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代表の誇り ~中田英寿を通して~

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2006FIFAワールドカップドイツ大会。 

グループリーグ第3戦、日本の対戦相手はブラジル。敗戦後ピッチ上で大の字に横たわり、ブラジルのユニフォームで顔を覆い隠す背番号7番。 


中田英寿だ。 


彼はそのまま数分間、天を仰ぎ続けた。

何を想い、何を感じていたのか。それは彼にしか分からない、いや、彼だけが立ち入ることを許された領域。 

協会のスタッフや宮本、アドリアーノが、横たわる彼に近寄り労いの声を掛ける。しばらくして立ち上がった彼は、会場のファンに向かって軽く手を挙げた。すでにこの時、これが"最期の舞台"と決意していたであろう、全身で"誇り"を表現したそのピッチの上から……。 


彼は目を真っ赤にし、いつものように試合後のインタビューを受けた。 そのインタビュアーの声から察するに、中田英寿専属らしきいつもの人のようだ。 しかし、中田に問いかけるその声色は明らかに萎縮してしまっている。これは何ら珍しいことではない。いつもの光景だ。 それまでに中田が示してきた、マスコミに対する姿勢や態度がそうさせてしまうのだろう。 

だが、そんな中田の意図するものを読み取りもせず、日本のスポーツ記者独特の、旧態依然とした下らない含みを持たせた質問を、この時もまたインタビュアーは彼に対して延々と繰り返すのだった。 

敗戦の弁を語る将の、下らないポジティブな回答がマスコミは欲しいのだ。最初からサッカーの技術論や戦術論など引き出すつもりはない。中心選手の「見出し」と「締め」になる"言葉"があればそれでいい。そして何より、彼ら代表に"日本"を押し付けた国民の、やり切れぬ無念に対する"謝罪の証"が欲しい。それが日本のマスコミなのだ。 

「ちゃんと話聞いてます?」 

少々呆れ気味に返答する中田の声。インタビュアーはますます萎縮してしまう。切り口の手を変え品を変えた所で、彼の口から発せられるマスコミの欲しい言葉はたった一つ。 

”次に向けて頑張ります”

インタビュアーは何としても"敗者の美"を引き出そうとする。 

「泣いているようにみえましたが……」 

インタビュアーの質問に、「そう見えましたか?」と冷たく返す中田。 

「『ええ、悔しかったんで泣きました』とでも言って欲しいのか?」 。日本のマスコミに、そう改めて問いただす事は、このワールドカップという大舞台での死闘の後でさえ、もはや無意味な事だと中田は気づいていたのではないだろうか。いや 、ひょっとするともっともっと以前から……。彼が注目されるようになった当時からきっと深く身に沁みていたのかもしれない。 


サッカー選手はピッチ上が全て。それ以上でもそれ以下でもない。出てしまった結果に対し、グチグチと言い訳をマイクに向かって話すものではない。 説明させることは野暮なことだ。 そんな当たり前のことに分かっていなかったのは、この時のインタビュアーだけではない。そんな取材を未だに良しとする日本のマスコミや、表面上だけの彼を見て嫌悪感を抱いた一部の人かもしれない。全身全霊で 闘い抜いたブラジル戦の後、ピッチ上で大の字になる中田英寿に対し、「みっともない」「日本の恥」と吐き捨てた一部の芸能人たちのように……。


もっとも、彼の「涙」の理由は、インタビュアーがわざわざ問わずとも、あの試合、あの大の字に横たわったシーンを見た多くの人が理解できたのではないだろうか。それほどに彼の目からは、口で語る以上の"言葉"を感じたのである。 人生をかけ、"誇り"を持ってピッチ上で体現してきた男に、今更何を語らせろと言うのだろうか。言えば言ったで誇張され、言わなければ言わないでまたバッシングする。それが日本のマスコミであり、それが日本人なのである。 


ジーコの提言した選手任せの組織なき自由への対応。リーダーとしての海外組と国内組の調和。意識の低い代表選手たちへのジレンマ。そして、自身のサッカーに対する「誇り」。 

苦悩する中田と分裂する日本代表をあざ笑うかのように、トルシエの残した財産さえも負の遺産と切り捨て、ジーコという救世主に幻影を見出したマスコミや一部の人々は彼の名をいの一番に使ってきた。 


「孤立する中田」 
「イチローになれなかった中田」 
「中田代表不要論」 


全ての責任を彼一人に押し付けた。その方が楽だったからだ。そうすることでストレスのバランスを保っていた。"誇り"すら見失った人たちはそうする事しかできなくなってしまった。 


それでも、ドイツでがむしゃらに走る彼の背に、言葉ではない"言葉"を感じ取った人も多いことだろう。

「みんなやれば出来るはずなのに、何故それをやろうとしない!」 

悔しかっただろう、腹立たしかっただろう。"誇り"を持って日本代表としてワールドカップを闘ったその涙の奥にあるヒデの絶叫。私はなんとなく垣間見た気がする。 

しかし、マスコミはそれを引き出す術を知らない。……いや、たとえそれを知っていたとしても、取り上げようとはしない。中田英寿の問う「誇り」を。 


日本代表が「誇り」を持って戦うべきワールドカップがもう目前に迫っている。

あれから4年……。あの中田英寿の"涙"は今の日本代表の選手やマスコミ、多くの日本人に届いているのだろうか。もし、それに気付いていなければ、日本のサッカー界に深刻な氷河期が訪れることだろう。

 サッカーに興味が無ければそれでよい。中田英寿のやることなすことに過剰に反応し批判したがるならばそれもいい。しかし、中田のこの日の"涙"は今の悲壮感漂うサッカー日本代表だけでなく、すべての日本人に対しても向けられていたメッセージだったのかもしれない。 


中田は自身のホームページにおいて、2006年ワールドカップでのブラジル戦の前に寄せたコメントの中でこう語っている。

「守らなくてはならないものは唯一 "誇り" 」

本当の意味で"世界"を知っている選手は残念ながら今の日本には居ない。「世界を知る」という事は何も海外移籍して大活躍するという事ではない。サッカーに対する『誇り』をどれだけピッチ上で体現する事ができるかだ。そしてそんな『誇り』を抱いた選手が揃って、はじめてワールドカップという舞台で光り輝くことになる。


だからこそ私は今伝えたい。 

不器用な中田英寿が"言葉"にしなかった「涙」の理由を。




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記事カテゴリ:
サッカー雑感
タグ:
中田英寿 ヒデ 日本代表 サッカー ワールドカップ

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