2007年04月06日

サッカーシューズをめぐる言葉

馴染ませたというのは文字通りで、市販の歯型スタッドを一つずつヤスリで削って丸くしたものを履かせて、そこから何十回と段階を経て歯型までいきました
週刊サッカーダイジェスト 2007年2月6日号 森下尚紀 アディダスジャパン株式会社


きっかけは知人のサッカーショップの店員の話だった。
彼はお店の研修の一環として、サッカーシューズの工場を見学した。その時の話をしてくれた。
有名ブランドの工場だから、さぞや大きい建物だろうと思いきや、背の低い小さな建物だったらしい。

そこで彼は自分用のシューズを作る工程を体験したという。
いくつかの写真を並べながら、うれしそうにその工程を話してくれた。量産品は機械で作るらしいが、選手用のスパイクは職人が手作りで作るらしい。
彼がその日作った自分用のシューズも、選手と同じ工程をたどった。

あまりに彼がうれしそうに語るので、これはコラムのネタになるのではないかと、「サッカーの言葉」を探そうとした。
しかし、その時にはネタになるような言葉は見当たらなかった。拍子抜けしつつも、彼がとてもうれしそうだったのを、羨ましく感じた。

僕には、好きなサッカーショップがある。
といっても僕自身はサッカーをプレイしないので、自分のために何かを買うことはあまりない。大抵は熱心なサッカー少年を連れて、サッカースパイクを買いに行く。

その店には、店のあちこちに有名選手が履いたシューズが展示してある。
ジダン、ベッカム、ロナウジーニョ、巻、宮本、俊輔、そういった選手が履いたというシューズがガラスケースに入れられて展示されている。有名選手のシューズを見ながら、シューズ売り場への階段を上っていく。

シューズ売り場は、広い壁一面がサッカーシューズとスパイクで埋められていて、文字通りシューズに囲まれながら選んでいく。
サッカー少年は店員と会話をしながら、自分のシューズを選んでいく。
「ポジションはどこなの?」
「右サイド」
「オレもそう、サイドだった。じゃあ、結構走るね」
僕は会話には入れない。ただじっと横で彼らの会話を聞いて、最後にお金を払う。

もう何年にもなるが、最初に足を運んでから、その後は大抵同じ店員が、そのサッカー少年の相手をしてくれる。
店員と顔を合わせると「またきたな」という顔をしながら、お互いに靴選びが始まる。
よくわかっているから、このごろは、話す言葉も少ない。

ここ何年かのサッカー少年と店員の会話を思い出してみたが、これといった「サッカーの言葉」は思い出せない。彼らは足を触りながら、とても現実的な言葉のやりとりをする。
当たり前だが、サッカーの喜びや人生については言葉を交わさない。

いや、でもきっと素敵な言葉がどこかにあるはずだ。
それからインターネットやメーカーの資料を含めて、いろいろなところを当たってみたが、サッカーシューズやスパイクを巡る素敵な言葉は見つからない。
そこにあるのは、機能性を語った現実的な言葉ばかりだ。

サッカースパイクを手入れしているサッカー少年は、とても大事に扱っている。背中を丸ながら、汚れを落としている。
サッカースパイクを大事にする気持ち、それは、無名のサッカー少年でも、中村俊輔でも変わらないだろう。

サッカーシューズ、サッカースパイクは、サッカー選手にとってもっとも大事な道具の一つだ。大事なら、そこに出会いがあり、人間とシューズを巡る物語があるのではないか、とそう思った。

しかし、いくら探しても「サッカーの言葉」にふさわしい言葉は、見つからない。
やがて、「言葉なんて無くて当たり前かも」と思って、あきらめることにした。
「サッカーシューズと選手の間に言葉はいらない」
自分の努力不足を棚に上げて、ポジティブに変換して逃げるのは僕の得意技だが、それは結構本質をついているような気がする。

冒頭の言葉は、中村俊輔のシューズをデザインしているアディダスジャパンの人の言葉だ。スパイクのスタッドを丸から歯形に変える提案をして、それを俊輔に押し付けるわけではなく、根気よく丸型から歯形に削りながらあわせていくという、細かい作業を積み重ねて移行していったという話だ。

もちろん、最初のシューズを履いたときの喜び。選手なら自分用のシューズをメーカーが作ってくれるときの喜び。そういった喜びがあるだろう。
でも仕事がきちんとできる道具があればいい。それが大切な道具であればあるほど、余計な装飾は不要になる。
人が惹きつけられるような言葉や物語も敢えていらない。
そういうことでいいような気がしてきた。

この週末には、1年生になってサッカーをはじめた7歳の娘と、サッカーシューズを買いに行った。
小さい子供用のサッカーシューズも結構多くあり、彼女はそこからアンブロの白のシューズを選んだ。

よほど気に入ったのか、彼女は買ったその日も、ずっと家の中でアンブロのシューズを履いていた。
「足になれさせてるんだよ」
母親に注意されても、店員に教えられた言葉を誇らしげに言い返した。
彼女がいつまでサッカーを続けるのかは、わからない。
ただ、新しいサッカーシューズとの出会いが、またはじまった。


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posted by オオウチコム |10:21 | 日本のサッカー | コメント(0) | トラックバック(0)
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