2007年10月05日

フィリーズ、14年ぶりの歓喜。

9回の裏。2アウト。ワシントン・ナショナルズのバッター、トッド・リンデンが4球目のカーブを見逃し、三振を喫した。

その瞬間、フィリーズのクローザー、ブレット・マイヤーは自分のはめていたグローブを思いっきり、そして空高く放り投げた。そのシーンは、フィリーズファンが14年間溜め込んだ憤り、悲しみ、諦め、涙、忍耐力、そして負け続けたチームへの変わらない忠誠心が一つの大きなエネルギーとなり、一気に噴き上がった象徴のように見えた。

ベンチで戦況を祈るように見つめていた強打者、パット・バーレルは叫びながら全力疾走し、キャッチャーのコステよりも先にマイヤーに抱きついた。続いてコステ、内野手陣が誰彼かまわず抱き合い、歓喜の雄たけびを上げる。

フィリーズの本拠地、シチズンズバンク・スタジアムをパンパンに埋め尽くしたフィリーズのファンは、絶叫に近い声を上げながら、今まで味わいつくした屈辱の日々に別れを告げるかのように、白いタオルを力いっぱい振り続けた。

やったんだ。俺達のフィリーズがついにプレーオフに進出するんだ。

9月30日。MLBのレギュラーシーズン最終日、162試合目にしてフィラデルフィア・フィリーズはニューヨーク・メッツを引き摺り下ろし、ナショナルリーグ・東地区のタイトルをもぎ取った。1993年、トロント・ブルージェイズ相手にワールドシリーズで涙を飲んでから、実に14年ぶりのプレーオフ進出。長い間アトランタ・ブレーブスやフロリダ・マーリンズ、そしてメッツの後塵を拝し続け、踏みつけられた末の優勝であり、悲願であった。

この結果は、若く才能溢れる選手達が、不安になりながらも己の可能性を信じ続け、メッツという巨大な敵に必死に、歯を食いしばりながら喰らいついた結果である。残り17ゲームになった9月。ナ・リーグ東地区首位を走るメッツに対し、フィリーズは7ゲーム差を付けられ、2位に甘んじていた。後ろからは若さ溢れるブレーブスが、虎視眈々と2位の座を狙っていた。

ファンの脳裏をよぎるのは、何年も善戦しながらあっさりと負け続けた、いつものフィリーズだったろう。追い込まれると自分達を見失い、バラバラになっていたフィリーズは、しかし今シーズン、苦しい立場になると逆にチームが一つにまとまり、自分達の最終的な目標を常に再確認し続けた。

今の主軸、エースに成長を遂げたコール・ハメルズ、ショートでナ・リーグのMVP候補ジミー・ロリンズ、ファーストのライアン・ハワード、セカンドのチェース・アトリー、そしてバーレル、マイヤーは全員フィリーズの生え抜きの選手である。才能が有りながら、人一倍成功に飢え、自分達の本来の力を見せ付けてやりたいと熱望する若人たちの集まりである。

それに加え、他球団を渡り歩き、フィリーズにたどり着いたベテラン達がいた。このままでは終わりたくない、見返してやりたいという強い気持ちと、今までメジャーを生き残ってきた経験が、フィリーズを一つにし、より強く、前に突き動かす。今年一年、セットアッパーとして縦横無尽の働きをしたジェフ・ゴードン、優勝がかかった最終戦、圧倒的なプレッシャーがその左腕に重くのしかかった中で、ナショナルズ打線相手に5.1回投げ、1失点に抑えたジェイミー・モイヤー。

若いチームにモチベーションと緊張感を保たせ、ベテランを適材適所で登用、起用する。たとえ殆ど無くなったとしても、わずかな可能性を追い続けるようにチームを持っていった、チャーリー・マニュエル監督を中心とする首脳陣の手腕は評価されるべきだろう。それは9月中旬と後半を12勝4敗で乗り切った勝負強さ、つまりはチーム力として現れている。

