ダービージョッキー大西直宏 騎手の視点

東京新聞杯 デムーロ騎手が演出した超スローペースに幻惑された他陣営

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先週の東京競馬メイン、GⅢ第67回東京新聞杯は3番人気の4歳馬ブラックスピネルが逃げ切って優勝、初重賞制覇を果たしました。

12月に520キロ台まで増えた馬体が前走から締まってきて、その前走・京都金杯では前目の競馬をし勝ち馬にタイム差なしの2着に好走。今回はさらに調子を上げていたようですね。

ポンとスタートを切ると、鞍上のM.デムーロ騎手はサッとハナに立ってマイペースに持ち込みましたが、そのペースは1000m通過62.2秒とおそろしいほど遅いものでした。
ジョッキーの心理として、出走頭数が少なければ思い通りのポジションが取りやすいと考えます。ゴチャつかないので不利を受ける可能性が低いのもそうですが、この10頭立ての東京新聞杯では、たとえ最後方でじっくり構えていたとしても前にいるのは僅か9頭しかおらず、これをフルゲート18頭立てに当てはめれば中団に位置することになるからです。

したがって騎乗するジョッキー達としてはあまり焦る必要はなく、ゲートを出たなりに位置を決めていこうとしたのかもしれません。結果、ブラックスピネルがハナを取り、その時点で全ての馬の位置が決定し、今回のゆっくりとした流れになりました。
しかしデムーロ騎手を見ると、よく考えて乗っていたのがわかりますね。 あれだけペースを落とすことができれば、後半に向けて脚が十分すぎるほど残るのは確実で、その後半の乗り方がまた素晴らしい。2番手にいたマイネルアウラートが長い直線の府中であるにもかかわらず4コーナーを回るとすぐさま先頭のブラックスピネルに並びかけてきましたが、これは柴田大騎手が後ろに位置する人気馬よりもブラックスピネルを相手(目標)と判断し早めに動き出したのでしょう。ここでデムーロ騎手は、マイネルアウラートに並びかけられても焦る様子を見せず追い出しを我慢していました。

普通、逃げ馬に騎乗する場合、後ろから来る馬に並ばれてしまった時点で「かわされてしまう」と危機感を覚え、とにかくアタマ差でも先に出て粘らせようと思って馬を追い出します。ところがデムーロ騎手はマイネルアウラートと馬体がピタリと合っても全く動じず、冷静に追うタイミングを計っていました。思わずうまい!と口に出してしまうほど見事な騎乗でした。
2着は5番人気プロディガルサン。田辺騎手が遅い流れの中を中団で辛抱し、最後の脚に賭ける騎乗をしました。直線に向き、馬群を割って伸びてきた脚いろは力強さにあふれていました。上がりは最速の32.0秒、ものすごく速いタイムですが、この脚を使っても差し切れなかったのは展開を考えると仕方がありません。昨年は最強世代と言われる3歳クラシックで好結果を残すことはできませんでしたがGⅡ・GⅢではやはり力上位。今年の一層の成長が楽しみです。
1番人気に推されたエアスピネルは3着でした。2着馬の少し前でレースを進め、プロディガルサン同様うまく折り合いはついていました。超スローペースで馬と喧嘩せずにレースを進めていたのはさすが武豊騎手といったところ。前を捕らえることができなかったのは誤算だったかもしれませんが、何度も言うように今回の極端な流れでは諦めるほかありません。
デムーロ騎手の上手い逃げにしてやられた印象の東京新聞杯でした。



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元JRA騎手。1997年には、サニーブライアンに騎乗して皐月賞・日本ダービーの2冠を達成。通算512勝、重賞12勝。引退後は、騎手ならではの視点で競馬を表現するターフメディアクリエイターとして、レース解説などを発表。日刊スポーツをはじめ、各種メディアにて連載中。また、自らの名を冠した育成牧場「N.Oレーシングステーブル」を経営。ターフに活躍馬を送り出すべく、代表として手腕を発揮している。
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