ダービージョッキー大西直宏 騎手の視点

日本ダービー 腹の据わっていた横山典騎手、神業のルメール騎手

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今年もこの日がやってきました。第84回日本ダービー。 大混戦と言われた今年は、どの馬の組み合わせでも好配当がつくことからもわかるように、予想する者にとっては本当に頭を悩ませるレースでした。

そして、今年のダービーは超がつくほどのスローペースとなってしまいました。 皐月賞組とは別路線組となるサトノアーサーも注目の一頭でしたが、この馬は末脚を武器とするためスタート後は後方に下げての追走、こういう追い込み馬の場合は、ハイペースで前のグループがガンガンとばし、最後に直線で脚がなくなりバタバタになったところを飲みこんで前と後ろのグループが一気に入れ替わるような展開を理想とします。

競馬はペースにより着順が大きく変わるのでスタートしてみなければわかりませんが、出走メンバーやその馬に乗るジョッキーのスタイルなどをふまえて大まかなレースの流れを頭に描いてみます。

しかし、もちろん思い描いたとおりにいかないのも競馬。最初の1000m通過が1分03秒2、これはびっくりするくらいの遅さで、騎乗するジョッキーたちも困惑すらおぼえたに違いありません。この流れを作ったのが逃げた14番人気マイスタイルの鞍上・横山典騎手です。

自分が勝つために何をすればよいか、どう馬を走らせればよいのかを考え抜いて出した答えがこのペースでの逃げでしょう。無理にハナに立とうとしたり、抑えきれずに行ってしまったりという馬がいないのも幸いしましたが、見事に彼の術中に嵌ってしまいましたね。サトノアーサーにこの流れで力を出し切れというのは酷というもの。案の定見せ場も作れず10着に終わりました。


皐月賞馬アルアインもペースに泣いた1頭です。鞍上の松山騎手が「何もできなかった」とレース後に語っていましたが、同様に感じたジョッキーは多かったと思います。為す術がなく、ただ流れに乗って馬の力任せで終わった自分の騎乗に対するふがいなさを感じていることでしょうが、今回はそれでも3着とタイム差なしの5着にきたアルアインの力を素直に褒めてあげてほしいですね。

他のジョッキーたちが何もできないようにしたのは、横山典騎手です。マイスタイルは結果4着も、最後の最後まで3着争いに残る粘りを見せて場内を湧かせました。人気薄の馬を少しでも着順を上に…というよりも、この馬を勝たせるためにはどう乗ればよいかと真剣に“勝ちに行った”のが凄いところ。大レースでこんな腹の据わった乗り方ができるのは一流ジョッキーの証です。馬の能力がすべてではないこと、騎手の腕ひとつで大レースの流れを作ってしまえることを実感する、じつに気持ちの良い騎乗ぶりでした。


今年のダービーを制したのは2番人気レイデオロ。 スタートがさほど速くなく最初の1コーナーでは後方5~6番手に位置、しかし向正面に入り遅いと判断するとそこから2番手まで上がっていきました。この勇気ある行動が最大の勝因であるのは間違いありません。

が、普通のジョッキーはこんな乗り方はしません。 隊列が決まった時点で各ジョッキーはその場所で我慢します。3コーナーあたりからマクリ気味に動く者はいても、2コーナーを回ったあたりで動くのは考えられない。それも日本ダービーという大舞台で。こういう早い仕掛けで成功するケースを観てしまうと、日本人ジョッキーも思い切った騎乗をすればいいのに、なんて考える人もいそうですが、馬のもつ能力や特性があり、レースの流れや馬場状態などもある、そんな中でベストと思える乗り方をするのが騎手というもので、仕掛けのタイミングを早めさえすれば馬がそのままゴールまで行ききってくれるとか、そういうことはあり得ません。

それをやってしまうルメール騎手が凄いということ。多くのスポーツ紙で神騎乗と絶賛する記事があったとおり、まさに神業としか思えない騎乗でした。

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元JRA騎手。1997年には、サニーブライアンに騎乗して皐月賞・日本ダービーの2冠を達成。通算512勝、重賞12勝。引退後は、騎手ならではの視点で競馬を表現するターフメディアクリエイターとして、レース解説などを発表。日刊スポーツをはじめ、各種メディアにて連載中。また、自らの名を冠した育成牧場「N.Oレーシングステーブル」を経営。ターフに活躍馬を送り出すべく、代表として手腕を発揮している。
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