その姿は、ベルトランやマルティネスなど、最近主力を「買」ってチームを編成してきたメッツとは全く異なるものだった。勝っている場合はいいが、一度窮地に追い込まれたチームは、チームとして原点に帰る目標がないと一気に空中分解をする。フィリーズに追い上げられた今年の終盤、必要だったのは慌てたチームを落ち着かせ、まとめるキャプテンシーであり、首脳陣のマネジメントではなかったか。昨年地区優勝をし、戦力的にも資金的にも充実しているメッツからはどこか中だるみを感じ、プレーから沸き立つような熱い思いと、チームとして「絶対にこれを成し遂げたい」という目標を感じることは出来なかった。

フィリーズは、プレーオフ一回戦となるディビジョンシリーズを、コロラド・ロッキース相手に戦っている。第1戦を2-4で落としたフィリーズ、2戦目も初回に2点を先制されるなど、依然苦しい戦いが続いている。ただ、これまで通り自分達の立ち居地をしっかりと把握し、常に諦めず、挑戦者の気持ちで我武者羅にプレーし続けるならば、結果は自ずと付いて来るだろう。

フィリーズ、頑張れ。

  • 共通ジャンル:

posted by nysports |05:13 | MLB | コメント(1) | トラックバック(0)
このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加

2007年10月01日

おかえり、オーキー。

「おかえり、オーキー。」
その瞬間、温かい拍手が岡島秀樹投手に降り注ぎ、そしてとても大きな歓声がフェンウェイ球場を包んだ。

9月14日の対ヤンキース戦で、2者連続で被弾するなど、疲労から来る不調が伝えられていた岡島は、13日ぶりのマウンドに8回表、3-5の場面で登場した。進出が確定したプレーオフに向けての調整と、現段階でどれほど復調したのか、首脳陣がテストする意味合いが濃かった中での当番だった。

正直、ファンがこれほど岡島を優しく迎えるとは思っていなかった。

安定感抜群だった岡島のピッチングが、8月から9月にかけて、徐々に、しかし目に見えて悪くなっていった。0.9点台だった防御率は、2.2点台まで跳ね上がり、救援に失敗する場面も出始めた。

ボストンのファンは辛らつである。少しでも負けが込んだり、打てない日々が続くと、新聞はもちろん、ラジオやインターネットのブログで不振の選手は、ファンから詳細な数字を突きつけられ、批難にさらされる。

春先にセンターのココ・クリスプが絶不調だった時、地元のスポーツラジオ局、WEEIのトークショーではルーゴの放出とイチロー獲得の可能性について、朝から晩までリスナーとホストとの間で喧々諤々の議論が繰り広げられ、ヤンキースに猛追されたシリーズ終盤には、左斜紋筋痛で24試合を休んでいた主砲、ラミー・ラミレスに「この時期、怪我をしていない選手など何処にもいないのに、試合に出ないなんて甘えすぎている。わがままだ」との批判がインターネット上を席捲した。

一方、野球というゲームを誰よりも理解し、酸いも甘いも噛み締めてきたボストンのファンは、他のどのチームのファンよりも、限りない愛をチームと選手に捧げる。

岡島が今年、どのようなピッチングを見せてきたのか。4月の、黙って座っていると底冷えのするボストンの春の夜に、ヤンキース相手に見せた快投を、ファンは覚えている。レッドソックスが春先から夏にかけて見せた快進撃を、影で支え続けたのは誰か。ファンはしっかりと見ている。

またマウンドに上がる際に帽子を取ってうつむき、平常心を保つよう、そして今日の無事を祈る。岡島の、そういった野球に対する真摯な態度もまた、ファンの心をつかんでいるのだと思う。

その晩、岡島は1回を被安打1、無失点で投げぬき、最後はファンのスタンディング・オベーションに、この日2つ目の三振で答えた。

わぁっ、とその日一番の歓声が岡島に送られた。ボストンで野球をしている岡島は、そしてレッドソックスの選手全員は、幸せだなと思う。

  • 共通ジャンル:

posted by nysports |03:14 | MLB | コメント(1) | トラックバック(0)
このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加