2009年08月27日

ポール・スコールズ 静かに唸って観るのが正しい

「ピッチの上でも、いいプレーをした時やゴールを決めた時には『困ったな。これで試合後にインタビューを受けなきゃならない』なんて思ってしまうんだ」
ポール・スコールズ プレミアシップマガジン 2004年3月号インタビュー


プレミアが開幕して、僕の中でうれしかったのは、マンチェスターユナイテッドの中央にスコールズが立っていたことだ。スタメンを見た時、「ああ、スコールズだ」と思って、少し幸せな気分になった。

開幕戦のオールドトラフォード、チームはぱっとしなかったが、観客は、スコールズの何気ないプレイに、静かな拍手を送っていた。その静かなさざ波のような拍手が、また僕を幸せな気分にした。

それはたとえば、こんな場面だ。
スコールズがサイドにパスを出す。サイドに敵が寄せられて、中央に大きなスペースがある、そこを見逃さずに、スコールズは素早く前に進み、中央でフリーになってパスを受ける。パスを受けた、その瞬間にスタジアムに、静かな拍手がさざ波のように起こる。

プレミアの観客の拍手には、いつも唸ってしまうが、こういうスペースをうまく使って、プレッシャーのない場面を作ると、拍手がやってくる。スコールズへパスを出した選手への賛辞もあるだろうが、この場面は少し特別な気がした。

迫真のプレイとか、激しいぶつかりあいとか、ひたむきな走り、とかそういう素人目にわかりやすいエネルギーが出ていたわけではない。しかし、確かにそのスコールズの動きは、チーム全体を、攻撃に向けて押し上げる役目を果たしている。

もちろん、そのプレーがよかったのだが、多分、スコールズを開幕試合で見れて、彼に対する尊敬や感謝の気持ちが、かなりその拍手の行間に混じっていたように思う。
しかし、それにしても、ここで、この拍手か・・・

サラサラヘアーのベッカムが全盛だった時代、スコールズは僕にとって「ズドン」の人だった。「出た。スコールズのサンダーボルトがまた炸裂した」なんて、プレミアのアナウンサーが叫ぶようなミドルシュートだ。
ただ、そのころの僕にとって、スコールズは、今ほど重要な存在ではなかった。僕が最初にミドルシュートを意識したのは、スコールズがきっかけだったが、正直言えば、それ以上の存在ではなかった。

本当の意味で僕が、彼を好きになり、彼のプレイに唸り始めたのは、大分最近になってからだ。スコールズが、原因不明の視力低下で長く戦線を離脱し、復帰したその後からだ。その後も、膝の怪我も抱え、まだ痛みを残したままプレイをしているようだ。

彼がシュート体勢に入ると、今でも「ズドン」という音が僕の頭で鳴る(いや、実際に声に出している)。ただ、残念ながら昔のように、ミドルシュートは炸裂しない。
今シーズンの開幕2試合のプレイを見ても、正直スコールズからゴールの匂いは消えている。

「ズドン」がなくなった代わりに、見えてきたのが、そのリズムの作り方だ。正確なボールタッチ、何気ない感じで出す正確なパス、ルーニーと見せるパス交換からゴールを作りだす流れ、そういったプレイだ。

おそらくサッカーをよく知る人にとっては、何をいまさら、という感じなのだろう。
僕が信頼するサッカー通も、スコールズのプレイになると、「むむ」とか「うーん」とか、ポジティブな木村和司のような唸り声をあげて、唸ってみている。しかし、唸るばかりで、説明がない。どうも彼の唸り声から察するに、「すげーなそのパス」とか「たまらんなその間の取り方」という感じらしい。

改めて、スコールズについて調べてみると、とにかくあらゆるトッププレイヤーが彼を称賛している。ファーガソンが、スコールズはマンチェスターユナイテッドの歴代のベストイレブンに入る、と称賛しているのを筆頭に、ジョージベスト、クライフ、ジダン、ビエラと、数え始めたらきりがないほめ言葉がスコールズを包んでいる。欧州一とか世界一とか、一番尊敬しているとか、そのほめ方も突き抜けている。とても社交辞令とは思えない感じだ。

確かにゴールの匂いは薄れ、運動量も少なくなった。スライディングのディフェンスも、雑になった面もある。それでも、彼の動き、トラップ、パス、間の取り方を見ていると、余計なものがそぎ落とされた無駄のない感じが、じわじわと凄みを増してせまってくる。
なんというか、僕の文章力では、何とも説明が不能で、言葉で説明するのはひどく野暮な感じだ。結局、僕も「うーん」とか「むむ」とか、木村和司になって、唸りながら、彼のプレイに目を奪われている。

スコールズは寡黙でマスコミ嫌いで有名だ。ナイキと交わした契約書には、「僕は人前には出ないからね」という断り書きが入っている、という話もあり、ゴールを決めるたびに「困ったな。これで試合後にインタビューを受けなきゃならない」と思うらしい。
だから、というわけではないが、彼のプレイは、唸りながら見るのが似合っている。

スコールズを見ることができる時間は、残り少なくなっているのだろう。今シーズン、一試合一試合が貴重な時間だ。できるだけスコールズのプレイに唸る数が多くなることを祈りたい。もちろん、ズドンのミドルも待っている。

いまさらながら、プレミアのスタジアムで、静かな拍手を贈る人々が、僕にはとてもうらやましい。


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posted by オオウチコム |12:00 | 海外のサッカー選手 | コメント(9) | トラックバック(0)
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ポール・スコールズ 静かに唸って観るのが正しい

