもテクニカルレポートの中では、その辺は強調されていない。広大な行間として、放置されている。

そもそも、僕らの日本代表には「どこからいつでもゴールを狙っている」サッカーはまだない。それどころか、ドイツでの日本のフォワードときたら、、、
いや、そんな愚痴を戌年(いぬどし)のゴミ箱から掘り返すのはやめよう。
とにかく、その広大な行間を忘れたままで、「甘えの許されないサッカー」にこの国が突入したら、、、そう考えるだけで、寒気がする。

公園を散歩する僕の横を、サッカーリュックをしょった少年が、自転車に乗って通りすぎる。
もうすぐ君たちのサッカーはつまらなくなるかもしれないよ、と僕はそんな感じで彼らの背中を追う。

この子たちに教えることは、テクニカルレポートで語られたことではなく、そこで語られなかった広大な行間の方なのではないだろうか?


■関連記事
高校サッカー盛岡商の優勝 勝利の笛を静かに吹こう
チームの思いが歴史を作る日まで
僕らはダイアモンドが見たい 10年先の日本のサッカー
ジョン・カビラ 充電と言うポジティブな選択
■サッカーの言葉本家 アーカイブが読めます
オオウチコム

posted by オオウチコム |22:37 | 日本のサッカー | コメント(0) | トラックバック(0)
このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加

トラックバックURL
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/ouchicom/tb_ping/2
コメントする