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その通りだと思います。
私も中高生のころ彼のボレーやミドルを見て驚嘆してましたが、彼のすごさは、周りの選手が、低賃金労働者のようにあくせくしても出来ないことを彼は意図も簡単にやってのけてしまう。つめられた時に本当にさりげなく絶妙のタイミングでボールを持つ足を切り替えたり、スペースのないところでボールを受けても軽やかに1タッチ2タッチで切り抜けてみたり。難しいプレーをするのではなく、いとも簡単そうに「あ、それはそうだよね、そうするよね」という見せられると「当然」のように思えるプレーをするところに、彼の奥深さを感じます。
あと2-3年は見たいなぁ。

posted by 静かで軽やかな凄み | 2009-08-27 18:17

ポール・スコールズ 静かに唸って観るのが正しい

コメント投稿者ID :

それでも、実生活でもサッカーをやらせても低賃金労働者である私は、無骨なガットゥーゾや一昔前のトンマージを見ては、「そう君のようなプレーヤーも必要なんだよ」(もちろん彼らには危険をつぶすポジショニングや別の勘のよさがあるのですが)と思わせてくれるところがサッカーの有機的な部分でもあり面白いところでもあるのでしょう。

posted by 立て続けですが | 2009-08-27 18:22

ポール・スコールズ 静かに唸って観るのが正しい

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ありがとうございます。

>低賃金労働者のようにあくせくしても出来ないこと

わかりやすいです。(^^;)

>有機的な部分でもあり面白いところでもあるのでしょう

いろいろなタイプが必要。常に変化して数値や計画通りにいかない。
サッカーの魅力って、そういう部分なんだな、と改めて思いました。



posted by オオウチコム | 2009-08-27 19:15

ポール・スコールズ 静かに唸って観るのが正しい

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デビューの頃から観てるんでなにやってもチャーミングです 昨シーズン、どっかの試合でバンザイしながら手でボール止めちゃって(ペナルティ・エリア)一発退場になってすごすご引き上げていった後姿 とか
ウィガン・アスレティックとの試合でベルバトフから貰ったヤツをバーの上に吹かした後、ウィガンのディフェンスの肩にしがみついてにやにや悔しがってた顔とか
その後か前か、ルーニーから回ってきたボールを矢鱈ぞんざいにもともとルーニーのいたところに放り込んだら其処にベルバトフが走り込んでて1点取らせたプレイとか
既にスコールズはフットボールにおける大看板真打の域に達しちゃってます
適当に狡賢いし ・・・
ギグスも昨シーズン、マケダの衝撃のデビューで『ほらやってごらん』みたいなボールの出しかたしてて、『好いかも』と思ったんですが、ウィガン戦でも相変わらず暑苦しいドリブルが健在で まだまだ青い(若い?) って感じでした やっぱり軽さはスコールズに尽きます

posted by candy | 2009-08-27 21:16

ポール・スコールズ 静かに唸って観るのが正しい

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candy さん、ありがとうございます。

デビューのころから・・ 
それはすごい。思い入れも濃いですね。

>相変わらず暑苦しいドリブルが健在
笑いました。

なんか、2人の見方が変わります。

posted by オオウチコム | 2009-08-27 23:16

ポール・スコールズ 静かに唸って観るのが正しい

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何とも言えない“football”を知り尽くしたプレー。

23才の若造ですが、スコールズ、シャビといった選手が大好きです。

優等生でもない。。。

かといって、稀代の悪でもない(笑)

弱い者イジメはしない。かといって悪者に正義感振りかざすわけでもない。。。

やっぱ、好きです(^^;

posted by まっつん | 2009-08-28 22:04

ポール・スコールズ 静かに唸って観るのが正しい

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まっつんさん、どうも

>優等生でもない。。。
>かといって、稀代の悪でもない(笑)
ああ、確かにそうですね。優等生でもない、というところがいいですね。
雰囲気もプレイも、飾ったりしてないですね。


posted by まっつん | 2009-08-29 21:58

ポール・スコールズ 静かに唸って観るのが正しい

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はじめまして。
いつも楽しく拝見させて頂いてます。

以前何かの雑誌でスコールズは最高の2タッチプレーヤーだと書かれていた記事を思いだしました。

1タッチのパスはボールに触れる前からある程度パスの方向、相手を決めているので見た目は華やかですが、寸前でコースが塞がれてしまうなど不足の事態に対応できない。
一方ボールをトラップしてからパスを出す2タッチだとトラップからパスまでの間に決めていたパスコースを変更することが出来る。
スコールズはその判断の余地をギリギリまで残しておける選手だと。そしてその2タッチプレーこそがスコールズの最も優れた能力であると。

なるほどなと思いました。確かにスコールズの何気ないパスの散らしは本当に無駄が無く的確ですし、相手に寄せられても全く慌てることがありません。この何気ない2タッチのパスがオオウチさんのおっしゃる静かに唸って観るプレーってやつですかね。笑

あと優等生ではないのは確かですね。ただレッドカードがだされた瞬間に悪戯がばれてお母さんに怒られた子供のようにシュンとなっているのを見ると何故か憎めないんですよね。 笑

posted by たけ | 2009-09-03 10:04

ポール・スコールズ 静かに唸って観るのが正しい

コメント投稿者ID :

>スコールズは最高の2タッチプレーヤー

ああ、それそれ、そうですよ。うーん、まさに唸る分析ですね。

>レッドカードがだされた瞬間に悪戯がばれて
そうそう、ありますね。なんつーか、憎めないですよね。

posted by オオウチコム | 2009-09-03 15:12

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